状況不明
空が赤かった。一面の赤海原。ここは地獄か、それとも単に夕日が濃いだけか。
数分であくたに感覚が戻ってくる。
何か皮膚を通してゴツゴツとした地面の感触。コンクリートというより土畳に大粒の石が満遍なく敷かれてその上に寝ている感触。冷んやりした冷気に混じり暖炉のような暖かさが部分的に半身を暖めていた。そして、
「痛い」
何気なく言った一言に周囲で何者かがわらわらと立ち上がる気配があった。ぎいぎいっと鉄を引く嫌な音。あくたはばっと身を起こそうとした。直後――。
「あばよ」
「は?」
何かを振りかぶる男の残影。斧か、と思った次の瞬間には景色がメリーゴーランド。回っていた。声が出ない。空中を舞っている。何が、と。思った時にはごつんと地面に衝突した。頭が。
(は? は? は? は? は?)
ゴロゴロと頭が転がる。転がっている。それを他人事のように感じる。それ以外には何も感じない。頭が転がっている。違う、頭だけが転がっている。
下半身も上半身もすっぽりなくなって、司令塔だけが自分である感触。ぞわっとたつはずの鳥肌も立たず、あくたは何が起きているのかもわからないままに絶命した。
また空が赤かった。ようやくはっきりと認識した。ここは空が赤い世界なのだと。また数分で感覚が戻ってくる。ゴツゴツした感触。四肢や全身の感覚がある。
「さっきのは夢か」
ぽつりと呟いて身を起こそうと顔だけあげた。
「あばよ」
次は何をされたのかわかった。声を発して3秒くらいで斧があくたの首を一線。首と胴が二つに割れ、急加速する景色、飛ばされた頭が今回はかなり飛んだらしい。顔面から巨木に突っ込んだ。
「おいおい、あれじゃ回収ができないだろ。何やってんだ」
「わりいわりい」
どうやら木にあくたの頭だけが乗っかっている。今度はちゃんと斧を振ってくる男のなりを見た。
けむくじゃらのボディービルダーみたいな上半身裸の大男があくたの方を見て首をかいている。隣の男も似たような感じだった。と、隣の男が何かを構えていた。あれは、
(や、り?)
と思考するまもなく顔面に何かが刺さって下に落ちる感覚、と一緒に意識も途絶えた。
目が覚めてあくたは直ぐに飛び起きた。すぐにもさっきの大男が襲ってくる。その斧を交わし後方に飛んだ。
ようやく状況が薄っすら理解出来てきた。あくたは転生した。
あの世界の事を思い出す。飛び降りて死んで異世界とやらに転生したのだ。
どんな世界かは知らないが物騒な世界である事は聞き及んでいた。つまり、ここは。
「いよっしゃあああああああ。アニメの世界キタコレ! てめーなんざ転生者の俺様が軽く捻って」
後ろからぐさりと。噴出する赤い液体。水道のように口から流れる血。振り返ろうとしたところへさっきの斧男が飛んだ。
「は?」
二の句を継ぐ間も無く頭から股まで縦に割れたあくたは、また絶命した。
また寝ていた。土の地面。虫の香り。雑草の擦れる音。そして赤い空。
周囲に建物はなく、一箇所だけ、塔のようなものが真横にあり、その脇を生い茂る木々が覆い隠している。
その間の緑の抜かれた道にあくたはいた。あくたは死んだふりをしていた。
状況はまだわからない。転生というからには、普通、赤ん坊から始まるべきで、何故それまでの記憶がないのかがわからない。鏡はないがどう見ても背格好は成人に近い男のものである。腕は程よく筋肉がつき、所々土と血が混ざった瘡蓋が出来ている。
男達は寡黙で、死んだふりを続けていれば何か情報が入ると思い待っていたが、一向に話さない。薄めを開けてもう一度真後ろをみた。当然首は捻る。
ゴボウ顔の中世の騎士のような服装をした背の高い男が感情のない瞳で見下ろしていた。あ、ばれた。
「や、やっほ」
ストンと、首めがけて素早い突き下ろし。避けて、即逃げ出そうと縺れる足を庇いながら、騎士の横をすり抜ける。騎士は追ってこなかった。
しかし、あくたはすぐにも足を止めざるをえなかった。道を阻むように森林地帯にはみ出してまで横に長い2列の弓兵が弓を構えていた。
「かまえー!」
「ってもう構えてんじゃねえかよ! は!? なに? なんなのこれ? は?」
逆走する、つもりで振り返った。また斧が一線。首が景色が宙を舞った。空が赤かった。