ゲームブック【外伝】(四十八頁目)
ゲームブック【外伝】(四十八頁目)
人造人間は短剣と魔法剣を逆手に持って、突き立てるように振り下ろした。ノブが身体をそらせて紙一重に回避する。ゆらめく光剣の熱気によって、前髪が焼けた。
「ッチ!」
人造人間の猛攻は止まらない、二撃、三撃。
そこまではなんとか回避したものの、徒手空拳では限界がある。人造人間の短剣がノブの肩口を抉った。鋭い痛みが遅れてやってくる。
「くそ、痛えな」
短剣についた血液を、人造人間が吸い取る。まるで意思があるかのように、血がその目の空洞に吸い込まれていく。表情のない人造人間が笑った気がする。
「……なンダ。コのカンじ。オマえは」
ノブがふっと頭を振る。いつのまにか、その手にはサーベルが握られていた。
「地下墓地。いつからそうなんだろうな、戦士たちの歴史。このサーベルもそうだ、名もない者の墓標」
「なゼ、スいトレない」
「よく喋るようになったじゃねえか。学習の結果か?空っぽの脳みそに、借り物の記憶を詰めて人間気取りかい」
「もうイイ、シネ」
そう叫んで動き出した刹那、先手を打ってきらめいたノブの太刀が人造人間の腕を切り裂いた。光剣を持っていたその腕がちぎれて飛んだ。
「ギィィィィ!!!」
人造人間が悲鳴をあげてのけぞる。
「俺もそうだ。俺には何もない。空っぽだ、空っぽ人間。全てが借り物、技術も、知識も。何もかも仮初の人生。嘘で塗り固められた歴史」
ノブが手にしていたサーベルを見る。たった一合打ち込んだだけで、朽ちた剣は刀身の半ばで刃が欠けてしまっていた。役目を終えたサーベルを捨てて、両刃の剣を拾い上げる。
「それが俺だ。わかってるよ、だから見ない。現実からいつも逃げてる。それでも、こんな俺でも。ちょっと、惜しいって思える居場所ができた」
空洞の目に憎しみを詰め込んで、人造人間が襲いかかる。
「見よう見まねの一つ」
ノブは真っ直ぐ両の手で構え直した両刃の剣で、人造人間の短剣を握った残った方の手を切断した!
「キィィィィアアアア!?」
理解できない出来事に、人造人間が悲鳴をあげる。ノブは再び使い終わった獲物を捨てる。同時にレイピアを拾い上げる。両手を失って、立ち尽くす人造人間。その胸に向かって、真っ直ぐにレイピアを突き立てた。
ごぼ、ごぼ。
人造人間は目と口の穴から、青白い光の液体を吹き出した。そして、その作られた身体はボロボロと朽ちて砕け散った。そして、その短い歴史を閉じたのだった。
……
「だからさあ、俺の活躍を見せてやりたかったぜ。こんな山のような巨大な人造人間を真っ二つにぶった斬ってよお」
顔を真っ赤にしたノブが、両の手にグラスを持って椅子に足を乗せながら演説している。
その姿にアルがあきれた目を向けている。
「いよ、日本一!」
山本さんの合いの手に、ノブがにかりと笑って右手のグラスを一気に飲み干した。
「ちょっと、程々にしときなさいよ」
「いけいけ、ノブ!二刀流じゃん」
ミカさんが嗜めるが、さやはそれを無視してノブを焚き付ける。
「しゃあー!」
ノブは大きな掛け声とともに、もう一方のグラスも一気にあける。人造人間に奪われた記憶は、彼奴の消滅とともにみんなの元に戻っていったのだった。
「おい!リーダー、二刀流で勝負しようぜ?」
「いや、俺はあんまり飲めないから……」
「いけー!フラムベルジジュだゆうくん!」
さやが無責任に煽っていく。
そこまで言うならやるしかない、俺は右手にビールを、左手にワインをの構えを取った。
「いくぞ、ノブ!」
「おうよ!こいっ!」
グッと一気に飲み干した。同時に喉に違和感。
「ああぁぁぁあああ!?辛!喉が焼ける!!何か混ぜたな!?」
「あっはははは!」
さやが涙を浮かべながら大笑いして机に突っ伏した。こうして俺たちの殺人事件調査は終わりを迎えたのだった。
……
「私は騎士アロロ。この街、アローシアを守る騎士団長である!」
無数の古傷の鎧を身に纏って、騎士は今日も街の門を守る。そしてそれを見守る少年も、同じである。
いつか、その役割が少年に受け継がれていくのだろうか。
ゲームブック【外伝】 終わり