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ゲームブック【外伝】(四十三頁目)

ゲームブック【外伝】(四十三頁目)



「私は騎士(ナイト)アロロ。この街、アローシアを守る騎士団長である!」


威勢のいい掛け声と共に、彼はアローシアの正門を守っていた。いくつもの古傷を残した銀色の甲冑が日の光を受けて輝いている。


「あー久しぶり、アロロさん」


手を振りながらそう声をかけると、アロロは俺たちを目を細めながらジッと見つめる。


「うむ。誰だったかな」

「忘れてしまったんですか?」


アロロは申し訳そうな顔をするが、ピンときていないような表情だ。


「俺だよ、俺」

「ウーン、申し訳ないが。最近死んでしまったようで、記憶が飛んでしまってな」


ノブが横から詐欺師のような口調で迫るが、やはりアロロの表情は変わらない。


「千里眼で見ても、特に状態異常にかかっている様子もないわね」

「ふうん」


俺たちは顔を見合わせた。たしかにアロロの記憶は消えているようだ。精神的状態異常(こんらん)にかかっていることもない。ただ単純に、デスペナルティによって記憶が飛んでしまったというように見える。

しかし、目の前で犠牲者(アロロ)がピンピンしているので、殺人事件が起こったというような感じがしないんだよな。


「アロロさん!ぼくです、アルです」

「ふぅん。すまないが、良く分からんのだ」

「思い出してください!」

「……ウーン。すまんな」


アルが食い下がるも、彼のことも覚えていないようである。


「アロロは、その、死んだ時はどこで死んだんだ?」


ポン。とアロロの鎧の上から肩を叩いて、ノブが問う。


「死んだ場所というのは分からんが、生き返った場所ならわかる。すぐそこだ、その花屋の前の歩道で蘇った」


アロロが指差した場所を見る。正門から入って、十メートル。完全に街の中のようだ。同じ場所で死んだとするならば、プレイヤーではNPCに攻撃のできないエリアだ。


「へぇ」


ノブがその場所をふらふら歩いて回る。かと思ったら、石段に腰掛けてストロングマックスを開封した。


プシュ!


「ノブさん何やってんですか!」

「えっ!?いや、あ。今のは完全に無意識だったわ」

「余計にやばいよ!今日何本目ですかそれ」

「すまんが覚えておらんのだ……」


ノブがふざけてアロロの真似をする。さやが赤い顔で下を向いてプルプルしている、ウケたようだ。


「どうやらデスペナルティを受けてしまったようでな」


真顔でモノマネを続けるノブ。ミカさんは呆れ顔である。アルがなんとも言えない表情をしているのに気がついたノブが、ゴホンと咳払いをする。


「まぁ、ちょっと作戦会議しようぜ」

「月白の葡萄亭ですか?」

「いいですな、久しぶりに」


俺たちはアロロさんに別れを告げる。


「じゃあ、ちょっと俺たちはもう行くんで」

「この街はかつてダンジョンがあった。しかし、勇気ある戦士たちの働きによって、今はその口を閉じている。ここは安全だ、ゆっくり英気を養っていくと良い」


アロロさんは謎の定型文で俺たちを見送った。



……



「かんぱーい!!」


日も暮れ始め、茜色の空。窓が何層もの暖色系の色に塗られている。俺たちは思い思いの獲物(ドリンク)でもって、とりあえずの乾杯を行った。

久しぶりの月白の葡萄亭。おかみさんも腕によりをかけて酒の肴を用意してくれている。

なんでもダンジョンが攻略されてからプレイヤーの人口が激減したために、いまいち不景気なんだそうだ。

わけのわからん虫の唐揚げとか謎のカエルの肉を食いながら、甘い酒を喉に流し込む。


「うまーい!!」


不景気な顔をしているアルを置き去りにして、俺たちは酒と飯に大満足である。しばらく堪能していると、アルが口を開いた。


「あの!アロロさん殺害の犯人を探してくれるんじゃなかったんですか!」


突然立ち上がってそう叫ぶアルに、さやが言う。


「うーん、でも実際目の前でピンピンしてると、死んだって感じがしないよね」

「で、でも。NPCは生き返るって言ったって、記憶がなくなるんですよ!記憶がなくなっちゃったら……何もわからないじゃないか!」

「記憶の殺人ですな。気持ちはお察ししますぞ」


山本さんが、アルの肩を抱いて座らせる。


「そんなふうに、ぼくを慰めてくれるけど。みなさんがやってることはただの酒宴ですよ!あれだけ酒盛りをしておいて、なんでアローシアに来てまた宴がはじまるんです!?」


ポカンと、ノブが口を開けた。虚を突かれた表情だ。


「一日は二十四時間あるんだぞ。半分くらいは酒を飲んでたって良いだろ?」

「ノブの場合、起きてる間ずっと飲んでるだろ」

「そうだっけ?」

「そうだよ!」


はははは、と笑いあう。おそろしいパーティに助けを求めてしまったのかもしれない。アルは自分の選択に絶望した。

ふと、ノブが真面目な顔に戻ってアルに問いかける。


「なぁ、アロロの最後のセリフ覚えているか?さっきの別れ際の」

「えっ、最後のって……」

「この街はかつてダンジョンがあった。しかし、勇気ある戦士たちの働きによって、今はその口を閉じている。ここは安全だ、ゆっくり英気を養っていくと良い。こう言ったんだよ」

「は、はい」


グッと酒を喉に流し込んでから、ノブは続ける。


「NPCのデスペナルティによる記憶のリセット。いや記憶のリセットというのは正確じゃあないかもな、リポップ。実際は新しい個体が再生産されるというのが正しい」

「はぁ、だからぼくは殺人事件だって言ってるんですよ!新しい個体って言うなら、そんなの生き返るとも言わないでしょ!」

「まぁ落ち着いて聞けよ。リポップって言うのが正しいならな、どの時点の個体が再生産されるとおもう?」

「え……」


ミカさんがなるほどね、と言う顔をした。他の面々は何も分かっていないようだ。俺もいまいちわからないが、頑張ってわかっている表情を作る事にした。


「ゲーム開始時の設定で復活するんだ。俺はそれを実際他で見たことがある」

「つまり?」

「この街のダンジョン。霞の塔だな、それをクリアしたのは俺たちだぞ。それも攻略ができたのは最近だ。なんで初期化されたアロロが勇気ある戦士たちの働きによって、今はその口を閉じている……なんて知ってるんだ?」

「えっと……」


なるほど!殺害されて初期化されたのなら全ての記憶がリセットされていないとおかしい。ダンジョンがクリアされたことを知っているのは違和感だ。


「で、でも。生き返った後に他の騎士から教えてもらったのかも」

「そうだなぁ、たしかに。一昨日だっけ?雨の日に殺されて、そのあとすぐに同僚の騎士に教えてもらったって線もあるよな」

「……はい。なんだか口調がムカつきますけど。可能性あるでしょ」

「それはそうなんだけどな。もう一つ、アロロの鎧の古傷。これがいつ付いたものなのか、だな」

「鎧の傷?」

「再生産なら、それも新品になってないとってことですか?」

「ウン」

「それは……」


ノブの唇の端がニッと上がった。


「鎧に触れたらよ、大体どんな歴史を辿ったのかわかるんだよ。あれは今日昨日でついた傷じゃあねえよ」

「つまり」

「期待して良いかもしれないぜ、アロロは死んじゃいない」

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