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ゲームブック(三十八頁目)

ゲームブック(三十八頁目)


博士他、攻略組のメンバーと合流して数刻。

太陽が登り、寒い程だった気温が一転。猛暑となった。

門の前を陣取ってはみたものの、ピラミッド型の建造物は完全なる静寂を保っている。

動きが止まったリリは表情を氷らせ、まるで何の反応も示さない。賢者達の診察によると、彼女はどうやら生者ではなさそうだ。


ルルは一体何をしようとしていたのか。


「どうせ死んだ妹を生き返らせる、とかだろ?お涙頂戴だよな」


表情から思考を読まれたのか、俺に向かってノブがそう言った。


「そう言ってしまうと身もふたもないけど。それぞれ色々、色々あるんだなぁ」

「そうだねー」


あんまり興味のなさそうな声で、さやが同意する。待機する時間が長くなってくると、集中力が続かない。他の班も、ガヤガヤと雑談に花を咲かせているようだ。

その時。


いよいよボス部屋に突入すると、博士より連絡があった。ネクロマンサーの動向が気になるところではあるが、このままだと無闇に消耗するだけだと判断したそうだ。


「いよいよだな」

「いよいよですな」

「いよいよだね」

「いよいよね」


いよいよがゲシュタルト崩壊を起こしそうだが、口々にそう言った。俺も皆の顔を見て口を開く。


「十班のみんな、聞いて欲しい。レベルも低いし、年齢も若い、こんな俺だけどリーダーとして偉そうに一つだけ言わせて欲しい」


四人が黙って頷く。


「生きて帰ろう。一人も欠けることなく」


しばらくの間を置いて、返事が返ってきた。


「そうだな」

「わかりました」

「良い事言うじゃん!」

「死なせないよ、一人も」


そう言って、それぞれが手を前に突き出した。五つの拳が一箇所に集まる。


決戦だ。



……



どんな物理法則に則って、この建物は建っているのか。全く理解はできないが、ピラミッドの中は延々と広がる石畳だった。その上、天は吹き抜けで空が見えている。


外から見た時は、天井があるのにな。


広大な石畳の土地の中央に、およそ人間のモノとは思えない巨大な玉座がぽつんと据えられていた。これに腰掛けるとすると、お台場に出ていた等身大の機◯戦士くらいの大きさになるだろうな。

今はそこには何も座ってはいないが。


玉座を中心に、各班が散開して付近を警戒する。ボスは一体どこに?


その時「ドォン!」と大きな音。


「ぎゃああああああっ!!」


突然、辺りに悲鳴が響き渡った。全ての者がそちらに注目する。

そこには下半身が女王アリで、上半身が人間の巨大な生き物がいた。その生物の足下で悶える人間。

そうだ、こいつが空から降って来て、彼を踏み潰したのだ。


「各班っ……」


博士の指示が飛ぶより早く、巨大な手刀が足を止めた人間を薙ぎ払った!

ごぉっと風を切る音。大きさがあるので、随分ゆっくりに見えるが、先端の速度は恐ろしい速さになっている。


「ぎっ!?」


圧倒的な質量と速度の前に、声にならない声を上げて、2、3人が同時に吹き飛ばされた。


「各班、防御体制。盾持ちは前へ!後衛を守れ!足を止めるな、一箇所にまとまるなよ!」


さすがに場数をこなしているだけある。こんな事態においても動揺することなく、博士の指示が飛んだ。


俺たちもその声を聞いて動き出す!

俺と山本さん、ノブが前に。

さやとミカさんが後衛だ。


そして、最前戦にガリオスとヒナタが駆けて行く!彼らが攻略班全体を守る守護神だ。


再び振るわれた手刀を、ガリオスが盾で受け止める。がぁん!と爆発でも起こったのかと思うような音を立て、巨大な手刀を防ぎ止めた。


「絶対防御!」

「つぁああああああっ!!」


その間隙をついて、動きの止まった手のひらをヒナタが斬りつける!まるで金属を打ち合わせたかのように火花が散った。表皮の強度が表れている。


この瞬間を逃すな!

急いで魔法小銃を構えて、引き金を引いた。


「今!」

「こっちでも見えてる!」


ドォン!!


示し合わせたように、各所から同時に銃声が轟く。女王の体の各部が、閃光と爆炎に包まれる。

遅れて衝撃。ぶわっと砂煙が上がった。その砂煙の中、胸部が赤く光っているのが見えた。


「あの光は……!」


見覚えのある、あの光。

それが晴れた時、全貌が見えた。そう、女王の胸部にルルが埋まっていたのだ!


「うおっ!ルルじゃねえか、聞いてねえぞ」


ノブが一人騒いでいるが、俺だって聞いていない。他の班員も少なからず衝撃だったのか、動揺が見て取れる。


「ああああああっーー!?離せ!」


それを好機と見たか、女王は盾職の隙をついて、一人の戦士を掴み上げた。そして、そのまま石畳に叩きつける。

石の破片と共に、鮮血が広がった。


「……クソ、どうなってる!」

「目前の敵に集中しろ!敵だ!」


隣でぼやくノブに喝を入れる。人間(ルル)が入っていようが、今のアレは魔物(ボス)だ。

女王は昆虫型の脚部を激しく叩きつけて、石片を飛ばしてくる。それを冷静に回避し、後ろに流れそうなものを打ち払っていく。


さらに盾職を潰そうとしたか、両手を重ね合わせてハンマー作り、そのまま振り下ろした。ガリオスは盾を大きく振り上げて、両手でそれを受け止める!どんな手品か、体ごと地面に埋まりそうな衝撃を受け流す。


ドォン!!


そして再び女王の動きが止まったところに、集中砲火が行われる。今度は魔法使いの魔法も炸裂した!

さすがにダメージを与えたのか。腹部に傷をつけられたが、開いた傷口からは出血が見られない。


嫌な予感がする。


リリを思い出した。手首が飛ぼうが意に介さないゾンビの身体。ボスが不死(アンデット)になってルルに操られているとしたら。人間並みの思考力(ルルの頭脳)に不死の身体なんて無敵じゃないか。


『黒キ光ヨ』


大きく手を広げた女王を中心に、魔方陣が展開された。


『不死ノ王タル我ガ威ヲ示セ』


幾重にも魔方陣が空中で重なる。

ゆっくりと高度を下げる人間型の頭部、その口が大きく開かれた。何かが来る!

大技を察したガリオスと、ヒナタが盾を構えた。


「後ろに隠れろ!!」


ゴォッ!


眩い閃光。まるで鉄砲水のように光が波となって打ち寄せる。これはそう、いわゆるビーム。口から吐き出す光線、ゲロビだ!


「太陽の盾よ……!」


ヒナタが前に進み出て、盾を構えた。その後ろ姿が光に呑まれた。そう、呑まれるという表現が正しいだろう。抗えぬその奔流に、小さな姿が光の中に消えた。

勢いそのままに、続けざまにビームがガリオスの盾に直撃する。


「ぬううううああああ!!」


強引に受け止められた粒子が、熱と光に姿を変えて辺りに弾けた!こちらにまで届いた衝撃波と轟音、そしてその光量に立って居られず、顔を覆ってしゃがみこんだ。


ゴォォォォッ!!


ピリピリと肌が焼ける感触。

凄まじいエネルギーの濁流に巻き込まれて、まるで息ができない。


「ぐっ……クソっ!」


それは一瞬の出来事だったのだろうか。

永遠とも思える地獄の時間が終わりを告げ、真っ白な視界が元に戻る。


きいんと音を鳴らし続ける耳は、全く外部の様子を拾っては来ない。顔を上げて辺りを見渡すと、周りは黒煙で囲まれていた。その中を無傷で佇むボスの姿。


少し前方に鎧が半分砕け、盾を取り落としたガリオスが倒れていた。持ち場を忘れて駆け寄る。


「大丈夫か!?」

「ああ、まだ生きてる……ようだ。隊の皆は無事か?」


ぐるりと見渡すと、無傷なのは半数程。前方に布陣していた残りの半数は、殆どがダメージを受け、立ち上がれていない。


「半分は」

「……そうか。次にもう一度あの魔法が来たら耐えきれない。その前に大火力で押し切るしかないだろう」

「大火力って言ったって」

「お前がやれ、ユウ。その魔法剣の力はMP量に依存するのだろう。賢者のMPを集めてお前が」


確かにMPさえあれば、威力を向上させるのは無尽蔵に可能であろうが。そんな隙を与えてくれるものか。


「リーダー、無事か?」

「ユウ君!」


そこに俺の姿を見つけたノブとさやが駆けつける。倒れ伏した聖騎士の姿を見たノブが、倒れたままの彼と一言二言言葉を交わした。

何やら頷くと、ノブが俺の方に向き直る。


「やるしかない、ユウ。俺が動けるやつに連絡を取って、賢者を集める。準備してくれ」

「やろうユウくん。私は大魔法で時間を稼ぐよ!」

「……やってみるしかないか!」


俺たち十班は一芸特化だ。

レベル差なんて関係ない、今までもそうやって来たじゃないか。


決断の後の動きは早い。

ノブは疾風のように走り去った。俺は奴を倒せるようなフラムベルジュのイメージを練り上げる。さやは大魔法の準備に取り掛かった。


『黒キ光ヨ』


そこに再び女王の詠唱が耳に入る。半壊させてなお慢心せず、確実な止めを選んだらしい。

時間をくれよ!


『不死ノ王タル我ガ……』

八ツ首竜の咆哮(ドラゴンブレス)!!」


ボッ!ドォン!!

頭部に爆発。


見上げると博士が空を飛んでいた。

ランドセルから生えた六つの金属のアーム、そこから白い飛行機雲をなびかせながらジェット機のように自由に空を飛んでいる。


博士だし、もう飛んでいても不思議は無い。

虫のように頭上を旋回しつつ、射撃を繰り返し詠唱を邪魔する。


『グ……羽虫ガ……!』

「虫はお前だろうが!」


女王はビームを中断して、大きく手を振りかぶり博士を追う。二度三度までは回避するも、両手で潰すようにした平手打ちで捉えられて墜落した。


それに満足したのか再びこちらに向き直ると、詠唱を再び開始する。


『黒キ光ヨ』

「今は遠き世界の住人よ」


その声に重ねるように、準備が整ったさやの詠唱が始まる。


『不死ノ王タル我ガ威ヲ示セ』

「彼の地より来たりて、その力を示せ!」


現し身の従者(シャドウサーバント) 影偽天使転生てんしのかげ


影の中から一人の少年が現れる。

だが、同時に女王の大きく開けられた口から光の帯が迸った!無防備な影の子供にビームが迫る。それが滅びれば、次は俺たちが灰になる番だ。


でも、俺は信じる。

さやが信じたものを、時間を稼ぐと言った言葉を。


「足りない!全部でもまだっ」


MPが足りないのだろうか、ちょっと心配になって来た。


「ああーっもう!持って行けえーっ!!」


そう叫ぶと、長い黒髪をばっさとナイフで切り落とした。その切られた髪が、発光し青い炎で燃え上がった。


それはMPの光だ。

これこそが、さやの切り札!


その瞬間。影の少年に、天より一条の光が射した。その背中から、ばっと光り輝く7枚の羽が現れる。


直撃!


そう思った瞬間。その天使を避けるように光の流れはいくつもの支流に割れ、湾曲する。細分化されたビームは、のたうつように飛び散り辺りを破壊した。

……


今回のお話で影として呼び出された、影偽天使転生について。


作者「林集一」さんの作品、「偽天使転生」の登場人物、コーディ山田さんをモチーフにさせて頂きました!


こちら、本物は勢いが違います。もしご存知無い方は、この海賊版だけでなくオリジナルの彼の活躍も見てみて下さい!

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