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ゲームブック(三十五頁目)

ゲームブック(三十五頁目)


「これで全員か」


そう言うガリオスの顔が、苦虫を噛み潰したように歪んだ。患者はずらりと並べられ、賢者達により処置が行われている。それは全体の約半数の人間にのぼっている。


そこら中から、低い呻き声が聞こえる。

俺たち十班からは、ノブと山本さんの2名が病床に伏した。第六階層のボスを目前に控えての、大きな痛手になる。このまま症状がおさまらなければ、今回の攻略遠征は中止せざるを得ないだろう。


負傷者の選別と、ひとまずの手当てが完了すると、ガリオスが動ける者を集めて話し始めた。


「残っているのは……賢者と、魔法剣士と、魔法使いか。戦士と偵察者は全て持っていかれたな」


ぐるりと首を回して見回すと、確かに魔法が使える職のみが生き残っているようだ。


「聞いてくれ。これだけ大規模に同時に障害を受けるのは、偶然とは考えにくい。外部からの攻撃の可能性が高いだろう。魔法か毒か、とにかく誰かが俺たちに攻撃を仕掛けているのは確かだ」


拳を振り上げて続ける。


「俺は、その敵を探しだして仕留める。討伐隊として二、三人ついて来て欲しい」


全員が注目する中で、来てくれるか。とお呼びがかかったのは、俺とミカさんだった。俺たちは前に出て、討伐隊として出撃する意思を伝える。この人選は、俺たちの実力が認められて来た故だろうか。少し嬉しい。


「私は?」と、さやが問うたが、「魔法使い達はこのベースキャンプを守って欲しい」という事であった。手薄になったキャンプを襲撃される可能性もあるのだろう。


星明かりの下、それぞれの思惑を持って、持ち場についた。はっきりとは言わないが、ガリオスの口ぶりでは、この襲撃の手口に心当たりがあるようだ。



……



ザッザ、ともキュッキュッとも取れる音を立てて足跡を増やしていく。


ガリオスを先頭に、俺とミカさんが後に続く。昼までの行軍と違い、暗闇の中を三人で歩いていると不安感が心をよぎる。

偵察者のサポートも無く、左右を守ってくれるメンバーも居ない。この状況で魔物に不意打ちを受けたらどうする、二人はどう考えているのだろうか。無言で先頭を歩きつづける彼の背中は、何も語ってくれない。


ぶるり。

「寒いな」


口の中で呟いた。意外に思えるが砂漠の夜は冷える、昼との寒暖差が異様に大きい。全く、地下の六階で砂漠とはおかしな話だが。

その時、前を歩いているガリオスが、ぴたりと足を止めた。

その視線の先には、砂漠にぽつんと現れたピラミッドのような建造物。そして大きな扉。

その門前には、いつか見た白と黒の仮面を被った少女が二人いる。小柄な紫のローブはネクロマンサーのものだ。今日は姉妹二人揃っている。名前はルルとリリだったか。


「やはり君達か、毒を盛ったのは」

「「引き返せ」」


ガリオスの問いかけに答えず、彼女ら二人の拒絶の声が重なった。


「落伍者を連れて引き返せ、お前たちはこの先に進むべきでない。町に戻れ」

「そういう訳にはいかない、俺たちはこのゲームをクリアする」

「ネクロマンサーの毒は呪いに近い。魔力抵抗の無い者から蝕まれていく、死者が出る前に町に戻れ」

「それはできない、術を解け」


ぐぅっとヘソの下に圧迫感を感じる。なんだろうこの威圧感。ガリオスは有無を言わさない口調でネクロマンサーに命令する。


「術を解け」

「「私達の世界を壊すな!」」


仮面の奥から殺気を感じた、交渉は決裂のようだ。俺はその声と同時に、ガリオスの後ろから飛び出した!彼等がお喋りに集中している間に、ミカさんから筋力が上昇する補助魔法(ブレス)を受けている!


「っつあああーっ!フラムベルジュ!!」


サバンナのガゼルのように、全身のバネを使って飛びかかった!虚をついた奇襲だ、この距離なら押すも引くもできまい。以前やつの障壁を破った二刀を同時に横薙ぎに振るう。

しかし。


「物理障壁」「魔法障壁」


二人の仮面が同時に護りの言葉を唱えた。

魔法の剣と実体剣。二つの軌跡がネクロマンサーを捉える直前、硬いものに弾かれる。かぁんという音と共に、予期せぬ手応えにバランスを崩した。背中から声が聞こえる。


「二度目だろう!」

「うおおっ!?」


同時に目の前が真っ暗になり、頭の後ろに衝撃が走った。ゴンっと小気味良い音を立てて頭を揺さぶられ、地面を転がる。


「マコルド」


ぐるりと視界が回り、世界が上下逆転して落ち着いた。その直後、命を奪う冷気が渦を巻いて向かってくる。慌てて、這うように身をかわす。


「ああああーっ!くっそ!」


直撃は免れた。しかし、左足を掠めた冷気は、その自由を奪っていった。足先にまるで感覚が無く力が入らない。


「ああ、同じような格好しやがって。二人で一人前ってわけかよ!」

「そうだ」「私たちは」

「「二人で一つ!」」


再びこちらに向けられた手のひらから、青白い光が放たれる。その時、俺と彼女たちの間に大きな背中が立ち塞がった!

ガリオスだ。

彼の構えた盾は、冷気の魔法を完全に遮断し、霧散させた。砂漠に不釣り合いな雪の結晶が、ちらちらと空気中を舞う。


「ガリオス、助かった」

「お前は!」「邪魔ばかり!」


おどろおどろしい白黒の仮面とは裏腹に、可愛い声で罵倒するネクロマンサー。


「もはや力によって解決する他に道は無いというのか……覚悟せよ。聖騎士ガリオス推して参る!」


大きく見得を切ったガリオスが、盾を構えたまま猛然と突撃した。


「物理障壁」「マコルド」


完璧に息の合ったタイミングで、同時に必要な二つの魔法を発動させる。ルルリリ姉妹の連携は実に見事なものだった。攻撃魔法を放った上で、防御にも対応した迎撃の構えだ。ガリオスはそれに、盾を構えたまま正面から突っ込む!


ごぉん!


離れていても感じた。ビリビリと肺の中の空気が振動したかのような衝撃。彼の構えた大盾は魔法を正面から吹き飛ばし、そのままの勢いで障壁にぶち当たったのだ!万全の体制で障壁を構えていたルルの方がよろめいた。


思わず口の中で、「嘘だろ」と呟いた。

力こそパワーとでも言わんばかりの強引さ。誰かが言っていた、人間戦車とは言い当て妙である。


「真っ向勝負!!」

「いつも力だけでやれると思うな!」


押されながらも、踏み止まるルルの横から、リリが新たな魔法を唱えた。


「物理障壁……反発、解放!」


カーーァン。

ひときわ高い音を立てて、ガリオスの盾が弾かれた。その隙を突いて、ルルリリは後ろに跳び距離を離した。


「物理的介入を拒絶する障壁を反発させて、攻撃に転用したのか。見事だな」


聖騎士は盾についたコゲを見て、冷静に分析する。かなりの衝撃だったようだが、彼は無傷だ。何事も無かったかのように、再び盾を構え直した。


「すごいな……」

「本当にね」


独り言のつもりだったが、すぐそばから返事があった。ミカさんがいつのまにか隣に来て、負傷した足に治癒魔法をかけてくれている。その視線はネクロマンサーに向けたままだ。


「ありがとうございます」

「いいよ。ほら、回復したら働いて」

「人使い!」


軽口を言って立ち上がると、ルルとリリを挟んでガリオスと逆方向に位置どりをする。挟み撃ちの形になる。俺の動きに気がついたリリの方が、こちらを向く。

ちなみに見た目は二人とも殆ど同じだが、白黒の仮面の配色が違う。向かって左から白黒がルル(姉)、黒白がリリ(妹)だ。どっちがどっちでも一緒だが。


「どこまでも邪魔な」「もう殺す」


そう言ったリリの仮面の奥の瞳が、赤く光ったように見えた。背中に冷たいモノが流れる、なにかヤバイ。


「備えろ!大技が来るぞ!」

「「侵食残痕結界」」


ガリオスの大声。すぐ後にネクロマンサーの魔法の詠唱が響いた。刹那、「ドンッ!」轟音を立て砂の大地から無数の槍が飛び出した!


「えっ!おおおぉぉお!?」


ドンッ!


容赦なく足の裏からも出現した赤い槍を、飛び退いて間一髪で回避する。しかし、着地点からもそれが生えている。棘が足をかすめた。

さらに顔に向かって来たものを、逸らしてかわす。それを良く見ると、槍だと思っていたのは血に濡れた尖った骨だった。全く悪趣味だ。


「恐怖しろ」「絶望しろ」

「「お前たちは串刺しだ」」


ドドドドドッ!


地面から飛び出す棘の数がにわかに増えた。棘の先を見ながら、必死に転げるように身をよじって避ける。が、避けられきれずに数本の骨が腕と足に突き刺さった。


「ぐっ!」


あえて痛みを考えないようにして、体を動かす。動きが止まれば、その瞬間に蜂の巣になるだろう。どうやらルルリリから同心円状に槍の密度が薄くなっているようだ。ジグザグに避けながらルルリリから離れていく。

無理だこれは、死ぬ。


「ぬおおおおおおっ!!」


雄叫びが上がった。

退がる俺を尻目に、ガリオスは逆に向かって行くことを選んだようだ。迫る槍を砕いて、ガリオスがルルに迫る!棘を踏み潰し、へし折りながら突き進む姿はまるでブルゾーザーのようだ。無数の骨棘を砕く事はできず、何本もの棘が体に突き立っているが、彼は意に介さない。

ダメージを負いながらも真っ直ぐに突き進んで行く。それは予想の範囲内だったのか、ルルリリはうろたえた様子もなく、迎え撃つ構えを取る。


「まるで獣ね」「この距離なら」

「「死ね、破壊者!」」


ドンッ!


ガリオスの手が、まさにルルに届こうとした時、ぴたりとその動きがとまった。構えた大盾の裏側から、その顔に向けて骨棘が生えて出たのだ。


それが、彼を貫いて……。


声をかけようとしてとどまった。

骨棘は貫いてはいなかった、ガリオスは飛び出した棘を、歯で噛んで止めていたのだ!

そのまま棘を噛み砕き、ガントレットをはめた無骨な手でルルを捉えた。


「捕まえたぞ」

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