第10話!
「と、いう感じで僕らの用事は終わりましたよ。ランスロット、ハーディバル」
「では!」
「声を慎みやがれです。一応退院したてですよ」
「おっと、そうだった……申し訳ない……」
……ハーディバル、それでさっきランスロット団長さんの口をビンタしてたのか。
ユフィやエルフィ、怪我も治っているし輸血してもらったとはいえやっぱりあの件はショックが多かったものね。
怖い事も多かったし……なんだかんだあれから少し元気はない。
もう少し休んでいればいいと思うけど、ユフィは領主の仕事があるからともう復帰している。
エルフィもちゃんと卒業したいからと、学校にはいつも通り復学した。
全く頭が下がる姉妹だわ。
「まず私から!」
「声」
「……ンン……。……まず、レベル3とレベル4の襲撃事件の報告をさせていただこう。この二つの事件はやはりクレパスの領主、クレイドル氏とその息子、ターバスト氏が仕組んだ事だったと判明した」
「! ………………。……では、あの魔獣たちは……」
「ふむ、順を追って説明させていただくと……」
……騎士団が今回の事件関係者をひっ捕らえたり、これまでの調べなどから導き出した真相はこうだ。
ユスフィアーデ家には、王家だった時代に『服従召喚魔法』という今では禁術になっている魔法を用いて戦争を行なっていた過去があった。
それは書庫の地下の、更に深い場所にある禁庫に封じられたもの。
人間より長寿な竜人族の一部では、そういう遥か昔の禁術を覚えているものも少なくなく、クレイドルもその一人だったらしい。
抱いた野望……人を淘汰し、竜人がドラゴンと肩を並べる種として大陸を支配するためにいくつもの禁忌魔法を研究していたクレイドルは、最終的に二つの禁忌魔法を用いる事を決めた。
それがユスフィアーデ家の血を捧げて使う『服従召喚魔法』とカナデルア家という同じく元王家だった家の人間の血を捧げて使う『魔獣操術魔法』。
衝撃だったのは、そのカナデルア家の人間だ。
「……ナージャが?」
「はい、遡って調べた結果カナデルア家はドラゴンと婚姻を結んだ王家の一つでした。その末裔の女性をクレイドルは娶り、ナージャ・タルルス……アナスタシア・クレパスがその娘という事になります。そしてその禁忌魔法は、カナデルア家の者の命を捧げて発動するもの。……アナスタシア・クレパスの母親は、その魔法をクレイドルが習得した時に犠牲になったようです」
「そんな……っ」
クレイドルは自分の後妻を殺して魔獣を操る魔法を手に入れた、という事だ。
なんて酷い話だろう……。
ウィルが『半分とはいえドラゴンの血を受け継ぐ者のやる事とは思えぬ』と目を閉じてしまうくらい、ゲスいわ。
「ただ、魔獣を操る力にも限界や制限、条件があるようで、ここ何年か国中で見られた『邪悪な魔力』の気配の痕跡はその調査や試行錯誤の痕跡だったようです」
「その辺りは専門家と調査しているが、古代禁忌魔法の一つ故詳しい事はお知らせ出来ない! ご了承いただきたい!」
「は、はい」
「声量下げやがれです」
なんにしても、人の命を犠牲にする魔法は禁忌に指定されている。
当たり前よね……。
そしてクレイドルはユスフィアーデ家のユフィを手に入れるべく、息子に婚姻を迫らせた。
一向に頷かないユフィから、領主という地位やカノトさんという初恋相手を奪うためにレベル3やレベル4を試験がてらユティアータに襲撃させたり、カノトさん暗殺を目論んだりしていたらしい。
カノトさんを襲った竜人たちの目的は、ユフィの恋愛対象が居なくなればターバストさんに行きやすくなる、と考えたから。
なんて浅はかなの……。
そして恋愛感情を使って自分の野望を果たそうなんて……ホンットサイッッッッテー野郎ね……!
やっぱり一発ぶん殴ってやりたかったわ!
「ねえ、ハーディバル……それで……ナージャはどうなるの?」
ターバストは有罪確定で、刑務所行きが決まっているらしいけど……ナージャは?
あの子も確かに悪い事をしていたかもしれないけど、最終的には自分の意思で父や兄に逆らった。
虐待されて、利用されて、その上刑務所行きは可哀想すぎる。
そりゃ生意気で可愛子ぶりっ子の猫かぶり腹黒小娘ではあるけど……。
「そうですわ! ナージャはどうなってしまうのでしょうか!?」
「……ミスズやマーファリーに、あの子はクレイドル様やターバスト様に辛く当たられていたと聞きました。どうか恩情をお与えいただけないでしょうか……!」
天使姉妹かな!?
驚いた顔のカノトさんとジョナサン王子。
フレデリック王子やランスロット団長はニコニコしていて、何を考えているのか分からないけど……ホンットこの姉妹は優しいわね! 天使よね!
自分たちを騙していた相手なのに……。
まあ、確かに憎らしいけど憎めない奴だし、同情の余地はあるっていうか!
「……今ご説明した通り、アナスタシア・クレパスは『魔獣操術魔法』の発動条件になるカナデルア王家の末裔に当たります。今回の事件についても、身内であり関係者という立場。無罪放免は難しいです」
「そんな……」
「で、ですがハーディバル隊長! それを言うならば私たちユスフィアーデ家も、その……『服従召喚魔法』の発動条件になる、という事なのでしょう!? 今回ウィノワール様を呼び出し、被害を与えてしまう結果になったのは私たちにも責任がありますわ! それなのにナージャだけを罰するのは、おかしいのでは……」
「あなた方は百パーセント被害者側です。それはアナスタシア・クレパス他、関係者全員の意見が一致しています。変なイチャモンは却下するです」
「ううう……」
……まあ、その理屈は私も無理があると思うわ……ユフィ……。
「それに加えてアナスタシア・クレパスは約一年間、王都の邪気を集めていたようです。恐らく魔獣を操ったり作り出したりするためでしょう。……本人もそれは認めています」
「禁忌魔法幇助だな!」
「アナスタシア・クレパスの持っていた魔導書……あれもクレイドルが古代魔法の魔導書を加工したもののようです。とは言え、魔導書そのものは実際古く、写しとはいえ貴重書籍に違いはない」
「無許可貴重蔵書所持だな!」
「誤召喚は言わずもがな」
「召喚魔法法違反だな!」
「これに関しては軽めの罰をすでに与えていますが、本来は五十年以上の魔法使用禁止が妥当」
「追加制裁対象だな!」
「加えて今回の邪竜事件は元を正せば反乱です」
「国家反逆罪だな!」
「あと細かい事を言うと偽名での労働は労働法違反です」
「はっはっはっ! 全部合わせたら懲役五百年は優に超えるな!」
「お、お慈悲を!」
「五百……!? ちょぉっ! な、長すぎるわよ!?」
出るわ出るわ……。
ナージャってこんなに罪を犯していたの!?
……エルフィじゃないけど、それがそのまま下されるんなら無慈悲すぎるわよ!?
だってあいつ、まだ十三歳じゃない!
子どもよ、子ども!
少年法とかこの世界にないの〜!?
「竜人なんですから五百年なんて余裕でしょう」
「そ、そういう問題じゃないわよ!?」
「……まあ、ユスフィーナ様やエルファリーフ嬢たちがそう仰ると思いましたし、本人も反省しきりでこちらに対して非常に協力的ではあるので無償奉仕活動八十年で許される事になりました」
「ぜ、全然軽くない!」
ど、どーなんだ?
懲役五百年と無償奉仕活動八十年って!
タダ働き八十年って!?
ぜ、全然軽くないわよね!?
「軽いですよ。ミスズ、今回魔獣化した者、あるいはさせられた者の数は百人近い。そのほとんどの者は行方不明のまま、遺体も見付かっていないんです。クレパス領の民は半数が消えていました。……あの地はもうダメでしょう。フェレデニク地方はケデル領のみになりそうですね」
「……! …………」
一つの町、一つの領地が消滅した。
そして、たくさんの人が帰らぬ人になったのだ。
その一端に関わったナージャは、そりゃ、無罪放免はダメ、なのかもだけど……。
「そ、そう、かも、だけど……」
「けれど困った事が一つ。ねえ、ハーディバル」
「ええ、逃亡の恐れもないので釈放にはなるのですが監視対象ですので、二十四時間居場所を把握出来る身元引き受け人が必要です。これがなかなかに難しいんですよね」
「! お姉様!」
「ええ! それでしたらユスフィアーデ家で引き取ってこき使いますわ! そうですね……我が家で働くならきちんとした知識も身に付けてもらわねば困りますので、王都の学校に通わせながらになるとは思いますけれど!」
「!! それはいい考えね!」
含みのある笑い方のフレデリック王子。
そして珍しく含みのある言い方のハーディバル。
色々オブラートに包んだそれを、しっかり受け取ったユフィとエルフィに私も大賛成だ。
そうよね! だってナージャ……じゃない、アナスタシアは『八十年無償奉仕活動』の刑なんだもの!
がっつり働いてもらわないとよね!
「それは助かります。実は騎士団も現在“どっかの誰かさん”のせいでとても人手不足で……しっかり学んで使える魔法使いになったら、たまーに魔法騎士隊に貸し出していただきたいくらいなんです」
「ははは、ハーディバルのところに貸し出されたらそれはもうこき使われそうですね」
「はっはっはっ! 間違いありませんな!」
「…………」
どっかの誰かさん……すっごいハーディバルに睨まれてるけど……。
ジョナサン王子が居心地悪そうに横に座ってるお兄ちゃんをジトーッと見てるわよ。
笑ってる場合か。








