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第9話!


 陽だまりのガーデンテラス。

 シャクシャクと私の世界でいうところのりんごを食べるウィノワール、ことウィル。

 うん、今日も食欲旺盛でいい事だわ。

 ……本当ならハクラみたいにドラゴン食作ってやらないといけないんだろうけど……ティルと違って記憶のあるウィルは、そういうのを好まない。

 こちらとしてはありがたい限りなんだけど……。


「やっぱり分からないわ、ウィルが私なんかを契約者に選んだ理由」


 お世話係なら別に私じゃなくてもいいと思うのよね。

 と、いまだに思うんだけど……。


『其方には分からぬかもな。だが、分からぬ其方だから良いと思ったのだ』

「……また小難しい事を……」

『それにしても、人の世は騒がしいな』

「いやいや、それはだって――」


 あの事件から五日。

 エルフィとユフィも無事退院して、ユティアータに戻ってきた。

 町は平和そのものだけど、国はクレパス領の反乱未遂で大騒ぎだ。

 まあ、その大騒ぎも王妃ご懐妊&第三王子、第四王子誕生のニュースでほぼ掻き消されている。

 ハクラの『大切な用事』は、王妃様の出産に立ち会う事だったんだって。

 んもー、超ビックリしたわよー!

 まあ、驚いたのは異世界人の私より、この世界のこの国の人たちの方。

 まさか二千年ぶりに王子誕生だなんてお祭りどころの話じゃない。

 レベル4が現れた、並みの大混乱だったわ。

 でもその大混乱が落ち着くや否や国中あげてのお祭り騒ぎ。

 ユティアータも反乱未遂の大騒ぎで領主があれだけの大怪我で入院騒ぎになったのに、昼も夜も関係なく音楽やどんちゃん騒ぎが続いている。

 ……あの邪竜が倒された朝、まさにあの瞬間に――第三、第四王子が生まれていたのよ。

 なんだか信じられないわ〜。

 ……二千年ぶりっていうのを含めて、なんかもー、ほんと規模が違う。


『椿の子か……さぞや利発な子になるであろうな』

「ウィルは王妃様の事知ってるの?」

『うむ、余等『八竜帝王』と呼ばれる者たちをこの世界に連れてきたのは椿の母なのだ。祭という。……そして余たちが言葉も分からぬ幼竜の頃、共に育って世話をしてくれたのが祭の子等。特に神楽は余等の子どもたちとも仲良くしてくれてな……。まあ、そのお陰であの兄弟は幻獣族の中でも変人扱いされておるようだが』

「……幻獣ってドラゴンを食べるって聞いたけど!?」


 育てた!?

 幻獣がドラゴンを……王様たちを!?

 どどどどーゆー状況!?


『……そうさな、太古の昔幻獣たちは様々な世界を渡り歩き、ドラゴンを狩っていたという。しかしこの世界『リーネ・エルドラド』に居を構えるとなった時、餌がないのは困る。余等は幻獣の餌を増やすために連れてこられたのだ』

「家畜って事? ……なんとも思わないの!?」


 人間だって牛や豚や鶏……ラックも……飼って増やして食べちゃうけど……。

 それを本人たちからどう思ってるから聞いた事ないし聞ける機会が来るとは思わなかったわ!


『特になんとも思わぬな。生き物の営みの一つとして、この世界に息づくものとして、それは世界の一部だ。むしろ世界を構成する一つとなった事を誇りに思っておるよ』

「……やっぱり王様は言う事が違うわ……」

『だが其方は異界からこの世界に来た者。……この世界の一部ではない。……其方が帰れるように余も手伝える事があれば手伝おう。なんなりと申すが良いぞ』

「…………うん、ありがとね……」


 長い首がくねっと傾く。

 ……違うわ、器が!

 ジョナサン王子やフリッ……フレデリック王子やハクラも器がでかいと思ったけど……なんつーか、ウィルは別物ね。

 ドーンと構えてるって感じ?

 でも、かわいい!

 苦手だったのになぁ、爬虫類系……。

 切ったりんご的果物を差し出すと嬉しそうにかぶりつく。

 ……かわいい……。


「ミスズお嬢様! こちらでしたか!」

「マーファリー、どうしたの?」

「すぐに着替えてください!! お、王子殿下とハーディバル先生とランスロット団長がいらっしゃるそうです!!」

「……え……」


 お、王子殿下ってどっちの!?

 で、しかもハーディバルとランスロット団長まで!?

 え、なんで!? そんな豪華メンバーが!?

 マーファリーに攫われるが如く自室に連れていかれ、髪や化粧を直され、普段着より少し堅苦しい感じの服に着替えさせられる。

 そして連れていかれたのは屋敷の中の客間。

 そこには退院したてのユフィとエルフィ。

 引き続き護衛で雇われているカノトさん。

 三人とも表情が硬い!

 き、気持ちは分かるけど!


「い、一体なんの御用なのでしょうか……お姉様……」

「聞きたい事があると仰っていましたから、クレパス領での事の聞き取りではないかしら……」

「ですが王子殿下たちまでですよ!? わたくしフリッツ様がフレデリック殿下だと知らなかった頃何かしてしまったのでは……! あああ……ごめんなさいお姉様!」

「お、落ち着いてよエルフィ! そんな事言ったら私なんか二人に毛深いとかハゲとか言っちゃったのよ!?」

「ミ、ミスズ!? そのお話、私初めて聞くんですけど!?」


 やばい墓穴掘ったわ。

 ユフィに禁断の過去が知られてしまった!

 そこへコンコン、と扉が鳴る。

 カッキーーン、と硬直する私たち。


「こんにちは、体調はいかがですか?」

「邪魔するぜー」

「ふが!」

「………………」


 ……?

 何故ランスロット団長はハーディバルに口……というか顔の半分をビンタされたのかしら?


「よ、ようこそいらっしゃいませ。フレデリック殿下、ジョナサン殿下……ランスロット団長様、ハーディバル隊長様」

「いきなりですみません。色々と立て込んでいましてね……取れた時間がここだけだったんです」

「とんでもございませんわ!」

「で、マジで体調はどうなんだ?」

「はい、おかげさまで……」


 ……まさか王子様二人とも来るなんて!

 二人並ぶと本当にそっくり……というか同じ顔ね! さすが双子!

 でも仕草と服の着崩し方でどっちがどっちか一目瞭然ね……。


「それは何より。ではまず我々からの用事で……ミスズ」

「私!?」

「ウィノワール王と契約したそうですね」


 あ、その件か……。


「うん、じゃ、なくてはい!」

「今まで通りで構いませんよ」

「……じゃあ……」


 正直中身が悪戯好きの悪ガキだと知っているのでフレデリック王子には敬語使いづらかったのよね。

 にっこり笑顔もフリッツそのもの。

 ……腹黒王子め……。


「……それで、ウィノワール王は?」

「あれ? どこだっけ?」



 え。



 場の空気が凍る。

 ヤバい、このままだと白い目で見られる!

 慌てて腰のポシェットを開けてみると、まだしゃりしゃり果物を食べているウィルが!


「こ、こらー! ポシェットの中に食べ物は入れちゃダメって言ったでしょー!?」

『其方が余が食べておる時にそのまま入れたのではないか』

「え、そ、そうだっけ? で、でも食べないでよ! 中ベトベトになるのよ!」


 ウィルのお世話係は私なのでメイドさんたちに洗濯してもらうのに罪悪感を抱くのよー。

 ……ああ、汁でポシェットの中がびちゃびちゃ……。


「………………。ウィノワール王、お久しぶりです。フレデリックです。覚えておいででしょうか」

『無論覚えておるよ。ジョナサン王子も久しいな』

「はい」


 ジョナサン王子の敬語!

 意外! 敬語とか苦手そうなイメージだった!


『すまぬな、其方等の国の迷惑にはならぬつもりなのだが……余はミスズが気に入ってしまった』

「こちらとしてもミスズがウィノワール王のお世話をする事に異論ないのであれば、何か言うつもりはありません。これも良い機会と捉えて、ウィノワール王には是非、我が国を知っていただけたらと思っております」

『……そうか……。……ふむ、ではやはり近いうち、一度森には帰らねばならぬな。ミスズはすぐに元の世界に帰れぬのであろう?』

「そのようですね。ミスズの世界は類似した世界の多い、惑星『地球』のようですから。一体どの『地球』から来たのか、そちらの調査も今進めているところだそうです」

「…………。……なんかすっごい政治的な話してる……」

「ええまあ……ウィノワール王はドラゴン族の王のお一人で、僕はアルバニス王国第一王子ですから」


 そ、そうか……今更だけど、そうか……。

 ドラゴン族とアルバニス王国は不可侵条約を交わしてるって習ったし……。

 二人は王様と王子様なんだったっけな。

 いや、忘れてたわけじゃないんだけど……変な感じ。


『そんなわけで、余は一度余の自治区がある森に帰って息子に転生した事や留守にする事を伝えねばならんな』

「弟が生まれたのでドラゴンの森には伺う予定もあります。その時に僕の方から他の王たちや、ご子息にお伝えしますか?」

『……いや、その時に同行しよう。ミスズも付いて来るか?』

「え」


 ウィルの家族!

 それはご挨拶した方がいいわよね?

 あれ? でもドラゴンの森って立ち入り禁止でしょ!?

 間違って立ち入ったら……ドラゴンに食べられるって……。


「は、入っちゃダメなんじゃないの!? ドラゴンの森って……」

『余と契約しておるのだから問題ない』

「それにミスズはこの世界の民ではありませんからね。ドラゴンたちも手を出して来たりはしないでしょう」

「そ、そういうものなの?」

『というか、余の契約者に手など出そうものなら余が黙っておらぬよ』

「この世界のドラゴンは強さで序列を決めたりしませんからね」

『ガージベルの一族は力と体の大きさで序列を定めるようではあるがな。余の一族は穏やかな性質ゆえそういう事はない』

「そ、そうなの? ……じゃあ、ご挨拶には行こう、かな?」


 あ、というか!


「そういえば弟さんが産まれたんだってね、おめでとう!」

「ありがとうございます。……丁度産まれた弟たちのためにドラゴンを狩りに行こうかと思っていたところ、邪竜がいい感じに丸焦げで食べ頃になっていたので手間が省けましたよ。まあ、個人的には生肉の方が好みなんですけど」

「邪竜のお肉は俺たちが美味しくいただきました」

「……あんな事言ってるわよ?」

『幻獣や王族が狩りに来るのは致し方なき事よ。それもまた世界の一部』

「シ、シビア……」


 よくドラゴンの王様の前でそんな事言うわね。

 と、思ったけど、さすが王様、言う事が違うわ……!


「っていうか……邪竜って、あれ、元々は魔獣よね……? た、食べたの……?」

「食べられるってツバキさんが言うのでありがたくいただきましたよ」

「う、うわぁ……」


 本気でドン引きなんだけど……!



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