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第5話!


「……ヒュー……噂には聞いてたけど、俺でも全部見えなかった……! カノトさんの固有スキル技!」

「! ハクラくん、ユフィは!?」

「大丈夫、怪我は全部治ってる。でも出血が酷かったから輸血しないとダメだ。治癒魔法でも、無くしたものは戻せない」

「…………病院に連れていかなければならないんだね。……でも……」

「うん、その前にクレパスの領主とレベル4をなんとかしつつ、エルフィを助けないとね」


 頭上でそんな会話がする。

 あー、ダメだわ、すっごいボーーッとする。

 頭が回らないわ。

 私、一体どうしたんだったかしら……?

 確か、生命力が鎖になってウィノワールを無理やり従属させるのに利用されて……。

 それから………………思い出せない。

 マジでどうしたんだったかしら……。


「ミスズ様、大丈夫ですか?」


 ……あ、そうだ、目を開けたらナージャがボロボロ泣いてたのよ。

 今日だけで一生分泣いたんじゃないのってくらい。

 目元は真っ赤。

 可哀想。

 それなのに私の心配だなんて、どういう風の吹き回しよ。

 ……あ、一個思い出したわ……ウィノワールに言われた言葉。


「……大丈夫……」

「うわ! ミスズが生きてる!」

「っ、どーゆー意味よ!?」

「うわぁ!? お、起き上がったぁ!?」

「何よその反応!?」


 ふらふらする頭を抱えながら上半身を起こすと、ハクラがユフィをカノトさんに任せて後ろに後退る。

 しかもなに! まるでお化けでも見たかのようなその反応! 失礼しちゃう!

 ……イタタタ……! 叫んだら頭が……。


「……ええ〜? ……なんで生きてるの? ……やっぱりウィルがミスズを助けてくれた、んだよね?」

「?」

「そ、そうですよぅ! ミスズ様、生贄にされたのになんで生きてるんですかぁ!?」

「…………そんな事言われても……」


 よく覚えてないのよねー。

 なんでかしら?

 ……そして……このお腹の上にある真っ黒なダチョウの卵はなに?

 流石の私も生んだ記憶はないわよ?

 そもそも産卵は出来ないわ!

 何よこの卵!?


「……よもやウィノワール王が貴様のような人間の小娘一人のために、転生を選ぶとは……」


 そこへ響いてきた声。

 黒い髪と、黒い鱗に顔を半分覆われたオヤジがコロシアム上空に浮かんでいた。

 ターバストと同じ黒い翼……もしかしなくてもあの左脇に抱えられているのはエルフィ!?

 ……エルフィ……腕から血が!


「父さん……」


 ナージャのお父さん。

 という事は、やっぱりあいつがクレイドル・クレパス……!

 このクレパス領の領主…………ラスボスね!

 …………ん?


「ちょ、ちょちょ! あれってレベル4の魔獣じゃないの! なんであんなヤバイものがここに!?」

「え、今気付いたの? うん、そうだよ。……それにしてはずっと微動だにしないんだよね。すぐ襲ってきそうなものなのに……」

「……多分、エルファリーフお嬢様の血を使って従属させていると思います! エルファリーフお嬢様たち、ユスフィアーデ家の血にはそういう力があるんです! 父がそう言っていました!」

「! では、ユフィがあんなに傷だらけにされたのは……」

「ウィノワール様を操るためです! 父と兄はその為にユスフィーナ様をクレパス領に嫁がせようと画策していたんです! でも、ずっとお断りされて……こんな強硬手段に……!」

「えーと、じゃあまさか魔獣をあの速度で成長させているのもユスフィアーデ家の血の力?」

「……す、すみません、ワタシも全て知っているわけじゃないんです……。で、でも父に命じられて、ワタシは王都で何度も邪気集めをしていました…………それが関係しているのかもしれません……」

「……そう。分かった、話してくれてありがとう」


 剣を構えるカノトさんと、銃を構えるハクラ。

 二人に諸々をバラしたナージャは手を握り締めて「ごめんなさい、ずっと騙していて……」と項垂れた。

 ……そう……吹っ切れたのね……よかった。

 そうよ! あんたはあんなオヤジや兄貴にこき使われ続ける必要ないわ!

 それでいいの!


「魔獣は俺に任せて。この間は全部ハーディバルとフレディにやられたから今日は俺がやる!」

「では、僕はクレイドル様を……! エルファリーフ様を救出します」


 ……なんて頼もしい背中……。

 立てそうにない私と、気を失ったままのユフィ。

 そして魔法の封じられているナージャは、まあ、足手まといでしかないけど……。

 ひどく忌々しいと思っているのが顔に出まくっているクレイドルは、急に更に上空へと昇り始めた。

 ず、ずるいわ! 翼があるって!


「カノトさん、飛行系使えるの?」

「はい」

「あ、じゃあマジでよろしく」

「……天翔ける翼無き者へ、疾風の慈悲を与えよ。ウインド・ステップ!」


 か……『風属性』万能ーーー!

 一瞬であんなに昇っていったクレイドルに追い付いたー!?

 なにあれ、転移魔法じゃないの!?


「ミスズたちはここを動かないで。ホーリー・シールド」

「わ!」


 ハクラが手をかざすと私たちを囲うように真っ白なドームが現れる。

 なにこれまるで出口のないかまくらだわ!


「少し離れるね。何かあったら大声で叫んで呼んで」

「げ、原始的!?」


 と、言いたい事だけ言い終えたハクラは多分カノトさんと同じ魔法で宙へと飛び上がる。

 ……い、いいなー……『風属性』……。

 魔法で空を飛ぶ……ファンタジーなら夢よね……。

 残念ながら私の魔力属性じゃ無理だけど……。

 ……まあ、私がこんな呑気に構えていられるのも、要するにカノトさんとクレイドルの戦いは真っ暗な空の上の方で、しかも高速で行われていてちっとも見えないからなんだけど……。

 何よあれ、なにがどうなってるのやら……遠くで声とか戦ってる音みたいなのはかろうじて聴こえる。

 でも戦況はさっぱり分からないわ。

 そうこうしているとレベル4とハクラの戦いも始まったらしい。

 とんでもない大きさの光の十字がレベル4の周りを囲うように現れると、それがキラキラとフラッシュのように輝いてあの巨体に突き刺さる。


「……う、うわぁ……」


 ハーディバルもそうだけどハクラも大概容赦ないわね〜……。

 やっぱ魔法レベル三桁超えてるやつはレベル4すら余裕って感じ?

 ……頑張れ、ハクラ。

 早くその魔獣をやっつけちゃえ……っ!

 早く、素体になった人たちを……助けてあげて……!


「ハクラくん!」

「うわ! カノトさ……エルフィ!」


 突然真後ろから声がして、振り返ると腕を切りつけられて血を流すエルフィを抱えたカノトさん!

 カノトさんのマントで止血してあるけど……これ、かなり深そう……!


「僕の治癒魔法では、この傷は……! エルファリーフ様の傷も深い! このままでは出血で死んでしまう!」

「そんな! エルフィ! しっかりして!」

「……………」

「エルフィ!」


 この傷を治せるのはハクラだけ!

 でもハクラはレベル4と戦ってる。

 レベル4が大きな口を開けてあの黒い光線を吐く。

 それを光の壁で打ち消して、また光の十字架がレベル4に突き刺さった。

 大きな悲鳴。

 ……あれじゃ聴こえないじゃない!


「あの、父さんは……!?」

「エルファリーフ様を放り投げて、レベル4のところへ……」

「! そんな、まさか…………ダメよ父さん! やめて!」

「!? ナージャ?」


 突然狼狽え始めるナージャ。

 コロシアムの外で戦っているハクラにこちらの声が届かないように、ナージャの悲痛な叫び声もクレイドルには届かない。

 初めから聞く耳など持っていないのだろうから余計に。

 カノトさんのマントで止血されていたエルフィの腕から、また血が垂れ始める。

 ああ、どうしよう……!


「……っ! 気休めでも!」


 そう言ってカノトさんが治癒魔法をエルフィに掛け始める。

 ……本当だ、ハクラの治癒魔法とは全然違う……。

 あいつは一瞬で、瞬く間に傷を癒した。

 カノトさんの治癒魔法は多分初級のものだ。

 光が弱い……巻かれたマントの包帯は、どんどん血が染みていく。

 エルフィの顔色も……真っ青に……!


「エルフィ……」


 ハーディバルがくれた『攻撃無効化』のネックレス。

 ユフィの胸にかかっているネックレスも……どちらも石は魔法が入っていた時のような輝きを失っている。

 二人とも、一度はちゃんと魔石が守ってくれたんだろう。

 でも、あいつらは一度防がれた程度じゃ諦めなかったのね。

 ハーディバルの言う通りになってしまった。

『死の気配』……ハーディバルが言っていた、半年以内に必ず死んでしまうか、死ぬほど危険な目に遭うか。

 でもお願いよ! 二人とも死なないで……!


「…………くっ」

「カノト様! ……まさか、体内魔力が尽きて……」

「まだ、大丈夫…………自然魔力が集まりづらくなっているんだ」

「………………」


 レベル4との壮絶な戦い。

 ハクラが周囲の自然魔力を独占してるから……?

 でも、それじゃエルフィが!


「空間の淀みが自然魔力を遮断しているんだと思う。この町の中で使えた自然魔力量は限界に近いんだ。ハクラくんは……体内魔力量だけで戦っているのか……」

「!? あれ程の魔法を体内魔力で!? ……ほ、ほんとにチート野郎ですね……」

「それ、保つの?」

「彼の体内魔力量にも限界はあります。けれど、ハクラくんは『光属性』……魔獣を浄化する事に長けた属性です。……すみません、だから……それよりも僕の方が……!」

「!」


 諦めたくないのに!

 カノトさんの表情があまりにも悔しそう。

 ゆっくりと治癒魔法の光が弱まっていく。

 ……止まらない血。

 ああ……エルフィ……!



「ヒール!」



 カノトさんの治癒魔法が完全に消えた瞬間、別な声が治癒魔法を唱えた。

 手首から肩あたりにまでぱっくり開いていたエルフィの怪我は、瞬く間に泡のような光に包まれて消えていく。

 こんな事が出来るのは…………!


「…………………………遅いわよ……」


 薄い紫色の髪とマント。

 銀の瞳と、真白の騎士服。

 表情筋が死滅しているかのような無表情。

 その姿を見た途端、とてつもなく泣きたくなった。


「……転移魔法が使えない中、単独先行してきたんです。文句は受付けないです」

「ハーディバル様!」

「ハーディバル隊長!」


 ナージャとカノトさんはパァっと明るい顔になるけど、私は逆だ。

 だって、本当に……遅い!

 ……遅いけど……。


 遅いけど、ちゃんと、本当に、助けに来て……くれた……。


「間も無く天空騎士隊の先行部隊が到着するです。が、ハクラがレベル4をなんとかしてくれそうですね」

「はい。ですがまだ反逆を企てたクレイドル卿の身柄を確保出来ていません」

「分かりました、天空騎士隊が到着し次第、騎士団で確保します。僕の探索魔法から逃げられる奴なんざいないです。……でもその前に」


 ハーディバルがどこからどこまで知ってるのかは分からないけど、血まみれで倒れるターバストへ手をかざす。

 床から無数の鎖がその体を拘束し、ハーディバルがかざした手を拳にして引き寄せると今度は床の超巨大な魔法陣がガシャーン! という大きな音と共に霧散していく。


「嘘……!」

「……無効化……!? この規模を一瞬で……! ……闇魔法ですか……?」

「僕の闇魔法は常人の十八倍の威力が出ちゃうんです。制御しても闇魔法は威力が出過ぎるですね」

「自然魔力なしで!? ……このチート野郎……」


 ナージャの顔!

 気持ちは分かるけれど!

 ……せ、制御の腕輪を着けてそれって、あんた……!



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