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第3話!


 


「ヤバ!」


 大剣を構え直したターバストが勢いよく、私たちへと飛び込んできた。

 飛んでるティルは華麗に回避するけど、二本足の私には到底避け切れる勢いではない。

 そこはティルの火球がターバストを制しようとしたが、相手は竜人。

 手のひらを私の腕へと向けたと思ったら、ティルのように火球が飛んできた。


「きゃあああ!」

『あ! ミスズ〜!』


 パリン!

 やたら大きく響く音。

 左手に付けていた魔力補助器が、狙われた!

 見事に壊れて地面に散らばる補助器の残骸。

 右手の甲に浮かんでいたティルとの仮契約の紋章も消えていく。

 ……こ、これは……。


「その腕輪が幼竜に魔力を与えていたのだろう?」

「うっ」

『ミスズ、さがって!』

「ふん!」

『! わああ!』

「ティル!」


 私を庇おうとしたティルは、ターバストの大剣の剣圧で吹き飛ばされる。

 壁にぶつかってずり落ちたところをすぐに竜人兵に捕まってしまう。

 こうなれば私は丸腰だ。

 一歩、二歩と後退りしたところで逃げ場はない。

 わ、分かっていたけどこのタイミングで助けに来てくれるとか、ないよね……?


「儀式の準備は整った。後は偉大なる黒き竜への贄のみ。貴様の血肉でもって、我等は黒き竜と契約を交わす。来い」

「! ……はい、分かりましたなんて、言う訳ないでしょ! 嫌よ!」

「ふん」


 ハーディバルと約束したの。

 諦めないって。

 あいつは安易な約束はしない。

 だから必ず助けに来てくれる。

 でも、私の足に向かってさっきの火球魔法を放つターバスト。


「うああぁぁ!」


 地面に倒れる。

 い! いっ……!

 言葉にな、ならない程……痛い!

 更にこの下衆の極みは私の髪を鷲掴み、ズルズルと広場の魔法陣の中心へと引き摺る。

 髪がぶちぶちと音を立てるがターバストの歩は一切揺るぎない。

 い、痛い痛い痛い! ほんとに、痛い!

 地獄のような痛みが足からも頭からも……!


「あう!」

「クク……下等種族はそこで這いつくばるのが似合いだな……」

「………………うっ……」


 放り投げられて、そんな言葉を投げられて……ようやく頭の痛みから解放されたのに……起き上がる事も出来なくて……。

 頬を伝う血は……頭からだ。

 でも、足の方が痛い。

 熱いし、皮膚が爛れて……これじゃ立って逃げるなんて、無理……。

 体の下……広がる魔法陣の文字がどんどん光を強めていく。

 これは、魔法が発動しようとしているって事、だと思う。

 逃げないと……ターバストの言う通りになる。

 黒き竜……邪竜の生贄なんて……ぜ、絶対嫌。

 死にたく、ない!



『諦めるな』



 ……約束したの、ハーディバルと。

 あいつは助けに来てくれる。

 だから、私は……上半身だけ起こして、腕を曲げ、前へと少しずつ進む。

 匍匐前進……にもなってないけど……うう、足が……擦れて……と、とんでもなく痛い!

 でも逃げなきゃ……逃げなきゃ死んじゃう!


「……はぁ…………はぁ……」


 痛い、痛い、痛い……!

 なんで私がこんな目に……。


「…………………………」


 悔しくて痛くて涙が出る。

 誤魔化す事もできず、せめて、と上を見上げるとそこには半透明な球体に閉じ込められた……ユフィ?

 私の方を見て必死に叫んでいる。

 目が合って、ユフィが目に涙を溜めて球体を中から必死に殴っていたのに気が付いた。

 え? ユフィが、捕まってるの!?



 ――ユスフィアーデ王家の血を使って偉大なる黒き竜を呼び出し、贄の血肉で服従させる……。



 ユスフィアーデ王家の血。

 それは、まさか……。


『――――!!!!』

「ユ、ユフィーー!」


 魔法陣の輝きが強くなった瞬間、ユフィの囚われていた球体は回転し始める。

 ここから見ても分かる程、球体は鋭い棘を全体に生やした。

 それでユフィは全身を切り刻まれる。

 な、なんて酷い事を!

 球体の回転で、棘からユフィの血が魔法陣方へと飛び散る。


「や、やめて! やめてよ! ユフィ! し、死んじゃう!」


 あんな事されたらユフィ! ユフィが……!




「ユスフィーナ!」


 球体を真上から真っ二つにした閃光。

 深い緑色のマントが翻る。

 ……あれは――カノトさん……!

 カノトさんがユフィを刺々の球体の檻から助け出してくれた……。


「…………………………」


 でも、安堵感は一瞬で消え失せる。

 魔法陣が目も眩むほど光を発したのだ。

 一瞬目を瞑って、次に目を開けた時どこからともなく私の真上には強大な胴体があった。

 煌びやかな漆黒の鱗。

 鋭い爪。ビルみたいな脚。

 全体像なんて把握出来ない巨大な何か。

 ユフィを抱えたカノトさんが突然現れたそれにぶつかって魔法陣の外まで転がり落ちていく。

 でも、怪我をして動けない私はただ、その得体の知れないものを見上げる事しか出来ない。


 …………これは、なに?


『……んぐ……、せ、狭い』


 何か聴こえた。

 と、思ったら、その得体の知れないモノは黒い靄になる。

 それはすぐに晴れ、私の真横に別な黒が現れた。

 黒いロングマント。

 漆黒の髪と、金と銀の色違いの瞳。

 不思議な衣装のとんでもない美形のお兄さん。

 頭の中がどれを最初に処理すればいいのか、分からない。


「……なんだ、ここは。其方何か知っ…………怪我をしているな?」

「…………え? あ、は、はい……」


 少し拗ねたような表情をした後、私の方にしゃがみ込んだ美形なお兄さんは頭から流れた血に眉を寄せた。

 それから手をかざして「治してやる」と言う。

 へ、と声を出す間も無く、お兄さんから暖かな光が私の体を照らす。

 あ、これ、知ってる……ハーディバルやハクラが私の足を治してくれた時の暖かさ……。


「まだ痛むか?」

「……い、いえ……大丈夫みたいです……。ありがとうございました……」


 あっという間に脚も頭も痛みは消えた。

 特に足を見れば、あれだけの火傷が跡形もない。 

 すごいなこの人!


『ウィノワール王! その娘は王への捧げものですぞ!』


 広場に響く聞き覚えのないおっさんの声。

 誰かは分からないけど、内容を思うにターバストの仲間だわ。

 お兄さんは嫌そうな顔をしながら私に手を伸ばして「立てるか」と気遣ってくれた。

 その手を素直に掴む。

 引き上げられ、立たされる。

 うん、痛みはない。


「血肉は好かぬ」

『な! ……で、では何をお望みか……!? 何を捧げれば、我等にそのお力をお貸しいただける!?』

「…………。姿も見せず、余をこのような狭い檻に閉じ込め、この世界の民ですらない娘をあのように無体な姿で転がし、あまつ、余に力を貸せと? 呆れて物も言えぬな」

「………………」


 ……じ、事態がまるで飲み込めないわ。

 でも、この人もこの魔法陣に閉じ込められている?

 確かにこの響く声……偉い人っぽい相手にものを頼む態度じゃないわよね。


「……あの……?」

「余か? 余はウィノワールという」

「ウィノワールさん……。私はみすずといいます。あの、怪我を治してくれてありがとうございました」

「良い、気にするな。この世界の王の一人として、其方のような異界の者に無体を働いた事を謝罪しよう。すまなかったな」

「……この世界の、王様……?」


 の、一人?

 首を傾げる。

 王様?

 ウィノワール……うん、どこかで聞いた事あるな?

 ………………確か……ええと……。


「…………。……ウィノワールって……は……『八竜帝王』……『闇翼のウィノワール』……?」


『八竜帝王』最強の?

 いや、まさかね? あははははははは?


「ほう、余の事は知っておるのか」

「え、嘘、本物?」

「如何にも」


 バサァ、と漆黒の闇の翼が広がる。

 普通の、ドラゴンの翼ではない。

 口元が引きつる。

 ドラゴンの翼の形をした闇。


「余こそ、八竜帝王の長ウィノワール」

「ううそ!」

「ドラゴンは人を謀ったりはせん。本来の姿ではこの檻は狭すぎて身動き取れぬ故、致し方なく人の姿に化けた。本意ではないが人の身の丈の方が、見晴らしが良い事もある」

「…………」


 …………………………マ、マジで?

 ほ、ほんとに……『八竜帝王』の……ドラゴン?

 漆黒の鱗で全身を覆われ、闇の翼を持つ『闇翼のウィノワール』は、五本の指と四つ又の角、金と銀の瞳を持つ。

 穏やかな気性で争いごとを好まないが、その力は『八竜帝王』の中で最も強大。

 それ故にリーダー的な存在……。

 ……と、習ったような……。

 …………………………うん、特徴割と当てはまってるわ。

 頭に二つ割れした二本の角。

 金と銀の色違いの瞳。

 闇の翼。


 マジで?


『ウィノワール王! 非礼はお詫びします! ですからどうか、我等にその偉大たるお力をお貸しください! この国を牛耳続ける忌まわしき獣の王……アルバート・アルバニスを打ち倒し、大陸を取り戻すのです! そして、王の眷属たる我等竜人族を王のお膝元へとお返し下さい!!』

「やはり竜人族か……。断る。争いも好まぬ」

『王! 何故です!? この大陸は元々我等ドラゴンの地! 人など滅ぼし、我等の大地を取り戻しましょう!!』

「………………。あれは余の話など聴く気がないと見える……。弱ったな、穢れを知らぬ純潔の乙女の血は拘束力が半端ではない。力づくで出ても良いが、条約に違反した事になりかねぬ……」

「!」


 穢れを知らない、乙女の――……。

 ユスフィアーデ王家の血を使って偉大なる黒き竜を呼び出し……。

 ユフィの血で呼び出された、偉大なる黒き竜……。

 黒き竜って『闇翼のウィノワール』の事かぁぁぁーー!

 ……ユフィの血で呼び出されたなら、このドラゴンの王様を縛り付けてるのは…………。


 私の血……。


「ご、ごめんなさい!」

「ん?」

「……そ、それ、わ、私のせい、かも……」

「……………………」


 私の血……さっきターバストに足を焼かれ、髪を引っ張られて流れた血のせい、かも。

 それを説明すると、真顔で「なるほど」と言われてしまう。

 あ、あああ、やっぱり私のせいかぁぁぁ……!

 怪我を治してもらったのに……最悪……恩を仇で返したようなもんじゃない!


「だが、其方のせいではないさ。其方に怪我を負わせた者が悪い」

「………………」


 ……優しい。

 それに、怖くない。

 どうしてだろう?

 この人も爬虫類みたいな瞳なのに……。

 ターバストに会った時、怖くて身が縮み上がった。

 でもこの人……いや王様ドラゴンは全然怖くない。

 …………安穏系……『闇属性』……。

 パッと顔を上げる。

 そうか、この人が怖くないのはハーディバルと同じだから……。


「だが、一つ頼みごとをしても良いか」

「は、はい! なんでしょうか!」

「余はあまり力づくというのは好まぬ。余が力を使う事で、不可侵条約に違反した事になる心配もある。……そもそも余が人の世に居るのがすでに良い事とは言えぬ。……アルバニス王家の者達に、余が本意ではなく呼び出されてここに居る事を伝えに行ってはくれまいか」

『ウィノワール王!』

「……あの小煩い小物が無益な争いを始める前に、其方はここから逃れ、この事を王家の者達に……。頼む」

「……わ、分かりました!」


 な、なんてまともな王様なの……!

 広場に響く声の主がまさしく小物に見える大器っぷり!

 王様ドラゴンは恩人でもあるもの、頼まれたからには早く助けを呼びにいかないとよね。

 さっきカノトさんがユフィを助けてどこかに落ちたような?

 まだ近くにいるかしら?

 辺りを見回すと、横たわったユフィにカノトさんが光を当てているのを見付けた。

 多分治癒魔法だわ。

『風属性』は治癒魔法もあるって習ったし。

 よし、まずはカノトさんと合流してユフィの容態の確認ね!

 それからハクラたちも探して、マーファリーたちの事も助けに行って……。



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