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第2話!


 ユティアータに現れたあのおぞましい姿の魔獣たち。

 あれの最終形態こそ、邪竜……!

 その姿は漆黒の鱗に覆われ、周囲を腐敗させる瘴気を撒き散らしながら何もかもを喰らい尽くすという。

 ……ハーディバルがクレパス領主は国中で見つかった『邪悪な魔力』と関わりがあるって言ってたけど……それはつまり……イコール魔獣との関わりだ。

 体が震えた。

 だって、生贄って……。

 色々繋がってきたら、相当怖い状況じゃない……!


「ユスフィアーデ王家の血……? それはまさかユスフィーナ様やエルファリーフお嬢様の事!?」

「……は、はい……大昔、ユスフィアーデ王家は召喚服従魔法という危険な魔法で戦国時代を生き抜こうとしたらしくて……父さんたちはその魔法を復活させるつもりみたいなんです。お二人の血を使って黒き竜を呼び出し、贄の血肉で服従させるって……」

「……っ……! ……ハーディバル!」


 補助器はうんともすんとも言わないけど、呼びかけると『なんだ、やっと泣き止んだです?』という冷静な声。

 安定の鬼っぷり……。


「ナージャが教えてくれたの、ユフィとエルフィの血を使って黒い竜っていうのを呼び出すんだって! それで、ナージャは黒い竜の生贄なんだって!」

『………………。そうなる前に着ければいいが……。……自力で脱出は厳しいです?』

「鋼鉄の檻の中なんです。わたしの魔法では……」

『ぼくの『ベビーファイヤーブレス』じゃあ、“てつごうし”はこわせないみたい』

『でしょうね……。…………となると、方法は一つか……出来ればやらせたくはないが……』

「なに? 何か方法があるの!?」

『その前に……ナージャ・タルルス……いや、アナスタシア・クレパスはお前たちの脱出に協力する意思はあるんです?』


 くるり。

 私たちが振り向くと、一瞬たじろぐナージャ。

 そして握り締めた手をより強く握ると俯いた。

 ええ? まさか……。


「ナージャ、あんた残る気? 生贄にさせられるとか言ってなかった?」

「……ワタシはそれしか価値がない、から……」

「何を言っているの! そんな事あるわけないじゃない!」

「そうよ、ナージャ……! この世界にはね、投げ出していい命なんて一つもないの! どんなに無価値だと言われても、意味なく生まれたと思っても……そんな命にも手を差し伸べてくれる人がいるのよ! 何より、本当に間近に死が迫った時に、必ず自分は生きたいんだと思い知るわ……! そんな風に諦めてはダメなのよ……!!」


 ……さ、さすがマーファリー……!

 言葉の重みが私なんかとは違うわ……!

 まさにヒロインの台詞……!


「…………これ、持ってなさい」

「? これは……」

「一回だけだけど、必ず守ってくれるお守りよ」


 マーファリーみたいにかっこいい事は言えないけど、自動的に一度だけ攻撃を無効化してくれるという魔法の入ったネックレス。

 それをナージャの首にかける。

 危なっかしいから、私よりナージャが持っていた方がいいわよね。


『………………。……ミスズ』

「ん?」


 …………………………。

 え? え? 今ハーディバルが私の名前を呼んだ……?

 幻聴? 幻聴!?


『空間の淀みが強くて転移魔法が使えない。けれど、騎士団は必ず助けに行く』

「! 騎士団来てくれるの!?」

『……僕は安易な約束はしない。……安易にした約束がどれほど無責任な事かは分かっているから』


 え、なに……突然重い話?

 あんまり重い話が連続でくるのはつらいんだけど。


『僕は騎士だ……先行してでも助けに行く。だから、僕が行くまで諦めるなよ』

「………………」


 ハーディバル……。


「……うん、分かった……待ってる……」


 口は悪いし性格ひねくれてるけど、優しくて真面目なやつだ。

 安易な約束はしないけど、助けに来てくれる事だけは約束してくれる。

 なんだろう……その言葉がとても安心させてくれた。

 私はゲームの中のただのモブだけど、ハーディバルはそんなモブな私の事も助けに来てくれるって……そう言ってくれたから。

 ……うん、待ってる、信じてる。


「よし、とにかくここに居たらその黒い竜に生贄にされるんでしょ? ハクラたちと合流しましょう!」

「そうですね! ……でも、どうやってここから出ればいいんでしょうか?」

『それにパパたちがどこにいるのか、わかるの? ぼくは“たんさくまほう”つかえないよ』

「うっ、それもあったか……」

『それなら多分大丈夫。探索魔法ならハクラが使える。あいつがお前たちを探していれば合流は出来るはずです』


 おお、なるほど!

 ……でも、それって探されてなかったら出会えないって事……。

 い、いやいや、考えない!


『それより、その場から逃げる覚悟が出来たなら魔力補助器の魔石を右に回せ』

「え? これを?」


 補助器には親指の第一関節くらいの六角形の白い魔石。

 これを右に回す?

 えい、くるっとな。


「!」

『わあ! ハーディバルのまりょく〜』


 白い魔石が虹色に変わる。

 すると大人しかったティルが大喜びで羽ばたいて来た。

 なに? 補助器から虹色の光のつぶつぶが溢れて……!

 これ、まさか魔力?


『リミットを外した状態です。それで僕の集めた魔力が使い放題になるです。その状態でティルと仮契約すれば、ティルは王の力を使えるようになるです』

「? え? なに? どういう事?」

『そっかー、それならここからでてパパをさがしにいけるね〜! ミスズ、かりけいやくしよう!』

「王の力? ……そのドラゴン、本当に何者なんですか?」

「ちょっ、待って待って、私置いてけぼりになってるから!」


 もう少し詳しい説明プリーズ!


『言葉通りです。ティルの持つ王の力を引き出せるようになるという事。本来なら、正式な契約者であるハクラしか、ティルの力を正しく引き出す事は出来ない。魔力の相性もあるし……。……けど、お前を媒介にして僕の魔力をティルに与えるです。そうすればそこから逃げ出せるくらいの戦力は確保出来る、という事です』

「……ちょ、ティルって何者なんですかっ! やっぱりただの赤ちゃんドラゴンじゃないですよねぇ!?」

『お前の質問には答える義理ないです』

「ううううー」


 ……相変わらずナージャには粗塩対応。


「ティルは何者なんですか?」

『ぼくはティルだよ〜』

「………………」


 諦めてナージャがティルに詰め寄る。

 が、ティルは呑気な声色で当たり前の事を答えた。

 それに謎のショックを受けた顔のナージャ。

 えええ……? 今ショック受けるところあった?


『ティル、仮契約の事、構わないです?』

『うん、ハーディバルのまりょく、たくさんたべていいんでしょう?』

『いいですよ』

『うわぁい!』


 たべ、食べ……?

 いや、それより今の補助器がハーディバルの魔力を使い放題なら……。


「私が魔法を使えるとかではないのね?」

『マーファリー・プーラ、言ってやれです』

「はい。お嬢様……知識もなしに魔法は使えません。それは事故のもとです」

「……ですよね」


 そんな師弟でサウンド否定しなくても良くない……?


「でも、どうするの? その、仮契約って」

『ミスズ、“て”をだして』


 ティルに言われて右手を差し出す。

 すると手のひらにティルがキスをした。

 え、と戸惑っているとその場所から手の甲へ光の輪っかが浮かび、それは私の手をすり抜けて光の紋章を現す。

 あ、これ……王都のゲートにある門の紋章……。

 光の魔力を現す紋章って習った!

 その紋章は私の右手の甲へと戻って定着する。


『かりけいやくかんりょう〜』

「え、これで終わり?」


 なんか呪文的なものを言うと思ったけど違うんだ。


「コソコソと一体何をやっている?」

「!」


 なんにしてもこれで脱出出来る!

 気合を入れ直そうとした私たちに、低い男の声が投げかけらた。

 ナージャの肩があからさまに跳ね上がり、マーファリーが私の前に立つ。

 鉄格子の外にはお供の竜人兵を連れた黒髪の竜人……ターバスト!


「兄さん……」

「ふぅん、報告では幼竜が共にいると聞いていたが……なるほど、美しい。まさに完璧な生き物の姿……! 来い、俺が乗り物として飼ってやろう」

『……あのひとなにをいってるの?』

「え」


 何を偉そうに……とムッとした私とは違い、イノセントな瞳がイノセントに疑問をぶつける。

 お、おおおぉ、こ、これは痛い!

 ガチな純粋疑問をぶつけられると偉そうにしていた人はとても痛々しい人になってしまうのね!

 唐突に哀れな人と化したわね、ターバスト!


「……言葉を……!?」

『パパにあいにいこー! ファイヤーブレス!!』

「っ!」


 マーファリーを通り過ぎ、ターバストたちの姿などあってないものの如し。

 頭の中は大好きなパパの事だけなのね……。

 ティルの吐き出した猛火で鉄格子は一撃で溶けて消えた。

 は、はわわわわわ……!


「な、なんだ! この火力は!」

「幼竜の吐き出す炎じゃないぞ!!」


 ですよね!

 ……こ、これがハーディバルの魔力?

 これがティルの……王の力?

 よく分かんないけど飛躍的パワーアップ過ぎない!?

 竜人兵もおののくこの火力!


「……純金の瞳……五本の指爪、白銀の鱗に、四つ又の角……いや、まさか、そんなはずは……」

「何をぶつくさ言っている!」

「タ、ターバスト様……しかし、まさか……あの幼竜は…………ぎ、銀翼の……!」

「!? 馬鹿を言え! 伝説の白き竜がこんな場所にいる訳があるまい! ……! あの腕輪が幼竜に魔力を与えているのだ!」

「げっ!」


 秒でバレた!

 これだけきらきら魔力が溢れてたらそりゃバレても仕方ないかもだけど……。


「……………………」


 こ、こう言う場合ゲームでは誰かが囮になってヒロインを逃すのよね!

 となると、この役目は……。


「マーファリー、ナージャを連れてハクラたちと合流するのよ! 私があいつらの注意を引きつけるからその隙に逃げて!」

「!? 出来ません、ミスズお嬢様! お嬢様を置いていくなんて……」

「大丈夫、私にはホラ、ティルが居るし! マーファリーが逃げてハクラたちを連れて助けに来て。信じてるからね!」

「っ」


 ヤベェ、ヒロインをカッコよく送り出す私、役得じゃない? カッコよくない? 決まったわよね?

 これでマーファリーとハクラの絆が深まってフラグが立ったりして?

 その場面を覗き見出来ないのが唯一悔やまれるところだわ!


「必ずハクラを呼んできます!」

「うん、頼んだわよ!」


 マーファリーは魔法が使える。

 魔法の封じられているナージャを守るのはマーファリーに任せよう。

 それに、なんかティルが竜人兵にめちゃくちゃビビられてるからなんとかなる、と、いいな!

 大剣を構えたターバストが私をジロリと睨む。

 怖い顔…………でも、迷っている時間はないわ。


「ティル! マーファリーたちを逃すわよ!」

『うん、わかった! ファイヤーブレスー!』


 わー!

 凄まじい猛火にターバストと竜人兵たちが慌てて更に後ろへと下がっていく。

 その隙にマーファリーとナージャが壁に伝うように走り出した。

 二人の竜人兵がターバストに「追え!」と叫ばれてマーファリーたちを追いかけるが、マーファリーは素早く何かを唱えて魔法陣を作る。

 すると追おうとした竜人兵の足元が凍り付いて……見事なすってんころりん!

 なにあれ! ギャグ!?

 しかも滑りまくって立てなくなってるし!


「馬鹿者! 翼を使え!」


 ターバストのごもっともなご指示で翼をはためかせて飛び立つ竜人兵。

 その翼をティルが火球を飛ばして狙い撃った。

 え、すごいこの子、こんな事も出来るの!?


『おんなのひとをねらうの、かっこわるいってパパたちがいってた』

「そーよ! そーよ! 男の風上にも風下にも置けないわよ!」

「おのれ……!」



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