第8話!
「わたくしたちも頂いてよろしいんですの?」
「まあ、作ったからには食べていただきたいですね」
「では頂きましょう。カノト様は甘いものは大丈夫ですか?」
「はい、大好きです」
なにあれ可愛すぎかよ。
ユフィとカノトさん、すでに付き合ってるんじゃないの!?
取り分けられたケーキを、それでは、とみんなで口に運ぶ。
夕飯の後なのに、やっぱり甘いものは別腹かしら?
…………う、うん……。
「…………うーん……美味し〜〜っい!」
「美味しいですわ〜っ! ハーディバル様はお料理がお上手ですのね〜っ!」
「ええ、本当に……! 王都のお菓子屋さんで売っているものと変わりませんわ」
「本当だ、すごく美味しい。……でも、なんだろうこれ、初めて食べた味……。果物かな?」
「タールというアバロン大陸の果物です」
「あ、それで……。……とても美味しいです。こんなに甘い果物も、珍しいですし……良いものをいただきました、ありがとうございます」
「いえ」
悔しいけど、確かにめちゃくちゃ美味しい〜〜!
温め直されてるから桃の良い香りがするし……あ、タールか……まあどっちでも良いけど……果実の食感も楽しめて甘くて美味しい〜っ!
生地もサクサク……果物の甘さの引き立つ僅かなしょっぱみは絶妙!
はぁ、なんて幸せな味なの……癒される〜。
「あ、ナージャやマーファリーも食べてみたら? すごく美味しいわよ!」
「え!?」
「えー、いいんですかぁ!? ナージャ食べたいです〜」
「ちょ、ちょっと、ナージャ……わたしたちは給仕よ?」
「いいからいいから」
二人にも分けてあげると、二人とも一口食べた瞬間「ん〜〜」っと語尾にハートが付いていそうないい笑顔。
でしょでしょ、美味しいでしょ!
「これ本当にハーディバルが作ったの? お店で買って来たとかじゃなくて?」
「僕の料理スキルは王城お抱えシェフたちと同じレベル50超えですよ」
「………………ま、まじで?」
料理スキルレベルというのはゲームであるあるな料理というスキルに関するレベルの事。
この世界では割と普通に製薬スキルとか生産スキルとかお掃除スキルとか、ありとあらゆる行動や行為にレベルがある。
それが上がると、効率や効果も上がるんだって。
ちなみにマーファリーは『魔法レベル28』、『お掃除レベル32』、『料理レベル31』、『お化粧レベル42』などなど……だそうだ。
私もそういうのがあるのだろうけど、こういうスキルレベルの確認は通信端末がないと確認出来ない。
一人一台が当たり前の通信端末にはこのような機能もあるのだ。
そして当然、総合レベルもある。
その総合レベルが高ければ高いほど優秀な人って事ね。
ハーディバルの総合レベルかぁ、気になる……。
魔法のレベルはふざけた桁いってそうよね……。
「そしてこいつも料理スキルのレベルは50近いです」
「嘘!?」
と、ハーディバルが親指で指したのはハクラ!
えええ!? こ、こいつ料理出来るの!?
「ティルのお世話で料理も作ってたらいつの間にかね〜。あと、知り合いにプロレベルが沢山いるし。ヨナとかハーディバルとか、エルメールさんとかユウヤさんとか……」
「ジョナサン殿下の料理スキルのレベルが80以上だと聞いた時は少し凹んだです……」
「嘘!? 王子様なのに!?」
「ヨナはお菓子作らせたらこの国で一番上手いと思うよ。なにしろ二千年くらいお菓子作り続けてるからね」
「うっ! そ、そう言われると納得……!!」
に、二千年もお菓子作ってたのか、それは上手いわ……!
というか、あんなに美少年で性格はちょっと豪快な感じなのにお菓子作りが上手いってどんなギャップ少年よ……!
見た目がナージャくらいの美少年なのに年齢が二千歳っていうのもアレだったけど!
ずるいわ〜、この国の王子様…………色々ずっるいわ〜〜……。
「……スキルレベルと言われると、ハーディバル隊長やハクラさんの魔法レベルが気になりますね」
と、私と同じ事を考えていたらしいのはカノトさん。
パイを食べ終えて、ワインを片手に首を傾げる。
なにアレあざとかわいい。
カノトさんマジ正統派イケメン。
あとよくぞ聞いてくださいました。
「僕の魔法レベルは953です」
「俺は568〜」
「……。……? え? …………さ、三桁、いく、ものなのんですか……?」
「さあ? 僕ら最初から三桁でしたから」
「うん。初めてステータス見た時から俺も三桁だった」
「………………」
「……た、体内魔力容量が多い方って、レベルがすでに一般人と違いますわね……」
流れる一拍の沈黙。
ナージャが恐ろしい形相になってチートコンビを睨みあげている。
だがそれも無理ない。
魔法レベル、魔法騎士隊に入るのに必要と言われるレベルは50なのだという。
こいつらはそれをケロリと超えていやがる。
想像以上にふざけた桁だった……このチートコンビめ!
「でもハーディバルは普通に幻獣族とかドラゴン族レベルだよね、魔法レベル」
「……だとしても邪竜を倒すには至らないです。今日はっきりとツバキ様に言われたです」
「え? ツバキさんに? ……ハーディバルでも邪竜は倒せないって言われたの!? 嘘!?」
「本当です。……邪竜は邪神の部類に入るので、人の扱える力の類では傷一つつかないのだそうです。神に対抗出来るのは、神に牙向く事を許された幻獣族か、神竜の部類に達している『八竜帝王』、または半神半人である陛下だけ」
「……!」
え……ちょ、それって……!
「力を失っている殿下たちでは、勝てるかどうか……」
「マジか……。そうなんだ……。レベル4がアレだったからいけると思ってた……」
「まさに別次元の生き物と化すわけです。人の身で邪竜を倒す事は不可能。……まあ、陛下なら恐らく倒せるだろうと……」
「ツバキさんは戦うつもりないんだ?」
「このタイミングで邪竜が現れるのなら、是が非でもフレデリック殿下に狩らせると仰ってたです。それが長子として生まれたものの務めだとか……。幻獣族は長子として生まれたものが、弟の為に餌となるドラゴンを狩ってくるのが習わしなんだそうです」
「なんという無茶振り」
「個人的にはそもそも邪竜誕生は阻止したいです」
「まあね、そうだよね」
マジか……邪竜って神様領域の生き物なんだ……。
倒せるのは幻獣族か、『八竜帝王』か、王様……そして勝てるか微妙なのが王子様たち。
フレデリック王子やジョナサン王子は力を失って縮んでる。
それがなければ、王子様たちで勝つ事も無理ではない?
……でもハーディバルの言う通り、まず誕生させちゃダメよね!
ああ……! エルフィとユフィがものすごく不安そうな表情に!
「でもそうか……確かに伝承によれば一匹目の邪竜は幻獣が……二匹目の邪竜も幻獣の力の現れた陛下が倒したって言われてるものね……。……陛下、もう何千年も実戦出てないけど大丈夫なのかなぁ……?」
「あの夫婦喧嘩の頻度を思うに大丈夫なのでは?」
「それもそうか」
……おいおい、なんか不穏な事言ってるわよ?
「? アルバート陛下とツバキ様は喧嘩をされているのですか?」
「しょっちゅうね。陛下、人の感情に疎いところあるからすぐツバキさんを怒らせるんだ……」
「お陰で王城はよく壊れるです。行政区画と王族居住区画の間に結界があり、王城に関係者以外立ち入り禁止の最大の理由はあの人外同士の桁外れな夫婦喧嘩の被害が毎度とんでもないからです」
「そ、そうだったんですか!?」
「謁見の間なんて見晴らしいいよ〜、何十回も壊れてるからもはや天井がない」
「……………………」
……あ、あのお城の内部にはそんな惨状が……!
「まあ、邪竜を生み出さないようにするのに越した事ないです」
「だねー」
「わたくし、アルバート陛下とツバキ王妃はとってもラブラブ仲良しなのだと思っていましたわ」
「「あははは……」」
「か、顔が笑ってないわよ、あんたたち」
特にハーディバルは表情筋だけでなく目まで死んでる……!
「陛下はツバキさん大好きだよね。伝わってないけど。一ミリも」
「あれなんとかならないんでしょうか」
「四千年近く伝わってないんだし、無理じゃない?」
「どういう事よ!?」
「いや、うん、陛下はツバキさん大好きなんだけどあの人、自分の感情も表現するのど下手くそだし口を開けば上から目線だし超俺に黙ってついてこい系だから……あれだね、相性が悪い」
「……ツバキ様は誇り高い幻獣族……。それでなくとも人間嫌いな方だというのに……あんな言い方ばかりしていたら伝わらないです」
お、王様〜〜!?
「……それは、アレ? 倦怠期的な……」
「さあ? なにしろ我々が生まれる遥か昔からご夫婦ですからね……」
そ、そうよね……。
王様とお妃様ってお城が壊れるほど喧嘩するのか……怖いな。
「っていうかお城壊しちゃうんだ……」
「幻獣族と半神半人ですから」
「フレディやハーディバルより強い人たちが喧嘩したらそりゃ壊れるでしょ」
「……それは壊れるわね」
お、恐ろしい……!
フレデリック王子やハーディバルより強いの!?
ひ、ひいぃ……あ、あれより?
『パパ〜、ぼくもハーディバルのつくったパイがたべたいよ〜』
「ああ、ごめんごめん。はい、あーん」
『あーん』
ぱくり。
ポシェットから首を伸ばした真っ白なドラゴンが、ハクラのフォークからパイをひと齧り。
咀嚼しては『おいし〜い』と無邪気に喜ぶ。
……こうして見るとドラゴンって結構感情豊かなのね。
「どうです、ティル。美味しいでしょう?」
『うん、とってもおいし〜! ハーディバル、パパとけっこんして〜』
「しねーよ」
素に戻ってる、素に戻ってる!
「ちぇー、別にいいじゃん。フェルベール家はもうミュエさんが結婚して子どももいるんだから」
「それとこれとは話が別です」
「ねぇ、あんた本当に恋愛感情なしでそれ言ってる?」
「恋愛感情とかよく分かんないけどハーディバルの事は好きだからいいかなって」
「良くないわよ」
「良くないに決まってるだろ」
もしかしたら初めてかも。
心の底からハーディバルと意見が一致した瞬間。
こいつ……ハクラ……なんて無茶苦茶なの……。
「大体お前に限らずアバロン大陸からの亡命者たちは恋愛ごとに疎いというか……いまいちアバロンにいた頃の感覚が抜けないというか、どことなくおかしいです。こちらは一応恋愛感情が第一に最優先されるです、法律的にも。確かに自由恋愛自由結婚なので複数人との重婚や同性婚も無理ではないですがそれにしたってまず恋愛というものを分かっていないんなら結婚なんて軽々しく口にすべきではな……」
「……あー、そうだ、せっかくだからダンス踊ろう。ほら行こうミスズ」
「は!? ちょ、ちょっとー!?」
あからさまにハーディバルのお説教から逃れるべく、一番近くにいた私の手を掴んでホールの中心に歩いていくハクラ。
いやいや、今、魔法騎士隊長様はたいそう素晴らしい事をあんたに教えてくださっていたと思うわよ!?
ちゃんと聞いておきなさいよ、ためになるから!








