第3話!
「……何か裏があるのでは……」
「ハ、ハーディバル……人の求婚に裏を感じるのはどうかと思うよ……」
「お前はターバスト・クレパスに会った事がないから……」
「……そんな人なの?」
「少なくとも僕は嫌いです」
すっぱーん。
綺麗に真っ二つ。
今日も毒舌絶好調ね、ドS騎士……。
「どんな人なの?」
そういえばユスフィーナさんに求婚してる人、私は竜人族の王子様、としか情報として知らないのよね。
ハーディバルは会った事があるのか。
ここはちょっくら情報収集しておくべきかも。
ユスフィーナさんの恋を実らせるのに、ライバルキャラの情報がほとんどないのは不安だわ。
「わたくしも知りたいですわ。お会いした事がございませんの。お姉様は確か領主会議の際にお会いしたのですわよね?」
「え、ええ……。と、いうより今はその話はしなくてよろしいのではなくて? ユティアータの今後について話を戻しましょう」
「ダメよ! ユスフィーナさんの結婚はユティアータの今後に直結するじゃない!」
「そうですわ」
「う……」
私とエルフィ二人掛かりなので圧勝。
まあ、実際ユスフィーナさんの旦那さんはユティアータの領主の旦那さんって事になるんだもの。
ユティアータにとっても重大よ!
「僕の個人的主観からの感想ですよ?」
「いいわよ」
ハーディバル、口は悪いけど人を見る目はあると思うもの。
「外面のいいゲス」
「……あくまでハーディバル個人の感想です」
ハクラが優しく付け加える。
……そ、そうね……。
なんというか、簡潔な感想ね……えげつないほど。
「そ、そうですか? 私は紳士的な方だと感じましたけれど……」
「ではお受けするのですか?」
「い、いいえ! 何度もお断りしているんです。……ユティアータの領主を辞めて、嫁いできてほしいと書いてありましたので……。私は……相応しくないと分かっていても…………それでもこの町を愛しています。カールネント様がお許しくださるうちは、ユティアータの領主を辞めるつもりは……」
「そうですか」
スッ、とハーディバルの瞳が鋭くなった。
なんだろう? あれはイラついてる……?
「何度もって事は、まさか今も? しつこいね」
「うっ……。……い、いえ、私のお断りの仕方が分かりづらいのかもしれませんし……」
……ハ、ハクラはハクラでなかなかストレートに言っちゃうわね……!
「ドラゴンって一途だからね。……竜人族がその性質も受け継いでるなら、諦めてもらうのは難しいかも。ちゃんと断らないと道連れに殺されるかもよ」
「えええ!?」
ここでまさかの爆弾投下。
ユスフィーナさんが珍しく大声を出すほど、ハクラの一言は威力があった。
ちょ、ぶ、物騒な!
「そ、そんな恐ろしい事に!?」
「なるかもね、って話。ドラゴン族は生涯一体としか番にならないんだ。『八竜帝王』くらいになると単体で繁殖、産卵するけど、それ以外のドラゴンはちゃんと雌雄があって、一度番うと死ぬまで連れ添う。……あ、これはあくまでドラゴン族の話ね」
「……い、いやいや……安心する要素がないってばっ」
そんな事今更付け加えられても怖いものは怖いわよ!
「騎士団にも何人か竜人の人がいるし、ターバストさん? その人の事少し聞いてみたら? ハーディバル、ケイルさん連れてきた?」
「連れてきてるです。あいつ、普通に戦っても強いですから」
「いるの!?」
来てるの!?
そ、それはチャンス!
情報収集、情報収集!
「エルフィ、これはしっかり情報収集しておかねばならないわよ!」
「はい! ミスズ様!」
「いや、お前はまず魔力補助器の練習です」
「うっ!」
……ソ、ソウデスネ……。
「あの、ご遺体をお返しに向かう際は僕も同行します」
「え?」
と、唐突にフラグ!?
カノトさんの申し出にユスフィーナさんが目を見開く。
ちょちょちょちょ! まさかのカノトさんからの恋愛フラグ!?
「ご遺体の竜人の方とは、その、面識がありましたので」
「そ、そうでしたの……。それは……」
「あ、いえ、知り合いというほどのものではなのかいのですが……。でも、もしかしたら彼と最後に会ったのが僕かもしれないと思うと……」
「……カノト様……」
……う、うん、存外重い……!
理由が重いよ……。
「カノト氏が同行してくれるのはありがたいです。騎士団だと警戒される可能性があるので」
「ハーディバルは行かないの?」
「僕は町の警護で来ているです。問題が解決するまではこの町から離れないです」
「えー、じゃあ俺もしばらくユティアータに居ようかな〜。お城、今ピリピリしてるんだもん……」
「あ! では私の屋敷にお泊りください。すぐにお部屋をご用意致しますわ」
「いえ、町の宿屋を手配していただければ……」
「俺とハーディバルは同室で」
「殺すぞ」
なーんて、とハクラが続けるより早くハーディバルが鋭く突っ込む。
目がマジだわ……。
「あの、僕も宿屋の方に……」
「えー、二人とも宿屋の部屋数が減るから長期滞在するならお屋敷の方の部屋借りたほうがいいよ。宿屋の人だけでなく泊まる人も気を使うじゃん。ユティアータって大きい町だし、魔法騎士隊隊長と『三剣聖』の二人が泊まった宿屋は箔が付いて一人勝ちになるかもしれないよ。そうなったら他の宿屋は立つ瀬ないって」
「………………分かりました」
「……そ、そうですか……」
カノトさんまで宿屋に泊まりますと言い出したところをハクラが見事に抑えてくれる。
よくやったわ! これでユスフィーナさんとカノトさんは同じ屋根の下……!
色々動きやすくなるわね!
「俺とハーディバルは同室で」
「殺すぞ」
「冗談だってば。半分」
「半分本気なの!?」
「一緒にいたいからねー」
「……だから、そういう発言が誤解を呼ぶのよ!」
「えー?」
そろそろ「わざとか!?」と疑いたくなる。
あ、いや、カノトさんのあの「え、お二人は恋人……?」とばかりの表情を見る限り新たな被害者が既に誕生しているわ!
……やっぱり攻略対象から完全に外そうかしら……こいつら……。
なんかいつそうなってもおかしくない……。
「ともかく、ご遺体の身元が分かり次第またご報告に伺います。また、今回の事件の調査が終わるまではユティアータが三度の襲撃を受ける可能性を鑑みて、僕とランスロット団長が交代で町の警護を行う事になりました。他にも衛騎士の増員、騎馬騎士隊、魔法騎士隊から五人程度が日替わりで駐在する事になりますのでご了解頂きたい」
「! は、はい、分かりましたわ! ありがとうございます」
「ハーディバル様とランスロット団長様がですか……!? そ、それは少し豪華すぎるというか……よ、よろしいのですか?」
「海竜騎士隊は基本海や湖や川が担当ですし、天空騎士隊は町中での戦闘は専門ではないので妥当ですよ」
「そ、そうなのですか……」
「俺も用事が終わるまではお邪魔するね」
「ハクラ様も……ありがとうございますわ」
これは豪華ね〜。
それに、いよいよ恋愛ゲームっぽいんじゃない!?
……でもスヴェン隊長は来ないのか……残念。
エルフィのお相手候補としては一番好感度高そうだったのに……いや、問題というか難点もあるけど……。
「ところでハクラの言う用事ってなんなの? 一ヶ月前から言ってない?」
「あ、うん。生まれるの待ってるんだよ。予定日過ぎてるんだけどねー」
「生まれ……」
予定日!?
それ、誰かの出産待ちって事!?
「それはまさかニーグヘル様の卵の!?」
と、エルフィが食いつく。
ああ、そういえばそんな話もしてたわね……。
「うん、それもだけど……実はね」
「ハクラ」
ぞわ。
優しい声色でハクラを呼んだのはハーディバル。
その上、あの表情筋死んでそうなハーディバルが、笑顔!
たらーり、と汗を流すハクラ。
「……殺すぞ」
「ごめんなさい」
謝るの早!
「どうせ発表されるんだからいいじゃん……」
「あぁん? もっぺん説明させるつもりです?」
「はいはーい、分かりましたー」
何かまだ内緒な話なのね……。
「……では、僕は他の騎士たちと合流して今後の事など話し合いがあるので失礼します」
「はい。本日よりよろしくお願いいたしますわ」
頭を下げたハーディバル。
それを見送り、ハクラはテーブルの書類を持ち上げた。
あ、そうか、ハクラはユスフィーナさんの仕事の手伝いしてたんだもんね。
……カノトさんは……少し戸惑ってから「あ、では僕は見回りをしてきます」と微笑んで退出していった。
うーん、マジ正統派イケメン。
「……ハッ!」
そうだ! 私は竜人族の王子様の情報集めをしよう!
ぼけっとしてる場合じゃないわ!
せっかくユスフィーナさんの攻略対象がいるんだもの、これはカノトさんの情報も集めておかないと!
いざって時にイベントが起きない!
「……じゃあ私もちょっと出掛けてくるわね」
「え? 何処か行くの?」
「えーと、ほら、竜人族の王子様の話をもっと詳しく聞きに行こうかなー、的な?」
「魔力補助器の制御が先じゃないの?」
「うっ!」
ハ、ハクラのくせになんて正論……。
「そ、そんな事言われても……一人でどうこう出来るものなの?」
「んー。……じゃあ俺が付き合ってあげるよ。ユスフィーナさん、少し抜けるね」
「はい、ミスズ様をよろしくお願いいたしますわ」
***
と、いう事で。
ハクラに魔力補助器の使い方を教わるべく、一路ユスフィアーデ邸に向かう事にした私。
領主庁舎を出ると、いつもより空が真っ白。
ハクラの『聖結界魔法』……これのおかげでレベルの低い魔獣はユティアータの町に入って来れないし、この結界の中は魔獣を生む邪気はたちどころに浄化される。
実に便利。
ただ、せっかくの晴天が白い光で染められて少し見づらい。
魔獣が生まれるよりは遥かにマシだけどね。
「ハーディバルに貰ったアクセサリー、ちゃんと身につけておきなよ」
「うん」
せっかく可愛いネックレスと腕輪をもらった事だしね。
早速身につけてみると、なんだか少し気分が浮ついた。
照れ臭いけど、喪女でしかなかった私がこんな高そうで可愛いアクセサリーを身につけられる日がくるなんてなぁ……。
「ジョナサン王子って結構女心が分かりそうな感じね」
「ヨナとフレディはフェミニストだからね」
「そうなんだ……この国の男の人ってレディーファースト?」
「アバロンに比べれば圧倒的にそうだと思うよ。こっちは教育がしっかりしてるから」
「……そ、そうなんだ……」
マーファリーも言ってたけど、アバロンって相当遅れてる国なのね……。
ハクラはアバロンとこの国を行き来してる冒険者。
二つの国の違いにも詳しいっぽい。
……いや、今はそれよりも竜人族の王子様……確か、ターバストさん、って人についてね。
「ハクラはターバストさんについて知ってる事ないの?」
「さあ? 騎士団に居る竜人の人たちとは話した事あるけど、みんなあんまりフェレデニク地方の領主の話はしないからな〜」
「……そう……。じゃあやっぱり騎士団の竜人族の人に聞いてみるしかないのね……」
「その前に魔力補助器の使い方……、………………」
「? どうしたの? ハクラ」
道のど真ん中で突然立ち止まるハクラ。
振り返ると、やけに真剣な顔で明後日の方向を睨んでいる。
どうしたどうした?
「……邪悪な魔力……」
「え……!?」
「……微量だけど、感じる……。……ちょっと確認しに行っていい?」
「……え、ええ、もちろん」
『聖結界魔法』の中で、魔獣が魔力を使った痕跡……『邪悪な魔力』があるなんて……。
信じ難くてハクラについて行くと、中央区の小さな雑貨屋さんや飲食店が数件建ち並ぶところに辿り着く。
中央区は市民の居住区が密集しているから、こういうお店はいわゆる個人営業のこじんまりしたものだ。
なんつーの? 私の世界で言うところの居酒屋とかスナック的な場所ね。
そこには先程別れたばかりのハーディバル。
と、カバンを抱き抱えて俯くナージャの姿。
え? ナージャ?
「ハーディバル」
「……、……ああ、やはり感じたですか」
「うん。……大丈夫?」
「問題ないです。……まあ、いつもの残滓のようなものです」
「そうか……。手がかりもなし?」
「ですね……」
なんかまーたハーディバルにとっ捕まって、毒の応酬でも受けていたくさいナージャは明らかに落ち込んでいる。
……もー、毒舌ドS騎士め、手加減しなかったのね?
そりゃナージャは生意気小娘だけど、あんたの毒舌は子どもにはきついのよ!
「ナージャ、大丈夫? まーたこのドS騎士に虐められたんでしょ?」
「……え…………い、いや……別に、です……」
「…………………………。……僕は衛騎士隊の騎士塔に行くですが、お前らどうしたです」
「ミスズに魔力補助器の使い方教えようと思って」
「お前使った事ないだろう」
「うんまあ、そうだね」
「おおい!?」
それなのに教えようとしてたの!?
出来るの!?
私の疑問はハクラの「あはは」という誤魔化し笑いによって大体の答えを得た。
このやろう……。
「なら、騎士塔に付いてくるです? あそこなら訓練所も入っているから暴発してもどうにかしてやるです」
「ちょ……っ、コレ暴発するような道具なの!?」
「お前がさせなければしないです」
「うっ」
そ、そりゃそうなんだろうけど……その可能性があると言われると不安しか感じない!
「……そういえばナージャはこんなところでどうしたのよ? なんか邪悪な魔力があったらしいけど」
「……ワ、ワタ………………ナージャは……」
「確か近道していたんでしたっけ?」
「……! ……そ、そうなんですぅ……ここを突っ切ってくると最短距離なんですよぅ」
「だからってこんな狭くて暗い道よく通って来たわね。挟まったらどーするのよ」
「は、挟まりませんようっ!」
「そんなの今の内だけよ」
「……そりゃあ、ナージャはお前と違ってグラマラス美女に成長する予定ですからぁ? あっちこっちつっかえちゃうかもですけど〜」
「何ですってぇ!? どういう意味よ!」
このクソガキ!
相変わらず口の減らない奴ねー!
それって遠回しに私が貧乳って言ってるようなもんじゃない!
「……それより、僕らは騎士塔に行きますがお前はどうするんです? 付いてくるなら多少魔法について面倒見てやってもいいです」
「え!」
「……へぇ、いいじゃない、そうしましょうよ! あんた魔法使いになりたいんでしょう? ドS騎士の部下の魔法騎士もたくさん来てるみたいだから、勉強になるんじゃない?」
「…………そ、そうです、ね……」
「……ミスズって落差激しいって言われない?」
「は? 急になによ?」
ハクラが言うに、今の今までナージャに怒ってたのに、ハーディバルがナージャを騎士塔に誘うとナージャに優しくなって怖かった、らしい。
失礼しちゃうわね、私は基本自分の感情に素直なだけよ!
それにナージャが魔法に詳しくなれば私が帰る方法も早く見つかるかもしれないじゃない!
あ、それよ! ナージャが魔法に詳しくなれば私が帰る方法が早く分かるかもしれないからよ!
うん! それに決めた!
……? 決めたって何が?








