第2話!
「エルフィとユスフィーナさんはどれにする?」
「エルフィ、貴女から選びなさい」
「え? あ、ではわたくしはリリフの花のものを頂きますわ。……ですが、本当にこんな良いものをいただいてよろしいのですか?」
「護衛は付けますが、ずっとというわけにはいきません。あくまでも備えとしてお持ちくださいです」
「ありがとうございます。ハーディバル様には以前もネックレスを頂いていますのに……。今度お礼をさせてくださいませ」
「……いえ……前回のネックレスはどうか捨ててください。マジで。姉に殺される……」
「そ、そんな! 嫌です!」
「嫌です!?」
嫌なの!?
私もビックリなんだけど!?
「あのネックレスはわたくしやミスズ様の事も守ってくださいましたもの。それに、とっても気に入っておりますの」
「マジで!? あ、いや、別に無理しなくても……! 僕から見てもかなりダサかったと思うんですけどっ」
おおい。
そんなもん女の子の誕生日にプレゼントするな!
「え? そうですか? とても可愛かったですわ」
「え……そ、そうですか……? ………………そうですか?」
「はい」
……エルフィは真顔だった。
ユスフィーナさんが頰に手を当てて少し心配そうな顔をする。
……なんだろう。エルフィ……。……ドラゴンを可愛いと言ったり……まさか、まさかエルフィって……。
「あれはむしろハイセンスですわ!」
「…………………………」
真顔のエルフィに場の空気は非常に複雑なものと化した。
「こほん。……ミスズ様はどちらになさいますか?」
「私はあとで構わないわよ! ついでだし!」
「いえ、私も……!」
場の空気を変えるべく、ユスフィーナさんが私に話を振ってきた。
優しいなぁ、ユスフィーナさん。
でも、私よりもユスフィーナさんとエルフィでしょ。
私が貰うのも本当なら変な話だし。
「ではお姉様はデュアナの花がいいのでは? 花言葉は『純愛』ですわ」
「わあ、ユスフィーナさんっぽい」
「お、おやめくださいっ!」
エルフィがそんな事を言い出す。
私とエルフィがにっこり悪い顔で笑いながらカノトさんを見る。
「?」
当然不思議そうな顔をされたが、まあ、うふふ……そのうち分からせて差し上げるわ……! ふふふふふふ!
ふふふ、照れてあたふたするユスフィーナさん可愛い。
「えーと、それじゃあ私はこれを貰うわね。エルフィ、これはなんの花なの? 可愛いわね」
「ソランの花ですわ。花言葉は『絆』ですわね」
「へぇ」
「へぇ〜」
なぜかハクラも納得する。
竜胆の花に似てるわね。
まあ、異世界の花だし竜胆なわけないけど。
「それと、お前にはもう一つ」
「へ?」
「兄様に預かってきたです。魔力補助器」
「ああ!」
忘れてた!
ハーディバルに差し出されたのは白い小さな六角形の魔石がついた銀の腕輪。
おお、これも可愛い。
確かパーティが終わるまでには準備するって言われてたのに、レベル4の事で帰って来ちゃったのよね。
そうか、ちゃんと用意してくれたのか。
さすが、王子様の執事!
…………。そうか、ハーディバルの兄貴か、あの人が……。城で最も怒らせてはいけないという……。
なんか今更自覚したら怖くなってきたわ。
あんな人の前でうっかり王子様をハゲ呼ばわりしてしまったのね、私……。
お、恐ろしい事をしてしまったものね……。
「ありがとう……。…………や、優しくて、仕事の出来るお兄様ね……」
「なんで今更兄様の事担ぐんです。遅いです、何もかもが」
「や、やっぱり!?」
「え? ミスズ、エルメールさんの事怒らせたの!?」
「よりにもよって兄様の前でジョナサン殿下に『毛がない』とか言い放ちやがったです」
「け……? 毛がな、……え? なんで……?」
純粋なハクラの疑問。
まあ、そうよね。
でも違うの! 誤解なのよ!
慌てて私が王子様を獣人と誤解していた事を説明する。
いや、これはもうそもそもフリッツが悪いのよ、フリッツが!
「つまりそう! フリッツがあの時否定してくれなかったから!」
「フリッツってフレディの事でしょ? 内緒にしてた時期に自分の事をとやかく言わないでしょ」
「〜〜〜〜!?!?!?」
そ、そうだったぁぁぁぁ!
フリッツ=フレデリック王子だったああああ!
「じゃあ私、二人の王子様両方に毛深いだのハゲだの言っちゃったって事じゃなーい!」
「……なんと罪深い……」
「あははははははははははは!!!!」
「お腹抱えて笑うなぁ!」
頭を抱えるハーディバルと、お腹を抱えるハクラ。
ハクラに至っては涙まで出して笑ってやがる。
く、くぅ……自ら恋愛フラグへし折った気分!!
「ともかく、補助器の使い方はあとで教えてやるです」
「……うん……ありがと……よろしく……」
……うう、しょぼーん。
王子様なんて憧れの存在に毛深いだのハゲだの面と向かって言い放ってしまったなんて……。
この世界に来て一番の失態だわ……。
「そういえばハーディバル、ミスズはなんで生命力魔力変換魔法が上手い事発動してないの?」
あ、そういえば。
今朝ハクラとそんな話してたんだ。
「……そもそもあのバカガキが使った魔法が召喚魔法じゃないからです。なんらかの理由から召喚魔法に中途半端に変化して、その影響が多少なりと現れたのでしょう。生命力魔力変換魔法は通訳魔法同様、召喚魔法に付属する魔法です。基になった魔法を分析しないと詳しく言えないですが、こいつが魔力を使う時、たまーに生命力魔力変換魔法が機能する時がある、と思われるです」
「ランダムなの!?」
「それは調べてみないと分からないですが……それ、調べてお前に何か得あるです?」
…………………………。
ないな。
寿命が減るだけだもの。
「うん、いいや」
「でしょう」
「まあ、それもそっか」
ゆるい感じで完結した。
「で、今後についてですが」
「は、はい!」
「カールネント様はユティアータの事はユスフィーナ様にお任せになるそうなので、今後とも領主としての責務を果たしていただきたい」
「……っ、……は、はい! 精一杯努めさせていただきますわ!」
「それと、昨夜のレベル4の者……一名だけですがご遺体が出ました」
「……はい、お伺いしております……」
ズッドーン、とテンションが下がるユスフィーナさん。
無理もない。
魔獣になってしまった人間は、レベルが3以上になると邪気とレベルが上がる際に食べた生き物や他の魔獣の素体と溶け合いお亡くなりになる。
その死に方はあまりにも悲惨……。
そうならない為に、魔獣はレベルが低いうちに倒すのがセオリーなのよね……。
魔獣をレベルが低いうちに倒さなきゃいけない理由……邪竜を生むよりも、魔獣化した人を助ける為って意味が大きかったという事なのよ……。
「ご遺体の身元は調査中ですが、竜人族の方でした。フェレデニク地方に問い合わせ中ですので、すぐに身元は判明するかとは思いますが……」
「竜人族の方が……? ……では、ユティアータの民ではなかったのですね……。……あ、いえ、それでは身元が分かり次第、ご遺体をお返しにお伺いしなければいけませんわね」
「本来なら向こうが引き取りに来て、ユティアータに謝罪すべきでしょうが……フェレデニク地方は文化が独特ですからね……。あちらからは出て来づらいでしょう」
「はい。こちらからお伺いしますわ」
……よく分からないわ。
ハーディバルの言う通り、別な地方の人が魔獣化してユティアータに迷惑かけたんなら向こうから謝罪に来るべき、だと私も思うけど。
「竜人族ってドラゴンと人のハーフの人たちよね? 同じ国でもそこまで文化が違うものなの?」
「竜人族は人間よりも長寿であり、容姿もドラゴンに近い方が多い。人数もそれほど多くなく、考え方だけでなく好む環境も山岳地帯と人が住むには過酷な場所です。自然に文化がかなり独特なものへと発展していったのでしょう。同じ国内ではありますが、自分たち以外の民族を人の子と呼び少々見下している節があるです」
「……む、むう……」
そりゃドラゴンとのハーフだもんね……。
寿命も長いし、容姿も違うし、能力も力も随分違うんだろうけど……。
「独自の文化の自治区って事?」
「そうですね。まあ、そう言う場所は意外と多いです。一応別な民族が暮らす地もあるですから。ただ、竜人族は特に我々との差を主張し、領地への立ち入りを騎士団相手にですら許可制にしているです。……気位が高くて、差別意識が強い者は我々を劣等種族と蔑む者もいるですが……」
「あれ、でも騎士団にも竜人族は何人か居るよね?」
「ええ、竜人族にもドラゴンの誇り高さを引き継いでいる者が少なくないですから。……ただ、そういう差別意識がある者もいるという話です」
「ああ、そうか。びっくりした」
「そしてフェレデニク地方の中にいる者は、その傾向がやや強いです」
「……それで向こうからは出向かないだろうって事ね……」
「です」
なにそれ、ちょっと筋が通らないんじゃないの?
文句言っても仕方ないけどさー、釈然としなーい。
人間と竜人がどんだけ違うか知らないけど、迷惑かけたら謝りなさいよー。
そっちの領地でちゃんと浄化しないからユティアータが多大な迷惑被る羽目になったのよー。
これは一言文句言ってやらにゃーダメなんじゃないの!?
「……お姉様、それではこちらからフェレデニク地方へお伺いするという事ですわよね?」
「ええ、ご遺体をお返ししないと。……ご家族の方もきっと悲しまれるとは思いますが……」
「いえ、そうではなく……い、いえ、それもそうなのですが、そちらではなくて」
「?」
「よ、宜しいんですか? ……フェレデニク地方には、ターバスト様が……」
「…………」
ハテナマークの飛び交う私たち。
二人だけで会話する姉妹。
ユスフィーナさんの顔がじんわりと「やばい」と言わんばかりになっていく。
「………………そ、そうですけど、だとしても、ええと……クレパス様の領地とは限りませんわ……」
「そ、そうですわよね……」
「? ターバスト氏と何か?」
「な、なんでもございませ……!」
「実は、お姉様は今、ターバスト様から……」
「エルフィ!」
首を傾げたハーディバルに説明しようとしたエルフィをユスフィーナさんが大慌てで制する。
ターバスト様?
なんか聞いた事が………………あ!
「ユスフィーナさんに求婚してる人だ!」
「ミスズ様ー!」
思い出した! いやー、すっきり!
……と手を叩いた私をユスフィーナさんが責めるような声で呼ぶもんだから「あはは」と誤魔化す。
カノトさんの前でぶっちゃけちゃった。
まあ、いいか。
これもフラグよ!
「……え? 求婚? ターバスト氏が? ユスフィーナ様に?」
「へー、そうだったんだー。じゃあ付き合ってんの?」
「い、いえ!」
いっそ怪訝そうなハーディバルと、なんて事ない感じに聞いてくるハクラ。
肝心のカノトさんは意外そうな顔。
首を傾げて「へえ」とでも言っているような顔だ。
うーん、好感度はまだまだみたいね……もちろん恋愛的な好感度!
せっかくユスフィーナさんの初恋の人、カノトさんがいるんだもの!
ここは乙女ゲームプレイヤーとして、必ずユスフィーナさんの初恋を成就させるわよ!
むっふふふふふ! 燃えてきたー!
いつもの調子が戻ってきた感じ!








