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三角関係勃発! 三角お山の上のトライアングラー‼︎

〜登場人物〜



★水守みすず

現代日本人。

ストレス多めなスーパー裏方のパート従業員。

生き甲斐は乙女ゲームなどのゲームと少女漫画。

人生捨ててる今時のオタク。

ある日突然事故により『リーネ・エルドラド』に召喚されてしまう。

年齢24歳。

容姿、黒髪ボサボサを百均ゴムで一纏め。黒目。眼鏡。上下ジャージ。スニーカー。→胡桃色の髪と茶色の瞳。


★エルファリーフ・ユスフィアーデ

トルンネケ地方ユティアータ街の領主の妹。

純粋で優しいお嬢様で、みすずに『乙女ゲームヒロイン』認定される。

年齢19歳。

容姿、薄いオレンジの髪。碧眼。とても可愛い。

得意属性『風属性』


★ナージャ・タルルス

異世界『リーネ・エルドラド』へみすずを誤って召喚してしまった魔法使い(見習い)。

ユスフィアーデ家のメイド見習いとして働きながら王都の学校に通っている。

舌ったらずで話す、かなり“いい”性格の少女。

年齢13歳。

容姿、茶髪ツインテール。金眼。

得意属性『火属性』


★マーファリー・プーラ

ユスフィアーデ家で働くメイド。

過酷な境遇の経験と、それでも健気に働く前向きな性格からみすずに『乙女ゲームヒロイン』認定される。

年齢21歳。

容姿、灰色の髪、紫の瞳。美人。

得意属性『氷属性』


★ユスフィーナ・ユスフィアーデ

トルンネケ地方、大都市ユティアータを納める領主。

多忙ながらも妹やみすずへ気配りを忘れない、心優しい女性。

その分苦労も多く、アンニュイな表情が多い。

みすずに『乙女ゲームヒロイン』認定される。

年齢24歳。

容姿、薄いオレンジの髪、碧眼。美人。

得意属性『水属性』


☆ハクラ・シンバルバ

冒険者の少年。

『魔銃竜騎士』という世界で一人だけの称号を持ち、亡命者たちからは『アバロンの英雄』と讃えられている。

ホワイトドラゴンのティルを肩に乗せて連れ歩いていることが多い。

性格はかなりのトリ頭タイプ。そのくせ余計な事は覚えている。

年齢18歳。

容姿、黒と白の混色の長髪(大体三つ編み)、金眼。儚い系詐欺。

得意属性『風属性』『光属性』※その他全属性使用可能。


☆ハーディバル・フェルベール

アルバニス王国王国騎士団魔法騎士隊隊長。

王国始まって以来の魔法の天才と謳われている人外レベルの魔法使い。

性格は毒舌、ドS。ハクラに言わせるとツンデレ。

年齢18歳。

容姿、薄紫の髪、銀眼。表情筋が機能していないことの多い美少年。

得意属性『土属性』『闇属性』※その他全属性使用可能。


☆フレデリック・アルバニス(フリッツ・ニーバス)

アルバニス王国第一王子。

普段は国民に愛され、尊敬される王子然とした人物。普段は。

実際はナチュラルに鬼畜で腹黒く、子供っぽい。弟、ジョナサンへの溺愛ぶりはちょっと危ないレベル。

年齢不明(およそ二千歳)

容姿は黒髪黒眼の美少年。

得意属性は『氷属性』と『闇属性』と『火属性』※その他全属性使用可能。


☆ジョナサン・アルバニス

アルバニス王国第二王子。大雑把なようで意外と繊細な性格。口調は乱雑だが王族の中では最も常識人。

年齢不明(およそ二千歳)

容姿は黒髪黒眼の美少年。

得意属性は『土属性』と『闇属性』と『火属性』※その他全属性使用可能。


☆ランスロット・エーデファー

騎士団の団長と騎馬騎士隊隊長を務める大柄な男性。

おおらかな性格。声量が大きく、よく怒られているが実力は人外レベル。

年齢33歳。

容姿は黄土色の髪と瞳。


☆スヴェン・ヴォルガン

騎士団、天空騎士隊隊長を務める好青年。

魅了の体質も持ち合わせる。ドラゴンへの愛が異常。

年齢25歳。

容姿は白金の髪と緑の瞳。


★レナ・ハルトン

ユスフィアーデ家、鬼のメイド長。きつめの美人で、みすずに『大人向け恋愛漫画ヒロイン』認定される。


☆アルフ・メイロン

王国騎士団騎馬騎士隊の副隊長を務めるランスロット直属の部下。ユルイ感じのおっさん。やる気ないというより過労気味。


☆カノト・カヴァーディル

とある地方のとある地方都市領主の分家の子息。

継母に家から追い出され、傭兵をしながら旅を続けている。

神速剣の使い手でアルバニス王国『三剣聖』の一人に数えられる実力者。

年齢24歳。

容姿は葡萄色の髪と瞳。

得意属性は『風属性』


☆ターバスト・クレパス

フェレデニク地方の領主の息子。

ドラゴンと人間のハーフである竜人族の王子的な人物。

自尊心が高く、ユスフィーナを妻にと強く望んでおり求婚中。…が、そろそろストーカーチック。

年齢157歳。

容姿は黒髪長髪、金眼。左右の顔半分に鱗。黒い翼を持つ。

得意属性は『闇属性』と『火属性』




「げっ」

「第一声がそれとは上等です」


そうは言うけど、ハイネル付きで現れたハーディバルに対して私がこの反応をするなんて、こいつには簡単に予期できたはずである。

領主庁舎で訪れた人への案内手伝いをしていた私は盛大に顔を歪めて「何の用?」と聞いてやった。

まあ、要件なんて分かってるんだけど。


「お前こそ何やってるんです?」

「見てわかりなさいよ。庁舎のお手伝いよ」

「はぁ。なんでそんな訳のわからないことを」

「だって屋敷でじっとしてられなかったんだもん」


昨日の夜、この街『ユティアータ』に魔獣が現れた。

ただの魔獣ではない。

レベル4というゴジーラ並みの巨大怪獣だ。

魔獣は元々が人間や人間の負の感情や悪い感情に影響された動植物や鉱物などから生まれる。

レベル1やいっても2くらいで騎士や勇士、傭兵に浄化されてしまう。

だからレベル3は何十年、ましてレベル4なんて四千年ぶりなくらい珍しい。

それもそのはず、魔獣は最終的に『邪竜』と呼ばれるとんでも怪獣になるのだという。

黒い鱗に覆われ、臭気と瘴気を撒き散らし、大地も生き物も腐らせて喰らい尽くす…恐ろしい化け物。

そんなものを生み出すわけにはいかないと、この国の騎士や勇士や傭兵がレベルの低いうちに倒し浄化しているのだ。

…本来は。

でも、昨日あり得ないことに、そのレベル4がこのユティアータを集団で襲ってきたのよ。

お陰でお見合いパーティは中止。

一ヶ月前から楽しみにしてたけど…あんな事の後じゃ中止もやむなし。

むしろ、のほほんと楽しんでいられる状況ではない。

街はてんやわんやの大混乱。

高レベル魔獣の襲撃が相次いで、街の人たちは領主のユスフィーナさんを責め始めるほど。

あんなに毎日朝早く、夜遅くまで頑張っていたユスフィーナさんがなんでこんな目に遭わなきゃいけないのよ!

…と憤慨したいところだけど…どんなにユスフィーナさんが頑張っていたとしても結果的には街の人たちの中で魔獣化したまま帰らなかった人たちは少なくなかった。

複雑よ。頑張ってるのに、結果が出ないなんて悲しすぎる。

その上、それが人の命に関わっているなんて。

ユスフィーナさんのことを思うと私だって何かしたい。

何が出来るかわからないけど、いや、まあ、だからこんな事やってるんだけどね。


「ふーん…。まあ、いいです。渡すものがあるです。お前も来やがれです」

「私に? え? どこへ行くの?」

「領主に挨拶に決まってるです」


決まってるのか。

いや、なんとなくハーディバルが来た時点でそんなこったろうとは思ったけど。


「おはようございます。…ええと、ミスズ様?」

「おあ! おはようございます」

「おはよー」


と、ハーディバルに続きぞろぞろ…というほど多くはないけどアルフ副隊長さんとカノトさんと数人の騎士が庁舎に入ってきた。

なんか徹夜しちゃったから、ついさっきまで一緒にいた気がして「おはよう」が変な感じ。


「朝ごはん用意してありますよ」

「本当〜? お腹ペッコリンコ〜」

「(ペッコリンコ…)…ありがとうございます。…あの、領主様とエルファリーフ様は…」

「領主室で仕事してます」

「そうですか。朝食はちゃんと摂られましたか?」

「うちのメイドたちは優秀なので…」


マーファリーとナージャが「民の作った野菜やお肉を無駄になさるのですか?」と無理やり食べさせたのだ。

食欲がなさそうなあの姉妹も、民の作ったものと言われれば食べないわけにはいかない。

まあ、食欲が湧かないのは無理もないんだけどね。

気持ちは分からなくもない。

私だって、今日は食欲がなくておかわりはできなかったもん。

…それにしてもカノトさん、ユスフィーナさんだけじゃなくエルフィのことも気に掛けてくれて…ハクラと違ってガチモンの儚い系な上、真面目で優しいのね…!

さすがユスフィーナさんの初恋の人!

この世界で初めて正統派イケメンを見た気がするわ…!

それに比べてアルフ副隊長は…。

なにがペッコリンコ〜…よ…年甲斐がないと言うか…。


「あ、ハーディバル隊長は朝食どうされます?」

「僕は食べてきましたのでお構いなく」

「分かりました〜。んじゃ、俺は部下たちに交代で飯食わしておくんで」

「レーク、騎馬騎士隊の食事が終わり次第引き継ぎをしておいて下さいです」

「はい」

「何人かは置いていきますよ」

「よろしくお願いするです」


サクサクと会話の進むハーディバルとアルフ副隊長。

部隊が違うのに息ぴったりね。

アルフ副隊長がハーディバルの連れてきた部下を引き連れご飯に向かう。

私はカノトさんとハーディバルを領主室に案内する。

まあ、カノトさんは場所知ってるだろうけど…。

ハーディバルも知ってるのかしら?

どちらにしても、なんか私にも用があるみたいだから領主室に同行しないと。


「ハクラは?」

「ユスフィーナさんを手伝ってるわよ?」


途中でハーディバルがそんな質問をしてきて少し驚いた。

へー…やっぱりなんだかんだ気になるのね…。

ハクラが言ってた…「魔力の相性」ってやつ…ハーディバルもハクラのことが心地いいと感じているんだ?

カノトさんが私と同じようにほんの少しだけ意外そうな顔をする。


「……領主様はニュースはご覧になっているです?」

「領主室に映像盤はないし、見てないと思うわよ? …やっぱり騒がれてるのね…」

「この街は現場なので記者の類は騎士団でご遠慮願っていますが、トルンネケ地方領主は朝の番組に出演していたです」

「え、マジ? …なんて言ってたの?」


映像盤は私の世界で言うテレビ。

この世界にもニュース番組や、情報番組がある。

三チャンネルだけだけど。

残念ながらアニメはないけどドラマや映画もあるのよ、すごくない?

あ、いや、それよりトルンネケ地方の領主様よ。

ユスフィーナさんをユティアータの領主に指名してくれた人。

カールネント様という地方領主様がユティアータの領主を別な人にする、と言えばユスフィーナさんはどんなに領主を続けたいと言っても辞めなければならない。

半ば祈るようにハーディバルに聞くと、答えは思いもよらないものだった。


「…なかなかかっこいいこと言っていたです。やはりカールネント様は人を見る目がおありです」

「え? どういうこと?」

「…ユティアータの領主をやってもいいという者は確かに何人か居た。だが、ユティアータの領主をやらせてほしいと懇願してきたのはユスフィーナ・ユスフィアーデだけだった。この言葉の違いが分かるだろうか? やってもいい、とは、随分と上から偉そうに言うものだと思ったよ。ユスフィーナ・ユスフィアーデ、彼女以外の者はユティアータの街を維持することしか考えていない。それ以上を求めていなかった。だから、ユティアータの領主は彼女以外に任せられない。…だそうです」

「………! それじゃあ…!」

「まあ、言葉通りでしょうね。…それから、カールネント様はこうも言っていたです。今回の件は非常に残念であり、身の毛もよだつほど恐ろしい出来事だった。彼女が領主として力不足なのだから辞めさせてはどうかという声もあるが、それを言うならば彼女をサポート出来なかった体制、それを整えられなかった私にこそ責任がある。このような時だからこそ、街の者や庁舎職員は一丸となり領主ユスフィーナへ協力をしてほしい。私も必要なサポートに力は惜しまない。…との事です」

「…め、めっちゃ良い人ーー!」


なにそれ、本当にかっこいい〜!

ユスフィーナさんをがっちり擁護派!

ありがとうございますカールネント様!

とか感動してる間に領主室へ辿り着いた。


「失礼します」

「ユスフィーナさん、エルフィ! ドS騎士…じゃない、ハーディバルが来てくれたわよ」


性格と口は悪いけど実力は間違いない。

こいつがいればまたレベル4が来ても安心ね!

領主室の扉を開けるとユスフィーナさん以外にエルフィとハクラが居た。

ハクラはあれでかなり政治にも明るいらしくて、フリッツ…ではなくフレデリック王子がお城に居なかった時……まあ、フリッツとしてユティアータに滞在していた時期よね……はジョナサン王子と一緒にフレデリック王子の分のお仕事も処理していたんだって。

…意外となんでも出来るのよ、ハクラって。


「まあ、ハーディバル様! 昨日はありがとうございました」

「ハーリィ〜!」

「その前に」


ハーディバルの顔を見た瞬間、ぱぁあ! っと笑顔になったハクラは両手を広げて飛びつこうとした。

即拒否られたけど。


「お渡したいものがあります」

「なんでしょうか?」


事務机に向かっていたユスフィーナさんも立ち上がって、ハーディバルの前へと移動してくる。

応接用テーブルに並べられた三つの細長い小さな箱。

そこにはそれぞれ花のあしらわれたネックレス。

小さな紫色の、八角形の魔石が中心にある。

うわー、かわいい〜っ!


「まあ…女神花ですわね…愛らしいですわ」

「ハーディバル隊長、これは?」

「攻撃無効化魔法が入っている魔石のネックレスです。一度だけですが、自動的に攻撃から所有者を守ります」

「自動的に⁉︎ そんな魔法あるの⁉︎」


ハクラが大声を出す。

私とエルフィとユスフィーナさんに差し出されたかわいいネックレス。

これにハクラが驚くような魔法が入っている。

…確かに自動で発動する魔法なんて初めて聞いたわ。

私が異世界の人間だから、って感じじゃない。

エルフィやユスフィーナさん、カノトさんもびっくりしてる。


「…今朝、城の厨房をお借りしてこれを作っていたのですが」


と、謎のバスケットが取り出される。

いやいや、どこに持ってたのよ⁉︎

結構大きいわよ、そのバスケット⁉︎


「なにそれ?」

「ドブおん、…異界の民に食わせる餌、…ではなくお菓子です」

「言い直さなくて良いわよ、もう…あんたになに言われてもこっちは響かないっつーの」

「ふん。…とにかく、朝食後、ジョナサン殿下は十時のおやつ用にお菓子を作るのが日課なんです。それに便乗して作って来たのですが」

「十時のおやつって…」

「えー! ハーディバルの手作りお菓子⁉︎ 食べたい!」

「……。…その時にたまたまツバキ様に出くわしまして」

「え?ツバキさんが厨房に⁉︎ …出歩いて大丈夫なの、っていうか珍しいね、ツバキさんが人間に話しかけるなんて⁉︎」

「お菓子を献上したら、ネックレスの魔石に自動的に発動する魔法をかけてくれたです」

「え⁉︎ ツバキさんが人助け的なことを⁉︎ やっぱりハーディバルのお菓子美味しいから!」

「…お前少し黙れですハクラ…!」


うん。本当にな。

いや、ツッコミどころがありすぎてどこから突っ込めば良いのかもう、マジで分からなかったけどさ…。


「…あ、じゃあこのネックレスのデザイン選んだのヨナでしょ? ハーディバルがこんなに可愛くてセンスあるやつ選べるわけないもんね」

「その通りですけど殺すぞ」

「ジョナサン殿下が⁉︎」

「…正確には兄とジョナサン殿下です」

「へぇ〜…でも、なんで?」


ハクラじゃないけど私たちも「なんで?」だ。

普通に可愛いし性能も間違いないから嬉しいけど…。

…でもそうか、ジョナサン王子…趣味っていうかセンスもいいのね。

………若干…、若干…十時のおやつを作るって部分が気になって仕方ないんだけど。


「レベル4を何らかの組織が生み出している可能性については聞いていますか?」

「は、はい」

「…敵の狙いがはっきりしない以上、領主とその肉親には出来るだけ備えて欲しいです。お前のはおまけです」

「…そうなんだ…。なんにしてもありがとう」


おまけでこんな高性能の可愛いネックレスがタダで貰えるなんてラッキー!

んー、でもお花の形は三種類。

おまけで貰えるんだし、お花のデザインはエルフィとユスフィーナさんが優先で選んでもらおう。


「エルフィとユスフィーナさんはどれにする?」

「エルフィ、貴女から選びなさい」

「え? あ、ではわたくしはリリフの花のものを頂きますわ。…ですが、本当にこんな良いものをいただいてよろしいのですか?」

「護衛は付けますが、ずっとというわけにはいきません。あくまでも備えとしてお持ちくださいです」

「ありがとうございます。ハーディバル様には以前もネックレスを頂いていますのに…。今度お礼をさせてくださいませ」

「…いえ…前回のネックレスはどうか捨ててください。マジで。姉に殺される…」

「そ、そんな! 嫌です!」

「嫌です⁉︎」


嫌なの⁉︎

私もビックリなんだけど⁉︎


「あのネックレスはわたくしやミスズ様のことも守ってくださいましたもの。それに、とっても気に入っておりますの」

「マジで⁉︎ あ、いや、別に無理しなくても…! 僕から見てもかなりダサかったと思うんですけどっ」


おおい。

そんなもん女の子の誕生日にプレゼントするな!


「え? そうですか? とても可愛かったですわ」

「え…そ、そうですか…? ………そうですか?」

「はい」


…エルフィは真顔だった。

ユスフィーナさんが頰に手を当てて少し心配そうな顔をする。

…なんだろう。エルフィ…。…ドラゴンを可愛いと言ったり…まさか、まさかエルフィって…。


「あれはむしろハイセンスですわ!」

「……………」


真顔のエルフィに場の空気は非常に複雑なものと化した。


「こほん。…ミスズ様はどちらになさいますか?」

「私はあとで構わないわよ! ついでだし!」

「いえ、私も…!」


場の空気を変えるべく、ユスフィーナさんが私に話を振ってきた。

優しいなぁ、ユスフィーナさん。

でも、私よりもユスフィーナさんとエルフィでしょ。

私が貰うのも本当なら変な話だし。


「ではお姉様はデュアナの花がいいのでは? 花言葉は『純愛』ですわ」

「わあ、ユスフィーナさんっぽい」

「お、おやめくださいっ!」


エルフィがそんな事を言い出す。

私とエルフィがにっこり悪い顔で笑いながらカノトさんを見る。


「?」


当然不思議そうな顔をされたが、まあ、うふふ…そのうち分からせて差し上げるわ…! ふふふふふふ!

ふふふ、照れてあたふたするユスフィーナさん可愛い。


「えーと、それじゃあ私はこれを貰うわね。エルフィ、これはなんの花なの? 可愛いわね」

「ソランの花ですわ。花言葉は『絆』ですわね」

「へぇ」

「へぇ〜」


なぜかハクラも納得する。

竜胆りんどうの花に似てるわね。

まあ、異世界の花だし竜胆なわけないけど。


「それと、お前にはもう一つ」

「へ?」

「兄様に預かってきたです。魔力補助器」

「ああ!」


忘れてた!

ハーディバルに差し出されたのは白い小さな六角形の魔石がついた銀の腕輪。

おお、これも可愛い。

確かパーティが終わるまでには準備するって言われてたのに、レベル4の事で帰って来ちゃったのよね。

そうか、ちゃんと用意してくれたのか。

さすが、王子様の執事!

…………………。そうか、ハーディバルの兄貴か、あの人が…。城で最も怒らせてはいけないという…。

なんか今更自覚したら怖くなってきたわ。

あんな人の前でうっかり王子様をハゲ呼ばわりしてしまったのね、私…。

お、恐ろしい事をしてしまったものね…。


「ありがとう…。……や、優しくて仕事のできるお兄様ね…」

「なんで今更兄様のこと担ぐんです。遅いです、何もかもが」

「や、やっぱり⁉︎」

「え? ミスズ、エルメールさんのこと怒らせたの⁉︎」

「よりにもよって兄様の前でジョナサン殿下に「毛がない」とか言い放ちやがったです」

「け…? 毛がな、…え? なんで…?」


純粋なハクラの疑問。

まあ、そうよね。

でも違うの! 誤解なのよ!

慌てて私が王子様を獣人と誤解していた事を説明する。

いや、これはもうそもそもフリッツが悪いのよ、フリッツが!


「つまりそう! フリッツがあの時否定してくれなかったから!」

「フリッツってフレディの事でしょ? 内緒にしてた時期に自分のことをとやかく言わないでしょ」

「〜〜〜〜⁉︎⁉︎⁉︎」


そ、そうだったぁぁぁぁ!

フリッツ=フレデリック王子だったああああ!


「じゃあ私、二人の王子様両方に毛深いだのハゲだの言っちゃったってことじゃなーい!」

「…なんと罪深い…」

「あははははははははははは‼︎‼︎」

「お腹抱えて笑うなぁ!」


頭を抱えるハーディバルと、お腹を抱えるハクラ。

ハクラに至っては涙まで出して笑ってやがる。

く、くぅ…自ら恋愛フラグへし折った気分‼︎


「ともかく、補助器の使い方はあとで教えてやるです」

「…うん…ありがと…よろしく…」


…うう、しょぼーん。

王子様なんて憧れの存在に毛深いだのハゲだの面と向かって言い放ってしまったなんて…。

この世界に来て一番の失態だわ…。


「そういえばハーディバル、ミスズはなんで生命力魔力変換魔法が上手いこと発動してないの?」


あ、そういえば。

今朝ハクラとそんな話ししてたんだ。


「…そもそもあのバカガキが使った魔法が召喚魔法じゃないからです。なんらかの理由から召喚魔法に中途半端に変化して、その影響が多少なりと現れたのでしょう。生命力魔力変換魔法は通訳魔法同様、召喚魔法に付属する魔法です。素になった魔法を分析しないと詳しく言えないですが、こいつが魔力を使う時、たまーに生命力魔力変換魔法が機能する時がある、と思われるです」

「ランダムなの⁉︎」

「それは調べてみないと分からないですが…それ、調べてお前に何か得あるです?」


……………。

ないな。

寿命が減るだけだもの…。


「うん、いいや」

「でしょう」

「まあ、それもそっか」


ゆるい感じで完結した。


「で、今後についてですが」

「は、はい!」

「カールネント様はユティアータのことはユスフィーナ様にお任せになるそうなので、今後とも領主としての責務を果たしていただきたい」

「…っ、…は、はい! 精一杯努めさせていただきますわ!」

「それと、昨夜のレベル4の者…一名だけですがご遺体が出ました」

「…はい、お伺いしております…」


ズッドーン、とテンションが下がるユスフィーナさん。

無理もない。

魔獣になってしまった人間は、レベルが3以上になると邪気とレベルが上がる際に食べた生き物や他の魔獣の素体と溶け合いお亡くなりになる。

その死に方はあまりにも悲惨…。

そうならない為に、魔獣はレベルが低いうちに倒すのがセオリーなのよね…。

魔獣をレベルが低いうちに倒さなきゃいけない理由…邪竜を生むよりも、魔獣化した人を助ける為って意味が大きかったということなのよ…。


「ご遺体の身元は調査中ですが、竜人族の方でした。フェレデニク地方に問い合わせ中ですので、すぐに身元は判明するかとは思いますが…」

「竜人族の方が…? …では、ユティアータの民ではなかったのですね…。…あ、いえ、それでは身元が分かり次第、ご遺体をお返しにお伺いしなければいけませんわね」

「本来なら向こうが引き取りに来て、ユティアータに謝罪すべきでしょうが…フェレデニク地方は文化が独特ですからね…。あちらからは出て来づらいでしょう」

「はい。こちらからお伺いしますわ」


…よくわからないわ。

ハーディバルの言う通り、別な地方の人が魔獣化してユティアータに迷惑かけたんなら向こうから謝罪に来るべき、だと私も思うけど。


「竜人族ってドラゴンと人のハーフの人たちよね? 同じ国でもそこまで文化が違うものなの?」

「竜人族は人間よりも長寿であり、容姿もドラゴンに近い方が多い。人数もそれほど多くなく、考え方だけでなく好む環境も山岳地帯と人が住むには過酷な場所です。自然に文化がかなり独特なものへと発展していったのでしょう。同じ国内ではありますが、自分たち以外の民族を人の子と呼び少々見下している節があるです」

「…む、むう…」


そりゃドラゴンとのハーフだもんね…。

寿命も長いし、容姿も違うし、能力も力も随分違うんだろうけど…。


「独自の文化の自治区ってこと?」

「そうですね。まあ、そう言う場所は意外と多いです。一応別な民族が暮らす地もあるですから。ただ、竜人族は特に我々との差を主張し、領地への立ち入りを騎士団相手にですら許可制にしているです。…気位が高くて、差別意識が強い者は我々を劣等種族と蔑む者もいるですが…」

「あれ、でも騎士団にも竜人族は何人か居るよね?」

「ええ、竜人族にもドラゴンの誇り高さを引き継いでいる者が少なくないですから。…ただ、そういう差別意識がある者もいるという話です」

「ああ、そうか。びっくりした」

「そしてフェレデニク地方の中にいる者は、その傾向がやや強いです」

「…それで向こうからは出向かないだろうって事ね…」

「です」


なにそれ、ちょっと筋が通らないんじゃないの?

文句言っても仕方ないけどさー、釈然としなーい。

人間と竜人がどんだけ違うか知らないけど、迷惑かけたら謝りなさいよー。

そっちの領地でちゃんと浄化しないからユティアータが多大な迷惑被る羽目になったのよー。

これは一言文句言ってやらにゃーダメなんじゃないの⁉︎


「…お姉様、それではこちらからフェレデニク地方へお伺いするということですわよね?」

「ええ、ご遺体をお返ししないと。…ご家族の方もきっと悲しまれるとは思いますが…」

「いえ、そうではなく…い、いえ、それもそうなのですが、そちらではなくて」

「?」

「よ、宜しいんですか? …フェレデニク地方には、ターバスト様が…」

「…………………」


ハテナマークの飛び交う私たち。

二人だけで会話する姉妹。

ユスフィーナさんの顔がじんわりと「やばい」と言わんばかりになっていく。


「………そ、そうですけど、だとしても、ええと…クレパス様の領地とは限りませんわ…」

「そ、そうですわよね…」

「? ターバスト氏となにか?」

「な、なんでもございませ…!」

「実は、お姉様は今、ターバスト様から…」

「エルフィ!」


首を傾げたハーディバルに説明しようとしたエルフィをユスフィーナさんが大慌てで制する。

ターバスト様?

なんか聞いたことが………あ!


「ユスフィーナさんに求婚してる人だ!」

「ミスズ様ー!」


思い出した! いやー、すっきり!

…と手を叩いた私をユスフィーナさんが責めるような声で呼ぶもんだから「あはは」と誤魔化す。

カノトさんの前でぶっちゃけちゃった。

まあ、いいか。

これもフラグよ!


「…え? 求婚? ターバスト氏が? ユスフィーナ様に?」

「へー、そうだったんだー。じゃあ付き合ってんの?」

「い、いえ!」


いっそ怪訝そうなハーディバルと、なんてことない感じに聞いてくるハクラ。

肝心のカノトさんは意外そうな顔。

首を傾げて「へえ」とでも言っているような顔だ。

うーん、好感度はまだまだみたいね…もちろん恋愛的な好感度!

せっかくユスフィーナさんの初恋の人、カノトさんがいるんだもの!

ここは乙女ゲームプレイヤーとして、必ずユスフィーナさんの初恋を成就させるわよ!

むっふふふふふ! 燃えてきたー!

いつもの調子が戻ってきた感じ!


「…なにか裏があるのでは…」

「ハ、ハーディバル…人の求婚に裏を感じるのはどうかと思うよ…」

「お前はターバスト・クレパスに会ったことがないから…」

「…そんな人なの?」

「少なくとも僕は嫌いです」


すっぱーん。

綺麗に真っ二つ。

今日も毒舌絶好調ね、ドS騎士…。


「どんな人なの?」


そういえばユスフィーナさんに求婚してる人、私は竜人族の王子様、としか情報として知らないのよね。

ハーディバルは会ったことがあるのか。

ここはちょっくら情報収集しておくべきかも。

ユスフィーナさんの恋を実らせるのに、ライバルキャラの情報がほとんどないのは不安だわ。


「わたくしも知りたいですわ。お会いしたことがございませんの。お姉様は確か領主会議の際にお会いしたのですわよね?」

「え、ええ…。と、いうより今はその話はしなくてよろしいのではなくて? ユティアータの今後について話を戻しましょう」

「ダメよ! ユスフィーナさんの結婚はユティアータの今後に直結するじゃない!」

「そうですわ」

「う…」


私とエルフィ二人掛かりなので圧勝。

まあ、実際ユスフィーナさんの旦那さんはユティアータの領主の旦那さんってことになるんだもの。

ユティアータにとっても重大よ!


「僕の個人的主観からの感想ですよ?」

「いいわよ」


ハーディバルは口は悪いけど、人を見る目はあると思うもの。


「外面のいいゲス」

「…あくまでハーディバル個人の感想です」


ハクラが優しく付け加える。

…そ、そうね…。

なんというか、簡潔な感想ね…えげつないほど。


「そ、そうですか? 私は紳士的な方だと感じましたけれど…」

「ではお受けするのですか?」

「い、いいえ! 何度もお断りしているんです。…ユティアータの領主を辞めて、嫁いできてほしいと書いてありましたので…。私は…相応しくないとわかっていても……それでもこの街を愛しています。カールネント様がお許しくださるうちは、ユティアータの領主を辞めるつもりは…」

「そうですか」


スッ、とハーディバルの瞳が鋭くなった。

なんだろう? あれはイラついてる…?


「何度もって事は、まさか今も? しつこいね」

「うっ…。…い、いえ、私のお断りの仕方が分かりづらいのかもしれませんし…」


…ハ、ハクラはハクラでなかなかストレートに言っちゃうわね…!


「ドラゴンって一途だからね。…竜人族がその性質も受け継いでるなら、諦めてもらうのは難しいかも。ちゃんと断らないと道連れに殺されるかもよ」

「えええ⁉︎」


ここでまさかの爆弾投下。

ユスフィーナさんが珍しく大声を出すほど、ハクラの一言は威力があった。

ちょ、ぶ、物騒な!


「そ、そんな恐ろしいことに⁉︎」

「なるかもね、って話。ドラゴン族は生涯一体としかつがいにならないんだ。『八竜帝王』くらいになると単体で繁殖、産卵するけど、それ以外のドラゴンはちゃんと雌雄があって、一度番うと死ぬまで連れ添う。…あ、これはあくまでドラゴン族の話ね」

「…い、いやいや…安心する要素がないってばっ」


そんなこと今更付け加えられても怖いものは怖いわよ!


「騎士団にも何人か竜人の人がいるし、ターバストさん? その人のこと少し聞いてみたら? ハーディバル、ケイルさん連れてきた?」

「連れてきてるです。あいつ、普通に戦っても強いですから」

「いるの⁉︎」


来てるの⁉︎

そ、それはチャンス!

情報収集、情報収集!


「エルフィ、これはしっかり情報収集しておかねばならないわよ!」

「はい! ミスズ様!」

「いや、お前はまず魔力補助器の練習です」

「うっ!」


…ソ、ソウデスネ…。


「あの、ご遺体をお返しに向かう際は僕も同行します」

「え?」


と、唐突にフラグ⁉︎

カノトさんの申し出にユスフィーナさんが目を見開く。

ちょちょちょちょ! まさかのカノトさんからの恋愛フラグ⁉︎


「ご遺体の竜人の方とは、その、面識がありましたので」

「そ、そうでしたの…。それは…」

「あ、いえ、知り合いというほどのものではなのかいのですが…。でも、もしかしたら彼と最後に会ったのが僕かもしれないと思うと…」

「…カノト様…」


…う、うん、存外重い…!

理由が重いよ…。


「カノト氏が同行してくれるのはありがたいです。騎士団だと警戒される可能性があるので」

「ハーディバルは行かないの?」

「僕は街の警護で来ているです。問題が解決するまではこの街から離れないです」

「えー、じゃあ俺もしばらくユティアータに居ようかな〜。お城、今ピリピリしてるんだもん…」

「あ! では私の屋敷にお泊りください。すぐにお部屋をご用意致しますわ」

「いえ、街の宿屋を手配していただければ…」

「俺とハーディバルは同室で」

「殺すぞ」


なーんて、とハクラが続けるより早くハーディバルが鋭く突っ込む。

目がマジだわ…。


「あの、僕も宿屋の方に…」

「えー、二人とも宿屋の部屋数が減るから長期滞在するならお屋敷の方の部屋借りたほうがいいよ。宿屋の人だけでなく泊まる人も気を使うじゃん。ユティアータって大きい街だし、魔法騎士隊隊長と『三剣聖』の二人が泊まった宿屋は箔が付いて一人勝ちになるかもしれないよ。そうなったら他の宿屋は立つ瀬ないって」

「………わかりました」

「…そ、そうですか…」


カノトさんまで宿屋に泊まりますと言い出したところをハクラが見事に抑えてくれる。

よくやったわ! これでユスフィーナさんとカノトさんは同じ屋根の下…!

色々動きやすくなるわね!


「俺とハーディバルは同室で」

「殺すぞ」

「冗談だってば。半分」

「半分本気なの⁉︎」

「一緒にいたいからねー」

「…だから、そういう発言が誤解を呼ぶのよ!」

「えー?」


そろそろ「わざとか⁉︎」と疑いたくなる。

あ、いや、カノトさんのあの「え、お二人は恋人…?」とばかりの表情を見る限り新たな被害者が既に誕生しているわ!

…やっぱり攻略対象から完全に外そうかしら…こいつら…。

なんかいつそうなってもおかしくない…。


「ともかく、ご遺体の身元が分かり次第またご報告に伺います。また、今回の事件の調査が終わるまではユティアータが三度の襲撃を受ける可能性を鑑みて僕とランスロット団長が交代で街の警護を行うことになりました。他にも衛騎士の増員、騎馬騎士隊、魔法騎士隊から五人程度が日替わりで駐在する事になりますのでご了解頂きたい」

「! は、はい、わかりましたわ! ありがとうございます」

「ハーディバル様とランスロット団長様がですか…⁉︎ そ、それは少し豪華すぎるというか…よ、よろしいのですか?」

「海竜騎士隊は基本海や湖や川が担当ですし、天空騎士隊は街中での戦闘は専門ではないので妥当ですよ」

「そ、そうなのですか…」

「俺も用事が終わるまではお邪魔するね」

「ハクラ様も…ありがとうございますわ」


これは豪華ね〜。

それに、いよいよ恋愛ゲームっぽいんじゃない⁉︎

…でもスヴェン隊長は来ないのか…残念。

エルフィのお相手候補としては一番好感度高そうだったのに…いや、問題というか難点もあるけど…。


「ところでハクラの言う用事ってなんなの? 一ヶ月前から言ってない?」

「あ、うん。生まれるの待ってるんだよ。予定日過ぎてるんだけどねー」

「生まれ…」


予定日⁉︎

それ、誰かの出産待ちってこと⁉︎


「それはまさかニーグヘル様の卵の⁉︎」


と、エルフィが食いつく。

ああ、そういえばそんな話もしてたわね…。


「うん、それもだけど…実はね」

「ハクラ」


ぞわ。

優しい声色でハクラを呼んだのはハーディバル。

その上、あの表情筋死んでそうなハーディバルが、笑顔!

たらーり、と汗を流すハクラ。


「…殺すぞ」

「ごめんなさい」


謝るの早!


「どうせ発表されるんだからいいじゃん…」

「あぁん? もっぺん説明させるつもりです?」

「はいはーい、分かりましたー」


なにかまだ内緒な話なのね…。


「…では、僕は他の騎士たちと合流して今後のことなど話し合いがあるので失礼します」

「はい。本日よりよろしくお願いいたしますわ」


頭を下げたハーディバル。

それを見送り、ハクラはテーブルの書類を持ち上げた。

あ、そうか、ハクラはユスフィーナさんの仕事の手伝いしてたんだもんね。

…カノトさんは…少し戸惑ってから「あ、では僕は見回りをしてきます」と微笑んで退出していった。

うーん、マジ正統派イケメン。


「…ハッ!」


そうだ! 私は竜人族の王子様の情報集めをしよう!

ぼけっとしてる場合じゃないわ!

せっかくユスフィーナさんの攻略対象がいるんだもの、これはカノトさんの情報も集めておかないと!

いざって時にイベントが起きない!


「…じゃあ私もちょっと出掛けてくるわね」

「え? 何処か行くの?」

「えーと、ほら、竜人族の王子様の話をもっと詳しく聞きに行こうかなー、的な?」

「魔力補助器の制御が先じゃないの?」

「うっ!」


ハ、ハクラのくせになんて正論…。


「そ、そんな事言われても…一人でどうこう出来るものなの?」

「んー。…じゃあ俺が付き合ってあげるよ。ユスフィーナさん、少し抜けるね」

「はい、ミスズ様をよろしくお願いいたしますわ」








・・・・・・・・・。



とことこ。

ハクラに魔力補助器の使い方を教わるべく、一路ユスフィアーデ邸に向かう事にした私。

領主庁舎を出ると、いつもより空が真っ白。

ハクラの『聖結界魔法』…これのおかげでレベルの低い魔獣はユティアータの街に入って来れないし、この結界の中は魔獣を生む邪気はたちどころに浄化される。

実に便利。

ただ、せっかくの晴天が白い光で染められて少し見づらい。

魔獣が生まれるよりは遥かにマシだけどね。


「ハーディバルに貰ったアクセサリ、ちゃんと身につけておきなよ」

「うん」


せっかく可愛いネックレスと腕輪をもらった事だしね。

早速身につけてみると、なんだか少し気分が浮ついた。

照れ臭いけど、喪女でしかなかった私がこんな高そうで可愛いアクセサリーを身につけられる日がくるなんてなぁ…。


「ジョナサン王子って結構女心が分かりそうな感じね」

「ヨナとフレディはフェミニストだからね」

「そうなんだ…この国の男の人ってレディーファースト?」

「アバロンに比べれば圧倒的にそうだと思うよ。こっちは教育がしっかりしてるから」

「…そ、そうなんだ…」


マーファリーも言ってたけど、アバロンって相当遅れてる国なのね…。

ハクラはアバロンとこの国を行き来してる冒険者。

二つの国の違いにも詳しいっぽい。

…いや、今はそれよりも竜人族の王子様…確か、ターバストさん、って人についてね。


「ハクラはターバストさんについて知ってる事ないの?」

「さあ? 騎士団に居る竜人の人たちとは話したことあるけど、みんなあんまりフェレデニク地方の領主の話はしないからな〜」

「…そう…。じゃあやっぱり騎士団の竜人族の人に聞いてみるしかないのね…」

「その前に魔力補助器の使い方…、………」

「? どうしたの? ハクラ」


道のど真ん中で突然立ち止まるハクラ。

振り返ると、やけに真剣な顔で明後日の方向を睨んでいる。

どうしたどうした?


「…邪悪な魔力…」

「え…⁉︎」

「…微量だけど、感じる…。…ちょっと確認しに行っていい?」

「…え、ええ、もちろん」


『聖結界魔法』の中で、魔獣が魔力を使った痕跡…『邪悪な魔力』があるなんて…。

信じ難くてハクラについて行くと、中央区の小さな雑貨屋さんや飲食店が数件建ち並ぶところに辿り着く。

中央区は市民の居住区が密集しているから、こういうお店はいわゆる個人営業のこじんまりしたものだ。

なんつーの? 私の世界で言うところの居酒屋とかスナック的な場所ね。

そこには先程別れたばかりのハーディバル。

と、カバンを抱き抱えて俯くナージャの姿。

え? ナージャ?


「ハーディバル」

「…、…ああ、やはり感じたですか」

「うん。…大丈夫?」

「問題ないです。…まあ、いつもの残滓のようなものです」

「そうか…。手がかりもなし?」

「ですね…」


なんかまーたハーディバルにとっ捕まって、毒の応酬でも受けていたくさいナージャは明らかに落ち込んでいる。

…もー、毒舌ドS騎士め、手加減しなかったのね?

そりゃナージャは生意気小娘だけど、あんたの毒舌は子供にはきついのよ!


「ナージャ、大丈夫? まーたこのドS騎士に虐められたんでしょ?」

「…え……い、いや…別に、です…」

「……………。…僕は衛騎士隊の騎士塔に行くですが、お前らどうしたです」

「ミスズに魔力補助器の使い方教えようと思って」

「お前使ったことないだろう」

「うんまあ、そうだね」

「おおい⁉︎」


それなのに教えようとしてたの⁉︎

できるの⁉︎

私の疑問はハクラの「あはは」という誤魔化し笑いによって大体の答えを得た。

このやろう…。


「なら、騎士塔に付いてくるです? あそこなら訓練所も入っているから暴発してもどうにかしてやるです」

「ちょ…っ、コレ暴発するような道具なの⁉︎」

「お前がさせなければしないです」

「うっ」


そ、そりゃそうなんだろうけど…その可能性があると言われると不安しか感じない!


「…そういえばナージャはこんなところでどうしたのよ? なんか邪悪な魔力があったらしいけど」

「…ワ、ワタ………ナージャは…」

「確か近道していたんでしたっけ?」

「…! …そ、そうなんですぅ…ここを突っ切ってくると最短距離なんですよぅ」

「だからってこんな狭くて暗い道よく通って来たわね。挟まったらどーするのよ」

「は、挟まりませんようっ!」

「そんなの今の内だけよ」

「…そりゃあ、ナージャはお前と違ってグラマラス美女に成長する予定ですからぁ? あっちこっちつっかえちゃうかもですけど〜」

「何ですってぇ⁉︎ どういう意味よ!」


このクソガキ!

相変わらず口の減らない奴ねー!

それって遠回しに私が貧乳って言ってるようなもんじゃない!


「…それより、僕らは騎士塔に行きますがお前はどうするんです? 付いてくるなら多少魔法について面倒見てやってもいいです」

「え!」

「…へぇ、いいじゃない、そうしましょうよ! あんた魔法使いになりたいんでしょう? ドS騎士の部下の魔法騎士もたくさん来てるみたいだから、勉強になるんじゃない?」

「……………そ、そうです、ね…」

「…ミスズって落差激しいって言われない?」

「は? 急になによ?」


ハクラが言うに、今の今までナージャに怒ってたのに、ハーディバルがナージャを騎士塔に誘うとナージャに優しくなって怖かった、らしい。

失礼しちゃうわね、私は基本自分の感情に素直なだけよ!

それにナージャが魔法に詳しくなれば私が帰る方法も早く見つかるかもしれないじゃない!

あ、それよ! ナージャが魔法に詳しくなれば私が帰る方法が早くわかるかもしれないからよ!

うん! それに決めた!

…? 決めたってなにが?




「…それにしても…塔って言う割に低っく!」


騎士塔は同じ中央区の東区寄りにあった。

塔と言うからにはそれなりに高い建物を想像していたがせいぜい三階建て。

他の建物より少し高いくらい。

なんか拍子抜け。


「あまり高いと街の景観にそぐわないんだそうです」

「…あ、そ、そうなの…」


そうか、ユティアータは大きい街。

景観とかも気にするのね…。

ご、ごめんなさい。

中に案内されると、思ってたよりも綺麗なロビー。

え? ロビー⁉︎

騎士塔なのにロビーがあるわよ⁉︎ 受付があるわよ⁉︎

役割がさっぱりわからない!


「あの、落し物をしたんですが…」

「いつどの辺りで、なにを落とされましたか?」

「西区の用水路付近で小銭の入った財布を落としたんです。ついさっきなんですけど…」


「!」


男の人が、カウンターに座る衛騎士に落し物相談してるわ!

衛騎士さんって街中の見回りしてるだけじゃないんだ⁉︎

まるで交番じゃない…落し物預かりとか…。

かと思ってると…。


「すいません、宿屋がどこにあるか教えてもらえませんか」

「はい、ご予算は?」

「えーと、このくらい…」

「でしたら、こちらなどいかがでしょう? 部屋は広々としていて、薬草を煎じたお風呂が人気の宿なんです」

「わあ、綺麗な部屋ですね」


「…⁉︎」


あっちでは案内所みたいなことやってる!

えーーー! 衛騎士さんってあんなこともやってるのー⁉︎

し、知らなかったー!


「なにキョロキョロしてるです」

「え、いや! 衛騎士さんって街中を巡回してるイメージしかなかったから…! こんな事もしてるのね…!」

「ですよ。衛騎士隊は各街や村に駐在する場所があり、市民の安全安心を守るのが主な仕事なんです。騎士団の中では最も規模が大きな騎士隊で、指揮系統も全く別物。衛騎士隊の隊長は必ず騎士団の団長か副団長を担う決まりがあるほど重要な存在です。我々のような戦闘に特化した隊より、余程市民に身近な騎士隊です。まあ、全然危なくないかと言えば魔獣が出現した際、やはり戦わねばならないのでそうではないですが」

「た、大変なお仕事なのね…!」

「ええ、衛騎士隊こそが騎士団の基盤といっても過言ではないです。華々しさがあると言う点で衛騎士隊以外は注目度が高いですが、騎馬騎士隊も魔法騎士隊も天空騎士隊も海竜騎士隊も衛騎士隊に二年以上勤め、試験に合格しないと入隊できないです。僕はスカウト枠なので衛騎士隊経験ないですけど、普通に考えて他の騎士隊より危険度低め、安定した収入、週休二日制、国民に尊敬される職業第一位の騎士を名乗れるなど実に理想的ななりたい職業ではないでしょうか」

「お、おお…!」


それは素敵ね!

大変そうだけど…お給料もお休みも安定していて国民に尊敬される職業第一位なんて…!

…でも、そうだったんだ…確かに騎馬騎士隊とか魔法騎士隊とか、派手なイメージ。

強くてかっこいい感じするわー。

花形だったのね…。


「仕事と言えばミスズはやりたい事とかないの? ゲーム以外で」

「ブッ!」


……………。

じーっと見つめる金色の無垢な瞳。

恐る恐る振り返る。

つ、ついに聞かれる日が来てしまったか…!


「………マ、マーファリーには…通信端末が使えないうちはダメって…」

「まあ、連絡取れないのは仕事に差し支える場合もあるしね。じゃあ何かやりたい事とかあるの?」

「うっ」


おのれ、アホっぽいくせに話逸らしが効かない!

やりたい事…やりたい事…ゲーム以外でやりたい事、なんて…。


「そ、そもそも、この世界の仕事とかなにがあるのかまだよく知らないし…」

「職業訓練所に通えば?」

「…まあ、まずは魔力の使い方をマスターしてからでしょう。魔力によっては向き不向きがもあるです」

「それもそうだねー」


…はぁ。

ため息が出た。

そりゃ、私だって無職のままただユスフィアーデ邸でごろごろおやつ食べながら勉強の日々には疑問を抱いていたわよ?

一応成人してるし、同い歳のユスフィーナさんがこの街の領主やってるんだもの…そりゃ意識するわよ。

でも高卒でスーパーのパートしかしてない私がこの世界でどんな仕事につけるっていうの⁉︎

ええ、わかってるわ!

本当のところ日がなのんびりして過ごすのが楽すぎて楽しいのよ!

勉強だってほとんどRPGみたいなファンタジー世界の事を学ぶんだから楽しいだけだし!

つ、辛いのは文字の練習と剣術の訓練くらい!

あとは美味しいご飯とおやつとお茶!

そんな生活、最高に決まってるじゃなーい!


「それはそれとしてハーディバル、竜人の騎士さんってどこ? ターバストさんについて聞いておきたいんだけど!」

「お前まだそんなことを…」


いやー、だって私にしてみれば最重要任務だもの!

受付ロビーの脇の廊下を歩いて行くと、これまた綺麗なラズベリーみたいな赤い髪のお兄さんが近づいて来た。

薄い紫のマント…ってことは、ハーディバルの部下の人かしら?

あ、いや、でも見覚えある気がするわ…どこで見たのかしら?

確かかなり最近見たような…?


「隊長、遅かったですね」

「ちょっと…。引き継ぎは終わりましたか?」

「はい、滞りなく。それで、ええと」

「…一応紹介するです」


あ、私たちのことか!


「例の異界の女と、魔法使い志望のクソガキです」

「それ紹介になってないから!」

「これは魔法騎士隊副隊長、レーク・スティルページ。お前ご所望の竜人族です」

「はじめまして」

「「え⁉︎ 竜人族⁉︎」」


私と声が被ったのはナージャだ。

えー、イメージとちがーう!

すっごい普通の人っぽーい!

ドラゴンの要素全然見当たらないんだけど…⁉︎


「あのあの! 全然鱗や翼もないんですかぁ⁉︎」

「ええ、私は竜人族の父と人間の母を持つハーフなので容姿は人間寄りなんですよ」

「あ…そ、そうなんですね…ごめんなさい…」

「いえ…?」


いきなり食いついたと思えば、しゅん、とうなだれるナージャ。

へぇ、そういう人もいるんだ〜。


「じゃあ普通の竜人族の人はもっとドラゴンっぽいの?」

「お前、それ若干差別入ってるぞ」

「え! あ、ごめんなさい…そんなつもりは…」


ハーディバルに素で叱られてしまった…。

そ、そう、確かに今のはそう捉えられかねない言い方だったわね…。

うう、王子様にハゲとか毛深いとか言っちゃったんだから気をつけなきゃいけなかったのに…アタタタタ…。


「いえいえ。…竜人族の容姿は生まれつき様々なんです。トカゲのような姿で二足歩行する者、翼がある者、鱗しかない者など、千差万別。私のように人に近い者は珍しいですね」

「だからと言って魔力量やパワーは竜人族のそれなんですよ、こいつ。素手で暴れるラックを放り投げた時はゾッとしたです」

「あはははは」

「………へ、へぇ…そ、そうなんですか…」


ラックというのはこの世界の肉用の家畜だ。

牛のように大きく鳥のように鳴き、めちゃくちゃ凶暴。

でもその肉はとろけるように美味しい。

実物を見たことはないけど、牛くらい大きい暴れたラックを素手で投げたって…考えただけでヤベェわよ!


「それはそうとハーディバル隊長、アルフ副隊長は会議室でお待ちですよ」

「あー、忘れてたです」

「え、ずるい…」

「ずるい?」


そこでなぜ「ずるい」なのかが分からず思わず口に出てしまった。

すると横からハクラが…。


「ハーディバルの部下だよ? 察しなよ」


…と、なんて事もないように言う。

察しろってなにを…と声に出そうになってからスワッとハイネル・グロウリーというドMの魔法騎士を思い出した。

…え…まさか?


「放置プレイだけでも羨ましいのに…更に忘れられるなんて…! 同じ副隊長なのにこの扱いの差! 私も隊長に蔑ろにされたい!」

「もう少し仕事モード維持しやがれです」

「こほん…すみません、つい…。気を付けます」

「「…………………………」」


…魔法騎士隊、ヤバイ奴率高くない?


「でも一発だけ殴ってくれませんか」

「ハクラ、訓練所は地下です。好きに使いやがれです。許可は僕が出すです」

「うん、分かったありがとう」


真顔でなに頼んでるの⁉︎

突っ込みはハーディバルのスルースキル発動により言葉にこそならなかったけど、衝撃は当然残る。

…魔法騎士隊ヤッベーなっ‼︎‼︎

ハクラは笑顔でハーディバルを見送るが、振られたレーク副隊長はがっくりうなだれる。

わかってる、竜人がみんながみんなこうじゃないのはわかってるわ。

むしろ魔法騎士隊がアレなのよね!

ハーディバル…恐ろしい子……関わった人間をとんでもない性癖に目覚めさせる体質なのかしら…。

私も気をつけよう…!


「さーて、それじゃあ俺たちは地下で訓練しようか。ミスズは魔力補助器の使い方、ナージャは魔法の練習かな?」

「あ、あのぅ、ナージャ、今…魔法が使えないんですぅ…魔法を封じられていてぇ」

「そうなの? あ、もしかしてそれが誤召喚のペナルティ? 随分軽いやつで済んだんだね〜」

「う…は、はい。お嬢様がお口添えくださったからかもしれませぇん…」

「じゃあ魔力の収集と凝縮と固定までの練習しようか。それなら出来るんじゃない?」

「は、はい! よろしくおねがいしますぅ」


というわけで地下。

意外と広い訓練所が四つの部屋に分かれている。

空いていた訓練部屋に入るなり、ハクラはバケツを二つ、持ってきた。

何故バケツ?


「ついでにミスズもこれ使って練習したらいいよ」

「バケツ? 何に使うのよ?」


私同様、ナージャも変な顔をしている。

ハクラはバケツを床に下ろすと手をかざす。

バケツの中に白い光が瞬く間に溜まって、たっぷたっぷになった。

これは、魔力?


「魔法を使うにはね、最低限バケツ一杯分が必要になるんだ。身体強化魔法はこれの半分くらいで済むんだけど、初級の魔法の必要量はおおよそこれくらい。つまり、バケツの中に魔力を収集、溜め込んで凝縮、固定できれば初級魔法は使えるようになるって事」

「⁉︎ こ、こんなに必要なの⁉︎」

「⁉︎ こ、こんなに必要なんですかぁ⁉︎」

「現在の魔法陣と詠唱だと最低限これくらい必要なんだよ。昔は浴槽一つ分必要だったらしいから、これでもかなり必要魔力は節約できるようになってる。今後研究が進めば、さらに節約出来るようになるだろうけど…」

「そ、そうなんだ…」

「は、はわわ〜…」


魔法陣とか詠唱にそんな意味があったのか…魔法って奥深い…!

うーん! 使ってみたい〜!

私も練習したら使えるようになるかしら…?


「ミスズはただ魔力補助器から魔力を取り出すイメージでバケツに魔力を注いでみてよ。収集、凝縮、固定は魔法を使うわけじゃないから気にしないで。ナージャは体内魔力をできるだけ使わず、自然魔力の収集、凝縮、固定に専念してみようか」

「わ、わかったわ」

「は、はいですぅ」





それから三時間後…。




「うん、完璧かな」

「やったぁ!」


バケツの中には茶色い光の魔力がたっぷり!

そう、私の魔力よ!

ハクラに合格点をもらえた私は跳ね上がった。


「ねぇ、これならもしかして魔法も使えちゃったりする⁉︎」

「詠唱と魔法陣の意味を理解して魔力を収集、凝縮、固定すれば使えるよ」

「…け、結構難しそうね…」


魔法陣の意味…⁉︎

…うわぁ、なんかかったるそう〜…。

心折れそうなんだけど。


「俺はほとんどイメージだけで使ってるけどね!」

「このチート野郎!」


何それずるい!


「でも理解してないと危ないんだよ。最低限の知識は絶対要る。ミスズは身を以て体験してるだろ?」

「……………そうね…」


ナージャが笑いながら目を逸らす。

生命力魔力変換魔法だなんて危ない魔法に中途半端にかかっているおかげで、びっみょ〜に寿命が減った私は確かに身を以て体験している。

フリッツの言う通り、剣の道も魔の道も一日にしてならず、なのね…。


「ナージャは魔法学校に通ってるって言ってたけど、収集がど下手くそだね。まだミスズの方が上手かったよ」

「うぐ!」


ス、ストレート…。


「自然魔力の収集はいかに体内魔力を消費せずに魔法を使うかが掛かってくる魔法の基礎中の基礎。もっと練習した方がいいよ」

「………は、はいですぅ…」

「魔法陣も詠唱もなしだと集めづらいのは当たり前だけどね。でも、魔法陣と詠唱なしに収集が上手くなればその分魔法陣と詠唱使った時の方が集まりやすくなるし」

「そ、そうなんですね…」

「ああ、でも凝縮と固定まで練習しておいた方がいいかな。収集しても凝縮、固定ができずバラけたら意味ないし」

「ううっ…! …はいですぅ…」

「…ま、魔法って本当に難しいのね…」

「俺は多すぎて大変だったけどねー。ハーディバルに至っては俺より魔法に精通してるからもう収集、凝縮、固定の制御が出来なくて魔力制御器付けてるくらいだし」


そ、それで…。


「…でも、そのおかげで私みたいなやつが魔力補助器を使えるのよね…」

「そうだね」


今日、ハーディバルに渡されたこの可愛い腕輪が魔力補助器。

ハーディバルが魔法を使う時に余分に集められてしまう自然魔力を、特別な『魔力を溜め込める』魔石に蓄積させて、その『魔力を溜め込める』魔石から取り出して私のように体内魔力量が極端に少ない体質の人間も不自由なく魔力を使えるように補助してくれるもの。


「確か、補助器は使えば使うほど持ち主の体質に合わせた魔力に変換してくれるようになるから、ミスズは頑張れば魔法も使えるようになるかもね」

「私が練習し過ぎて、溜め込んだ魔力がなくなったりとかしないかしら?」

「どんだけ練習する気なの…。…大丈夫だよ、まず自然魔力の収集を練習して、溜め込んである魔力を使う量を減らしていくようにすれば。補助器はあくまで体内魔力の動きに反応して、必要量の魔力を供給してくれるものだから」

「…そっか! よーし、それじゃあ…」

「でもその前にミスズは仕事探したら? 多分今日の練習見る限り、もう端末使えるようになると思うよ」

「ほんと⁉︎」


端末…通信端末!

この世界のスマフォ的な物!

まあ、形は電子辞書っぽいんだけどね。

あれが使えるようになるってことは…!


「やったー! ゲームが出来るー!」

「…………」

「…………」

「そういえばハクラ! あんたの知り合いにすごいゲームに詳しい人がいるってジョナサン王子に聞いたんだけど⁉︎ 私の世界のゲームも知ってるって! 紹介してよ!」

「…その前に仕事探したら?」

「……………うん。まあ、それはもちろんだけど…。…とりあえずまずはゲーム…」

「ゲーム買うのにもお金がいると思うよ」

「…………………………うん…そうね…まず仕事ね…」


そうよね…この世界でもゲーム買うのにはお金がいるわよね…。

そうよね…。


「ミスズの魔力は『土属性』で、植物に影響するタイプでしょ。薬草の生産とかしてみたら?」

「…薬草?」

「うん。薬草はポーションの材料になったり、調味料、薬、香水、色んなものに使われているし、最近は畜産業界で薬草入りの餌も流行ってるから需要が高いんだ。育てるのが難しい薬草は高値で取引されるから、一種類だけ専門的に育ててみたらいいんじゃない?」

「! つまり一攫千金ね…!」

「…上手く育てばの話だけどね」

「ハクラ様、どうしてそんなことご存知なんですかぁ?」

「あー、俺亡命者支援もしてるから。今人気の職業以外にも、すぐにお金を稼げるようになる方法とか色々調べてるんだよ。まあ、向き不向きもあるけどねー」

「そうなのね」


なんにしても私の魔力が植物を育てるのに向いてて、薬草の需要が高いんならそりゃあもう御誂え向きってやつじゃない⁉︎

高価な薬草をたんまり育てて売ればがっぽがっぽ!

ありとあらゆるゲームを買って、エルフィたちに罪悪感を感じることもなく遊んで暮らせるってことね!

す、素敵〜!


「そうと決まれば早速薬草について調べるわよー!」

「がんば」

「…単純ですねぇ。薬草なんて育てるの一番難しいって有名なのに」


ナージャがそんなこと言ってるとも気づかない私は拳を掲げていざ地上へ!

階段を上って、受付ロビーのある方に行くとちょうどアルフ副隊長が上の階から降りてきたところだった。

挨拶くらいしておくべきよね、知らない人じゃないし。


「アルフ副隊長さん」

「…お〜、ミスズお嬢さん。補助器の訓練は終わったのかい?」

「ええ。副隊長さんはお昼ですか?」

「いや、飯もいいけど王都に帰るとこ。その前に領主様に一度ご挨拶してくけどねー」

「そうなんですね…お疲れ様です」


そうか、副隊長さん帰っちゃうのかー。

寂しいけど仕方ないわよね、お仕事だし。


「アルフさん、ハーディバルは?」

「ハーディバル隊長なら二階の資料室にいるよん。この街にいる間はそこで仕事するんだって」

「うわー…真面目というか、大変というか…」

「本当よねー、おじさんこの街の衛騎士たちの精神が心配」


…なんて生々しい心配するのよアルフ副隊長さん…。

ハクラも「だね」とか頷いてないでフォローしてやりなさいよ。

受付の衛騎士さんたち泣きそうな顔で震えてるじゃない。

そりゃそうよね、いきなり別の部隊とはいえお偉い人が長期滞在する事になったんだもん。

仕事やりづらくなるわよね…。

ましてあの毒舌ドS騎士じゃあ、威圧感もハンパじゃないし…衛騎士の皆さん、ご愁傷様です。


「それはそれとして、ハクラくんに騎馬騎士隊副隊長としてそれとなくお願いがありまーす」

「えー、何…気持ち悪い…」

「例の素体の身元がわかったのよ。引き渡しの時、領主様に護衛の一人としてついて行ってあげてくれない? カノト氏だけでもいいとは思うんだけどねぇ…」

「えー、やだよー。ハーディバルは街に残るんでしょ? 俺、ハーディバルの側にいたいもん」

「理由が不純だけどそれじゃあ仕方ないわねー」

「いいんですかそれで⁉︎」


あまりに緩い会話な上、緩い感じで終了したけど…それってユスフィーナさんとエルフィの護衛の話でしょ⁉︎

ハーディバルから離れたくないからヤダとかどんな理由よ⁉︎


「でもハクラくんに護衛お願いしたいって言ってたのハーディバル隊長よ?」

「やだ」

「ありゃま」


即答って…。


「あのぅ、なんのお話ですかぁ?」

「うーん? お嬢ちゃんは?」

「ユスフィアーデ家のメイド見習いですぅ」

「そうなの。…いや、ほら、この間のレベル4の襲撃で運悪く亡くなった人がいてねぇ…その後遺体の身元がわかったから、ご家族の元へ引き渡しに行くって話。領主様が自ら返しに行くっていうから」

「そ…⁉︎ …そう、なんですね…亡くなった方が…。そうですよね、レベル4に襲われて、一人も亡くなった人がいない、なんてこと…ないですよね…」

「……………」


そう言われるとしんみり雰囲気になる。

アルフ副隊長さんの言い方はかなりソフトだ。

例の素体の身元って、昨日言っていたレベル4の…。

ナージャには正直なところは言えない、わね。

でも、そっか、もう身元がわかったのね…良かった。


「まあ、その辺りの話もしに領主庁舎に行く予定なの。お嬢さんたちとハクラはどうするの?」

「俺はハーディバルに会ってから帰ろうかな。ミスズはどうするの?」

「私は…」


ナージャを見下ろすと、それはもう深刻そうな顔をして俯いている。

この子本当にユスフィーナさんとエルフィの事好きね。

いやいや、私だって好きよ?

可愛いし優しいし可愛いし。

なにより、人のために本気で頑張れる人たちだもの…尊敬してるわ。

そうよねー、ゲームや仕事のこともそうだけど…本来の目的というか…。


「ターバスト氏について調べてから帰ります!」

「? どゆこと?」

「あー…」


ハクラには呆れられたけど、ユスフィーナさんとカノトさんの恋路の最大の障害でしょ!

恋愛ゲームプレイヤーとして、情報は集めておくに越したことないもの!

と、いうわけで!


「レークさんに会いに行きます!」

「? ? ?」

「気にしないでアルフさん。ナージャはどうする?」

「………………」

「ナージャ?」

「ん? どうかしたの? ナージャ」


なにやらハクラが呼びかけても無反応なナージャ。

私も屈んで顔を覗き込む。

すると、私の顔に驚いたのか我に返ったナージャは後ろにおののく。

失礼ねぇ!


「そんなに深刻な顔して、なにか悩み事?」

「い、いえ! …あ、あの、ナージャ、お仕事があるのでお屋敷に帰りますね! あ、ありがとうございましたーー!」

「? き、気をつけて帰りなよー?」


なにあれ?

ハクラとアルフ副隊長さんに何故か大慌てで挨拶したと思ったらダッシュで騎士塔から出て行っちゃった。

変な子ね〜、知ってたけど。


「なんだろうね?」

「さあ?」

「それじゃ、ミスズお嬢ちゃんも気を付けて帰るんだよ。…やっぱり街の中もまだ少し混乱が残ってるみたいだしねぇ」

「はい。ありがとうございます。アルフ副隊長さんも、その、あんまり無理しないでくださいね」

「ありがとう〜」


休みが全然ないって愚痴ってたアルフ副隊長さん。

顔がまた疲れている気がする…。

そんなやつれた背中を見送ってから、私は本来一般市民立ち入り禁止の二階へハクラと堂々と上がって行く。

ふっふーん、ハクラと一緒だからなのか誰にもそこ突っ込まれなかった〜。ラッキー!


「レークさん、ハーディバルと一緒にいるかしら?」

「いるんじゃない? あとはハイネルもいそう」

「うげ…」

「大事なことだから言っておくけど…魔法騎士隊にもまともな人はいるからね」

「そ、そのくらいわかってるわよ⁉︎」


そこは勘違いしてないわよ!

た、多少やばい率高いんだろうな、くらいは思ってるけど!

こ、こほん! 気を取り直して資料室とやらをハクラがノックする。

中から男の人の声。

扉を開くと、それなりに広い部屋。

棚には本がたくさん…ここが資料室なのね。

簡易だけどテーブルと椅子があって、執務室も兼ねているようだ。


「…なにか用です?」

「用はないけどハーディバルに会いに来た」

「帰りやがれです」


安定の毒舌ドS騎士…。


「お前は?」

「私はレーク副隊長さんにターバストさんの話を聞いてみたくて!」

「はい?」


ハーディバルの横でなにやら大量の書類を抱えたレーク副隊長さん。

キョトンとする彼に、ため息をつきながらハーディバルが諸々の説明をしてくれた。

すると、唐突に眉を寄せるレーク副隊長。

あれ? なにか聞いたらまずいことなのかしら…?


「……ターバスト様がユスフィーナ様へ…。そんな話があったのですね」

「お前はこの件、どう思うです?」

「奇妙、としか言いようがありませんが…。まあ、ユスフィーナ様はお綺麗な方ですからね…。いやしかし…」

「ほれ見たことかです。こいつも裏を感じているではないですか」

「あ、あんたねぇ…」


人の恋路にそう裏裏言うのどうなの?

大体、ターバストさんって人、ハーディバル曰く「外面のいいゲス」とか言われてたけどまさか同族のレーク副隊長さんまで⁉︎


「いや、すみません。…ターバスト様、というよりも、ターバスト様のお父上様…クレイドル様はドラゴン信奉者だったので、ご子息のターバスト様が純血の人であるユスフィーナ様を選ばれたのには少し違和感を感じまして」

「わぁ〜、なんかめんどくさそうな気配がするわ〜。…なに、ドラゴン信奉者って…」

「ドラゴン回帰を掲げる、少し過激な思想の竜人族の一派をそう呼びます。人の血を拒み、竜人族は人ではなくドラゴン族であると考える者たちですね。…フェレデニク地方は山脈地帯で、純血の人との交流も少ない上…竜人族は長寿であることからそういう考えの者が絶えないんです。…竜人はドラゴン族から「ドラゴン族ではない」と断じられ、ドラゴンの森へと立ち入ることは許されない。ドラゴン信奉者は、ドラゴン族に一族の者と認められ、ドラゴンの森で暮らすことを夢見ているのです。…何故、先祖が選んだあの地を捨ててまでドラゴンとして生きたいのか、私にはわからないのですが…」

「ふーん? 竜人族は竜人族っていう種族なんだと思ってたけど…ドラゴン族がいいって言う人がいるのね」


人間よりドラゴンの方がかっこいいって事なのかしら?

まあ、確かにかっこいいんだろうけど…私は怖いから出来れば竜人族は竜人族でお願いしたいわ。

レークさんは竜人族の中でも珍しい容姿みたいだけど、ぱっと見普通のイケメンっぽくて怖くないし。

まあ、中身はかなり残念だけど。


「ええ、その通りなんです。我々は竜人族。ドラゴンと人と狭間の者。それ以外にはなれない。…でも、彼らはドラゴンになりたい。…ドラゴンに認められたいという欲求がある。…その強い想い、思想は…私のように竜人と人とのハーフであり、ドラゴンの要素が全く容姿に現れなかった者を淘汰する動きになっているのです」

「と、とうた?」


ゲームで意味を教えてもらったことある!

確か、不要なものを取り除く、みたいな意味!

…なによ、それ…ひどい!


「私の両親はそんな故郷に居られなくなり、ヴォルガン地方へ引っ越したのです」

「お前の生い立ちとかどうでもいいです」

「ありがとうござます」

「…………」


…あれ……ひど…ひどい、わよね?

いや、うん、これはハーディバルに対してであって、淘汰はやっぱり酷いわよ!


「つまりお前もターバスト氏がユスフィーナ様へ求婚しているのには違和感を感じてるってことです?」

「ええ。いくらなんでもクレイドル様がご子息の奥方に人間を迎えることをお許しになるのかなぁ、という違和感もあります。もちろん、ターバスト様がクレイドル様にまだユスフィーナ様へ求婚していると黙っているのかもしれませんが…」

「ユスフィーナ様は嫁がれる気がないのでしたよね。では、ターバスト氏へその人間嫌いな父上の結婚へのご意見を聞いてみれば、多少お断りし易くなるかもしれないです」

「それはありえますね」

「成る程〜」


これはいいこと聞いたわね!

ユスフィーナさんにはカノトさんっていう初恋の人が現在進行形で居るんだから…ターバストさん、本気だったら申し訳ないけど諦めてもらうわよ!

うふふふふ…さぁて、ユスフィーナさんとカノトさん…どうやって恋愛イベント起こそうかしら〜!


「よーし! それじゃあ早速そのことをユスフィーナさんに教えに行くわよー!」

「お前、魔力補助器は使えるようになったんです?」

「なったなった! ハクラに合格点もらったわ!」

「ふーん…。まあ、だとしてもあまり調子に乗って使い過ぎるなです。まだ他にどんな事故の影響があるか、調べていないんですから」

「わかってるわよー」


なによ、ハーディバルってば心配性ねー。

ハクラはどーせハーディバルの側に居残るつもりなんだろうし、とりあえず「じゃあ場所貸してくれてありがと。ハクラは練習付き合ってくれてありがと〜」と言い残して庁舎へと向かうことにした。

途中でお腹がぐぅ、と鳴り、そういえばお昼時だったのを思い出す。

なにか買って食べようかな?

でも、私お金持ってないのよね…。

先に屋敷に帰って、ご飯食べようかしら…?

ユスフィーナさんにターバスト氏お断り方法はその後でもいいわよね?

よーし! そうと決まれば屋敷に帰ろう。

今日のご飯はなにかしら〜♪




****



「へ⁉︎ 明日⁉︎」

「はい」


何が明日かって?

昼食をユスフィアーデ邸で食べ終えた私に、一時帰宅したエルフィが告げたのは明日、レベル4の素体になったご遺体をフェレデニク地方に返しに行くという話だった。

身元が分かった的な話はアルフ副隊長が言ってたけど…まさか明日返しに行くなんて…!


「急すぎない?」

「とんでもございませんわ、ご遺体を早く返して差し上げなければ…。ご家族の方のお気持ちを考えますと、今日中にもお返しして差し上げたいくらいですの…。でも、先方にご連絡しましたところ、早くても明日の昼過ぎが良いと…仕方がございませんわ」

「そ、そう…」


相変わらず優しいエルフィ。

私がこの世界に来たばかりの時も、今のようにとても深刻な顔で謝られたっけな…。

……。…家族か………。

いや、それよりも…。


「エルフィも一緒に行くの? ユスフィーナさんは?」

「街の代表としてお姉様とわたくしで参りますわ。このような時に街を留守にするのは、少し心苦しくもありますけれど…ハーディバル様や騎士団の方々が居りますから…」

「確か護衛でカノトさんも行くのよね」

「はい。一応…何者かの狙いがわかりませんので…」


…魔獣を生み出しているかもしれない『組織』の存在が示唆されている中だもの…護衛は必要よね。

うん、なんて御誂え向きの展開なのかしら、むふふ!


「じゃあ私も行くわ!」

「ミスズお嬢様⁉︎」

「ミスズ様も⁉︎ え、いえ、ミスズ様はユティアータで待っていてくださ…」

「そうはいかないわ」


食後のお茶とお菓子を持って来てくれたマーファリーも、エルフィと同じ顔で驚く。

が、私には引けない理由があるのよ!


「ユスフィーナさんとカノトさんの仲を進展させるのよ! こんなチャンス、逃す手はないわ!」

「「えええ⁉︎」」


食堂にいたメイドや使用人たちも驚いた顔になる。

対して私はドヤ顔よ。

ふふふ、腕まで組んじゃうわ!


「よく考えてみて。ユスフィーナさんの好きな人は誰? ダダ漏れよね?」

「そ、そうですけれど…」

「カノトさんは傭兵…今はこの街に危険が迫っている…かもしれないから駐在してくれているけど契約が終われば出て行ってしまうのよ! それなら今のうちに精一杯二人の仲を進展させておくの! 二人が例えば恋人…ひいては結婚なんてことになれば? ユスフィーナさんは恋が実るし、カノトさんは出て行かないし最高じゃない⁉︎ 誰が損するのよ⁉︎」

「た、確かにそれは………、…それはそうですわね!」

「エルファリーフお嬢様⁉︎」


エルフィが顔を上げてぱあっと笑顔になる。

よし、エルフィが釣れたらあとはこっちのもんよ!


「ここは二人の距離を縮めるチャンスよ! エルフィ、私が必ずカノトさんをエルフィのお義兄さんにしてあげる! 私を信じて協力して!」

「わかりましたわ、ミスズ様!」

「…ではわたしも参ります!」

「え! マーファリー⁉︎」


突然の同行宣言。

マーファリーは両手を組んで「数時間とはいえ、ユスフィーナ様やお嬢様たちのお世話をする使用人は必要ですし!」と言い出す。

いや、そんな子供じゃないんだから大丈夫よ…。

…でも、待てよ…?

もしかしたらマーファリー、そしてエルフィにもいつどんな運命の出会いがあるかわからないわよね?

もしかしたら、そのフェレデニク地方で二人に運命の相手が居たりするかも⁉︎

よーし、その可能性の為にも!


「それもそうね、協力者は多いに越したことないわ!」

「では、マーファリー、同行をお願いしてもよろしくて?」

「はい、お任せください!」


食堂はあっという間に『ユスフィーナ様とカノト様をくっつけ隊』と化した。

レナメイド長や、他の使用人たちも「頑張ってきてください!」と応援してくれる。

そうよね、みんなユスフィーナさんが好きな人と幸せになるのが一番いいと思ってくれてるのよね⁉︎

盛り上がってきたー!


「あ、いけませんわ。そろそろ庁舎に戻りませんと…」

「今日は帰って来れそうなの?」

「入浴に戻って参りますわ。お姉様も、シャワーは浴びたいとのことでしたから…わたくしが庁舎に戻り次第、交代で帰ってくると思いますわ」

「そう…。じゃあ、計画を色々立てておくわ!」

「はい! よろしくお願いいたしますわ!」


まだまだ後処理が残っているのね。

まあ、地面は元に戻ったけどあれだけ派手に割ったりなんだりされちゃあねぇ…ほんと、なんて恐ろしい奴らなの…。

ハクラの結界のおかげで街に被害はなかったけど、今後の警備とか、それに割く予算の再検討やらで庁舎は今大変みたい。

あんなこと、そうそうあることじゃないんだろうけど…レベル4まで現れちゃあそうも言ってられないのよ。

この動きは他の大都市や王都にも広がっている。

レベル4か現れたってことは、それたけとんでもない影響を与えたってこと。

エルフィが庁舎に戻って行くと、顔の疲れたユスフィーナさんが戻ってきた。

食事もそこそこにお風呂へと行ってまた庁舎に戻るつもりみたい。

これは、ユスフィーナさんに騎士塔で聞いたターバスト氏へのお断り方法を伝えるチャンスよね…でもお風呂……ゆっくりしたいわよね……うーん…あ、そうだわ!


「お湯はご用意してございます」

「ありがとう、レナ…着替えを用意しておいていただける? それと、エルフィに聞いていると思うけど明日、ご遺体を返しにフェレデニク地方へ行きます。予定通りならば夕方には帰れると思うので、その準備もお願いしておいていいかしら?」

「かしこまりました」

「ユスフィーナさん! 私も一緒に入っていいかしら」

「え?」


ユスフィアーデ邸はどこの部屋のお風呂場もだだっ広い。

広いお風呂って寒いっていうけどそこは魔法の国よね、全然そんなことないの。

私は魔力の練習でシャワーが多いんだけど日本人としてはやっぱり浴槽に浸かりたい。

そして、誰にも邪魔されずにユスフィーナさんの本音を聞き出すにはやっぱり裸の付き合いでしょ!

ユスフィーナさんが今カノトさんに対してどんな気持ち…どのくらいの好感度なのかを確認も出来る!

一石二鳥…いえ、三鳥よ!


「私のいた世界…私の生まれ育った国には、裸の付き合いって言葉があってね! 仲良くなりたい人と一緒にお風呂に入ったりもするのよ」

「まあ…、そのような風習が? …興味深いですわ…。…それに、とても嬉しいですわ、ミスズ様…! ええ、ご一緒いたしましょう」


あの疲れ果てた表情が、一瞬で明るい笑顔に変わる。

うーーん! エルフィとはまた違った可愛い人だわー! ユスフィーナさん!


「ミスズ様がいらしてから、私、是非一度ちゃんとお話ししてみたかったんですの…! 歳も同じと伺っていましたから…色々お話しいたしましょうね!」

「ええ!」


…………同じ歳…。

あれ、何故かしら…悲しくて前が見えない。

同い歳なのに、この差は一体…。

が、頑張るのよ私!

せっかくユスフィーナさんの乗り気のおかげでトントン拍子にことが進んでいるんだもの!

確かに部屋の広さもお風呂場の広さも私の部屋よりあるけど、当主なんだもの当たり前よ!

胸の大きさとか、諸々の仕草とか気品とか肌の艶とか、そんなもん今更でしょ!

私もユスフィーナさんも体にタオルを巻いて、いざ!


「同性同士とはいえ、人様に肌を見せるのは恥ずかしいですわね」

「そ、そうね」


掃除の行き届いた綺麗なお風呂場。

プールかよ、と聞きたくなるような浴槽。

体を洗いながら、本来の目的その1よ!


「ねぇ、ユスフィーナさんは…」

「そうですわ! ミスズ様、よろしければ私のことはユフィと呼んでくださいませんか?」

「ユフィ?」

「私の愛称ですの。…伯父様が亡くなって、母と離れて暮らすようになってから…誰にも呼んで頂く機会がなくなりましたの…」

「そうなのね…じゃあ、私のこともみすずでいいわよ。あ、なら敬語も無しにしましょう、ユフィ」

「本当ですか? ありがとうございます! …あ………ありがとう、ミスズっ」


……本当に同い歳かしら?

なに、このクソ可愛い生き物…‼︎

可愛い、可愛い…かわいいんじゃあああ!

……………でも、そうか…そうよね、領主なんてお堅くて大変なお仕事をしてるだけで、中身は私と同じ二十四歳の女なのよね…。

友達と遊ぶ時間もないだろうし、友達を作ることも出来ない。

政治家みたいなものだから、どこに敵がいるかも分からないんだ…。

……なんて、偉いのかしら…っ!

考えたら可哀想だし、本当に凄い子だし、泣けてきちゃう!

中身はただの可愛い女の子なのに…。


「えっと、では、ミスズのお話を聞かせてくださらない? ミスズの世界のこともお伺いしたいわ」

「私の⁉︎ い、いやいや、私の世界の話は…」


お父さんやお母さん…。

いや、それよりも!


「私より、ユフィの話が先よ! 憧れのカノトさんと再会してどう?」

「え⁉︎ あ、いえ、え? …な、そんなっ!」


なんてあからさまに動揺してるの可愛すぎるでしょ。

まあ、そのお風呂にいるからだけではない赤い顔を見る限り、大体わかるわ…。

そうよね、初恋相手があんなイケメンで『三剣聖』じゃあそうなるわよね。


「やっぱり子供の頃とは全然違うんじゃないの?」

「……いえ、そうでもありませんでしたわ」


おや、意外な答え。

でも、タオルを握り締めたユフィは頰を染めながら…。


「一目で分かりましたもの…」


うーーーん、最高かな⁉︎

ごちそう様ですよ‼︎


「私のことはやはり覚えておいでではないようでしたけれど…」

「そうなの?」

「はい。…ですが、変わりなくお優しく…どことなく不器用なままのご様子で…それが、なんだかとても嬉しかったですわ」

「………そ、そうなのね」


むっふぅー! 過剰摂取で死にそう!

これはユフィのカノトさんへの好感度は相変わらずMAXね!

憧れと恋心は色褪せぬまま!

むしろ、大人になったことでより濃密に!

きゃー! いい、いいわ! いい感じよー!


「ってことは、カノトさんともっと親しくなりたいって思ってる?」

「そ、それは…。…いえ…今は…私は、ユティアータのことを一番に考えませんと…。私のせいで亡くなってしまった方がいるのですから…、一人前になるまで浮ついてなどいられませんわ」

「ユフィ…」


うう、なんて真面目で健気なの。

昨日とは打って変わって逞しい。

…ちゃんと前を向いてまた歩き出したのね…。

うーん、カノトさんへの気持ちはあるけど、ユティアータの状況が状況だものね…けど、そんなことは関係ないわ!

カノトさんがユティアータ領主の旦那になれば、ユティアータは『三剣聖』を一人ゲットしたも同然!

つまり!


「それは違うわ!」

「え?」

「よく考えて! カノトさんは『三剣聖』の一人! そんな人がユティアータの領主の旦那さんになってごらんなさいよ! 街の人たちは大喜びするわよ⁉︎」

「え⁉︎ え⁉︎」

「つまり! カノトさんとユフィが恋人、ひいては結婚することはユティアータのためにもなるのよ!」

「…え、え、ええっ…で、で、ですが、今はそそそそそそのような状況では…っ」

「なに言ってるの! こんな時だからこそよ!」


あからさまに顔を赤くして狼狽えているけど、ここでがっつりユフィに『カノトさんは攻略対象』ってことを教えておかないと!

本人のやる気が一番大切だものね!


「そ、そう、でしょうか?」

「少なくともエルフィや屋敷のみんなは大歓迎だったわ」

「な、なんでそんなお話なさってるんですかっ」

「みんなユフィの幸せを願ってるからよ」

「…………」


そう言うと感極まった表情で口元を指先で覆うユフィ。

そんなことでこんなに喜ぶなんて…!

さすがエルフィのお姉さんね…可愛い!


「ユティアータのためにも、私自身が幸せを望んでも良いのでしょうか…」

「そんなの当たり前じゃない。私の世界では、人を幸せにするにはまず自分が幸せになるって言葉があるのよ!」


主にゲームとか漫画とかアニメとかで。


「…人を幸せにするには、まず自分から…」

「そう! 幸せは人それぞれだけどね、それでも、幸せのなり方を知っているのといないのじゃあ知ってる方が説得力が出るでしょ?」


まあ、リア充死ね! ってやつも中にいるかもしれないけど。

それは逆恨みというやつなので気にしない。


「そ、そうですわね…」

「というわけでユフィはカノトさんにガンガンアプローチすべきよ!」

「…ア、アプローチですか⁉︎ …で、ですが、そんな、私、殿方とお付き合いなどしたことがございませんし…!」

「大丈夫! 私に任せて! しっかりサポートするから!」

「ミスズ…」


また感極まった表情のユフィの瞳のキラキラ具合に若干の罪悪感。

よもや私がただ欲望のままに楽しみ半分趣味半分、百パー自己満足で自分のためであるとは思うまい。

くっ、ごめんねユフィ! でも、あなたの幸せが私の楽しみであることは本当よ!

めっちゃ幸せになってね!


「…わ、わかりました…が、頑張ります…。…ですが、カノト様のお気持ちが一番大切ですもの…。もしカノト様に想いを寄せる方がおいででしたら、潔く諦めますわ」

「ん、そ、そうね…」


しまった、そっちの可能性もあったのか!

…そ、そうよね、いくらユフィが乙女ゲーの主人公みたいだからって、本当に乙女ゲーな訳ではないし…。

そうか、その辺りも調べないといけなかったか…。

あとでやらなきゃいけないこと書き出してまとめておこう。


「じゃ、じゃあまずはターバストさんへしっかりお断りを入れて諦めてもらうところからね」


うん、当初の目的その2よ!

レーク副隊長さんに聞いた、ターバスト氏対策を伝える!

ハクラの言うことが本当ならドラゴンはかなり一途な生き物。

伴侶は生涯たった一人。

そこは純粋に素敵だと思うけど、手に入らないなら道連れとか怖いことも言ってたからなー…。


「…どうしたらいいのでしょうか…」


髪を洗いながらかなり深刻そうなユフィ。

私もゴシゴシ髪を洗う。

はぁ、相変わらずお高いいい香り…。

ユスフィアーデ邸の石鹸もシャンプーもコンディショナーも絶対高級品なんだもん…私の髪や体も最近スベッスベのツヤッツヤよ。

心なしか肌色もよくなったし、洗顔石鹸が良いものだからなのか、顔にも張りが出てニキビも消えたし新しくできないし…。

いいなぁ、これ、帰るとき持って帰りたい。

ハッ! じゃ、じゃなくて!


「実は今日レーク副隊長さんっていう人に聞いたんだけどね…」


なんというか、ターバスト氏のお父さんがドラゴン信奉者である、らしいこと。

そのお父さんがいくら息子の選んだ相手とはいえユフィのような純血の人を嫁として認めないかもしれない。

なので確認してみれば、と助言してくれたことを話す。


「…クレイドル様ですか…それならもうお許しはもらっていると何度か書いてありましたわ」

「えっ、マジ?」

「はい」


マジか…⁉︎

オーケーもらってんの⁉︎

お、おう…そうか、じゃあ本格的にどうお断りしていいやら…。


「明日、改めてお会いしますので直接お断りいたしますわ」

「なら、私も付いて行くわ。役に立たないかもしれないけど、側にいるから頑張ってお断りしましょう!」

「! ミスズ…あ、ありがとう…とても心強いですわ…」


よーし、まずは第一イベント!

ターバストさんにお断りを入れる! これね!

…それに、ユスフィーナさんのことを愛称で呼べるくらい仲良くなれたのは僥倖!

というか、ユフィが実はこんなに可愛い人だったなんて知れたのも良かったわ。

カノトさん、ユフィは一途なだけでなくこんなに可愛いのよ!

男の人とお付き合いしたことないなんて、すっごい親近感だし〜!


「明日はよろしくお願いします! さあ、お湯に入りましょう。…あまり長くお喋りしていると、戻るのが遅くなるのよね…残念だわ…もっとたくさんお話ししたいのに…」

「今回の件が片付いたらゆっくりお話ししましょうよ! そうだ、お茶会とか!」

「まあ、素敵…!」


こうして瞬く間にお風呂タイムは過ぎ去った。

ユフィの新たな一面。

本当は私と同じ歳の、ただの女の人。

そんなユフィが好きな人と幸せになるのの何がいけないのよ!

私が必ずカノトさんとの仲を取り持ってあげるから、頑張りましょうね!



****



その日の夜。

夕飯を終えてから、私は突然マーファリーに部屋でドレスへと着替えさせられた。

何故⁉︎

理由も笑顔で誤魔化され、お化粧も髪型もバッチリに整えられて連れて行かれたのは本邸一階にあるダンスホール。

屋敷の中にダンスホールがあるのかよ、と最初は驚いたものだけど、領主邸には当たり前にあるものなのだという。

エルフィの誕生日会も行われたそのダンスホールには、美味しそうなお菓子やお茶やジュース。

高価なシャンデリアが輝く中、優美なピアノの音が音楽を紡ぎ、盛大な拍手が私を迎え入れてくれた。

何⁉︎ 何⁉︎ なんなのー⁉︎


「マ、マーファリー、どういうこと⁉︎」

「あ、えーと、ハーディバル先生が…」

「マーファリー・プーラ」


咎めるような鋭い声。

ハーディバルと、同じく騎士の装いのハクラ。

お、おお、初めて見た…ハクラの騎士服姿…。

マントは白に金の刺繍。

なにあれ豪華、高価そう。

髪も下ろしてるし、こうして見ると確かに王子様っぽい…!

正装のカノトさんに、ドレス姿のエルフィとユフィ。

使用人やメイドの皆さんもいつもと制服がなんか違う! 刺繍が施してあって豪華よ⁉︎

え? どうしたの? どうしたの⁉︎

私の知らないところで恋愛イベントが起きてるの⁉︎

それとも何かの祝いごと⁉︎

どうしたっていうのー⁉︎


「秘密にしていてすみません、ミスズ様。実はとある方の提案で、ミスズ様に是非パーティを楽しんで頂こうと急遽準備いたしましたの。ミスズ様がいらしてから既に一ヶ月…改めて歓迎パーティーを開くのも、良いかと思いまして…」

「えええ⁉︎ そ、そんなわざわざ⁉︎」

「お見合いパーティは中止になっちゃったんでしょ? ハーディバルのせいで全然楽しむどころでもなかったみたいだし、いいんじゃん?」

「ハクラっ」

「まあ、それはそうだけど」


ムッとしたハーディバルだが、ハクラに愚痴った記憶はあるので否定はしない。

でも、そうか、私がこの世界に来て一ヶ月かぁ…あっという間だったな…。


「嬉しいけど…でも、いいの? こんな状況なのに…」

「確かに不謹慎かもしれませんが、ミスズ様をこの世界に誤って呼び出してしまったのはこちらの落ち度ですわ。この一ヶ月、ミスズ様は一度もわたくしどもを責めたりなどなさいませんでした。それどころか、わたくしやお姉様にも優しく接してくださり…とても仲良くしていただいて…きちんと感謝をお伝えしたかったのです」

「エルフィ…そ、そんな大袈裟よ〜?」

「ミスズからすれば大袈裟かもしれませんが、私たちは本当にそう思っているの。今日も、私の悩みの相談まで受けてくれて…ありがとう…。私、いえ…私たちは、貴女に出会えたことを心から感謝します。そして改めてお約束します。貴女を元の世界へ必ずお帰しします、と」

「ユフィ…」

「ですから、それまではどうかこの世界で、この国で、この街で…わたくしたちと共に心穏やかに過ごしてくださいませ。ミスズ様がこの世界に来た事を少しでも良い思い出にしていただけるように」

「…エ、エルフィ…」


うっ!

や、やばい、泣きそう…!

こんな状況なのに、大変だし忙しいしそんな場合じゃないはずなのに、なのに…わ、私なんかのために…!


「それにせっかくパーティマナーやダンスを教わって披露する場がないのももったいないですよ。頑張ってくださいね! ミスズお嬢様」

「…え、ええぇえぇ…」


そ、それはマーファリーも同じじゃないの⁉︎

口にするよりも早くハクラがなにやらはしゃぎながら私の手を掴む。

え、ちょ、なに⁉︎


「ケーキ食べよう! …あ、間違えた」

「は⁉︎」

「ハーディバルの魔力の気配がしたけどミスズだった。ごめん、間違えた。行こう、ハーディバル」

「は⁉︎」


振り返って私の顔を見るなりシュンとしてそんなことを言いやがる。

そして改めてハーディバルへ手を指し延ばす。

こ、こいつ!

ま、間違えたってなに⁉︎

私とハーディバルを間違えた〜〜⁉︎


「……お前感覚で生きすぎです。僕はいいです、満腹なので」

「えー。じゃあミスズ行こう」

「なによそれ⁉︎ そもそも私とハーディバルを間違えるってなに⁉︎」

「魔力補助器のせいだよ。ミスズの付けてる魔力補助器はハーディバルの魔力を間接的に使うものだから、残滓が漂ってたんだよね。だから間違えたの、ごめんってば」


そ、そういうものなのか…。

じゃ、なくて!


「だからって間違える⁉︎ 普通間違える⁉︎」

『ぼくもまちがえてた』

「うわぁ⁉︎」


ハクラの腰に下がっていた少し大きめのポシェット。

そのフタが上がると中からティルが首を伸ばしてきた。

えへ、なんて首を傾げる姿にエルフィから「可愛いですわ〜」という声が上がる。

普段はフードの中で寝ているホワイトドラゴンのティル。

今はそこにおいででしたか…。


「ティルもケーキ食べる?」

『ケーキ? たべる〜』

「ドラゴンってケーキ食べるの⁉︎」

「うん、ティルは雑食だからね」

「…へ、へぇ、ドラゴンって雑食なんだ…」

「いや、ドラゴンも種類によっては肉食だよ。例えば翼竜種や巨竜種は肉食だね。特に巨竜種は同族同士でもお腹が空けば喰らい合うこともあるらしい」

「なにそれ、コワッ!」

『ぼくはちがうよ〜。ぼくは“ひりゅうしゅ”だからフルーツとかがすき』

「種類によるのね…へぇ〜…」

「肉食のドラゴンはほとんど人の世界には居ないよ。ドラゴンの森で暮らしているから」

「…確か、ドラゴンの領域なのよね、そこ」


前にマーファリーが言ってた。

この大陸の半分くらいはドラゴン族の領域。

その領域はドラゴンの森と呼ばれ、立ち入ったら最後、アルバニス王国国民の市民権を破棄したものとみなされる。

何故ならドラゴン族と、アルバニス王国は『人はドラゴンの領域を侵さない。その代わり、ドラゴンは人を食べない』ことを条件に不可侵条約を結んでいるのだ。

その約束を守らない人間はアルバニス王国の民ではなくなる。

厳しいかもしれないけど、そのくらい厳しくしなければ密猟目的の馬鹿が減らないのだそうだ。

ドラゴンの鱗は高価だし、血や肉、内臓は薬にもなる。

大昔はそれが普通に流通していて、弱いドラゴン族の種族は狩りの対象にされていたらしい。

でも種族は違えど『八竜帝王』は色ごと…正しくは属性ごとで群れになっているので、弱い種族が人に狩られると同属性の別の強いドラゴン種が敵討ちに来る。

その悪循環でドラゴン族の人間への好感度はだだ下がり!

トドメは戦争を繰り返し、邪竜を誕生させたこと。

アルバート王が大陸を平定して、ドラゴンとも不可侵条約を結んだことでドラゴンが領域に引きこもり、人間を食べなくなったから余計な争いは無くなるわけだ。

そりゃそうよね、ドラゴンと人間じゃどう考えたって人間の方が弱い。

無駄な喧嘩はするべきじゃないわよね。

それなのに未だ市民権を捨ててでも、ドラゴンの鱗や血肉を求める馬鹿はいなくならないみたいで、そういうやつらの命の保証をしないのが国の方針というわけ。

うちの国の人間ではないので煮るなり焼くなりどうぞご自由に、というわけだ。

おっかないわよね…。


「まあ、肉食じゃないドラゴンもたくさん棲んでるけどね。地竜種とか、樹竜種とか」

「…ふーん…」


正直ドラゴンってあんまり興味ないのよね。

だってトカゲとか蛇みたいでただ怖いだけだもん。

ティルはギリギリオーケーな大きさだけど、これ以上大きいやつは絶対怖いと思うわ。

爬虫類系、可愛さがまるでわからない。


「で、ミスズもケーキ食べに行く?」

「いいわ、結構よ。私も夕飯食べたばかりだもの」

「…お代わりまでしてたもんね」

「………だってこの世界のご飯美味しいんだもの…」

「そういえばハーディバルの作ったお菓子は食べた?」

「……え?」


あ、そういえば朝、ハーディバルが私にお菓子作ってきたとかなんとか言ってどこからともなくバスケットを持ってきていたな。

あの毒舌ドS、毒舌ドSのくせに料理が趣味なのだという。

フェルベール家という家系が料理を嗜みとしているらしいけど、想像つかないわよね。


「僕の作ったヤツならテーブルに置かせてもらっていますよ」

「え? ほんと? どれどれ?」

「タールパイです」


お腹はいっぱいだけど、あれだけ大口叩かれたとなると興味はある。

ケーキやクッキーなんかのお菓子や軽食が並べられているテーブルに、ハーディバルが作ってきてくれたお菓子があるのか。

ハクラと一緒にハーディバルの作ったお菓子…タールパイとやらを探す。

タールパイっていうのはあれよ、ピーチパイ的なやつね。

二年ほど前から流通するようになったというタールという果物。

元々はアバロン大陸にしかない果物だったんだって。

二年ほど前に種や現物が持ち込まれて以降、バルニアン大陸でもアバロン大陸の野菜や果物が栽培されるようになってきた…とか、マーファリーが嬉しそうに話していたのよね。

ふふ、アバロン大陸にも美味しい食べ物はあるんですよ、なんて胸を張って…可愛かったわ〜。

ん? アバロン大陸の野菜や果物…?


「ねえ、ハクラ…アバロン大陸の野菜や果物ってやっぱり珍しいんしゃない?」

「え? うん、そうだね。でも、ほらハーディバルは割といい所のお坊ちゃんだから、タールも手に入れられたんだと思うよ。お菓子作りには本当手を抜かないから」

「ってことは、アバロン大陸の野菜や果物を栽培したら結構いい商売にならないかしら?」

「…そっち? …ああ、まあ、でもそれはそうか…な? 地質や気温や湿度が関係しているのか、アバロンの野菜や果物はバルニアンではまだ上手く育てられていなくて、出回ってるのもアバロン大陸から輸入しているものだけみたいだし……聞いてる?」


ぃよっしゃー!

やっぱりそうなのね! いいこと思いついたんじゃない⁉︎ 私!

なによ、薬草の勉強よりも野菜や果物の方が楽そう!

うんうん、そっちにしよう!

私ってば頭いい〜!


「例えば一番簡単に育てられるやつって⁉︎」

「…え? …うーん…俺はラズ・パスっていう国の出身だから、ラズ・パスの野菜や果物くらいしか知らないけど……でもそうだね…ティマティーとか?」

「なに? ティマティーって。どんな物なの?」

「赤とか黄色い実がなる野菜。一つの苗でたくさん採れる、ラズ・パスではポピュラーなものだね。スープの材料やサラダに使われるかな〜」


うーん、話に聞いた感じ全然想像付かないわね…。

色はともかく形を改めて聞くと、どことなくトマトっぽい。

トマト、トマトかぁ。

トマトなら確かに簡単そう、かも?

小学校の頃に夏休みの宿題でプチトマトなら育てた経験もあるし、なんとかなるんじゃない⁉︎


「で、食べたです?」

「ま、まだよ」


う、後ろからの圧が…!

ハーディバルがさっさと自分の作ったおやつを食えと圧をかけてくるわ!

エルフィたちも来たし、レナメイド長が切り分けておいてくれたパイを皿に盛る。

見た目も綺麗に焼けてて美味しそうだけど…これ、本当にドS騎士が作ったの?


「わたくしたちも頂いてよろしいんですの?」

「まあ、作ったからには食べていただきたいですね」

「では頂きましょう。カノト様は甘いものは大丈夫ですか?」

「はい、大好きです」


なにあれ可愛すぎかよ。

ユフィとカノトさん、すでに付き合ってるんじゃないの⁉︎

取り分けられたケーキを、それでは、とみんなで口に運ぶ。

夕飯の後なのに、やっぱり甘いものは別腹かしら?

……う、うん…。


「……うーん…美味し〜〜っい!」

「美味しいですわ〜っ! ハーディバル様はお料理がお上手ですのね〜っ!」

「ええ、本当に…! 王都のお菓子屋さんで売っているものと変わりませんわ」

「本当だ、すごく美味しい。…でも、なんだろうこれ、初めて食べた味…。果物かな?」

「タールというアバロン大陸の果物です」

「あ、それで…。…とても美味しいです。こんなに甘い果物も、珍しいですし…良いものをいただきました、ありがとうございます」

「いえ」


悔しいけど、確かにめちゃくちゃ美味しい〜〜!

温め直されてるから桃の良い香りがするし…あ、タールか…まあどっちでも良いけど…果実の食感も楽しめて甘くて美味しい〜っ!

生地もサクサク…果物の甘さの引き立つ僅かなしょっぱみは絶妙!

はぁ、なんて幸せな味なの…癒される〜。


「あ、ナージャやマーファリーも食べてみたら? すごく美味しいわよ!」

「え⁉︎」

「えー、いいんですかぁ⁉︎ ナージャ食べたいです〜」

「ちょ、ちょっと、ナージャ…わたしたちは給仕よ?」

「いいからいいから」


二人にも分けてあげると、二人とも一口食べた瞬間「ん〜〜」っと語尾にハートが付いていそうないい笑顔。

でしょでしょ、美味しいでしょ!


「これ本当にハーディバルが作ったの? お店で買って来たとかじゃなくて?」

「僕の料理スキルは王城お抱えシェフたちと同じレベル50超えですよ」

「………ま、まじで?」


料理スキルレベルというのはゲームであるあるな料理というスキルに関するレベルのこと。

この世界では割と普通に製薬スキルとか生産スキルとかお掃除スキルとか、ありとあらゆる行動や行為にレベルがある。

それが上がると、効率や効果も上がるんだって。

ちなみにマーファリーは『魔法レベル28』、『お掃除レベル32』、『料理レベル31』、『お化粧レベル42』などなど…だそうだ。

私もそういうのがあるのだろうけど、こういうスキルレベルの確認は通信端末がないと確認出来ない。

一人一台が当たり前の通信端末にはこのような機能もあるのだ。

そして当然、総合レベルもある。

その総合レベルが高ければ高いほど優秀な人ってことね。

ハーディバルの総合レベルかぁ、気になる…。

魔法のレベルはふざけた桁いってそうよね…。


「そしてこいつも料理スキルのレベルは50近いです」

「嘘⁉︎」


と、ハーディバルが親指で指したのはハクラ!

えええ⁉︎ こ、こいつ料理できるの⁉︎


「ティルのお世話で料理も作ってたらいつの間にかね〜。あと、知り合いにプロレベルが沢山いるし。ヨナとかハーディバルとか、エルメールさんとかユウヤさんとか…」

「ジョナサン殿下の料理スキルのレベルが80以上だと聞いた時は少し凹んだです…」

「嘘⁉︎ 王子様なのに⁉︎」

「ヨナはお菓子作らせたらこの国で一番上手いと思うよ。なにしろ二千年くらいお菓子作り続けてるからね」

「うっ! そ、そう言われると納得…‼︎」


に、二千年もお菓子作ってたのか、それは上手いわ…!

というか、あんなに美少年で性格はちょっと豪快な感じなのにお菓子作りが上手いってどんなギャップ少年よ…!

見た目がナージャくらいの美少年なのに年齢が二千歳っていうのもアレだったけど!

ずるいわ〜、この国の王子様……色々ずっるいわ〜〜…。


「……スキルレベルと言われると、ハーディバル隊長やハクラさんの魔法レベルが気になりますね」


と、私と同じことを考えていたらしいのはカノトさん。

パイを食べ終えて、ワインを片手に首を傾げる。

なにアレあざとかわいい。

カノトさんマジ正統派イケメン。

あとよくぞ聞いてくださいました。


「僕の魔法レベルは953です」

「俺は568〜」

「…………。……? え? ……さ、三桁、いく、ものなのんですか…?」

「さあ? 僕ら最初から三桁でしたから」

「うん。初めてステータス見た時から俺も三桁だった」

「………………」

「…た、体内魔力容量が多い方って、レベルがすでに一般人と違いますわね…」


流れる一拍の沈黙。

ナージャが恐ろしい形相になってチートコンビを睨みあげている。

だがそれも無理ない。

魔法レベル、魔法騎士隊に入るのに必要と言われるレベルは50なのだという。

こいつらはそれをケロリと超えていやがる。

想像以上にふざけた桁だった…このチートコンビめ!


「でもハーディバルは普通に幻獣族とかドラゴン族レベルだよね、魔法レベル」

「…だとしても邪竜を倒すには至らないです。今日はっきりとツバキ様に言われたです」

「え? ツバキさんに? …ハーディバルでも邪竜は倒せないって言われたの⁉︎ 嘘⁉︎」

「本当です。…邪竜は邪神の部類に入るので、人の扱える力の類では傷一つつかないのだそうです。神に対抗出来るのは、神に牙向く事を許された幻獣族か、神竜の部類に達している『八竜帝王』、または半神半人である陛下だけ」

「…!」


え…ちょ、それって…!


「力を失っている殿下たちでは、勝てるかどうか…」

「マジか…。そうなんだ…。レベル4がアレだったからいけると思ってた…」

「まさに別次元の生き物と化すわけです。人の身で邪竜を倒すことは不可能。…まあ、陛下なら恐らく倒せるだろうと…」

「ツバキさんは戦うつもりないんだ?」

「このタイミングで邪竜が現れるのなら、是が非でもフレデリック殿下に狩らせると仰ってたです。それが長子として生まれたものの務めだとか…。幻獣族は長子として生まれたものが、弟の為に餌となるドラゴンを狩ってくるのが習わしなんだそうです」

「なんという無茶振り」

「個人的にはそもそも邪竜誕生は阻止したいです」

「………だよね」


マジか…邪竜って神さま領域の生き物なんだ…。

倒せるのは幻獣族か、『八竜帝王』か、王様…そして勝てるか微妙なのが王子様たち。

フレデリック王子やジョナサン王子は力を失って縮んでる。

それがなければ、王子様たちで勝つことも無理ではない?

…でもハーディバルの言う通り、まず誕生させちゃダメよね!

ああ…! エルフィとユフィがものすごく不安そうな表情に!


「でもそうか…確かに伝承によれば一匹目の邪竜は幻獣が…二匹目の邪竜も幻獣の力の現れた陛下が倒したって言われてるものね…。…陛下、もう何千年も実戦出てないけど大丈夫なのかなぁ…?」

「あの夫婦喧嘩の頻度を思うに大丈夫なのでは?」

「それもそうか」


…おいおい、なんか不穏なこと言ってるわよ?


「? アルバート陛下とツバキ様は喧嘩をされているのですか?」

「しょっちゅうね。陛下、人の感情に疎いところあるからすぐツバキさんを怒らせるんだ…」

「お陰で王城はよく壊れるです。行政区画と王族居住区画の間に結界があり、王城に関係者以外立ち入り禁止の最大の理由はあの人外同士の桁外れな夫婦喧嘩の被害が毎度とんでもないからです」

「そ、そうだったんですか⁉︎」

「謁見の間なんて見晴らしいいよ〜、何十回も壊れてるからもはや天井がない」

「…………」


…あ、あのお城の内部にはそんな惨状が…!


「まあ、邪竜を生み出さないようにするのに越したことないです」

「だねー」

「わたくし、アルバート陛下とツバキ王妃はとってもラブラブ仲良しなのだと思っていましたわ」

「「あははは…」」

「顔が笑ってないわよあんたたち」


特にハーディバルは表情筋だけでなく目まで死んでる…!


「陛下はツバキさん大好きだよね。伝わってないけど。一ミリも」

「あれなんとかならないんでしょうか」

「四千年近く伝わってないんだし、無理じゃない?」

「どういうことよ⁉︎」

「いや、うん、陛下はツバキさん大好きなんだけどあの人、自分の感情も表現するのど下手くそだし口を開けば上から目線だし超俺に黙ってついてこい系だから…あれだね、相性が悪い」

「…ツバキ様は誇り高い幻獣族…。それでなくとも人間嫌いな方だというのに…あんな言い方ばかりしていたら伝わらないです」


お、王様〜〜⁉︎


「…それは、アレ? 倦怠期的な…」

「さあ? なにしろ我々が生まれる遥か昔からご夫婦ですからね…」


そ、そうよね…。

王様とお妃様ってお城が壊れるほど喧嘩するのか…怖いな。


「っていうかお城壊しちゃうんだ…」

「幻獣族と半神半人ですから」

「フレディやハーディバルより強い人たちが喧嘩したらそりゃ壊れるでしょ」

「…………それは壊れるわね」


お、恐ろしい…!

フレデリック王子やハーディバルより強いの⁉︎

ひ、ひいぃ…あ、あれより?


『パパ〜、ぼくもハーディバルのつくったパイがたべたいよ〜』

「ああ、ごめんごめん。はい、あーん」

『あーん』


ぱくり。

ポシェットから首を伸ばした真っ白なドラゴンが、ハクラのフォークからパイをひと齧り。

咀嚼しては『おいし〜い』と無邪気に喜ぶ。

…こうして見るとドラゴンって結構感情豊かなのね。


「どうです、ティル。美味しいでしょう?」

『うん、とってもおいし〜! ハーディバル、パパとけっこんして〜』

「しねーよ」


素に戻ってる、素に戻ってる!


「ちぇー、別にいいじゃん。フェルベール家はもうミュエさんが結婚して子供もいるんだから」

「それとこれとは話が別です」

「ねぇ、あんた本当に恋愛感情なしでそれ言ってる?」

「恋愛感情とかよく分かんないけどハーディバルのことは好きだからいいかなって」

「良くないわよ」

「良くないに決まってるだろ」


もしかしたら初めてかも。

心の底からハーディバルと意見が一致した瞬間。

こいつ…ハクラ…なんて無茶苦茶なの…。


「大体お前に限らずアバロン大陸からの亡命者たちは恋愛ごとに疎いというか…いまいちアバロンにいた頃の感覚が抜けないというか、どことなくおかしいです。こちらは一応恋愛感情が第一に最優先されるです、法律的にも。確かに自由恋愛自由結婚なので複数人との重婚や同性婚も無理ではないですがそれにしたってまず恋愛というものを分かっていないんなら結婚なんて軽々しく口にすべきではな…」

「…あー、そうだ、せっかくだからダンス踊ろう。ほら行こうミスズ」

「は⁉︎ ちょ、ちょっとー⁉︎」


あからさまにハーディバルのお説教から逃れるべく、一番近くにいた私の手を掴んでホールの中心に歩いていくハクラ。

いやいや、今、魔法騎士隊長様はたいそう素晴らしいことをあんたに教えてくださっていたと思うわよ⁉︎

ちゃんと聞いておきなさいよ、ためになるから!


「ミスズはダンス踊れる?」

「い、一応練習はしてたけど…」


一ヶ月ほど前、お見合いパーティの件を教わってから最低限のマナーや必要になるであろうダンスは叩き込まれてる。

で、でもまさか本当に踊る気?

い、いやぁ、あんな大規模なパーティで見知らぬ誰かと踊るよりは全然マシかもしれないけれど…でも練習相手の先生は女の人だったし、男の人と踊るなんて初めてだから…あわわわわ。


「じゃあ平気かな。はい、お手をどうぞ」

「うっ」


腰を折り、胸に手をあてがったハクラが手を差し出す。

知ってたけど、知ってたけどやっぱりイケメン! 顔はイケメン! 中身がこれでなければホンット儚い系美少年‼︎

それが柔らかく微笑んで手を差し出してくるなんてあばばばば!

この状況…無理! 誰か助けてー!

そういう意味を込めてエルフィやマーファリーを見やると、二人はなにを思ったのか拳を握って強く頷く。

え? なに? あの笑顔の頷きはなに⁉︎


「お姉様! ミスズ様がお一人で踊るのは恥ずかしいそうですわ! カノト様と踊ってはいかがでしょう⁉︎」

「えええ⁉︎」

「そうです、ユスフィーナ様! カノト様! せっかくですから! ハーディバル先生もよろしければお嬢様と!」

「え…。…ああ、なるほど…そういうことなら分かりました。エルファリーフ嬢、私と一曲宜しいでしょうか」

「はい! ありがとうございます!」


……………。

うおおおおぅん! ち、違うんだけど! 違うんだけどでも確かにチャンスではあるぅぅぅぅ〜〜!

なにか察しちゃったハーディバルのナイスアシスト!

カノトさんもそう言われちゃったら「分かりました、ユスフィーナ様を一人で壁の花にさせるわけには参りませんよね」って気ィ遣っちゃうもんねーーー!


「お? 俺たちのお陰でユスフィーナさんチャンス到来っぽくない?」

「そ、そうねっ」


今更ハクラもそれに気づいた。

ああ…私も逃げ場がなくなったわ…。

ええい! ままよ!

諦めてハクラの手を取る。

なんつーか、完璧な高貴系美男美女カップルのエルフィとハーディバル。

初々しい空気と緊張感に満ち満ちているカノトさんとユスフィーナさんもホールの真ん中へと進む。

使用人の皆さんが楽器を握り直す。

というか、使用人の人たちって楽器できたのね!

すぐにステキで優雅な曲が始まった。


「ふ、踏んだらごめんね」

「うん」


正直そんなに上手くないのよ、私。

ダンスに自信がないのを伝えて事前に謝っておいたものの…ハクラが思いの外エスコート上手い!

ダンスの先生は本番は男性にリードして貰えばいいとか言ってたけど…成る程、本当に身を任せてもいいんだ…。

と、とはいえやっぱり初めて男性と踊るから緊張する〜っ!

見上げて見れば金色の瞳とかち合う。

優しく細まる金の瞳。


「結構上手いよ、大丈夫」

「あ、あぁありがと…」


いつもへらへらしてるハクラの、笑顔が何故か大人びて見える。

なにこれなにこれ、ダンスマジック?

ひええ、なんて恐ろしいの!

こいつは私より六つも下のお子様よ!

しっかりするのよ私! 惑わされてはだめよー!


「あんまり考えないで楽しんで」

「うっ、うん」

「せっかくミスズの為に開いたパーティなんだからさ」

「!」


あ…そ、そうか…そう言えばそうだったわ。

エルフィとユスフィーナさんが、私のために開いてくれたパーティなんだ。

そうよね、楽しい思い出づくり、なんだし、楽しまなきゃだめよね。

うん、意識しないように…意識しないように!


「生まれて初めてのパーティは悲惨な結果だったみたいだけど」

「え? あ、ああ、そうね…」


始まる前から靴擦れで歩けなくなったり、ハーディバルの毒舌無双だったり、レベル4襲撃だったり、本当に散々だったわ…。


「ハーディバルが気にしてたよ」

「え?」

「生まれて初めてのパーティだったのに、あんまり楽しめてなかったみたいだったって」

「…あいつが?」


え、意外。

いや、まぁ、確かに要因の一端は奴だけど…。


「だからエルフィに急遽パーティを準備してもらったんだって」

「…え…ハーディバルが?」

「うん。ミスズに楽しんでもらいたかったんだと思う。内緒にしてって言ってたけどね……そういう不器用なところも俺は好き」

「……………」


ああ、なんて輝かしい笑顔。

こいつ本当は恋愛感情的にハーディバルのこと好きなんじゃないの?

ごちそうさまです!

……でも、ふーん…気にして、たのか。

本当は敬語も苦手で、女の子に優しくするのも苦手で、でも、うん、あいつ、気遣いは上手かったもんなぁ。

不器用。

確かに不器用な奴なんだろう。

ハクラ並みのコミュ力があればきっと生きやすいだろうに…。


「そうね…そう思うと可愛いやつかも」

「でしょー?」


そうね、毒舌でドSなのはもう間違いないけど、優しいやつなのよね。

エルフィや私にも『攻撃一回無効化魔法』の入った魔石のペンダントくれたし。

見て見ぬ振りをしない奴。

騎士だからなのかもしれないけど、でも、エルフィにあのダサいネックレスをプレゼントしたのは騎士の仕事でじゃないもの。

困ってる人や危険が迫っている人にもちゃんと手を差し伸べる奴。

なんだかんだ私のことも、エルフィに丸投げするまでは相手してくれたしね。

私が生まれて初めてのパーティを、ハーディバルの毒舌無双で全然楽しむどころじゃなかったのは本当だけど…中止に追いやられたのはレベル4のせい。

私に楽しいパーティを体験させるためにハーディバルがエルフィに提案したのか…。

急遽って言ってたもの、すごい強行だったんだろうな。

だって昨日の今日よ?

…無茶言うわねぇ…。

そう思ったら笑えてきた。

あいつ、ハーディバル…本当に不器用。


「みんな意外と気付かないんだよ。ハーディバルはいい奴なんだってところまでは気付く人もいるんだけど。本当は可愛いよね」

「…まあ、分かりづらいかもね」

「ミスズもハーディバル好き?」

「その質問は答えづらいわ」


嫌いではないけど、好きかと明確に宣言はできないわ。

なにしろあの毒舌ドSなんだもの。

まあ、ハクラの惚気に大体同意できるくらいには可愛い奴なんだなーって思えるようになったけど。


「心配しなくてもあんたよりハーディバルが好きなやつはまだいないんじゃない? 応援するから頑張って」

「ほんと? わーい」


美少年×美少年!

おいしい! ごちそう様です!

…さぁて、なんかハクラの話聞いてたらすっかり緊張も解けてきたし…ユフィとエルフィの様子はどうかしら?

うんうん、エルフィとハーディバルはいかにも社交辞令感半端ないけど、ユフィとカノトさんはなんか…なんか、ユフィが私よりカッチコチで顔真っ赤で可愛いことになってるわね。

カノトさんが心配そうに顔を覗き込んでしまうからより真っ赤っかだわ!

可愛い! 可愛いわよユフィ!


「はう!」

「あぶな!」


なーんてよそ見をしていたからか、足首ぐきってなった! い、痛い!

や、やば、た、立ってられない…!


「なにしてるの」


…私が足を痛めたのはハクラに即バレた。

椅子の方まで支えられながら歩いて、座らされる。

お見合いパーティの時よりは低いけど、やっぱりヒールは慣れないわ。

うう、痛い。


「待って。……ほい、治ってるよ」

「へ⁉︎」


ハクラは立ったまま。

私の方へ手をかざしたと思ったら二秒もしないうちに「治った」?

ぐきっとやらかした右足首を恐る恐る見るが、確かに痛みは消えてる?

まだ半信半疑の中、立ち上がるが本当に痛くない。


「お、おおお…」

「ねぇ、昨日も治癒魔法掛けてもらってない? 痕跡あるんだけど」

「…ハーディバルに…。靴擦れしちゃって…」

「えー、気を付けなよ…」

「ご、ごめん。ありがとう…」


返す言葉もありません。


「あれ?」

「どうしたの?」

「あの子…ナージャだっけ? また深刻そうな顔してる」

「…本当だ」


壁の隅っこに移動したナージャが俯いて深刻な顔をしている。

最近なにか悩んでるっぽい。

やっぱり魔法使用禁止が相当応えているのかしら?

まあ、罰なんだから仕方ない。

でも、さすがにあそこまで深刻な顔されるとちょっと気になるわね…。


「私、ちょっと声かけてくるわ」

「え? あ、じゃあ俺も…」

「ハクラ、少しいいです?」


と、そこへダンスを終わらせてきたハーディバルとエルフィが。

ハーディバルはハクラに用があるみたいだし、エルフィは笑顔で「ではわたくしは少し席を外しますわ」と遠回しにお手洗いへ行くと告げてきた。

まあ、ユフィの逃げ場を奪う意味もあるのだろう。

ダンスが終わっても二人きりにさせる作戦である。


「ナージャ、どうしたの?」

「!」


というわけで、私は少し離れた場所で俯いていたナージャのところへ歩み寄る。

声をかけるまで私に気付かなかったナージャはそれはもう驚いて顔を上げた。


「え、ど、どうしっ…」

「すっごい死にそうな顔してるわよ?」

「……………。…そ、そんなこと、ないです」


いやいや、そんなことあるから声かけたんだってば。


「最近何か悩んでるみたいだけど」

「…お前には関係ないですぅ〜」

「あのねー…」


べしっとナージャの両頬を叩くように挟む。

上向かせて、真っ正面からナージャと目を合わせた。

このこ生意気小娘め。


「今はハクラの聖結界で守られてるけど、思い詰めて魔獣になることもあるってマーファリーが言ってたわよ。悩みは周りの人に必ず相談することって! 視野が狭くなって相談もできなくなったら魔獣になりやすくなるんでしょ? この世界は!」

「!」

「私だってあんたのことなんか嫌いだけど、魔獣になったら大変じゃない。いいからお姉さんに話してみなさい。あんたより長生きしてるんだから、何かアドバイスくらいてきるかもしれないでしょ」


二十四歳も子供に毛が生えたようなモンだけど、本物の子供よりは大人なのよ。

思春期なんか悩み多きお年頃だから、色々あるんだろうけど…私だってそんな時期を乗り越えてこの歳になったんだから。

そう、多少は歳上ぶれるのよ!


「………、………。…お嬢様に、付いて行くって…明日…」

「え?」

「フェレデニクへ…」


ああ、明日ご遺体を返しにフェレデニク地方にユフィたちと行くって言っちゃったアレ?


「うん。なに? 一緒についてきたいの?」

「……」


真面目な顔で頷くナージャ。

なんだろう、この神妙な顔と空気。

いつものナージャじゃないみたい。


「まぁ、いいけど…あんたの悩みってそれじゃないんでしょ?」

「………………。いいの、自分ではどうすることもできないことだから…。…ただ見届けたいだけなの…」

「???」


いつもの舌ったらずな口調じゃない。

なにかを諦めてしまったかのようなナージャの表情。

どういうことなのかしら?





「………………………」



そんなナージャの様子をハクラの横で眺めていたハーディバル。

私は気付かなかったけど、ゆっくり目を閉じて口を噤む。

多分、この時に私の運命は決まったのだろう。

優しいハーディバルは、なにも言わなかった。



****



翌日の昼御飯を食べてから、領主庁舎へ行く。

フェレデニク地方、クレパス領へは庁舎の転移陣を利用してご遺体を返しに行くんだって。

魔法騎士隊がいるから棺を乗せた台車ごと転送するそうだ。

マーファリーとナージャとともに、先に庁舎に来ているエルフィとカノトさんと合流する。

そして領主庁舎の一角には既に魔法騎士隊数人と、ハクラとユフィ。

あれ? ハクラがいる?

朝会って、ハーディバルに会いに行くって出て行ったけど…。

あ、ハーディバルも居たわ。


「俺も行くことになったから〜」

「え? 昨日ハーディバルと離れたくないから行かないって言ってたじゃない? ハーディバルも行くの?」

「街の護衛で来ている僕が街を離れるわけがないでしょう、バカです?」

「一言多い!」


しかも呆れた表情でこのやろう!

…けど…。


「でもならなんでハクラは一緒に来ることになったのよ?」

「うーん…まあ、ぶっちゃけ『竜人の郷』には前々から興味はあったんだよね。…行ける機会とか今後あるか分からないから、行けるなら行こうかなって感じ? ハーディバルにも頼まれたし」

「? なにを?」

「護衛だよ。カノトさん一人でも十分な気はするけど、竜人族から「騎士団の人間は郷に立ち入らせない」って言われたんだって。だから称号はあるけど正式に騎士団に所属しているわけじゃない俺が適任かな、って」

「騎士団関係者が一人も付いていかないのはさすがに問題です。本当なら出身者のレークやケイルに付いていかせるつもりだったですが…それも断られたです」


項垂れているレークさんと、顔が完全に蛇かトカゲのような巨体の人…。

あ、あれがケイルさん?

ひ、ひええ…! レークさんと違って全身茶色い鱗に覆われた二足歩行のどでかくていかついトカゲ!

し、尻尾があるぅ!

ほ、ほんとに竜人族って容姿が人それぞれなのね…!


「クレパス様は人間がお嫌いですからね…申し訳ございません、隊長」

「お前のせいではないです。それに、想定もしていた。…まあ、そんなわけで万が一の時はマーファリー、君にも護衛を前提に戦闘魔法の使用許可を出します」

「え⁉︎ わ、わたしですか⁉︎」


えらい驚いたマーファリー。

この国、アルバニス王国では騎士、勇士、傭兵以外街中での戦闘魔法の使用は犯罪になる。

はずだけど…ええ、許可って…?


「使えるでしょう? パーティの時の知識を思えば初級のものくらいは」

「…は、はい…それは、まあ、一応…」

「自分の身を守る、あるいは、ユスフィーナ領主とエルファリーフ嬢の身の安全を確保するためならば使用して構いません」

「…あの、ハーディバル様? 何故マーファリーに、そんな、魔法の使用許可まで? わたくしたちはご遺体を返しに行くだけでしてよ?」


エルフィの言う通り。

ただご遺体を返しに行くだけなのに、なんでマーファリーに戦闘魔法の使用許可だなんて…物騒な。

それにハクラやカノトさんがいるんだから、マーファリーにまでそんな許可出す必要あるかしら?


「…勘です」

「勘?」

「勘です」


…か、勘…。

怪訝な顔になる私たちとは逆に、魔法騎士隊の騎士たちは表情が強張る。

その表情には緊張感が漂い、空気がピリつくほど。

ハクラまで腕を組んで真顔。

ええ…? ハ、ハーディバルの勘ってそんなにやばいの?


「…嫌な予感がするんですよね…」

「王都から応援を呼びますか?」

「いえ、ユティアータは僕がいるので大丈夫。嫌な予感はむしろ…」


ちらりと私たちを見るハーディバル。

明らかに臨戦態勢な感じの騎士たちに、私たちまで不安な気持ちになってくる。

や、やだな…ただご遺体を返しに行くだけなのに…。


「ハーディバルの嫌な予感ってランスロットさんの『騎士の第六感』より精度高いんだもん…やだなー。…まあ、とりあえず出来ることはやるけどさー」

「ちょ、めっちゃ嫌なこと言うわね⁉︎」

「騎士団やお城の中では有名だよ。ハーディバルの嫌な予感の精度。もはや予言の域」

「…え、えええ…!」

「具体的になにが起きるのかは分からないですが…まあ、そういうことなのでめちゃくちゃ気を付けて行って来てくださいです」

「わ、分かりましたわ」


さすがにそんな話を聞いた後ではユフィもエルフィも表情が引き締まっている。

カノトさんは変わり映えのない、ぼんやりとした無表情。

気を付けてって、なにに気をつければいいのよ⁉︎


「聖結界は引き継ぐです」

「よろしくねー」

「…ハーディバルも聖結界が張れるのね?」

「『光属性』は得意ではないので『闇属性』の無効化系結界に張り直しするです」

「え、別物なの⁉︎ 大丈夫なの⁉︎」

「大丈夫、大丈夫。ハーディバルは安穏系の『闇属性』だから」

「…安穏系…?」


なんじゃそりゃ。

と、私が思いっきり訝しんだのでハクラが教えてくれる。

私の『土属性』とハーディバルの『土属性』は同じ『土属性』だが、私は植物へ影響のある植物系。

ハーディバルの『土属性』は大地の土を操る大地系。

このように同じ属性でも、影響を及ぼすものに違いがある。

他にも『水属性』は水を生み出したりする源泉系と、水を操る水操系、水の生き物に影響を及ぼす水生系があるんだって。

そして同じように『闇属性』にも系統があるらしい。

安穏系と、堕落系。

同じ『闇属性』なのに与える影響は真逆と言ってもいいその系統。

安穏系は人をその名の通り和やかな気持ちにして、落ち着かせたり穏やかにさせる。

堕落系は人を不安にさせ、悩みをより深刻にさせたり、混乱させたり、悪い方向へと影響させるもの。

ゲームでよくある闇のイメージは堕落系ね。

これは私の『土属性』のように生まれつきのものではなく、『闇属性』の魔力を持つ人間の心に大きく左右されるんだって。

ハーディバルは安穏系の『闇属性』…とても強い意志と、優しさの現れ。

うーん、普段の態度からは想像出来ないけど、やっぱりハーディバルって根っこの部分から騎士なのね…。

ハクラやティルのような『光属性』が好むのは安穏系の『闇属性』。

だからハクラたちはハーディバルの側が落ち着くし、好ましい。

対極の存在だけど、闇は光がなければ生まれないし光は闇がないと輝いているとわからないから。

コインの裏表のようにお互いを必要としている『光属性』と『闇属性』は他の魔力属性とはどうしても別格。

うーん、もう付き合っちゃえよ…お前ら…。

じゃなくて!


「つまりハクラの聖結界は邪気が生まれたらたちどころに浄化しちゃうけど、ハーディバルの聖結界はそもそも邪気を生み出さない感じの結界ってこと?」

「…まあ、そういう感じのものです。魔力の低い者は気が緩み易くなるので、長期間は出来ないですが…」

「なんにしてもレベル4襲来で不安になりやすくなってるユティアータの人たちには気が緩むくらいが丁度いいと思うけどねー」


まあ、それを言ったらそうかもねー。

ハクラの能天気っぷりにハーディバルは嫌そうな顔をするけど、私もその意見には賛成かもー。


「というわけで、ユティアータはお任せください」

「はい、よろしくお願いいたします」

「お気を付けて」


あ、いよいよか…!

魔車の台車に乗せられた棺の横に集まる。

ハーディバルが手のひらをかざすと、私たちの足元に転移の魔法陣が浮かび上がった。

眩い光。

思わず目を閉じる。

巨大な扉の佇む岸壁。

気づいたら、私たちはそこにいた。

こ、これがフェレデニク地方?

相変わらず一瞬で移動し終わるから「来た!」って感じがないわ〜…。


「ようこそ」


ナイスな感じの低音ボイス。

ハッと振り向くと、顔の半分が漆黒の鱗で覆われた黒髪の男の人が扉の前から歩み寄って来た。

背中には大きな黒い翼、黒く長い尾。

顔そのものは人に近くてイケメンなんだけど、肌も褐色で、瞳は金色…それも、爬虫類のようなあれだ。

…なに、この人…怖い…。

いや、容姿が、じゃなく…なに?


…怖い…。



「ユスフィーナ、会いたかったよ」

「…あ、ええと…お久しぶりですわ、ターバスト様。お元気でしたか」

「もちろん。人の子のように病など罹らないからね、我らは…」

「そ、そうですか…」


タ、ターバスト。

この人がユフィに求婚してる竜人族の王子様。

…フレデリック王子やジョナサン王子とは、なんか根本的に別物な感じだわ。

言葉がトゲトゲしい…。


「ご遺体をお返しにあがりました」

「ああ、これがそうだね」

「は…っ」


挨拶もそこそこにユフィが本題を切り出す。

ええと、この人に棺を渡せば要件は終わり、なのよね。

なんだ、ハーディバルが脅すようなこと言うからビビっちゃったけどあっさり終わりそうじゃない。

むしろユフィが求婚お断りする間もなさそう。

とか、思っていたらターバスト氏の腕がユフィの肩に回されそうになる。

それをカノトさんが素早く遮った。


「………」

「失礼しました、棺はこちらです」

「………ああ…」

「………………」


ボッと赤くなるユフィ。

好きな人に、そりゃあんな至近距離であんなことされて庇われたらそりゃあねえ!

ひゃひゃひゃーん! カノトさんやっるじゃない! かっこいーー!

でもってユフィさんの代わりに睨みを利かせながら棺を押すカノトさん。

を、めちゃくちゃ睨んでるターバストさん。

きゃー! ユフィの奪い合いーー!


「ええと、それでは確かにお返しいたしましたので…」

「おや? まさかこのままお帰りになられるつもりですか? 領主庁舎で父が待っております。どうぞ、ご案内します」


どことな〜くねっとりとしたいやらしい感じの口調。

ユフィが困り果てた顔をしている。

というか…。


「え、ここフェレデニク領内じゃないの?」

「そ、そのようですわね…」

「ここはフェレデニク地方クレパス領に入る関所だよ」


始めて来たのは私だけじゃない。

エルフィもマーファリーも困惑気味。

その横でハクラが教えてくれた…ここはクレパス領への関所。

あの門の向こう側が、クレパス領。

門を囲む山のような岸壁を超えるのは普通の人間には無理そうだけど…。


「あのー、俺、ハクラ・シンバルバという者なんだけど」

「! おお、貴方が!」


あれ? ハクラが名乗り出た瞬間、ユフィの時より嬉しそうというか…テンションだだ上がりしたぞターバスト氏⁉︎


「『八竜帝王』にドラゴンの森に立ち入ることを許されし英雄! 初めまして、私はターバスト・クレパス! ここ、クレパス領の領主、クレイバスの息子です! いや、お会いできて光栄ですよ!」

「あ、ど、どーも初めまして…」


…大歓迎やないけ〜。

奥の門番のトカゲ人間みたいな竜人たちも目をキラキラさせてる〜。

ええ? ハクラって竜人の人たちにアイドル的な人気を誇るの? なんで?

ガシガシブンブンと握手した手が上下に揺れまくっている。

あのハクラが逃げ腰になるレベルのテンションって…。


「なにか困ってるって聞いたんだけど…」

「ああ、はい。…実は数週間前から、領内の転移陣が使えなくなってしまいまして…。我ら竜人族は翼がある者も多いのですが、地竜族や鉄竜族の血を引く者は翼を持ちません故、不便を訴えられましてね」

「成る程…。じゃあとりあえずご遺体を領主庁舎に移動させようか。カノトさんも、ご遺体のご家族に話をしたいって言っていたし」

「はい」

「ありがとうございます。ユスフィーナたちもこちらへどうぞ」

「…は、はい…それでは、その

…お邪魔いたしますわ…」


なんというか有無を言わさずユフィに「寄ってけ」って感じね…。

でも、イメージしてたよりはまともな人っぽい。

…ただ、なにかしら…怖い。


「ミスズお嬢様、エルファリーフお嬢様…大丈夫ですか? お顔の色が優れませんけど…」

「! ナージャ、ちょっとハクラ様を呼んできます」

「え? ナージャ⁉︎」


どうやら怖いと思ってたのは私だけじゃなかったらしい。

ナージャが何故か呼びに行ってくれたハクラが近づいてきて、私とエルフィの背中を撫でてくれる。

すると、怖くて少し震えていた体はあっという間に落ち着きを取り戻す。

マーファリーやナージャは平気そうなのに…?


「大丈夫?」

「あ、うん…」

「すみません、なんだか…」

「あれかな、魔力の低い人はドラゴンや竜人の人たちの高魔力による威圧感にやられやすいらしいから…あんまり怖くて動けないんだったら帰った方がいいよ?」

「い、いいえ! 大丈夫ですわっ」

「わ、私も帰りたい程じゃ…。でも、そんなことあるの?」

「うん。体内魔力許容量が多い人間と竜人の体内魔力許容量は同じくらいって言われてる。でも、その濃度は格段に違うんだ。魔法を使う時に収集した魔力を凝縮させるでしょう? あの時みたいに竜人の体内魔力は圧縮されてるんだ。だから濃度が人間の比じゃない。量も多いし、それが威圧感…怖いと感じるらしいよ」

「そ、それでなのね…」


そう聞くと、やっぱり竜人は半分ドラゴンなんだな、と思い知る。

ハクラよりも体内魔力が圧縮されて量もある、なんて…。

見るからに力も強そうだし…ユフィはよく平気ね…?

と、思ったら震えるユフィの横にカノトさんがピッタリくっついている。

なにあれぇ! いつの間にあんな距離感に…!

まさか恋愛イベント進行中⁉︎ 進行中なの⁉︎

…あ、いや…もしかして…。


「ハクラが側にいると震えが収まるのは…」

「俺、魔力濃度も結構あるので緩和してまーす。マーファリーとナージャは魔法を嗜んでるから、高魔力濃度にはそれなりに耐性があるんだよ」

「魔法に覚えがある人が側にいれば、お嬢様たちは大丈夫ですよぅ!」

「それでハクラ様を呼んできてくださったのね…? ありがとうナージャ」


そうだったのか。

じゃあカノトさんがユフィの近くにいるのも…同じ理由?

カノトさんは風魔法の使い手って言われてる。

カノトさんの魔力耐性の方がユフィより圧倒的に高いから、ああして隣で竜人の威圧から守ってるのね…か、かっこいい!


「まあ、竜人の人たちも別に好きで威圧感放ってるわけじゃないんだ。さっき会ったケイルさんとか、本当は猫とか犬が大好きなのに体質的に威圧感放って逃げられまくる…とても可哀想なんだよ…!」

「そ、それは可哀想ですわ!」

「そ、それは可哀想ね…っ!」

「お嬢様、ハクラ、ユスフィーナ様たちが門をくぐってしまいましたよ。追いかけませんと」


マーファリーに言われて、用意されていた魔石車に乗り込む。

ここから山頂の竜人族の街『カルーパル』までこれで登るんだって。

王都で乗った人力車風のものとは違い、屋根も扉もあって細長い馬車みたい。

自動で進み始める魔石車からは外の断崖絶壁で、赤い土が氷柱のような鋭さで地面から突き出している殺伐とした景色が延々続く。

というか、ここは、道? 道なの?

魔石車は浮いているみたいなので、特に揺れもないけど…道っぽいものはない、わよね?


「不思議な場所ね…」

「道らしいものはありませんね。…やはり竜人族の方々は翼があるから道は必要ないのでしょうか?」

「転移陣があるから別に山道をこんな風に登る必要性も、そもそもないんだろうしね」


と、カノトさんとハクラの分析を聞きながら、魔石車の上を飛ぶターバストさんや竜人の人たちを見上げる。

成る程、あの翼って本当に飛べるんだ〜。


「しかしその転移陣が使えなくなったというのは奇妙な話ですね。魔法関係なら、やはり魔法騎士隊の方に同行していただければ良かったのでしょうけれど…」

「あー、それは俺なんとなく理由分かった」

「え、本当ですか?」

「うん、空間に淀みが生まれてるっぽい。山頂の方は風の流れもおかしいから、それが原因じゃないかな」

「…僕はそこまでわかりませんでした…」


…ハクラとカノトさんがなんか小難しい話してる。

それにしても、やだなー…ハーディバルが不吉なこと言ってたし、転移陣の不備とかなんとか…。


「ハクラ、それって危険なことなの?」

「使えなくなったっていう転移陣を見ないことにははっきりしたことは言えないけど…空間に淀みがあるのは危ないかな。フェレデニク地方はバルニアン大陸で一番高い場所…。そういう場所の空間の淀みは風に乗って広がる恐れもある。転移魔法って主に『風属性』の系統の魔法に着地点として『土属性』系統の魔法も組み込まれてる複合魔法の一つ。空間と空間を繋げる魔法だから、結構ナイーブというか…それなりに繊細で、定期的に手入れが必要なんだよ」

「「そ、そうなんだ…」」


と、私と声がハモったのはナージャ。

それに一瞬ハクラが黙る。


「え、知らないの?」

「⁉︎ しししし知ってますよぉ⁉︎ …ふ、複合魔法だったのに驚いただけですよぉ〜⁉︎」

「知らなかったんじゃない⁉︎」

「ううう」


魔法使い志望のくせに、こいつめー!

見なさい、ハクラが呆れて空笑いを浮かべているわよ⁉︎


「…ちなみに、空間の淀みは修復出来るものなのですか?」

「原因を調べないと対処方法が異なるな〜。規模にもよるし…」

「では、調査が必要になりますね」

「そうだね…」

「他に何か気がかりなことでもありますの?」


領主としてなのか、ユフィがあまり表情の優れないハクラを覗き込む。

確かにいつもへらへらしてるハクラが難しい顔してるのは珍しい、かも?


「…いやー…まあ…山岳地帯は空間の淀みが生まれやすいって聞いたことあるんだよね。でも、メンテナンスしてれば多少歪んでも数週間使えなくなるなんてことはないはずだし…他に空間に影響を及ぼすなにかがあるのかなー…みたいな? …まさかミスズが召喚されたことが関わってたりして…とか」

「私⁉︎」

「可能性としてはなくはないかなー…ミスズは別の空間…異世界から来た訳だもん。…でもなー…ミスズが召喚された場所は王都だし…? フェレデニク地方とは距離あるし関係もないし? …うーん?」

「……な、なんなのよ、もう…」


つまり関係あるの? ないの?

まあ、ハクラにもよく分からないみたいだし…。

…それにしても空間の淀みかー…そう言われると、他人事とは思えないわね〜。

とか考えていると山頂に近付いて、街が見えてきた。

あれが竜人族の街の一つ『カルーパル』。

塔のような建物がたくさんある…不思議な街ね…。

ちょっと御伽の国っぽい雰囲気で素敵かもー!


「…あー、これは…やばめ」


そしてハクラの第一声とその眉を寄せた表情。

カノトさんも似たような顔だ。

やばめって、なにが⁉︎


「なにがやばめですの?」

「思ってた以上に淀みが酷い。もう歪みの域。これは転移魔法使えないよ、危なくて…」

「確かに…これだけの高さの山で、風がほとんど吹いていませんね…。これほどとは…」

「よくここまでおかしくなってて気付かなかったな。竜人の人ならすぐ気付きそうなものなのに」

「…ハクラ様もカノト様もすごいですね…。私には全然分かりませんわ」

「わたくしもです…一応得意属性は『風』なのですが…」


姉妹が頰に手を当ててそんなことを言う。

そういえばハクラもカノトさんも得意属性は『風属性』だっけ…一応エルフィも。

『風属性』は多種多様な系統を持つ万能型属性とも呼ばれている。

回復、攻撃、補助…それだけではなく飛行、伝達、転移…他にも他にも…色々なことが出来る属性。

『土属性』みたいに土を操るか土を通して植物に影響を与えるか、みたいな系統云々ではなく、風属性のどのジャンルを極めるかはその本人のやる気次第といういかにもっぽい性質がある。

カノトさんは、多分スピード強化系に特化した人なんだろうけど…。


「それに、街全体に変な気配もこもってるなぁ…なに? これ? これがこの街の普通なの?」


魔石車が街の前の門に止まる。

ターバストさんやお付きの竜人さんたちも降りてきた。

門と大きな建物が一体化している、再び関所っぽい場所…。

まるで錆びた扉が、ギシギシ音を立てて開いていく。

な、なんていかにも使ってませんでした風なの?

これも転移陣様様って感じ?

転移魔法って便利だもんね…。


「ようこそ、ユスフィーナ…ここが私の街『カルーパル』だ」

「ユスフィーナ様、僕の後ろへ」

「は、はい」

「………。君はさっきからやけにユスフィーナと距離が近いな?」

「申し訳ございません。ターバスト様の高魔力はユスフィーナ様には多大な威圧感と感じられるようですので…」

「………成る程、それならば致し方ない。だが、私の妻になる女ならこのくらい早々に慣れなければ」

「え…⁉︎ い、いえ、あの…」


なっ…………な〜〜に〜〜〜〜⁉︎

なんでユフィが悪い感じになってるのー⁉︎

そもそもお前、ユフィと付き合ってもないし〜〜⁉︎

なにあの態度! 亭主関白とか今時流行らねーのよ⁉︎

いっやな感じ〜‼︎


「…あれは少しヤバイかも」

「ハクラ様…」

「ターバストさん、『闇属性』と『火属性』の竜人なんだね。あれはやばいね。断るとき血が流れかねないや…」

「ええええっ…⁉︎」


竜人もドラゴンみたいに一途だから、好きな人が自分のものにならないと逆ギレして道連れに…なんて恐ろしいこと言ってたっけ。

い、いや〜っ! 血が流れるとかいや〜っ!

そういうのは求めてない〜!

エルフィも不安そうじゃないっ!


「まあ、最悪なことになったらどうにかするよ」

「は、はい、ハクラ様、よろしくお願いいたしますわ!」

「頼もしい! そうなったら頼むわよ⁉︎」


ハクラかっこいい!

あ、また出遅れた。

ユフィたちが街に入っていく。

というか、ここからは徒歩なのね。

領主庁舎って近いのかしら?

と、思ったら、ここが領主庁舎だったらしい。

領主庁舎の奥に見えるのが『カルーパル』の街なんだって。

竜人族の領主庁舎はユティアータのとは全然違う。

石造りで、全体的にひんやりしている。

天井はガラスのような透明な石が所々にはめ込まれてあり、そこからわずかな光が定期的に入る。

なんとなく森林浴してるみたい。

ご遺体の乗った台車が竜人の付き人さんたちによって別室に運ばれていく。

あれ…。


「あの、ご家族の方々は?」

「まず別室で家族と対面させて、身元の確認をする。話はそれからだ」

「そ、そうでしたか…」


家族の人たちもきっと驚くわよね…。

カノトさんはご家族の人たちと話をしたいって付いてきたんだし…ちょっと肩透かし食らった感じかしら。


「……………」

「ハクラ? どうかしたの?」


運ばれていく台車を眺めていた私の横で、マーファリーがハクラを見上げる。

その声につられて私もエルフィもハクラへ目を向けた。

本当だ、えらく厳しい顔つき。

ど、どうしたの。


「……ティル、起きて」

『んん〜』

「ごめん起きて。なんか、変な感じがする」


フードの中からもぞもぞと白いドラゴンが首を伸ばす。

寝ぼけ眼であくびを一つ。

ハクラと違ってなんて緊張感のない…。


『んあ〜…なにこのヘンな“けはい”…』

「やっぱり? なんだろうね…個人的には嫌いな気配」

『うん、ぼくもきらい』


でもないようだ。

二人が嫌いな気配が充満しているらしい、この庁舎内。

前方を歩くターバストさんが領主室だと促してきた部屋。

ユフィとカノトさんは早々に入っていったけど…私たちも入っていいのかしら?

カノトさんとハクラは護衛だし、エルフィはユフィの妹でユティアータの代表の一人の扱い。

とか悩んでいたら、竜人の職員さんに「代表の付き人はこちらの部屋でお待ちください」と反対側の廊下を促されてしまった。

いや、まあ、そうですよね。


「ティル」

『うーん、わかったよぅ…』


パタタ、と翼を広げてマーファリーの肩へと飛び移るティル。

え? え?


「なにかあったらティルに言って。ティルも強いから」

『くぁぁ…』


あくびしてますけど?


「こちらへどうぞ」

「…あ、は、はい」


トカゲ人間風の竜人さん。

うう、エルフィとユフィはハクラとカノトさんが一緒だから平気だろうけど…私は魔力耐性低いから竜人さんと対峙すると怖いのよ〜。

レークさんの時はこんな怖いと思わなかったのに…。

とか思っていたら、ティルがマーファリーの肩から私の肩に飛び乗った。

ヒ、ヒイィ⁉︎ …………あれ? 怖く、ないな?


『くぁぁ…』

「………ティルも魔力耐性が高いの?」

『うん、ぼくもドラゴンだからー』


ティルが喋ると竜人の職員さんが目を見開く。

その上、急に背中が丸くなり「あ、し、失礼しました」と焦り始める。

ええ? なんなのその態度?


『ハーディバルのまりょくのけはいがするぅ』

「ちょ…」


そしてティルの長い首が腕の魔力補助器に。

こらこらこらこら!


「…………………………」

「え?」

「? あの…」


ナージャがスタスタ入っていくのでそれに続いて部屋に入る。

思っていたのとは違い、石造りの真四角な何にもない部屋。

すると竜人職員さんが「すみません!」と叫びながら扉を閉めた。

え? え?


『……まっくらー』

「真っ暗‼︎」


光なんて一筋も入らない!

えええ‼︎ ど、どうなってるのーーー⁉︎











********





「ちゃんちゃかちゃーん! 次回予告の時間だよー! 担当はお馴染み! ハクラと!」

「帰っていいです?」

「そして私! ランスロット・エーデファー!」

「ど、どうも…カノト・カヴァーディルです…。え? あの、なにするんですか?」

「三角お山のトライアングルァ〜! カノトさんどうだったの⁉︎ トライアングルったの⁉︎」

「へ⁉︎ え⁉︎」

「次回、最終回!『勇者な彼女と闇翼の黒竜!』…私も気になるな! カノトくんは恋愛イベントとやらに成功したのかね‼︎」

「え、ええぇと…? な、なんのお話でしょうか?」

「絡みやがるなです。カノト氏、こいつらはシカトこいて大丈夫です」

「そ、そもそもこれはなんなんですか?」

「やっと解放されたです」

「な、なにがですか⁉︎」

「次回は最終回なんですー!」

「ハーディバル隊長⁉︎」

「…そんなに嫌だったの、ハーディバル…」

「時にハクラくん! 私の恋愛イベントはまだかな!」

「もー、ランスロットさんの恋愛イベントはもう終わったでしょ〜?」

「私の婚期もまさか最終回⁉︎」

「おっとこれを言い忘れるところでした。『尚、内容は変更になる場合があります。ご了承ください』です。ふ、ふふふ、これでお役御免です!」

「だ、だからこれは一体なんなんですか⁉︎」

「撤収〜! お疲れ様でしたー。じゃ、俺はティルのご飯作りに行くから」

「私も職務に戻るぞ! 行こうハーディバルくん!」

「じゃ、お疲れ様です」

「え、えええええ⁉︎ ぼ、僕なんで呼ばれたんですか~!?」






〜ぷちめも用語集〜




〜騎士団〜

アルバニス王国を守る騎士の称号を持つ者たちの所属する団体。※例外あり。

五つの部隊がある。

国家公務員なので安定したお給料とお休みが貰える(※例外あり)上、国民に尊敬される職業第一位。

当然だがなるのは結構厳しく、入隊試験に合格し、半年間の騎士学校生活を経て衛騎士隊の下っ端からスタートする。

その他、各騎士隊隊長のみスカウト権限があり、隊長に頼み込んで入隊する者や『剣舞祭』優勝者は試験なしの入隊が可能。

ちなみに隊長に頼み込んで入隊した人は大体死ぬ目に遭うのでオススメしない。

現在は団長が騎馬騎士隊のランスロット・エーデファー。

副団長は衛騎士隊のカミーユ・テンプルトン。



〜騎馬騎士隊〜

騎士団の花形でもある。

魔獣を討伐するのが主な任務。

剣、槍、弓、体術に優れたものが集まる部隊。

乗馬能力も加味され、街中の他、海と空以外の討伐任務を得意としている戦闘のエキスパート集団。

隊長はランスロット・エーデファー、副隊長はアルフ・メイロン。



〜魔法騎士隊〜

騎士団を構成する部隊の一つ。

魔獣を討伐する他、他の部隊のサポートなどを担当する。

魔法のエキスパート集団。

後方支援だけでなく回復から転移まで割となんでもこなせるのが強み。

ただし、偏屈でちょっと変な人が多いのが弱み。

特に現在は隊長がハーディバル・フェルベールなのでややドM系が多い。

副隊長はやはりドMの竜人、レーク・スティルページ。



〜天空騎士隊〜

騎士団を構成する部隊の一つ。

地上で手に負えない、空の魔獣を担当。

飛竜エアドラゴンや、翼竜ウインドドラゴンなどドラゴンの他にグリフォン、ペガサスに乗り魔獣を討伐する。

騎馬騎士隊同様、派手で人気の高い部隊。

が、入隊を希望してもまず相棒になるドラゴンや動物を探し、心を通わせなければならないのでなるのはかなり難しい。

小回りの効かない生き物に乗っているので森や街中は苦手。

隊長はドラゴン愛がヤバイが顔面人気も高いスヴェン・ヴォルガン。

副隊長はオーディ・レイアンス。



〜海竜騎士隊〜

騎士団を構成する部隊の一つ。

海を始めとした川や湖などの水中の魔獣を担当。

シードラゴンという海のドラゴンを相棒として魔獣を討伐する。

活動場所が水中と限定されている為、海沿いや川沿いや湖付近に駐在しており、街中などではほとんどお見かけしない。

が、その近辺の人々からの人気と信頼は絶大。

海辺の子供の将来なりたい職業は海竜騎士隊。

だが隊長、ラッセル・フリューゲルに憧れる子供は少ない。

副隊長、シェルシィ・リッテルベンツの方が人気がある。

これは仕方ない。



〜衛騎士隊〜

騎士団で最も多くの騎士を抱える騎士隊であり、主に騎士は彼らの事を指す。

独自の指揮系統と序列を持つ。

討伐任務より、治安維持や犯罪の取り締まり、落し物の管理から道案内、喧嘩の仲裁、酔っ払いや迷子の保護まで幅広く市民の皆さんの安心安全を守るのがお仕事。

他の四つの騎士隊に入るには二年間衛騎士を務めることも条件になっているほど、騎士団の中では重要な部隊。

その為、騎士団の団長または副隊長は必ず衛騎士隊の隊長が就任することが決まりになっている。

そんな衛騎士隊の現隊長カミーユ・テンプルトン氏はそろそろ引退して老後をゆっくり妻と子供たちと猫と共に静かな湖畔の一軒家で過ごしたいと思っているが、奥さんが許してくれない。

副隊長のクレイドル・ミルフレールがまだまだ未熟なのもあり、カミーユ氏が引退するのはまだ先になりそうである。



〜魔銃竜騎士〜

世界でハクラ・シンバルバのみが名乗る事を許された称号。

アルバニス王国騎士団の特殊騎士であり、応援要請があり、彼が協力を承諾しなければ仕事しないという、ある意味無茶苦茶な騎士。

特殊騎士の中でも、特殊中の特殊。

『獄炎竜ガージベル』より特別に与えられた魔銃と、ティルというホワイトドラゴンに協力してもらいながら戦う独自のスタイルよりこう呼ばれるようになった。

魔銃…魔法銃は元々アルバニス王国に存在する武器の一つだが、ハクラが使用するものは『八竜帝王』ガージベルがハクラに与えたもので、特別な力を持つ。

それでなくとも体内魔力容量が多いのに、どんだけチートなんだ、と誰かが言ったとか言わないとか。



〜ニーグヘル〜

ヴォルガン大陸、ヴォルガン地方にあるドラゴン公園に棲まうドラゴン。

『八竜帝王』に次ぐ力を持つ『十六霊竜』の一角。

『賢者ザメル』の最初の子供の一体と言われる地竜。

人間と共生する道を選んだ数少ない人語を話すドラゴンで、特別なお酒と引き換えに人間たちへ魔石を作って与えてくれる。

要するに飲兵衛。

お酒大好き。

珍しいお酒を持っていくと、珍しい魔石を作ってくれるという。

とは言え、彼と契約している酒蔵の一族以外はなかなか会うことが出来ないので、珍しいお酒を持って行くときは気をつけよう。



〜ホーリーアール〜

ヴォルガン大陸、ヴォルガン地方にあるドラゴン公園に棲まうドラゴン。

『八竜帝王』に次ぐ力を持つ『十六霊竜』の一角。

『銀翼のニーバーナ』の最初の子供の一体と言われるホワイトドラゴン。

人間と共生する道を選んだ数少ない人語を話すドラゴンで、人間たちへ魔獣を浄化する特別な魔法を与えてくれる。

魔獣はダメージを負うと傷口から自然に邪気が抜けて浄化されるが、ホーリーアールの与えた浄化魔法はそのスピードをさらに早め、素体となった生き物などの傷を残さない。

騎士団をはじめ、勇士や傭兵の中にもホーリーアールよりその魔法を授けられている者も少なくなく、結構簡単に会えるすごいドラゴンとして有名。

そう、会えるアイドルである。

ただし、魔法を教わるには「人間にしか思いつかないギャグ」を言ってホーリーアールを楽しませる必要がある為、習うのは難しいらしい。

知らずに行くと、地獄を見るぞ!



〜領主〜

一番偉いのが地方領主。

地方領主から各街や村を任されているのが、都市領主や町長、村長。

地方領主のほとんどはアルバニス王国建国間もない頃王族を名乗り、土地を治めていた元王族が多く、アルバニス王国に吸収されて王族ではなくなってからも土地を任されている形。

街や村の長たちもその分家や部下だった一族の者が多い。

だが、中には能力の高さを認められ、指名されて領主になった者もいる。

意外と実力主義。

地方領主も同様で、元王族が衰退して能力の高さから地方領主になった人もいる。


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