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恋愛脳オタクの初異世界生活と闇翼の黒竜  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
【連載版】恋愛未満は甘辛い? 勇者と英雄とレベル4⁉︎
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第8話!


 長い夜だった気がする。

 屋敷に戻って部屋でぼーっとしていると、空が赤らんできて見えて「あー、全然寝れなかったわ」と自覚した。

 徹夜なんてゲームに夢中になっている時くらい…………だった、な。

 まだ領主庁舎で後処理に追われるユスフィーナさんとエルフィ、アルフ副隊長はもうきっと先の事へと気持ちを切り替えてる頃よね……。

 それに比べて私ときたら……。

 …………………………。

 かなりショックだった。認めるわ。

 魔獣というものの認識。

 異世界の人間の私には、その本当の恐ろしさを理解していなかった。

 人……人間なのね。

 人間が誰しも持っている感情。

 誰でも魔獣になってしまう。

 パーティの時にハーディバルが女の子たちに「魔獣にならないように」と言い聞かせていた……あれの本当の意味。

 魔獣になって助けてもらえなければ、悲しい気持ちや辛い気持ちを抱えたまま邪気に溶けて死んでしまう。

 怖い。

 だって人間だもの、感情はどうする事も出来ない。

 魔獣がどれほど悲しく、恐ろしいものなのか……こういう事だったんだ……。

 この世界に来て初めて心の底から怖い。

 部屋でじっとしているのもなんだか寂しいというか辛くなってきて、扉を開けて廊下に出る。

 そろそろ使用人やメイドたちが起き出す頃だと思うけど、彼らは別邸に部屋があるから本邸には誰もいないのよね……。

 仕方ない、書庫で時間でも潰そうか。

 上着を持って廊下をまっすぐ進む。

 突き当たりの扉を開くと、あれ?


「ハクラ?」


 書庫が明るい。

 よくよく見渡すと、二階階段の上段に人が座り込んで山積みの本に埋もれている。

 白と黒の髪が見えて、そんな珍しい髪色は一人しか思いつかない。


「ん〜? ……あれ? 寝たんじゃないの?」

「いや、あんた庁舎に泊まってたんじゃないの?」

「怪我人が病院に運ばれたからやる事なくなってさー。そういえばユスフィアーデ家の書庫を見せてもらいたかったなって思い出して……」


 そう言えばいつだったかそんな事言ってた気がするわね……。

 背伸びをしたハクラはついでに欠伸までして、本の上に寝ているティルを撫でる。

 それから立ち上がって「寝ないの? それとも眠れない?」と、優しい声で聞いてきた。


「……眠れない、かな。……まあ、もう起きる時間だし……このまま朝ごはん食べてまた庁舎にご飯届けに行こうかな……」

「え? 朝?」

「……朝よ? ほら、そろそろ日の出じゃない? 空が明るいもの」

「げっ……、ま、また徹夜しちゃったよ……」

「…………」


 本に夢中になってた、らしいのは……この山積みの本を見る限り間違い無いわね。

 また、という事は常習だな、こやつ……。


「……なにこれ、ジャンルバラバラ……」

「全部面白くて止まんなくなっちゃったんだよね」


 歴史、考古学、魔法、料理、文学、数学書、政治学……。

 手当たり次第って感じね。

 私には難しくて読んでないやつばっかり。


「…………それにしても昨日の夜と違う人みたい。お化粧ってすごい。もはや詐欺のレベル……」

「殴るわよ」


 本の山から立ち上がって顔を合わせるなりそれかい。

 そんなの自分が一番分かってるわ。

 ハッ! ……それ以前に今すっぴんか!

 ……くっ、この正直者め……!!


「よっと……まぁいいか。ミスズはこの世界には慣れた?」

「……そうね……慣れたと思ってた。……けど……」

「けど?」


 どうやら本を元の場所に戻すらしい。

 仕方ない、手伝ってやるか。

 書庫の事なら私の方が知ってるし……。


「……魔獣の事は、本当の意味で分かってなかったのかも……」


 何冊かの本を床から持ち上げる。

 ジャンルバラバラだから、結構大変かもしれない。

 とりあえず同じジャンルの本に分けてから元の場所に戻してくるか……。


「そうかもね。俺もレベル4は初めて見た」

「……レベル3も珍しいんでしょ?」

「うん。数十年ぶり。レベル4は多分多国間大戦時代以降初めてだと思うよ」

「……! そんなに……!?」

「うん、それだけ長い間、アルバニス王国はレベル1、いってもレベル2までで民を助けてきたんだ。レベル3以上は素体になった人間は死ぬ。他の魔獣も巻き込んで。……この国は昔学んだ教訓を生かして、守ってきた。アバロンじゃこうはいかないだろうな……」

「………………」


 近くの棚のものから持ち上げて戻す。

 ハクラは私が手伝い始めると笑顔で「ありがとー」と言う。

 その笑顔がなんだか無邪気過ぎて、少しだけ笑えた。

 なんて能天気。

 羨ましいくらいだわ。


「ありがとミスズ。本を戻す場所、俺じゃ分からなかったよ」

「手当たり次第に読むからよ」

「はーい」


 あらかた返し終わる頃にはもう、空は太陽が照らし始めていた。

 みんな起き出す頃ね。

 ……はぁ、本当に長い夜だった……。


「あーあ、あっという間だったな〜……本を読んでると時間を忘れるよね」

「……そうね……」


 あの本の量には驚いたけどね!

 一晩でどんだけ読んだんだ!


「……ミスズはどう思う?」

「え? 何が?」

「俺はね、結構イラっとしたよ」

「……だ、だから何が?」


 笑顔のくせにセリフはなかなかそうでもない。

 イラッとした? な、何が?


「レベル3、レベル4まで魔獣を育てた奴らがいるかもしれないって事。……レベル3とか4になるまでに、どれだけ人が死ぬと思う? 片手の数じゃ足りない人数なんだよ? ……やってくれるよね……」


 びりっときた。

 ハクラが本気で怒ってる。

 ……でも、その言葉には……その言葉の中には……人の命を軽んじている奴らへの怒りで満ちていて……。

 私もどんどん腹が立っていた。

 ああ、そうか。

 そうよね……? 人為的に魔獣を何かに利用している奴らがいるかもしれない。

 そいつらが魔獣を……本当なら浄化して助けてあげられた人たちを……遺体の判別ができなくなるくらい……めちゃくちゃにしたんだ。

 ひどい。苦しくて魔獣になった人たちの、その死に方や遺体まで弄ぶ行為……!

 ひどい、なんてひどい……!!


「許せない……。私も許せない……」

「……そう? やっぱり?」

「当たり前じゃない! だって、ひどすぎる! 誰も魔獣になんてなりたくてなったわけじゃないでしょ!? ユスフィーナさんやエルフィをあんなに泣かせのも許せないし…………人の心や命をなんだと思ってるのよ!」

「そうやって正義感の強い人間の怒りを煽るのが目的だったらどうする?」

「え!?」


 はたと、怒りが冷めていく。

 あ、そうか……。


「……怒りも負の感情……」

「そう。許せない気持ちは俺も分かるけど、怒りも魔獣に変わる要因の一つ。激情は魔獣化の引き金になりかねない。お互い気をつけようね」

「……はい……」


 もしかして、注意喚起含めて私の事煽った?

 ……恐ろしい子……。


「冷静でいるって、結構難しいのね……」

「人間だから仕方ないよ。その人その人で性格もあるし」

「……あんた私より歳下のくせに落ち着いてるわよね……意外と……」

「ミスズより人生経験豊富だからね」

「…………………………」


 なんか反論が出来ない……!

 ……こいつの武勇伝はこの世界に来てからそれなりに聞かされてきたし!

 主にマーファリーから!


「なんかムカつく!」

「あはは」

「余裕そうなのもムカつく!」


 なんとかこいつにギャフンと言わせてやれないかしら!

 うーん、ハクラの苦手なものとか、嫌いなものとか!

 思い出そうにも、遭遇回数そのものがそんなに多くないのよね!

 まだそこまで情報がない。

 ハーディバルの弱点は分かってるけど!


「あんた何か苦手なものとか――」

「内緒。……それより、ミスズは今後どうしたいの」

「え?」

「多分、ユスフィーナさんたちはこれから騎士団と協力して、レベルの高い魔獣が生まれる原因を探っていくと思うよ。ミスズは異世界からのお客さん扱いだから、別になにもせず今まで通りの生活をしていればいいと思うけど」

「それは無理!」


 きっぱり、それは断言するわ!

 だって、魔獣を利用する奴らがいるかもしれない。

 ユスフィーナさんやエルフィを苦しめている奴ら……この町の人たちを困らせて怖がらせる奴ら……。

 人の命や心を踏みにじる奴ら……!

 そんなの許せない!

 確かに私は一般ピーポーに過ぎないけど……。


「私も何かするわ! どうすれば良いのかは分かんないけど……エルフィやユスフィーナさんは私に住む場所やあったかいご飯、着る物も、本当に私がなんの不便もないように親切にしてくれた。この家の人たちもみんな優しいし……」


 たまに厳しいけど……。

 それは置いておいて。



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