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恋愛脳オタクの初異世界生活と闇翼の黒竜  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
【連載版】恋愛未満は甘辛い? 勇者と英雄とレベル4⁉︎
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第7話!


 ハクラご所望の晩御飯を作ってもらい、庁舎に戻った後……私は領主室にて同じくご飯を頂いていた。

 領主室にはハクラとエルフィ、ユスフィーナさんとアルフ副隊長、そしてカノトさん。

 き、気まずい……。

 あれぇ? どうしてこうなった?

 確か食事だけ置いて帰ろうとしたら、エルフィが私にご飯を食べたか聞いてきて、パーティで少し食べたと言ったらハクラが「え、パーティの話聞きたい」と満面の笑みで言い出したから……そのまま着席してご飯になったのよ、ね?

 なんかそれにしては空気が重い……。


「ねえ、ハーディバルはちゃんと女の子と仲良くなった?」

「なるわけないでしょ」


 ……ああ、そうだ……出だしでハクラがそんな事聞いてくるもんだから、つい私がきつめに返してしまったのが原因だわ……!

 だ、だってハーディバルの奴、女子を三回連続でぶった斬りしたのよ?

 なにあいつお見合いパーティでまで毒舌無双してくれちゃってんのよ。

 ハクラも「あ、なんかヤバイ事があったな」って変に気ぃ遣ってそれ以降話しかけてこないんだもん……お陰でこの空気よ! 最悪よ!

 エルフィとユスフィーナさんは途方もなく暗い顔で全然ご飯進んでないし、カノトさんとアルフ副隊長は黙々と食べててまるで食事すら作業の一環と言わんばかり!

 な、なんとかしなさいよ、ハクラ!

 元はといえばあんたのせいよ!


「時に、ハクラ」

「なーに?」

「結界魔法はどれくらい保つのよ?」

「……どんくらいって言われても……続けようと思えばずっと張ってられるけど……。でも、俺用事があるからね?」

「わあってるよ。そのためにアバロンから戻ってきてるんだろう? しかし、そうか……ハーディバル隊長といいお前さんといい……体内魔力量の多い人間ってのはホント常識が通用しないねぇ〜」


 食事を早々に終わらせたアルフ副隊長、ナイス!

 お陰で若干場の空気が和らいだ、かも。

 ……ん?


「え? ハクラ、ずっと結界張ってられるって、寝てる時も?」


 それは流石に無理くない?


「え? 出来るけど」

「はあ? ど、どうやって? だって魔法って集中力とかいるんでしょ!?」

「結界魔法はその範囲じゃないよ」

「いやいや、お前やハーディバル隊長くらいだぞ〜?」

「そんな事ないでしょ。フレディやヨナはそもそも補助系苦手だからアレだけど、ドラゴンはみんな出来るって言ってたよ」

「……ドラゴンを基準で持ち出すなよ……」


 ……あ、こいつとハーディバルは規格外で参考にならないのか。

 そうか……。


「……体内魔力量が多いって、どんな感じなんですか?」


 口を開いたのはカノトさんだ。

 おお、初めてまともに声聞いた。

 ……そういえば、顔もまともに見た気がする。

 葡萄色の髪と瞳の、儚い系詐欺のハクラと違って本当に儚い系の綺麗なお兄さんって感じ。


「どんなって?」

「いや、その、魔法を使う時の感じとか……。僕も魔法は使うけど、僕が使う時とはやっぱり違うんだろうなって……」

「うーん、アバロンで使う時は体内魔量の範囲でしか使えないけど、バルニアンは無制限で使いたい放題って感じ?」

「そ、そんなに……。……それでハーディバル隊長はあれ程のゴーレムを作り出したのか……」

「多分その気になればあのレベルのゴーレムはもっと作れたと思うよ、十体くらい余裕で」

「え……!? あ、あれを……!?」


 ……う、うわ……なんか恐ろしい事言い出したわよこの子……!

 ま、まじか〜、毒舌ドS騎士〜!


「……万が一邪竜が現れても倒せると思うかい?」


 やけに真剣な声色でアルフ副隊長がハクラに問う。

 エルフィとユスフィーナさんも顔を上げてハクラを見た。


「俺は倒せると思うな。邪竜がフレディたちより強かったら無理かもしれないけど。フレディたちより強いなら多分、アルバート王よりツバキさんが黙ってない。今怒りっぽくなってるから余計」

「……そ、想像するのも恐ろしいな……」

「? ツバキ……さん?」


 その名前の響き……。

 えーと、どこかで聞いたような……?

 いや、そうじゃなくて、まるで私の世界の人みたいな名前……!


「その人、私と同じように召喚されてきた人?」

「え? いや、違うよ? なんで?」

「……なんだ、違うのか……。日本人っぽい名前だからそうなのかと思った」

「あー、そうだね。幻獣族の人は大体ミスズみたいな感じの名前だね」

「へえ、そうなん……」


 ……へ、へえ? そ、そう……え?


「え?」

「ツバキさん、知らないの? フレディたちを産んだ幻獣だよ。人間でいうとお母さん」

「…………あ……! そ、そうか……! フレデリック王子たちは、ハーフなんだっけ……!」


 忘れてた。

 半分神様のお父さんと、幻獣の間に生まれたとんでもないハーフの王子様。

 それがこの国の王子様。

 そ、そうか、どこかで聞いた事……そりゃ、あるわけだ。

 マーファリーとの勉強で習った気がするよ……!


「……幻獣族は戦闘種族だから割と喧嘩っ早いんだ。そうでない人もいるけど、ツバキさんは怒りっぽいタイプ。最近それに輪を掛けて怒りっぽい。お陰で王族の居住区全体ピリピリしてて居づらいったら……」

「あはは、ご愁傷さま〜」

「んもぉ〜、アルフさん他人事だと思って〜!」

「しかし……邪竜……。本当に現れると思いますか?」


 カノトさんが真顔でハクラとアルフ副隊長に聞いた。

 誰もが気になっている事。


「さぁねぇ……敵さんが何狙いなのかも分からんからなんとも言えないわ」

「敵?」

「そう」

「魔獣の事、よね?」


 敵というと、と伺うように聞くとハクラは首を振る。


「初めて会った時の事覚えてる?」

「まあ、そりゃ一ヶ月前の事だし覚えてるわよ?」


 衝撃的だったし。


「俺とハーディバルはミスズが召喚された学校の学園長さんに頼まれて、邪悪な魔力を調べてたんだ」

「邪悪な魔力?」

「そう。大まかに邪気……の部類かな……」

「!」


 邪気……!

 邪気は負の感情や悪い感情や邪な思想、野心、邪心など、人を魔獣に変える『モノ』、魔獣の餌となる『モノ』全部ひっくるめた呼び方だ。

 人間の複雑な感情はとても様々なものがあり、本来一概に言えるものじゃない。

 だが、だからと言っていちいち負の感情だー、悲しみだ、怒りだー、なんて分析もしてられないので騎士団などではひとまとめにそう呼ぶようにしているという。


「邪気の部類ではあるが、邪悪な魔力は魔獣の使う魔力に限定されるのよ」

「え!?」

「つまりミスズが召喚された学校には魔獣の痕跡があったって事」


 私が召喚された学校にはそんなものがあったの?

 うわ、なんか今更ゾワーって背中寒くなってきた……!


「……おかしいんだよね、ここ数年。そういう邪悪な魔力の痕跡があるのに魔獣はいない、って事が結構あったんだ。王都に限らず国中でね」

「……そ、そうなの……?」

「そうなのよ〜、気味が悪いったらない。手当たり次第に調べてはいたんだけど……明らかに人の手が加わっているっぽいのよ」

「……人為的に魔獣の痕跡が残されていたという事ですか?」


 カノトさんの鋭い眼差し。

 ハクラとアルフ副隊長は緊張感なさげに話しているけど、胸がぞわぞわする。

 人為的に魔獣の痕跡が残されている……って、なによ、それ。


「ハーディバル隊長や殿下たちは古代魔法の類が関わっていると睨んでて、その線で調査を続けてたの。魔獣を使った呪術が『図書館』の禁書に載っていたし、それに似た類の何かじゃないかと睨んでる。古い魔法は専門家が必要になるから、どーしても調査にも時間かかっちゃうのよね〜」

「……禁忌の魔法を持ち出し、魔獣を悪用して何かを成そうとしている者、あるいは集団がいると」

「多分ね。国中に痕跡がある事から一人や二人じゃあなく、かなり組織的なモンじゃあないか、ってのが騎士団の総意。過去にもそういう危ない奴等は何度か現れたみたいだけど、今回はちょっと規模がねぇ……」

「……そ、その者達が今回のレベル4を生み出した、という事ですの?」


 恐る恐る、ユスフィーナさんが口を開いた。

 いや、と首を振るアルフ副隊長。


「先月のレベル3も(やっこ)さん達の仕業だと思うよ。ハーディバル隊長の勘だけどねぇ……あの人の勘、ランスロット団長の『騎士の第六感』並の精度だから……ユティアータが狙われてると思って間違い無いんじゃないかしら」

「な!」

「そんな、なぜ……っ」


 思わず立ち上がって、震えた声で叫ぶエルフィ。

 ユティアータが狙われている?

 ほんとよ! なんで、なんでこの町が狙われなきゃならないの!?


「さぁねぇ……領主さんたちに心当たりがないんなら、これから本腰入れて色々調べていくしかないねぇ。……はぁ、嫌だねぇ……通常業務プラスアルファ……それでなくても人手不足なのにぃ。俺の休暇半年前なのよ〜……次はいつ休めるのかしら」

「ご、ご愁傷さま〜……」


 今度はハクラが落ち込むアルフ副隊長に労りの言葉を贈る。

 ……え、アルフ副隊長……まさかやる気ないというより過労による疲労感……?

 た、大変なんだな、騎士団……。

 そういやハーディバルも割と忙しそうだっけ……。

 パーティの時も忙しいから誕生日に招待するのを遠慮してもらってるとか、言ってたなぁ。


「というわけでカノト氏どう? 騎士団に入らない? 休日の保証はないけどやり甲斐とお給料の保証はするわよ? 今なら部隊は選び放題。オススメは騎馬騎士隊。いかが?」

「え!? ……い、いえ……し、しばらくは傭兵として色々な土地を見て回ろうかと思っていたので……」

「そう言わないで〜、前向きに検討してみてくれない? カノト氏が入ってくれるとかなり楽になると思うの〜。おじさんの一日の休日のためにお願〜い」

「そ、そう言われましても」

「フレディが『お肉大好き〜』って主張してから畜産業界に人が流れるようになって騎士を目指す人が減っちゃったんだって。俺は年がら年中バルニアンに居るわけじゃないから特殊騎士って扱いで正式に騎士団に所属してないんだよね。この国にいるなら俺からもお願〜い」

「えええ……」


 えええ……フレデリック王子の「お肉大好き〜」主張で人が畜産業界へ流れたから騎士団が人手不足〜!?

 そ、そんな理由で!?


「……は、はぁ……分かりました。少し考えてみます……」

「「やった〜〜」」


 ……本当にハクラとアルフ副隊長が揃うとゆるいわね〜……。

 ………………。

 ユスフィーナさんとエルフィは真逆で、すごいショックを受けてるのに……。


「アルフ副隊長、ユスフィーナ領主様」


 こんこん、と扉がノックされる。

 入ってきたのはアルフ副隊長の連れてきた騎馬騎士隊の人だ。


「レベル4に魔獣化していた素体と思われるご遺体が一名だけですが、形の分かる状態で回収されました」

「お? 本当? そりゃあ運がいいね〜」

「……え? ……あの、アルフ副隊長様……一名だけというのは……? レベル4の魔獣は五体のはずでは……」

「……ご存知かと思いますが、魔獣は負の感情や悪意などを喰らい成長します。あるいは同じ魔獣同士で喰らい合い、より邪気を増して強く、巨大になっていくもんです」

「は、はい」

「レベルが上がるという事は、ただ邪気を蓄えるだけでは難しい。魔獣同士で喰らい合う必要がどうしても出てくるんですよ。……レベル3以上の魔獣は喰らう事で砕けた骨や肉が邪気に溶けて素体となった者は元より、喰われた魔獣の素体も同じように混じり合っちまって……まあ、そういう事になってるんです……」

「…………っ……」


 う、うえ……嘘……。

 グ、グロ……っ。


「ぜ、前回のレベル3の時はそのようなお話は……」

「そりゃあハーディバル隊長とフレデリック殿下はフェミニストですからねぇ……」


 ……気を遣って黙っててくれたのか……。

 そうだよね……そんな話、あの二人はてんてこ舞いになっていたユスフィーナさんにはしなさそう。

 まして、前回の時は…………ユティアータで行方不明になった人がほとんど帰ってこなかったらしいもん……。

 あ……じゃあ、つまり、帰ってこなかった人たちは――っ。


「お嬢さんたちは見ない方がいいでしょう。というか、領主様は落ち着かれたのなら執務に戻ってください。そっちも滞ると色々まずいでしょ」

「………………、……わ、私のせいで生まれてしまった魔獣の末路であるならば……私は、目に焼きつけておく必要が……ありますわ……」


 震えた声で、震えた体で……ユスフィーナさんがそんな事を言い出した。

 そんな、だって……とてもじゃないけど……!


「違うよ」

「……僕もそう思います、ユスフィーナ様。魔獣を悪用している者達がいる可能性……アルフ副隊長がそう仰っていたではありませんか。……背負わなくて良いものまで、貴女が無理に背負う必要はありません」

「で、ですが……」

「ユスフィーナさん、自分がやらなきゃいけない事をちゃんと考えた方がいいよ。最優先でやらないといけない事は、自分を罰する事じゃないし、考えなきゃいけない事は死んだ人の事じゃない。大事にするべきなのも考えるべきなのも今生きてる人たちの事だ」


 違う?

 とハクラとカノトさんが頷いてユスフィーナさんの答えを待った。


「お姉様……」

「……………………………………」


 震えて立ち竦むユスフィーナさんに、エルフィが寄り添って、抱き締める。

 アルフ副隊長が「では、また後ほどご報告に参ります」と言い残して扉を閉めた。

 虚しいほど静かになる領主室。

 ……私……なんでここにいるのに……こんなに何も出来ないの。

 なんて言えばいいのかも、どうしてあげたらいいのかも全然分からない。

 ユスフィーナさんのせいじゃない、なんて気安く言えないよ。

 だってユスフィーナさんは……この町の領主。

 この町の人が死んだ事を、どうして無責任に「貴女のせいじゃない」なんて言えるの。

 慣れていないから。

 領主になったばかりだから。

 そんなの、命を落とした人たちに言えるわけがない。

 あの役立たずな底辺傭兵たちがちゃんと仕事をしていたら……死ななくてもいい人たちがたくさん助かったかもしれないのよ。

 そいつらを放置した……ユスフィーナさんには……。


「……………………………………」


 誰よりもその痛みに苦しんで泣いている人に、どう声をかければいいの?

 ううん、答えはもう、エルフィが実践してる。

 立ち上がって、嘆くユスフィーナさんと、姉を抱きしめるエルフィごと抱き締めた。

 エルフィの緑色の瞳が涙で濡れている。

 一度だけ開いたその瞳に頷いて見せて、私もただユスフィーナさんが泣き止むまでじっと彼女を抱き締め続けた。



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