第6話!
「ええ、僕の本名、フレデリック・アルバニスといいます」
えええええ!
町の人たち他、ナージャや屋敷の使用人、メイドの皆さんも驚愕して後退りする。
中には腰を抜かした人も。
ですよね。
「で、で、で、殿下がなぜここに!?」
「もちろんレベル4を倒しに」
あれ、おかしいわね……今副音声で『レベル4で遊ぼうと思って』って聞こえた気がしたんだけど……?
「殿下自ら……!?」
「お、俺たちのために?」
「ええ、もちろん。大切な我が国の民を、僕が守りに来るのは何かおかしな事ですか? ……まあ、少しやりすぎて騎士団の仕事まで取ってしまいましたが……」
ハーディバルに「引っ込んでろ」とまで言われてたのに「早い者勝ち」とか言い放ってたほどね……。
「ユティアータの民よ、それ程不安になる事などありませんよ。何かあれば騎士団は元より、僕が必ず駆けつけましょう。ユスフィーナ・ユスフィアーデは確かにまだまだ領主として未熟かもしれませんが、彼女の民を……いや、あなた達を想う心の強さを僕は認めている。今トルンネケ地方に彼女以上にユティアータを想う者はいない」
『いまは、ぼくやパパもいるよ』
「うん、まだしばらくは居るよ。カノトさんも来てるから、レベル4がまた来ても平気平気。邪竜が出ても倒せる気がするしね〜」
「……まぁ、王国始まって以来の戦力が集まってますからね……今の時代……。父も邪竜退治に自分が出なくても良さげだとぼやいてましたし」
過去最強かよ。
……ちらほらと、というか、どんどん町の人たちは安堵の表情に変わっていく。
殿下がまた来てくれる。
『三剣聖』や『魔銃竜騎士』が居る。
そしてなにより王子の認めた領主が、自分達のためにどれほど心を砕いていたのか……。
お願い、分かって。
ユスフィーナさんは、本当に頑張っていたの。
その頑張りが追いつかなかったのは……本当に悔しいけど……。
「殿下がユスフィーナ様をそこまで評価してるなら……」
「あ、ああ……俺たちが知らなかっただけで、ユスフィーナ様は頑張ってくれてたのかもな……」
「そ、そうよね、ユスフィーナ様はまだお若いし、領主になってたった一年……。私たちが期待しすぎたのかも……」
「長い目で見てやればいいのか? で、でも……」
やはり少し不安は拭いきれていないのかな……。
先ほどの鬼のような顔の人はいなくなったけど、不安そうな顔はちらほら。
「魔獣の件は調査中です。恐らく、何か原因があると思われます。騎士団が本格的に調査を始めていますから、すぐに原因は突き止められるでしょう」
「多分、解決するまでは騎士団の隊長が一人は駐在してくれると思うよ。大丈夫大丈夫。カノトさんもいるしね」
「ええ、カノト・カヴァーディルはランスロットと同じ『三剣聖』……騎士団の隊長クラスの実力者です」
これを聞いて「おお……」と声が漏れる。
……ハーディバルがとんでも巨大ゴーレムを生み出して、レベル4を千切っては投げ、千切っては投げてたのであのレベルの人が二人いると思うとそりゃ安心だわ……。
むしろ過剰戦力では?
今度こそ、町の人たちは安心した顔で頭を下げて、庁舎を次々後にした。
ええ〜〜……わ、私たちの数時間の苦労は?
……いや、円満解決でいい感じだけど。
「ありがとう、ハクラ、フレデリック王子……あと、ティル」
『なんてことないよ』
「遅かれ早かれこうなっていたでしょう。……でもまさかレベル4が現れるとはね……」
「あれが邪竜の一歩手前か……」
「……………………」
邪竜……。
もはや伝説の存在。
魔獣の最終形態で、ドラゴンの魔獣化した姿。
幻獣族はこの世界の創造神の子孫で魔獣化する事はないが、ドラゴンは究極的に邪気を溜め込んだ生物が最後に進化する姿でもある……らしい。
理性はなく、破壊衝動と食欲にのみ支配された怪物。
この世界のドラゴン族が人間を忌み嫌う最大の理由が邪竜を生み出した事があるからだという。
そしてレベル4は、その邪竜の一歩手前の姿。
そんなものが五体も現れた。
じゃあ……まさか次に現れるのは…………。
「まあ、ガチで現状戦力なら倒せそうだけど」
「少なくともフレディは倒せそう」
「父に倒せたなら倒せると思います。問題は食べられるかどうか……」
「ええ〜、やめてよ食べないでよ……! なんかフレディが邪竜を食べるとか想像したくないんだけど!」
「でもたまにドラゴンって食べたくなるんですよね……」
『ぴゃあ〜〜!』
「ティ、ティルは食べませんよ」
……なんの心配もなさそうである……。
「……あの、殿下……エルファリーフお嬢様とユスフィーナ様は……」
マーファリーとナージャが心配そうに二人を見る。
そうか、二人とも領主室の中か。
町の人たちが押し寄せて来たの、きっと怖かったしショックだっただろうな……。
「大丈夫……じゃないわよね……」
二人ともこの町の事を本当に大切に思ってるもの。
絶対落ち込んでるよね……。
「そうだね、二人ともかなり落ち込んでる。屋敷に帰して休ませたいところだけど……結構問題山積みだし今日は無理かな。フレディは帰った方がいいと思うけど」
「うっ……。まあ、そうだね……。僕抜きで対策会議は始まってるだろうし、僕がいなくてもどうにかするだろうけど……今後の指揮は取らないとダメかな」
「あ、それからフレディが急に留守にするから、俺がヨナの執務手伝いする事になったんだからねー?」
「あはははは」
なんか緩いわね、この二人。
力が抜けるというかなんというか。
「……ねぇ、私に何か出来る事ある?」
前の『魔獣襲撃事件』の時は本当になにもできなくて……エルフィやユスフィーナさんが夜通し頑張っていた時も屋敷でお茶飲みながらお菓子食べてのんびりしちゃった。
でも、今度は何かしたいのよ。
魔獣と戦ったりは絶対無理だけど。
「わたしも……! お嬢様たちのために出来る事はありませんか!?」
「……ナ、ナージャも…………ワタシも……出来る事あれば、やりたい……」
「じゃあ何か差し入れ作って来てあげたら? 俺お腹すいて来たよ〜」
『ぼくも〜』
「そうですね、何か食事を持って来てあげてください。僕はこのまま帰りますが、あの姉妹は少し何か入れた方がいい。食欲がないと言いそうですが、倒れられては余計に町が不安定になるでしょう。それにハクラは町を覆う規模の結界を張り続けている。本来ならあまり動かない方がいいんでしょうが……」
「うーん、別にこのくらいなら平気だけどね〜……。お腹減るとちょっとやる気が減る」
「す、すぐ持ってくるわ……」
お腹減るとやる気も減るの!?
ま、魔法って奥深い……!
「……あ、あの……殿下、ハクラ……」
「うん?」
「こんな時に、本当は言うべきじゃないとは分かっているんだけど…………グリーブトで、助けてくれて……本当にありがとうございました。……今日も、ユティアータを守ってくれて…………わたしの大切な場所を……守ってくれて…………ほ、ほんとうに…………ありがとう……!」
ぽろり。
マーファリーの目から涙が床に落ちる。
頭を下げたマーファリーの涙に、私も思わず泣きそうになった。
ああ、そ、そうだよね……。
マーファリーは、人生を救われてる。
第二の人生、第二の故郷のようなこの町も……この二人に、また助けてもらったんだ。
「……マーファリー、僕は僕の国の民を守ったに過ぎない。これは僕の義務だ。これからもそれは変わらない。君がそれを嬉しいと感じたなら、どうかこれからもユティアータの町を愛し、この町の領主へ力を貸してあげてほしい。特に今は……一人でも多くの支えが彼女たちには必要だろう」
「俺も出来る事をしてるだけだから気にしないでいいよ。命は大切だからね」
「……っ……」
……ちょっとお前ら人間出来過ぎじゃない?
私まで胸が熱くなったじゃない。
……くそう、カッコいい。
外見じゃなく中身がめちゃくちゃカッコいい……!
「……は、い……!」
マーファリーの涙と、強く頷く姿。
彼女の人生の中で、今日は特大イベントの連続だったに違いない。
恩人へのちゃんとしたお礼を言えた日。
まさかのレベル4との遭遇もあったけど……きっとマーファリーの中で今日という日は別な意味で忘れ難い、大切な思い出になったと思う。
良かったね、マーファリー。








