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恋愛脳オタクの初異世界生活と闇翼の黒竜  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
【連載版】恋愛未満は甘辛い? 勇者と英雄とレベル4⁉︎
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第3話!


「ハーディバル様、先程は姉が失礼いたしましたわ」


 赤毛の美少女が急ぎ足で私たちを追いかけて来たのだ。

 ピンク色の、宝石の散りばめられたドレスやそこはかとなく先程のリリアナ嬢と似た面差し。

 姉?


「カルデアラ家の次女、ルルリナですわ」


 ばっさり真っ二つのリリアナ嬢の妹さんかぁ。

 そういえばマーファリーが招待枠には二人まで付き人が許されていて、そういうのは身内で固めるって言ってた。

 なら、やはりそこはかとなく似ているお連れさんは親戚さんかな?

 彼女もお姉さん同様団体さん。


「……ご不快にさせて申し訳ございません。姉は王族の方への忠誠心がお強いフェルベール家の方に喜んでいただきたかったのですわ」

「逆効果です」

「その様でしたわね……本当に申し訳ございませんでした」


 お姉さんよりは幾分マシなのかな?

 第一印象はそんな感じ。

 でもレナメイド長が言ってた通り、私と一緒に居てもこの絡まれ具合…………フェルベール家の次男は人気の獲物というのは本当なのね。

 姉がダメなら妹でチャレンジかぁ。


「あの、わたくしは姉と違って魔法に少々覚えがございますの」

「……ほう……」


 おっ、相手の土俵で勝負するのね!

 確かに、共通の話題なら話が盛り上がるかもしれないものね。

 エルフィとスヴェン隊長のように!

 脈なしも好感度次第で脈ありになるもの……頑張れルルリナちゃん!

 毒舌ドS騎士をギャフンと言わせてやるのよ!


「では、今月出版された魔法学専門誌の氷魔法特集はご覧になりましたか?」

「はい! 勿論ですわ!」


 おお! ハーディバルから話題を振った!

 最新情報をチェック済みというのも大きいわ!


「氷魔法の基本はカローナ式魔法陣が主流でしたが、新たにティトン式が開発され、今後こちらが主流に変わっていくだろうという……」

「ええ、ですがティトン式は魔法陣にグリーブト言語が用いられるんです。これはグリーブトの言語を用いる事でアバロン大陸の魔法に不慣れな者が魔法を発動し易くするもので我々バルニアン大陸の者が使うとなるとまずグリーブトの言語の習得が必要不可欠になります。その上、威力そのものはカローナ式の方が遥かに上位。それなのに我々バルニアン大陸の者がわざわざ威力の劣るティトン式を習得するべくグリーブト言語を学ぶ必要があるのでしょうか? それならカローナ式よりも威力のあるシェルティルティ式の解読を急ぐべきではないでしょうか。それにケミルト式もタイプは異なるものの生活魔法として一般の者が扱えるよう新たに術式を開発していくべきだと思うのですが、あなたはどう思いますが?」

「………………、……え、ええと……」

「………………」


 ……ふ、二息くらいで……。

 こ、こいつこんなに喋るんだ……?

 もう途中からさっぱり分からなくなったんだけど……ルルリナ嬢は…………うわ、か、固まっとる……!


「……た、確かに、そ、そう思いますわ……。シェル……ええと……」


 詰まった。

 目も泳いでるし、後ろの取り巻きさんに目配せしても誰も分からず目を逸らしてしまう。

 かく言う私も何が何やらさっぱり……。


「シェルティルティ式ですか……確かにあの術式を解読して現代の言語に訳せば、攻撃魔法や防御魔法、拘束魔法に転用出来るでしょうね」

「ですがハーディバル先生、ケミルト式なんて初めて聞きましたよ」

「マーファリー! ……と……」


 ガタイのいいハゲがマーファリーと共に声をかけて来た。

 ハゲはハーディバルに頭を下げて「ご無沙汰しています、ハーディバル先生」とマーファリーのようにハーディバルを先生と呼んだ。


「ある程度知識があればすぐ気づくです。貴女はちゃんと勉強を続けていたようですね、マーファリー・プーラ」

「あ……はい、それはその……一応……。でも今のは先生、意地が悪いと思います」

「売られた喧嘩は買います」

「い、いえ、別に喧嘩を売られたわけではないと思いますよ……?」


 うんうん、とマーファリーの言葉に何度も頷く私とハゲ。

 こいつ、このお嬢さんを試したのね……。なんて意地悪なの……。


「…………っ……なんですの、突然割り込んできて……! 無礼ではなくて!?」

「え!?」


 え?

 ルルリナ嬢が突然マーファリーに噛み付いてきた!?

 なんで!?


「知ってますわよ、貴女! ユスフィアーデ家のメイドでしょう!? メイドの身分でエルファリーフ様の付き人としてお見合いパーティに参加するなんて……はしたないとは思いませんの!?」

「………………そ、それは……」


 え、えええええ〜〜!?

 ま、まさかマーファリーがハーディバルの仕掛けたトラップに気がついたから!?

 逆恨み過ぎるしあからさま過ぎるよ!?

 そ、それになによその言い草は……!

 マーファリーがメイドで、メイドがお見合いパーティに参加するのが…………はしたないですって……?

 なに言ってるの……!


「彼女は――」

「はぁ!? いきなりマーファリーに八つ当たりとかやめてよね! 今の貴女の発言の方が遥かにはしたないわよ!」

「ミ、ミスズお嬢様!?」


 ハーディバルが仲裁に入ろうとしたのに気づかない程、私の頭にはカーっと血が上っていた。

 だって! マーファリーは、アバロンって大陸で奴隷として大変な目に遭っていたのよ。

 この国に来てきっとすごく勉強したの!

 私にも色んな事を毎日教えてくれるし、お化粧や髪型を整えてくれる時のキラキラとした楽しそうな笑顔!

 奴隷という『物』からマーファリー・プーラという『人間』になったから、今日、ついさっき! マーファリーは王子様にお礼を言ったのよ……!

 この国に来て幸せだって言ったマーファリー。

 それはマーファリーが人一倍努力したからよ!

 魔力を使えるようになるの、本当に大変なんだから!


「な! なんですか、貴女も! ハーディバル様をずっと独り占めして……!」

「まんまと防波堤代わりにされてるだけよ! あんたみたいな姑息な女が多いから! なんで私がって思ってたし、本気でこの毒舌ドS騎士を落とそうって努力して来たんなら少しは手伝ってあげようかと思ったけど……あんた無理!」

「は、はぁ!?」

「全っ然つけ焼き刃じゃない! 何が魔法に覚えがあるのよ! どうせその魔法雑誌の最新号とか先月号とかチェックして満足してたクチでしょう!? そんなんで魔法騎士隊の隊長が落ちるわけないじゃない! バッカじゃないの!」

「ミスズお嬢様っ」

「……な、な、な、なんっ……なんて失礼な方なの……!」

「どっちが失礼よ! マーファリーに謝って!!」

「ミ……ミスズお嬢様……」


 こんな女となら喧嘩上等よ!

 せっかくユスフィアーデ家のメイドさん一同に可愛くしてもらったけど、私の可愛いマーファリーを虐めるなら相手になってやるわ!


「まあまあ、お二人さん落ち着いて」

「そうです、少し離れるです。あと、あまり興奮して怒りにとらわれない方がいい。魔獣になるです」

「う!」

「っ!」


 ガタイのいいハゲに間に入られ、ハーディバルに「魔獣」と言われた瞬間……この間の『魔獣襲撃事件』の時の事を思い出した。

 自分の体から黒い靄が出て、それが魔獣へと喰われていく。

 あれは本当にゾッとした……私の体から出た負の感情が、魔獣をより強く肥え太らせる。

 それを思い出した瞬間、上っていた血が急速に下がっていくのを感じた。


「………………」

「あと、この場で普通に言い争い始めるとかめちゃくちゃ面白い。笑かすなです」

「笑かしてないわよ! つーかあんた笑ってないでしょ!?」


 このドS騎士!

 なに人の真剣な怒りを笑いものにしてんのよ!


「……それと、先程の差別的発言はご自覚がおありですよね?」

「……!? ……さ、差別的発言……?」

「メイドの身分で、と。ご自覚がないのは尚、如何なものかと思います。……カルデアラ家のルルリナ様、でしたね……お名前、ちゃんと覚えさせていただきましたよ」

「………………あ…………い、いえ、そ、それは……」


 その時、出会って初めてハーディバルが微笑んだのを見た。

 こいつ、笑えたんだ……と思った私よりも周りの人間たちが真っ青な顔をする方が目に留まる。

 え? なに?


「すぐにカウンセラーを探された方がいいですよ。絶望で魔獣にならないように、気をつけてくださいね。お姉様共々」

「……………………」


 まるで地震に怯える時のマーファリーのような真っ青な顔。

 取り巻きだった数人が「ヒッ……」と声を漏らしてルルリナ嬢から離れて行った。

 この時の私はまだ、御三家というものをちゃんと理解していなかったので、なんで周りの人たちがこんな反応をするのか分かっていない。

 とりあえず凄い家、なーんて緩い認識しかなかったのだ。

 ハーディバルが笑顔を消して、側に控えていたウエイターに「カルデアラ家の令嬢がお帰りだそうです」と声をかけるとすぐに彼女と、彼女の姉が会場から連れ出されていく。

 ……お見合いパーティとは思えない、凍りついた会場内。


「……あの、ハーディバル先生……あの方たちは……」

「さあ?」


 完全に興味なし。

 マーファリーが心配してやる必要ないわよ、と言いたいところだが、あんな真っ青な顔されるとさすがに心配になる。


「まさか身分剥奪的な事にならないわよね? 流石にそれはやりすぎだと思うわよ?」

「……我が国に身分があるのは王族だけです」

「え、そうなの……」

「そうです。大臣などの役職は優秀なら誰でもなれるです。……ただ、王や王子の執事、領主と領地の総括、騎士団の強化や維持などを行う能力があるのが、今のところエーデファー、ヴォルガン、フェルベール家のみと言うだけの話」


 銀の瞳が細くなると、周りの人間は皆一様に目を逸らす。

 それが御三家が御三家と呼ばれる所以って事、らしい。

 そんな家の人に睨まれたら……やっぱりあの姉妹はあんな豪勢なドレス着られなくなるんじゃ……。


「それより、リゴ・ティトン。久しぶりです」

「あ、はい!」


 あ、さっき仲裁してくれたハゲ!

 ……ん? リゴ? それ、どっかで聞いたような……。

 あ! ハクラが「もし魔力ゼロなら頼ったら?」って言ってた研究者か!

 フリッツもハクラの友達って言ってたし、マーファリーもアバロンからの亡命者仲間だとか言ってたな。

 このハゲがリゴさんか。


「あの、ミスズお嬢様……こちらはリゴです。私と同じアバロンの元奴隷で今は『国光の城壁』で研究員をしているんですよ」

「初めまして、リゴ・ティトンと申します」

「あ、は、はい、初めまして、みすずです」


 意外と紳士的にきちんとお辞儀をして挨拶されてしまった。

 本当にめちゃくちゃ体格良くて、とてもインテリ研究員には見えないわ。 ハゲだし。


「氷魔法特集読みましたよ。大成果ですね。まさかたった五年で新しい魔法を確立するとは驚いたです。僕は使う方専門なので、心から賞賛するです」

「あ、ありがとうございます……! い、いやぁ、先生にそんな風に言っていただけるなんて……」

「アバロン大陸の人間の教育が浸透していけば定着していくでしょう。あちらも魔獣対策はしなければならなくなるでしょうから、名が残る事確実です」

「いやいや! そんな、俺なんてまだまだで……」


 べ、べた褒め!

 そしてハゲはめちゃくちゃ謙虚!

 ……さっきのご令嬢たちと比べると謙虚すぎるくらい!


「で、何か僕に相談でもあるんです?」

「うえ!? ……は、ははは……敵いませんね、本当に……なんで分かるんですか?」

「でなければ声なんてかけてこないでしょう、こんな場で」

「はあ……。……実は、ジョナサン殿下にアバロン大陸に帰って学校を作らないかと打診されているんです。自分はまだ研究を続けたい。でも、アバロン大陸に平民や元奴隷が通える学校を作ると言う事には……必要性を感じています。……どちらがいいのか……」

「…………………………」


 なんて立派な悩みなの……!

 ハゲなんて罵ってごめん、リゴさん!

 初対面なのにハゲとか馬鹿にしてごめんなさい……!


「いいんじゃないんです? まだこちらで研究をしていれば」


 数秒の間、リゴさんを眺めていたハーディバルは口元から指先を外すとあっさり言い切った。

 アバロン大陸がどんなところか分からないけど、学校がないのはちゃんとした教育が受けられないって事だもんね。

 私は勉強嫌いだけど、勉強の大切さはこちらの世界で「知らない事の恐ろしさ」を学んだからよく分かるわ。

 それでもハーディバルはリゴさんにこちらに居ればいい、と言う。


「……そう、でしょうか……」

「確かにアバロン大陸は学ぶ機会を平等に与えてこなかった。学校は今後必ず必要になるです。そして知識の蓄積量はバルニアン大陸の方が圧倒的に上。こちらから教員となる人材を派遣するのはアリですし、殿下がアバロン大陸の出身者で、元奴隷のお前が学校を作ればその地によく根づくだろうと考えるのも分かる。でも別にすぐでなくともいい、とか言ってなかったです?」

「……言われました」

「知識は一朝一夕で得られるものではないです。人を教え導くのも簡単な事ではないです。お前はまだ若いし、研究員には成り立てです。今後新たな研究員がお前の部下なり後輩なりで入ってくるです。そうなれば今とはまた違う環境になるです。そういった後進に、自らの知識や経験を指導してみて、それが自分に向いているか不向きかを感じてみてからでもいいでしょう」

「……! ……なるほど、確かに……」


 ……め、めちゃくちゃ的確なアドバイス……!

 こ、こいつ私より六つは歳下よね?

 私も思いつかないわよ、そんなアドバイス!

 す、凄いんだけど……!?


「ありがとうございます!」

「いえ、お前は努力家だし、今後も成果を期待するです」

「は、はい、頑張ります!」


 明らかに私より年上っぽいリゴさんが、一切敬語を緩める事なく本気の尊敬の眼差しを向け、頭を下げる。

 ふ、複雑!

 でも、あのアドバイスは的確だと私も思う。

 ……そうか、本当に『先生』なのね……ハーディバルって。

 ちゃんと『人を教え導いてる』もの。


「あんた騎士より教師の方が向いてるんじゃないの」

「無理です。アバロンの民は割と僕の性格にも柔軟でしたが、この国の民は大体途中で根をあげるです。現に騎士団でもこういう変態以外僕に近寄らない」

「……ああ、そう……」


 変態呼ばわりされたハイネルは恥ずかしそうに「いやあ、それ程でも」と頭をかく。

 褒めてないわよ。


「……ハーディバル先生くらいなら優しい部類なんだけどなぁ」

「ね」


 と、申すのはリゴさんとマーファリー。

 そ、そうか、二人は元奴隷……もっと酷い目にあってたからハーディバルごときの毒舌はなんともないのか……!


「何より僕ほどの戦力、教員なんぞで腐らせておくのは勿体無い」

「自分で言う?」


 そりゃ十二歳で騎士隊の隊長なんて相当凄いんだろうし、この間の『魔獣襲撃事件』で東地区に現れたレベル3を一人で相手してたって聞いたからやっぱり凄い魔法使いなんだろうけど。

 間近でフリッツが同じレベル3を倒すのを見てたから、あれと同レベルの魔獣と戦ったハーディバルもフリッツくらい凄いんだろうなって……分かるけどさー。



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