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恋愛脳オタクの初異世界生活と闇翼の黒竜  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
【連載版】恋愛未満は甘辛い? 勇者と英雄とレベル4⁉︎
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第2話!


「失礼」


 私が憤慨していると、また新しい声。

 今度は女の子の声だ。

 テーブルの側の私たちに「邪魔」と言いにきたのかしら、だとしたら退けてあげないと。

 見当違いな事を考えて「あ、今退きますね」と口から出かかった。

 私たちへ声を掛けてきたお嬢さんが、あまりにも見事なたて巻きロールで思わず吹き出しそうになって……言葉にはならなかったけど。

 ちょ、しょ、昭和の少女漫画かっ!

 金髪たて巻きロールとか昭和の少女漫画でしか見た事ないぞ!? ブッフーーー!


「ハーディバル・フェルベール様、お久しぶりですわ。コペルタル家のルビアでございます」


 ドレスの裾を摘み、お上品にお辞儀をするお嬢様。

 あ、多分エルフィと同じ招待枠の人ね。

 同じお嬢様でも、なんか色々エルフィとは差を感じるわ……。

 だ、ダメ、むり、直視出来ない……!

 出来るだけ目を逸らしておこう……わ、笑ったら失礼よねっ。


「……お久しぶりです、ルビア嬢」


 ハーディバルは実にシンプルな返しをして頭を下げる。

 私が側にいても尚、話しかけてきたって事はこの子はハーディバル狙い。

 多分ガチ勢ね……。

 おお、どうするどうするハーディバル。

 ワクワクしながら成り行きを見守ってやろう、ふふふ。


「……あの、わたくしの事、覚えていてくださいまして?」

「……はぁ、まぁ、お名前くらいなら」

「今年も誕生会にご招待したのですが……来てくださいませんでしたわね……」

「仕事が忙しいので、お誘いそのものをほとんどの方にはご遠慮いただいているんですが」


 お、おお! 出会って数秒でいきなりのジョブの打ち合い!


「ユスフィアーデ家のエルファリーフ様のお誕生日にはお顔を出されたと耳にしました」


 あ、エルフィもそんな事言ってたな。

 もしやハーディバルってエルフィに気があるの?

 なんだ、それならそうと言ってくれれば……。


「……ああ、彼女は……以前町で見かけた時に死の気配が感じられたので…………少し様子を見に行ったりはしましたけど」

「な、なにそれ……」


 思わず口を挟んでしまった。

 エルフィに、死の気配? 死相って事?

 不吉すぎるんだけど!?


「……たまに見えるんですよ、邪気とは別の……白い靄のようなもの。霊的なものではないんだけれど……それにとても近いもの。そういうものをまとっている人間は半年以内に必ず死ぬか、危険な目に遭うんです。僕の経験上、今の所外れなく。あんまり死ぬんで死の気配と呼んでいるです」


 こ、怖……。


「い、今は大丈夫なの?」


 エルフィがそんな怖いものをまとっていたなんて……。

 もしかして、それでエルフィにあのダサいけど『どんな攻撃も一度跳ね返す』魔法の入った魔石のネックレスをプレゼントしたの?

 だとしたら、本当に凄い精度だ。

 だってエルフィはレベル3の攻撃をあれで防いでくれたんだもの。

 あの時の攻撃がもしヒットしていたらエルフィだけじゃなく、私たちも死んでいた。

 もう危険は去ったって事、だよね?


「今は…………、……その話、今じゃないとダメです?」 

「き、気になるじゃない」

「こほん!」


 ルビア嬢がわざとらしい咳払い。

 ……あ、ああ、そうでしたね、お話の途中だったんだ。


「……お仕事熱心ですのね。それも騎士のお仕事と言う事ですの?」

「そう言うわけではないですが、貴女は危険な目に遭うと分かっている者を我が事と無関係だからと無視するのですか?」


 スッ、と真横の気配が冷えた。

 うわ、ルビア嬢、やめておいた方がいいわよ、それ以上は……!

 それでなくとも貴女結構ズケズケ言っちゃってるし!


「そ、そうではございませんわ。……た、ただ、貴方様が彼女を気に掛けてらっしゃると、噂になっておりましたから……。その、お付き合いされているのかと……」

「はぁ。だからといって貴女に嫉妬する権利がおありだとでも?」

「そ、それは……」

「……失礼、僕はあまり女性に優しくする事が出来ない。貴女に魔獣化されても困るので、もう話しかけないでください。それがお互いのためになると思うのですが……どうでしょう」

「…………。……は、い……失礼いたしました……」


 ぺこり。

 お辞儀をして、すごすごと人の波の中へと消えていく。

 忘れてたけどこの会場はとにかくだだっ広い。

 百人以上がいるんだからそりゃ広いよね。

 ……う、うーん……。


「ちょっとキツすぎるんじゃない?」

「それが良いのに……」


 と、横から羨ましそうに呟くハイネル。

 そうね、あんたにはご褒美のレベルなのかもね。

 でも、純粋なお嬢様にはかなりきついと思うわよ。


「……踏んで散る花には、興味がない」


 ……ああ、そういえばハーディバルの一族は強い女が好きみたいな事言ってたな。

 あの程度でへこたれる女子には何も感じないって事なのか。

 これは声をかけた相手を間違えたルビア嬢の運が悪かったとしか言えないわね。

 合掌〜。


「何か食べるか?」

「……そうね、なかなか美味しそうな料理が並んでるし……食べちゃおっかな〜」


 最近剣術と言う名の筋トレと体力作りをしてるから大分体重も落ちてきたし……今日はコルセットであんまり入らないかもしれないけど……。

 うっ、コルセット……思い出したら苦しくなってきた。

 ……いや、私は負けないわよ……!

 お城の料理なんて二度と食べられないと思うもの! 食べる!


「この世界の料理は口に合うのか?」

「あ、うん! どれも美味しいわよね」

「ふーん、お前の世界の料理も少し興味あるけど……お前は料理が作れなさそうだよな」

「失礼ね、少しは作れるわよ」


 ……ほぼお母さんが作ってくれてたけど。

 お母さんが仕事に行く日とかは、ちゃんと作ってたもん!

 ……野菜炒めやチャーハンくらいなら……。


「じゃあ、どんな?」

「じゃあ、どんな!?」


 なにその聞き方!?


「作れるんだろ? どんな?」

「ど、どんなって……な、なんで!」

「僕は料理が趣味なんだ。異界の料理に興味がある」

「あんたが料理!?」

「フェルベール家は嗜みとして必ず学ぶ」

「…………や、ヤバそう〜……」


 ドS騎士の料理!

 おどろおどろしい物しか想像出来ず、口から本音が漏れた。

 するとかなりムッとした表情で睨まれる。

 いや、だって……。


「言っておくが上手いぞ。ハクラや殿下たちにも褒められた」

「お世辞よ絶対」


 と、言ってからそういえばハクラはお世辞が言えないのだと思い出す。

 あれ、じゃあもしかして、本当に?


「……へぇ……随分きっぱり言い切るね……」

「……い、いや〜……だ、だって〜……」


 スゥ……と本気でイラッとしたハーディバル。

 やばい、なんか変なスイッチ入れちゃった気がする……。

 だって本当にでろんでろんのヤバイ物しか想像出来ないんだもん。

 見た目が悪いだけで味は美味しいパターンなんじゃないの?

 ……なーんて……ハハハ……。


「今度作ってやる。そしてまた食べたいですと土下座させてやる」

「自信ありすぎでしょっ! 料理くらいでそんな事するわけないし」

「言ったな? その言葉忘れるなよ……!」


 ……なんか本当に変なスイッチ入ってるし……。

 えー、やだなー。

 ……でもそこまで自信があるハーディバルの料理はちょっと興味あるかも。

 確かにこの世界の料理は美味しいものが多いけど……ぱく……あ、このフルーツサラダおいしーい!


「ハーディバル様、ごきげんよう」

「! ……ごきげんよう……」


 私がフルーツサラダに夢中になっている隙を突いて、また新たなお嬢様がハーディバルに特攻を仕掛けてきた。

 なんと、果敢な!

 ちらりと見れば今度は黒髪ストレートの美少女。

 赤いドレスは全体的に宝石が散りばめられていて、シャンデリアの光を反射しテカッテカだ。

 ……ま、眩しい……物理的に眩しいわ、この子。

 しかも後ろには数人の取り巻き付き……。

 まさか、後ろの子たちもハーディバル狙い?

 赤信号もみんなで渡れば怖くない、てか?

 いやいや……。


「カルデアラ家のリリアナですわ」

「はぁ」


 一切の興味なし。

 いや、あの声色は、若干不機嫌。

 ……ん? 私、やたらとこの無表情ドS騎士の感情が分かるようになってない?

 こんなスキル要らないんだけど……?


「お相手がお決まりですの?」


 先程のルビア嬢には完全スルーされた私だが、リリアナ嬢は速攻で探りを入れてきた。

 防波堤代りに連れ回される事になっていたけど、にっこり微笑まれると本気で背筋に悪寒が走る。

 黒い髪に赤い唇。

 美人だが、いや、美人だからこそ、超怖い。


「ええ、まあ…………」

「先程から楽しそうにしてらっしゃいますものね。ですが、せっかくのお見合いパーティですもの、少しは他の方ともお話された方がいいですわ。貴女もそう思いません事?」

「え!? ……えーと…………そ、そう、ですね……」


 適当に流そうとしたハーディバルを半ば遮るように私へ問い掛けるリリアナ嬢。

 うっわ、これは……私が堤防でも本当に恋人候補でも関係なしに切り崩しにかかってるぜぇい。

 さっきのルビア嬢はかなり直球タイプだったのね……。

 今度の子は強敵よ、どうするのハーディバル……!?


「……そうかもしれませんが……その御髪は染められたのですか?」

「え、ええ……黒髪には憧れておりまして……」

「王族主催のパーティに、よくその色で恥ずかしげもなく出られましたね。不敬とは思わなかったのですか?」

「……え……」


 私も「え……」と見上げてしまう。

 ハーディバルの銀眼は鋭く、そして先程うっかり「毛がない」と王子様に発言してしまった私を咎めた執事さんのような冷たい、怒気を含んだ声色。

 唐突に怒りを露わにされたリリアナ嬢は完全に固まった。

 まあ、出会い頭に怒られたらそりゃ固まるわよね。

 出だしはいい感じだったのに、まさかの髪の色を注意って……お前は学校の先生かっ。


「王族と同じ黒い髪にわざわざ染めてきたなんて、自己顕示欲と虚栄心の塊のような人ですね。似合うと思ってんのかです。不快なので二度とツラ見せんなです」

「ちょぉっ! 言い過ぎ! 言い過ぎ!」


 それは言い過ぎだー!

 無表情のまま、出るわ出るわ毒舌絶好調!

 いやいや、出し過ぎ出し過ぎ毒出しすぎ!

 初対面っぽいのにそれは酷すぎるって!

 慌てて腕を掴み、リリアナ嬢に「ごめんなさい! お酒飲んでるみたいで!」と私がフォローするはめになる。

 ああ! リリアナ嬢が完全に石化してる!

 その後ろの取り巻きみたいな子たちももれなく硬直!

 ですよね!


「し、失礼しますわ!」


 これ以上は彼女たちのトラウマになる!

 そう判断してハーディバルの腕を掴み、壁際へと移動した。

 もちろん毒舌絶好調のハーディバルにうっとりしたハイネル付きで。

 ……こいつ、ハーディバルのお見合いを邪魔しに来たというより、振られる女子の横で罵られ気分を楽しんでる気がする。

 純粋に気持ち悪いから誰かつまみ出してくれないかしら。


「……はぁ……はぁ…………ああ、びっくりした!」


 まさかパーティなのに毒舌披露されるとは思わなかった!

 人気の少ない壁際で、心の底から溜息が出てしまう。

 だって、パーティよ、パーティ! お見合いパーティ!

 そこでまさかの「二度とツラ見せんな」はないでしょうよ。

 いくら鬱陶しく感じたとしても言い過ぎよ!


「てい!」

「!」


 ぽかり。

 ハーディバルの頭を私の出来る限りの力で殴る。

 ミュエさんに習った鉄拳制裁よ。


「さっきミュエさんにも言われたでしょ! あれは言い過ぎよ!」

「……ふん」

「……っとにも〜…………人生初のパーティなのに……最悪よ〜……」


 いやまあ、お見合いパーティな時点で日々妄想膨らませた舞踏会とかとは全然違うんだけどさぁ。

 それにしたってパーティで素敵な出会いや攻略対象のイケメンとの急接近的なドキドキが、まさか毒舌ドS騎士の言動にドキドキする羽目になるとは思わないじゃない?

 こんなドキドキいらないわよ! ノーセンキューよ!


「はぁ……そもそも踵を怪我しておいて……」

「そ、それは今言わないでっ」


 ……確かに出だし以前の問題だったけどさ……!


「僕が側にいれば怪我してもすぐに治してやるし」

「う……」

「別にお前があんな女どもにフォローを入れる必要もないだろうし」

「それとこれとは話が別よ」


 確かに必要はないんだろうけどさ。

 負わなくていい傷なら負わせない方がいいと思うのよ、うん。

 後々面倒ごとが増えたりするかもじゃない。

 一応女子として、同じ女子へのあの言い草は酷いと思うしね……せっかく気合い入れてお洒落して来たんだろうし。

 なんて考えていると、やはり面倒ごとが増えていた。



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