第6話!
どうしよう、詳しく聞いてもいいのかな。
とか思って居る私の横でエルフィがハクラの背中にいるドラゴンをじーっと触りたさそうに眺めてる。
……そんなにあのトカゲが触りたいのかしら……私は嫌だな。
そしてその眼差しに気付いたのか、トカゲ……じゃなくティルがハクラの肩へヨジヨジと登っていく。
どうやらハクラの服にはフードが付いていて、その中に収まっていたみたい。
長い髪で覆われてて気づかなかった。
『パパ、あのひと、ずっとぼくのことみてる』
「誰?」
「す、すみません、あまりに可愛らしくて……」
耳打ちしたドラゴンに振り返るハクラ。
申し訳なさそうなエルフィに、改めて「変わってるね」と漏らす。
やはりこの世界の常識的にエルフィのドラゴン「可愛い」発言は少々おかしいようだ。
「……実はわたくし、小さな頃はドラゴン公園の職員に憧れていた時期がありましたの」
なんだそれは。
ドラゴン公園?
訝しげな私にマーファリーが「ヴォルガン大陸にあるヴォルガン家所有の土地にあるドラゴンが暮らしている自然公園です」と耳打ちしてくれた。
海外にある野生動物の暮らす公園と言う名の広大な土地のようなものっぽい。
ヴォルガンというと、確か御三家の……。
「ドラゴン公園ってスヴェンさんの実家だね。へー、今は違うの?」
「父が亡くなり、母が体調を崩し、姉が叔父に付いて領主を目指すようになってから現実を見ましたわ……。わたくしが自分だけ好きな事をしても良い場合ではないのだと。……ですが、いつか遊びに行くくらいはしてみたいのです。入園料を払えば、ドラゴンと触れ合えるそうですから……! 卒業して、お姉様のお仕事を手伝って……ひと段落したらいつか必ず……!」
落ち込んだかと思えば、すぐに顔を上げて瞳を輝かせるエルフィ。
そんなに憧れるものなのか?
私には分からない。
でもエルフィにそんな夢があったなんて……なんて健気でいい子なの……! 知ってたけど!
「そうなんだ? じゃあ、ニーグヘルの卵がそろそろ孵りそうなの知ってる?」
「ニーグヘル様にお子様が!? いつ卵が孵られるのですか!?」
「そろそろらしいんだけど、もう一ヶ月くらい待ってても全然なんだよねー。アバロンが『早く帰ってきて』ってうるさいんだけど、ニーグヘルの赤ちゃん見るまでは絶対帰れない。……スヴェンさんが赤ちゃんが孵ったら一般公開もするって言ってたから、その時観に行くのオススメ! ドラゴンの赤ちゃんなんてそうそう見れないから!」
「確かにそうですわね! お姉様にお願いしてニーグヘル様の赤ちゃんだけは見に行かせていただきますわ!」
パンダかよ。
……ツッコミたいけど、この世界にパンダがいるかは分からない。
とりあえずエルフィのテンションはだだ上がりしている。
私は逆に下がった。
だって、ドラゴンって私にはトカゲとか蛇の部類。
それの赤ちゃんなんて特に興味ない。
なぜこんなに生き生き話が盛り上がるのかさっぱりだ。
「きっととても愛らしいのでしょうね……ニーグヘル様の赤ちゃん……楽しみですわ〜……っ」
「……なんか、エルフィってスヴェンさんと話が合いそう。今日パーティに参加するなら話しかけてみたら?」
「スヴェン様……ですか?」
…………。
ん? ハクラ今、なんかナチュラルにエルフィの事エルフィ呼びしなかった?
いや、そうじゃなくてあまりに興味なさすぎて聞き流しそうになったけど、スヴェンって今日のパーティの目玉……御三家のスヴェン・ヴォルガン氏!?
そうか、そういえばフリッツの話ではドラゴン愛が異常すぎて女子に引かれるのも彼女が出来ない要因って言ってた!
……けど、スヴェン・ヴォルガン氏って男性の恋人がいるからそこもネックだったはず……。
「……ね、ねぇ、ハクラ……スヴェン・ヴォルガンさんって恋人がいるんじゃないの……?」
男の。
「ああ、エルメールさん?」
「………………。はい?」
「こないだまた別れたって言ってたよ、ハーディバルが。スヴェンさんが結婚して子ども作るまでは絶対よりを戻さない宣言したんだって。本当かなぁ、スヴェンさん、エルメールさん大好きなのに……あははは」
「「「…………………………」」」
……じわじわと衝撃から回復する。
え、え? エルメールさんって、確かドS騎士……ハーディバルのお兄さん……。
「…………。……ゆ、有名なの?」
「そうだねー、お城では有名かな」
マジか。
これはかなりの衝撃……!
というか……。
「そういうあんたはハーディバルと、その、付き合ってないの?」
「俺とハーディバル? 別に付き合ってないよ。たまに勘違いされるけど……。だってハーディバルの側って魔力が心地いいんだもん」
『ね』
「? 魔力?」
「うん、俺とハーディバルって得意属性魔力が真逆だからさ〜」
「得意属性の魔力が真逆だと、側にいるのが心地いいものなの? 逆に反発するとかじゃなくて?」
「そう。磁石みたいに惹かれるんだよ」
『『まりょく』がつよいにんげんは、そういう“けいこう”があるんだよ。ふつうの『まりょく』しかもたないにんげんは、からだから“はっする”『まりょく』もよわいから、そういう“かんかく”にはならないんだ』
「俺とハーディバルは持ってる魔力の量も多いし強い。それに複数の得意属性持ちでしょ? 俺が『風属性』と『光属性』、ハーディバルが『土属性』と『闇属性』。二つの得意属性が二つとも反対な相手はレア中のレアでしょ」
「へ、へぇ……?」
思い切って聞いてみたところ、ハクラとハーディバルは別にBとLではなかった。
良かったような、残念だったような……。
スヴェン様のところは、なんつーか思わぬ事態発覚。
まあ、元々男性の恋人がどうとか言ってたからそれは覚悟してた。
でも魔力ってそんな効能?もあるんだ?
ただし、魔力が強い人間に限る、みたいな事言ってたけど。
「だからハーディバルも絶対俺の側は嫌いじゃないはずなんだけどな〜」
『うん! まちがいなく、ハーディバルもパパをすきだよ!』
「だよな! ……もっとデレてもいいのに……」
『ぼくもハーディバルだいすき!』
「ハーディバル様、羨ましいですわ……」
あれ? ハーディバル、攻略対象からまさかのエルフィのライバルにジョブチェンジ!?
何故!? 違う! エルフィそうじゃない!
そこは絶対羨ましがるところじゃないのよ!?
「あ、着いたよ」
ハクラが人力じゃない人力車を止める。
……今更だけどこれ、なんていう名前なのかしら?
馬車でもないし……馬いないもんねぇ?
「では、自分は魔石車をゲートへ戻しますので」
「うん。俺も見送ったら見回り再開するから、心配しないで」
「は、はい! よろしくお願いいたします!」
ませきしゃ、魔石車というのか。
動力はやはり魔石。
……すげぇな、魔石……!
CO2も出ない、エコな車は異世界にあった!
「今夜は王城の中のホールが解放されて、そこでパーティが催されるんだ。門の前に衛騎士さんがいると思うから声をかければ城内に案内してくれるよ。受付はその先」
「ありがとうございます」
「……ありがとう、ハクラ。……その、お仕事頑張ってね」
「ありがと。三人も楽しんできてね。みんな美人なんだから笑ってるだけで男は寄ってくると思うよ。笑顔笑顔」
「……あんた、初めて会った時人の事奴隷呼ばわりしたくせに……」
「まぁね。でも今のミスズはお姫様みたいだよ。アバロンのお姫様より美人。これはほんとね」
「っ……」
……う、うあああああっ。
だ、だから! そんな、くっ! な、慣れてないのに!
いや、お世辞なのは分かってるんだけどー!
熱い熱い顔がべらぼうに熱いぜ!
「あ、ありがと……お世辞でも、その……嬉しいわよ……」
「え? お世辞じゃないよ。俺、お世辞とか言えないから」
「……!」
ぼふん。
多分、私は今……耳まで赤くなっていると思う。
確かに初対面から散々言われた身としては、ああ、この子嘘つけない子なんだろうなぁとは思ってたけど! 実際初対面の私は誰がどう見ても、自分でも最悪に底辺だと思っていたし!
でもそんな子だからこそ、多分、その、本当にお世辞とかは言えない。
お世辞じゃないなら……今までの言葉は全部…………んがああああああ!
「あ! でも俺がアバロンの姫たちよりミスズを褒めたの内緒にしてね! バレたら怖い!」
「バレないと思うけど……。ふふ、うん、分かった、ここだけの秘密ね」
「分かりましたわ」
「うん、絶対よろしく! ……あの二人怖いんだよ……どこからともなく俺の言った悪口聞きつけて文句を何時間も延々と……」
『ごじかんおこられたときは、バルニアンにかえりたいっておもったよね』
「うん。結婚するならハーディバルか、文句の多くないお淑やかな子がいい」
結婚相手にハーディバルか文句の多くないお淑やかな子って、なによその選択肢……。
でも五時間はきついな……。何を言ったんだ、何を。
「あ、でもミスズは怒らせてもあんまり長々文句言わないよね。そういうタイプでもいいなー。すぐ言ってくれた方が次回から気をつけられるし」
「私は永遠に根に持つわよ」
「…………うわ、エルメールさんタイプ……。……やっぱいいや……」
……エルメールさん根に持つタイプなのか……。
でもね、ハクラ、一応イケメンなんだから一ついい事教えておいてあげるけどね。
「文句言わないタイプの女はたっぷり恨みを溜め込んで、一気に爆発させるから気をつけなさい」
「怖!?」
『ソランタイプだ!』
「母さんタイプか! 怖!」
……ハクラのお母さん、お淑やかに恨み溜め込むタイプだったか。
怖……。
あ、いや、待て待て!
ハクラとハーディバルがBとLでないんなら、攻略対象って事にしても問題ないわよね! という事は!
「ねぇ、連絡先教えてよ。えーと、ほら、エルフィはドラゴンの話とか……なんだっけ? さっきのなんとかっていうドラゴンの卵がどうとか」
「ニーグヘル様ですわ、ミスズ様! ニーグヘル様は魔石を作ってくださる偉大なドラゴンなのですのよ!」
「ああうん、それそれ。それの卵の情報とかハクラに聞けるし連絡先聞いておいたら? 二人とも!」
「いいよ」
え、わたしも? という顔をしたマーファリーだが、ハクラにも会えたらお礼を言いたいと言っていたのでまんまと……じゃなく「まぁ、教われるのなら」みたいな顔で連絡先を交換した。
もちろん、ドラゴン好きの露呈したエルフィも。
始終ティルに釘付けだったけど。
「ミスズはいいの?」
「私はまだ通信端末を使うところまでいってないのよ。それに……」
「それに?」
「もしかしたら、生命力魔力変換魔法っていうものにかかってるかもしれないんだって。だから、魔力は極力使うなって……」
「え……、……ああ、そうか……事故とは言え召喚されてきたんだもんな。その可能性はあるか。……ハーディバルなら判別出来ると思うから今夜聞いて見たら?」
「そのつもり」
「ごめんな、俺はまだそこまで鑑定スキルが高くないんだ」
『ぼく、分かるかもよ?』
「いや、ハーディバルのほうがいいよ。パーティに遅刻させるわけにもいかないだろ?」
『そっか〜』
……あれ、ハクラも召喚魔法の危険性知ってたんだ?
となると尚の事、ナージャの無知っぷりが目立つというかなんというか……あいつめ〜……。
「あ、そうそう。もし万が一本当に体内魔力が溜められない体質だったらリゴに相談するといいよ。リゴは俺の友達なんだけど、そういう研究をしてるんだ。多分力になってくれるよ」
「……リゴさん? ……うん、分かった。もしそうだった時は話しかけてみるわ」
リゴってフリッツも言ってたわね、ハクラの友達でいい人だって。
でもハゲ!
……まあ、そうでない事を祈るばかりだわ。








