第1話!
私の名前は水守みすず。
ある日、待ちに待った乙女ゲームを発売日に無事ゲットし、ウキウキとワクワクの中チャリ全力疾走してたら飛び出してきた鷺に驚いて用水路に落ちてしまう。
しかし、気付いた先は異世界『リーネ・エルドラド』。
魔力が溢れてる剣と魔法のファンタジーな世界。
なんでよりによって私が! このタイミングで!
どうやらナージャ・タルルスという小娘が、なにかの古代魔法を試して失敗した結果のようだ。
元の世界には帰れるのは帰れるようだが、参考として使用された魔導書がとにかくべらぼうに古いもので文字を解読するところから。
つまりかなり時間がかかるという。
失意の私に手を差し伸べたのは、その場にいた乙女ゲームの攻略対象みたいなイケメン騎士や冒険者ではなく乙女ゲームのヒロインのような美少女、エルファリーフ・ユスフィアーデ嬢。
とある地方の大都市ユティアータの領主の妹である彼女の厚意で私は彼女の家にご厄介になる事になった。
お陰で元の世界ではご縁のなかった豪華なセレブ生活を満喫して——るようで意外とそうでもない。
なぜならこの世界は、魔力が使えないと日時生活すら大変なのだ。
こうして私の魔力と剣の訓練、恋愛脳を満たす妄想と、出会ったヒロイン乙女たちの恋愛成就生活が幕を開けるのだった!
「……あれなに?」
異世界生活から半月ほど経ったある日。
町へ買い物に来ていた私は中央区にある公園にステージが設置されているのを見かけた。
かく言う私が住まわせてもらってるユスフィアーデ邸も中央区にあるわけで、その賑わいはここ数日、屋敷にも聞こえている。
つまりうるさいのよ。
そのうるさいのの原因も調べようと買い物ついでに寄ったところにこのステージ。
なに? お祭りでもあるの?
「はい! 抽選がいよいよ今日の夕方にありますからね!」
と、私の後ろで拳を握る美女はマーファリー・プーラ。
ユスフィアーデ家で雇われているメイドさんで、私の専属お世話係をしてくれている。
この大陸とは別の大陸出身で、奴隷制度のある国から亡命して来た彼女は、これまでかなり過酷な人生を歩んで来た。
そんな過去を微塵も感じさせず前向きに健気に働くマーファリーは、まさに正統派ヒロイン!
必ず私が素敵なお相手を見つけて幸せにするわ!
……じゃ、なくて……。
「抽選? なんの?」
「十日後の『第三回、御三家の嫁大募集お見合いパーティ』の一般参加枠ですよ!」
…………ああ、あのパーティの……。
そういえば招待枠以外にも一般から十八名選ばれるって言っていたっけ。
「しかも今回、ユスフィーナ様が辞退されたから当選する枠が三人増えるそうなんです! これはもう、一般人にはとんでもないチャンスですよー!」
「……あなた、私と一緒にエルフィに付いて参加決まってるのになんでそんなにはしゃいでるのよ」
「……あ……いや、そのつい……」
そうなのだ、私はなんとユスフィアーデ家の令嬢、エルファリーフ……私はエルフィという愛称で呼ばせてもらっている……彼女の付き人として一緒にそのお見合いパーティに参加させてもらえる事になっている。
そして、エルフィが無事にイケメンと出会いイケメンと恋に落ちられるよう、と、言いくるめて私の世話係……マーファリーも付いてきてもらう事が決まっているのだ。
だが、私の計画はそんなもんじゃあないわ!
乙女ゲームヒロインに相応しいのはエルフィだけじゃない。
マーファリーだってその素養は十分!
今回のお見合いパーティで、マーファリーにも素敵なイケメンとの出会い! そして運命の恋! よ!
フフフフ……乙女ゲームプレイヤーの腕が鳴るわ〜!
ついに私の本領が発揮される日が来たって感じ!
あと十日……十日後には、二人に素敵な恋が訪れるのよ……!
うふふふふふふふ……。
「三年前から開催されるようになったこの『お見合いパーティー』は御三家のうちの二人、ランスロット・エーデファー様とスヴェン・ヴォルガン様のお嫁さん探し……しかも! 一般人も参加が出来る……! その物凄い話題性から一般参加枠の抽選は全地方中継される事になったんです! ええ、一種のお祭りです!」
あれか、宝クジの抽選みたいな感じか。
確かにテレビで放送されるもんね、年末とか。
「毎年応募が7万件を超え」
「な、7万!?」
「その中でたった十八人が選ばれる……!」
「な、7万からたったの十八人……!」
「ええ、ですからその幸運な乙女たちは羨望と注目の的なんですよ!」
確かに宝クジで十億当たった人は羨望と注目の的になるものね……。
テレビで中継されるのも無理ないんだろうけど……でもさ……。
「それは、でも、その……お嫁さんって御三家の人が選ぶもんなんじゃないの?」
「そうなんですが、出会わなければ始まりもしないです!」
「……まぁね……」
その通りなんだけどさー。
「でもマーファリーはその御三家のうちの一人と知り合いじゃない」
「ハーディバル先生ですか? でも別に連絡先を知っているわけではありませんし……歳下すぎてちょっと……」
……ハーディバル・フェルベール。
御三家、フェルベール家の次男。
アルバニス王国の王国騎士団、魔法騎士隊隊長というふざけた長さの役職名を持つ毒舌ドSの鬼畜野郎である。
私がこの世界に召喚された時に側にいたのに、私の事をユスフィアーデ家に丸投げした血も涙もない男!
薄紫色の髪と銀色の瞳を持つ美貌の美少年なのだが、なに分表情筋は死んでるし性格と口が悪すぎる。
乙女ゲームの攻略対象でもおかしくない設定の顔と性格なのだが、こいつ、ちょっと難点があるのよ……性格以外にも。
同じく私が召喚された場に一緒にいたハクラ・シンバルバという御伽噺レベルの冒険者とBとL疑惑なの。
ハクラ・シンバルバ……白と黒の混色の髪に、金の瞳の美少年。
あいつもかなり攻略対象として問題ないレベルの美少年でありふざけた設定と頓珍漢な性格してるんだけど……ハーディバルとBとL関係だとしたら、乙女ゲーム的にヒロインであるエルフィやマーファリーとくっつけるわけにはいかないのよねぇ……。
「そんなに歳下かしら? えっとあいつら十八でしょ?」
「あいつ“ら”?」
「……あーいや、ごめん間違えた……。で、マーファリーは……」
「わたしは二十一です」
「……そんなに離れてなくない?」
二十一と十八……全然大した事ないと思う。
私の世界と違って、別にあいつら現役高校生とかでもないし。
むしろ普通に働いてるし。
…………ハクラは働いてるのか?
「……そうですか? ミスズお嬢様は……」
「私は二十四よ。ほら、私よりマーファリーの方が全然あいつらと歳が近いじゃない」
「……?(え? ハーディバル先生以外の十八歳の人って誰……?)……ええと、そ、そうですね?」
「それとも、マーファリーってもしかして歳上が好みなの?」
「まぁ、どちらかといえば……。包容力があって、強くて頼りになる方がいいですね」
歳上かぁ。
今のところ私たちの周囲で歳上の攻略キャラじみたイケメンはいないのよね。
でも、いい事聞いたわ、覚えておこう。
「ふーん、そんな人とお見合いパーティで知り合えるといいわね」
「まあ、わたしよりエルファリーフお嬢様とミスズお嬢様です! レナメイド長からもエルファリーフお嬢様には是が非でも御三家のどなたかと良い仲になってもらえるようサポートしてくれと頼まれていますし!」
「お、おおう……」
本日何度目か分からないマーファリーのガッツポーズ。
というか、レナメイド長……あ、諦めていなかったのね……!!
まあ、エルフィが自分から御三家の誰かと良い仲になるんならそれは彼女の意思も尊重した事になるわけだし……いい、のかしら?
御三家の参加者はみんな騎士団の隊長ばかりだって言ってたし、正直ハーディバルみたいなドS野郎揃いだったらどんなに良い家の人でも可愛いエルフィを嫁には出したくないわ!
もちろん、マーファリーも!
あ、となると……御三家の残り二名について情報収集しておくべきね。
攻略対象……かもしれない……相手の情報を入手するのは攻略の鍵……!
「ねぇ、それなら情報収集しておかない?」
「情報収集ですか? なんの……」
「もちろん、御三家の人たちよ。相手の事をリサーチしておくと会話する時に絶対役に立つわ!」
「な、なるほど!! すごいです、ミスズお嬢様! では………………どうやって……」
「え!? そ、そうね」
どうやって調べよう。
こういう場合は本人、またはその関連キャラからもたらされるものなんだけど……うーん、御三家の人たちと接点のある関連キャラ……。
「……まずは基本情報……みんなが知ってる事でも構わないから、まとめてみましょう。そこに集めた情報を足していく感じで!」
「なるほど、分かりました! では、なにかノートを買い足して帰りましょうか」
「そうね。パーティまであまり時間もないし、頑張りましょ!」
と言うわけで、なにやら一般応募の抽選会というので盛り上がる町の中をもう一度見て回りつつ商店町でノートを購入。
ノートといっても私の世界のノートよりはるかに分厚く、もはや本の部類なんだけど。
この世界のノート、ちょっと分厚すぎないか?
そう思うが、ほとんどの人は真っ白なこの自由帳二十冊分ありそうな本……じゃないノートを日記として使ったり、自分の本の執筆に使ったりするからこういう分厚さが人気なんだって。
学生もいちいち買い足すよりは卒業するまで一冊使い切れれば良い、という物持ちの良さ優先。
うーん、文化が違うわ。
さて、それからだが、屋敷に帰ってから早速部屋でマーファリーとレナメイド長、ナージャに協力を仰ぐ。
私はこの世界の人間ではないがハーディバルとは一応知り合いだ。
しかし! 知っているだけで奴のステータスまではイマイチ分からない。
三人に聞きながら、ともかく狙い目……メインディッシュとも言うべき御三家男子の情報を書き出す。
まず一人目。
ランスロット・エーデファー氏。
この国の騎士団の団長であり、騎馬騎士隊の隊長でもある。
年齢は三十三歳。
身長体重は不明。
黄土色の髪と瞳を持つ長身美形である事は三人の謎の同意により間違いないようだ。
性格も不明。
噂では人望厚い人物でかなりの快男児であり、フリッツの先日の話も交えるととんでもなく強い。
称号は『騎士団団長』『三剣聖』『火炎剣士』『炎帝騎士』『焔の勇者』など以下省略。
多分この国で最も多くの称号を持つ。
称号から察するに得意属性は『火属性』。
エーデファー魔法剣の使い手で、身体強化魔法使いとしても国内五本指に入るらしい。
二人目。
スヴェン・ヴォルガン氏。
年齢は二十五歳。
十六歳で王国騎士団、天空騎士隊隊長になった人物。
ハーディバルが十二歳で隊長になるまでは彼が最年少隊長就任者記録保持者だった。
プラチナブロンドの髪と緑の瞳を持つ、騎士団屈指のイケメン隊長。
女性人気は騎士団の中でも特に高く、王子フレデリック様同様ファンクラブがあるらしい。
性格は不明だが、微笑みだけで女性が失神するとか、幼女にも紳士的な対応をするとか、凄いものだと性転換を試みた男が二桁に達したとか……外面は間違いなく良いものと断定出来た。
いやもう良いなんてもんじゃねぇ……途中から半分信者入ってるわ……。
ファンクラブがあるだけあって情報も錯綜してる感否めないが、休日は相棒のドラゴンに全ての時間を費やしたりしている……との事。
称号は『天空の竜騎士』『竜と心通わせし者』。
三人目はハーディバル・フェルベール。
言わずと知れた魔法騎士隊隊長。
年齢は十八歳。
最年少隊長就任記録保持者。恐らく彼の記録は破られる事はないだろう。
薄紫の髪の銀眼の美少年。
騎士団内でも隊長、副隊長格以外の騎士はビビって近づかないほど他者に冷淡……もとい塩対応。
が、逆にそれがドMの心を刺激してやまないらしく、表立ったものではないがヤバめなファンクラブはあるようだ。……この情報必要なかった気がする。
得意属性は『闇属性』と『土属性』……他にも全属性が使える、所謂チート野郎。
国王アルバート陛下に「この国始まって以来の魔法の天才」と言わしめたと言う。
称号は『破壊者』『天災』『天才』『毒舌騎士』『人外レベルの魔法使い』……あれ、こいつだけ称号に偏りを感じるんだけど気のせいかしら……。
あと、称号がなんて騎士っぽくないの……。








