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恋愛脳オタクの初異世界生活と闇翼の黒竜  作者: 古森きり@書き下ろし『もふもふ第五王子』
【連載版】へし折れ死亡フラグ! 乱立するフラグを選び抜き、恋愛イベントを発生させよ!
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第7話!



「そちらの小さなレディの言う通り。女性に遊んで欲しいなら、もっと誠意を見せなければ。怖がる女性とお酒を飲んでも楽しくないでしょう」


 じり、じりと追い詰められる私たちと、四人の男たちの間にひょっこりと男の子が歩いて入ってきた。

 男の子の登場に数歩、後ろに下がる男たち。

 紺色の頭、グレーのケープ、腰には大きめの革のポシェット。

 半ズボンからは白い足…………。

 な、なん……こ、こんな、伝説のショ、ショタアイテムが、まだ存在していた、だと……!?


「は……? またガキかよ?」

「おい、坊主、女の前でいい格好するにはぁちいと早すぎるんじゃあねぇかあ? ひゃひゃひゃひゃ」

「いい格好も出来ない方々からのご忠告は参考にならないので結構です」


 よく言った。

 あ、いや! ナージャもそうだけど、なに、この国の子どもって気が強いの!?

 あんな大人の男……しかも四人も前にして全然引かないし挑発するし!


「危ないわ! やめて!」

「ご心配ありがとうございます。でも大丈夫ですよ、僕、とても強いので」


 振り返った少年はにっこり、しかし自信に満ちた笑みを私たちに向ける。

 ……なんか、こういう事を言っていた奴が前にもいたような……?

 誰だっけ?


「……言いやがる……。なら……容赦しなくていいなぁ……!?」

「!?」


 本当に剣を抜いた!?

 あんなショタに、まさか本気で斬りかかるつもりじゃ……!?

 そんな状態なのに紺色の頭のショタは微動だにしない。


「……ふふ、あまりにも稚拙で愚か……いっそ可愛らしくさえ思えるね……」


 誰にも届かない声でそんな事を呟いているとも知らず、本気で私が心配していると今度は町中がカタカタと音を出す。

 地面が、揺れてない? これ……まさか……。


「地震!?」

「ひっ……! きゃあああ!」

「マーファリーさぁん!?」


 ガタガタガタ!

 どんどん強くなる揺れは間違いなく地震……!


「違う! 下から何か来……!」


 ショタの叫びとほぼ同時に、四人の男たちの真後ろの地面から何かが飛び出した。

 かなり大きなモノ!

 そのまま空へと回転しながら登り、突然止まるとギギギギ……と気持ちの悪い音を立てて広がった。

 赤と青と黄色と黒。

 色んな色の入り混じった、蛾のようであり、蚊のようであり、鳥のような……化け物が太陽の光を遮断している。

 か細い首のようなところを傾けて、蚊のような口らしき部分を左右に揺らす。

 体が震えて、吐き気がするほど恐ろしい。

 な、なに、あれ……。


「……レベル3……? 馬鹿な……百年近く、これほどの魔獣は……」

「う、うわあああ! 魔獣だぁあ!」


 男の子の呟きは一人の男の叫びによって遮られる。

 私たちの行く末を野次馬していた通行人や買い物客が、我先にと散っていく。

 ……魔獣……こ、これが……。


「雌豚! なにぼけっとしてるの! 逃げるわよ!」

「誰がメスブ…………! ……う、うん! ……え!? マーファリー!?」

「……………………っ」


 ナージャに肩を掴まれて我に返った。

 ちょっと聞き捨てならない事を言ってたけど、こいつの言う通り、逃げたほうがいい。

 それは町の人たちの反応で、本能で分かる。

 だが、私がナージャに言われた通り逃げようとした時にマーファリーがしゃがみ込んで動けなくなっている事に気が付いた。

 肩を揺すっても、呼びかけても、自分の腕を抱きしめてカタカタと震えているだけ。

 一体どうしたの!?


「……わお、この町の傭兵は我先にと逃げ出すんですね」

「え!?」


 ショタの声にマーファリーではなく、その子の方を見る。

 あ、ホントだ、私たちに絡んでいた男四人がいない!


「あ、あの最弱傭兵ども! なんのために雇われてるのよ! 人の税金で飯食ってるくせに~! 信じらんない~!」

「……君も早く逃げよう!」

「いえ、傭兵が役に立たないのでは僕が相手をするしかないでしょう。……ふふふ、久しぶりにちょっと本気出してもいい相手かも……ふふふふふふ……」

「……………………………………………………」

「……な、なにあれ絶対ヤバい……。雌豚、マーファリーさんを連れて早く逃げるわよ」

「う、うん……? で、でも……」


 笑ってる……あんな気持ちの悪いモン前に……。

 ナージャの言う通り逃げた方がいいと思うんだけど……マーファリーが全然動かないのよね。

 どうしよう。

 ……それにあの魔獣? 全然動かないんだけどなにしてんの?

 と、思ってたら、自分の体から黒い靄がふわりと浮き上がり、魔獣の方へと吸い寄せられていくのに気が付いた。


「ひい!? なにこれ!?」

「! ……それは、恐怖!」

「恐怖!? い、いやまあ、怖いに決まってるけど!」

「そ、そうよね……でも、怖がってると魔獣に恐怖から生まれた負の感情を奪われる! あいつを強くしちゃう!」

「…………えええええ!?」


 ナージャが私の手を強く、握る。

 私の怖いと言う気持ちが『負の感情』……魔獣の餌として吸い取られてる!?

 見れば町中から黒い靄が立ち上り、魔獣へと吸収されていく。

 ……あいつが動かないのは……あの黒い靄を食べるため……!?


「ふむ、大人しいと思ったら食事のためか。……この僕を前に……随分と余裕だな」


 片足の爪先をトン、と地面に付いたショタ。

 その足元から氷がたちどころに広がる。

 あっという間に眼に映るところは全て氷に覆われて、空に浮いていた魔獣へと無数の鋭い逆さま氷柱が突きあがった。

 なにあれ危な……!!


「え! ……魔法陣や詠唱もなしに……!?」

「ハッ!」


 ナージャが驚いたのは私とは違うところ。

 そうだ、あの子、魔法陣や詠唱使ってない……!

 確か、そんな事が出来るのは体内魔力の許容量が多い体質の人だけ。

 そんな凄いものを目の当たりにすると思わなかったが、魔獣は、敵は空。

 翼のあるそいつは氷柱をするする避けて逃げる。


「……飛んで逃げるモノって、つい追いかけて叩き落としたくなるんだよね……」


 ……私の聞き間違いでないなら、ショタがそんな事を言った気がした。

 横顔からでも、ショタの目が完全に獲物をロックオンした狩人の目なのが分かる。

 背中がゾクゾクと謎の寒気に襲われる程の危険な香り。

 魔獣は上空を旋回しながら、更に黒い霧を集めている。

 とりあえず魔獣が遠くに行ったから、一安心……?

 なんて思ったのもマジで束の間。

 空を旋回していた魔獣のストロー状だと思っていた口が、芋虫のように横に割れた。

 そこからどす黒い光の弾がじゃんじゃんばかばか放たれる。

 ええ、こちらの方に!


「ひっ!」


 死ぬ!

 あれは当たったら絶対死ぬ!

 だが私たちよりも前に佇むショタが手をかざすと、その黒い光の弾はそれよりも黒い闇の渦へと吸い込まれる。

 じゃんじゃんばかばか撃たれる、その全てが!

 ど、どうなってんの!?


「なにあれ、ナージャ!」

「闇の防衛魔法! あの子『闇属性』も持ってるんだ……!」


 そして更に空がキラリと光る。

 旋回する魔獣へ、それよりも高い場所から氷柱が落ちてきた!


「は、はああああああ!?」

「はああああああああ!?」


 私とナージャの悲鳴がかぶる。

 ちょ、この位置からでも大きく見えるって事は!

 あんなのが落下してきたら、私らなんて押し潰される大きさなんじゃ……!

 いや、それよりも、まさか!


『ギアアアアアアア』


 わあああ! 魔獣直撃ぃぃ!

 そして、魔獣に当たらなかった数本が……。


「きゃあああああ!?」

「きゃあああああ!?」


 私たちの周囲に次々と落下ーーー!

 ガシャンガシャンと氷の上に派手に割れて散らばる。

 いやああああ! 生きた心地がしなーーーい!

 こんなところで死にたくなぁぁぁいーーー!



「……さあ、もっと逃げて。鬼ごっこで遊びましょう」



 楽しげなショタが落ちてきて血まみれ……もとい黒い靄まみれの魔獣へ近付きながら語り掛ける。

 落ちてきた氷柱の事もあるけれど、それよりもまず何よりもあのショタが怖い!!

 ナージャと抱き合いながら完全に震える私。


「逃げないのなら、優しく終わらせてあげますね。哀れなる我が国の民…………痛みなど感じない世界へ導いてあげましょう。静かに眠りなさい」


 凍り付いた地面に叩き落とされた魔獣が、地面と一体化するように凍っていく。

 さっきまで吸収されていた黒い靄は魔獣の体からどんどん噴き出す。

 靄は空気に触れると一瞬キラキラしたものに変わり、消える。

 な、なるほど、全身氷漬けにされれば……痛みも感じず静かに逝っちゃうわ……!

 あわわわわ……あの子、あのショタが……ヤバーーーイ!!


「え!? ミスズ様!? マーファリー!! ナージャ!! なぜここに……!」

「え、エルフィーーー!」

「お、お嬢様ぁぁぁ~~!」


 抱き合って震えていた私たちのところへ、エルフィが駆け寄ってくる。

 エルフィの姿にようやく離れた私たち。

 ナージャが両手を広げてエルフィへ飛び付くので、私も便乗。

 うえーーん、こわ、こわ、怖かったよー!


「警報が鳴っているのですよ! 早く避難を!」

「魔獣なら僕が仕留めましたよ、ユスフィアーデ嬢」

「え? …………え……!? ま、魔獣が、もう一体……!?」

「……え?」


 抱き付いた私たちを優しく抱きとめたエルフィが、ショタの後ろに氷漬けにされた魔獣を見るなり目を剥いた。

 私たちも、エルフィの言葉に背筋が冷える。

 確かに周りは氷漬けなので、普通に寒いんだけどそういう薄ら寒さとは違うもの。


「……エ、エルフィ! こういう時こそあのドS騎士の出番じゃないの!? あいつはどこに……」

「! あ……ハ、ハーディバル様は、東の地区にレベル3の魔獣が現れたのでそちらに……!」

「レベル3がもう一体!? 一体どうなっているんですか!?」

「……わ、わたくしにも……! で、ですが、とにかく皆を中央区へ避難させなければ……!」

「………………そうですね、魔獣が二体も同時に町中に現れたとなると……恐怖と不安で理性を失った者が魔獣化してしまう可能性が跳ね上がります。すぐに住民を避難させ、自警兵と常駐する衛騎士で見回りを……」


 話に入ってきたショタはショタとは思えない冷静さと指示をエルフィに出す。

 こ、この子今更だけど何者……。


「! 危ない!」

「!?」


 エルフィが私たちを突き飛ばし、ショタの後ろへ手をかざす。

 私やショタの背後にいた、氷漬けになった魔物がどす黒い光線を吐き出して攻撃してきたのだ。


「エルフィ!」


 その光線を一番前で受け止めたエルフィ。

 なんて事、氷を突き破って……!

 ……けど、エルフィの周りはなにか虹色の光で包まれ、私たちやエルフィには届かない。

 魔獣はすぐにショタが再度氷漬けに……しかも今度は念入りに、さらに分厚く大きな氷の標本に変えられた。

 お、恐ろしい。


「エルフィ!」

「お嬢様!」

「……だ、大丈夫ですわ……」


 いや、それよりも、へたり込んだエルフィだ!

 駆け寄るとエルフィは全然無傷。

 そして、エルフィの手には赤い八角形の非常にダサいネックレス……。

 だ、ださ、なにこれ。


「……ハーディバル様が、助けてくださいました……」

「え? ど、どういう事?」

「ほう、八角形の魔石ですか、珍しいですね」

「はい。二ヶ月前、わたくしの誕生日にハーディバル様からいただきましたの。どんな攻撃も一度だけ必ず防ぐ魔法が封じてあるからと……」

「……あ、あいつが……」


 ……女の子になんてダサいネックレスを……。

 しかも、そんなやばい目に遭う前提みたいな魔法を封じてるとか……。

 いや、助かったけど。



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