第5話!
とりあえずハーディバルとマーファリー、ハーディバルとエルフィのフラグを打ち立てるべく同行する事にした私。
家柄的にもお似合いなエルフィもいいけど、実は師弟関係だったマーファリーもいいわ〜。むふむふふ。
これはどっちとも恋愛フラグを立てておくべきよね〜。
……ハーディバルがハクラとBとLでなければ。
くっ、やっぱそこがネックだわ。
どう確認したらいいのかしら。
単刀直入に聞いていいもんか……ぐぬぬ。
でも、その場合も応援するから心配しないでドS騎士!
しっかり祝福するわ……!!
「ミスズお嬢様」
マーファリーに声を掛けられて顔を上げる。
エルフィとナージャ、レナメイド長が書庫への扉を開けるところだった。
出戻りした私たちがハーディバルを連れてきた事に最初は「え?」という顔をした三人だけど、事情と用向きを説明するとすぐに書庫へ案内してくれたのだ。
昨日も今日も入った書庫だが、そういえば、一つ不思議な事がある。
私がこの世界の言葉や文字を理解出来る事だ。
「ねえドS騎士」
「なんです」
「(否定しないんかい)……私なんでこの世界の言葉や文字が理解出来るのかしら? 分かる?」
「……召喚魔法には通訳魔法が組み込まれているものです。クソガキの未熟な魔法がなんの因果か中途半端な召喚魔法に変化した、と僕は考えているです。……魔導書には召喚魔法っぽいものもあったので、混ざったのかもです。まあ、詳しい事は使った本人しか分からないです」
「ナージャ〜〜?」
「ひぃう!? な、なんですかぁ〜〜!?」
説明しなさい、と詰め寄ってみても案の定「分からないですよぉ〜」と逃げ回りやがる。
クッ……これだから事故は! なんでもありで困るのよ!
「生命力魔力変換魔法が上手い事かかっていなくて良かったですね」
「そ、それはそうね」
「? なんですかぁ? それ」
「…………お前、召喚魔法が禁止された経緯も知らずにあんなやばいもん…………いや、もういいです……」
「え……? うひゃああ!?」
ドS騎士がナージャへ向けて手を差し出すと、ナージャが魔法陣に囲まれる。
紫色の魔法陣から鎖が螺旋状に広がりナージャの中へ消えていく。
え!? なに!?
「ハーディバル様!?」
「半年間の魔法封印の刑です。本来なら十年間の封印です。ありがたく受け取るです」
「魔法封印〜〜!? ひ、ひどいですぅ〜! ナージャは魔法使いを目指してるのに……」
「ああん? 魔力も封印してやろうかです」
「ヒィ! ……ご、ごめんなさい! なんでもないですぅ〜〜!」
……安定の鬼具合……。
でも、ナージャの処罰はこれで終わったって事?
……え……たったの半年……? ……解せぬ……。
私の異世界生活と同じ日数にすべきじゃないの?
「大体、魔法使いを目指しているなら禁忌とされている理由を調べるのが一般的です。使用者に反動があるものだったらどうするです? 言っておきますがありますよ、マジで。使ったら死ぬやつ」
「……へ……!?」
青ざめるナージャ。
……う、うわ、本当にあるんだ……使ったら死ぬ魔法とか……激ヤバじゃない。
召喚魔法……生命力魔力変換魔法とかいうのもヤバさはさっき聞いちゃったし、よく分かるけど。
ナージャ、あんた知らなかったのね?
……し、知らないって本当に恐ろしい……!
「生命力魔力変換魔法の事も知らないのには驚きを隠せないです。お前本当に魔法使い志望です? はぁ……頭が痛いです」
「うっ……でっでも……」
「言い訳をする内は魔法を使う資格はないです。魔法は剣や包丁と同じ。人を幸せにするのも不幸にするのも、使う者次第。それを正しく認識出来ない者は使わないほうがいい」
「…………………………」
………………う……。
き、厳しいけど、ドS騎士の言っている事は正しい。
そういう危ない魔法が現実にある以上、ちゃんとした知識もなしに使うのは自分も他人も危険にさらす。
私も危うく、そんなヤバい古代の魔法にかかるところだったんだから。
言葉的に変だからあまり言いたくないけど、事故だったおかげで生命力魔力変換魔法とかいうのにかからなかったところは、まあ、感謝だけどね。
「ナージャ、しばらく魔法は使えないけど、その間にもっと魔法の事を学びなさい。あなたなら素敵な魔法使いになれますわ」
「お嬢様……。……はい……頑張ります……」
珍しく舌足らずではなく、ちゃんとした口調で頷くナージャ。
さすがドS騎士……いや、魔法騎士隊隊長様のありがたいお叱りの言葉は心に響いたようだ。
「ちょっと、なんかフォローの言葉はないの?」
「別に。強いて言うなら、魔法使いを目指す事にしたきっかけは常に心に置いておく事です」
「……魔法使いを目指したきっかけ……」
暗かったナージャの顔がほんの少し明るさを取り戻す。
しかし、また俯いて……なんかさっきより暗くなった。
ええ……? ドS騎士結構まともな助言したわよ〜?
「さて、クソガキへの罰則実行は終わったので次は書庫の調査です。書庫の書籍リストはないのですか?」
「レナ、ありますか?」
「確か地下に……」
え、この書庫、地下もあるの?
レナさんとエルフィが壁一面の本棚の中の一箇所、場所でいうと一階の屋敷側の扉の横へと近付く。
一階の屋敷と書庫を繋ぐ扉の横の本棚をエルフィが軽く押す。
一瞬だけ白い光が本棚を覆うと、あのいかにも重たそうな本棚は自分から自動ドアよろしく奥へと下がっていった。
そして本棚が下がった分の隙間に地下へ続く階段が……!
わ、わあ! すごい! いかにも貴族のお屋敷だわー!
「え、ええええ〜〜っ!? こんな仕掛けがあったんですかぁ!?」
「すっご〜い!」
「わたしも知りませんでした……!」
「ええ、この仕掛けを知っているのはユスフィアーデ家の者と十年以上この家に仕えてくれている者のみですの。この下には貴重な蔵書が多いので……」
「……口外はしません」
「ありがとうございます、ハーディバル様」
驚く私とナージャとマーファリー。
つまり秘密の地下書庫なのね! きゃ〜、わくわくする〜!
あ、っていうか、そんな場所に私も入っていいのかしら?
「あの、エルフィ……その地下って私も見てみたいんだけど」
「ええ、構いませんわ。ミスズ様が元の世界に帰る為のお力添えになるのでしたら」
「ありがとうっ」
やった! 言ってみるもんね!
しかし、そんな浮かれた私の横でドS騎士は静かに鋭い眼差しでナージャを見下ろす。
「けれど、それだと少しおかしいです」
「? なにがですの?」
「貴重な蔵書が地下にある。そして、あの魔導書はどう見てもその部類。……どうして持ち出した人間は、その『貴重な蔵書がある地下』の事を知らなかったのでしょう?」
「ギクゥ!」
跳ね上がるナージャの肩。
髪の毛まで逆立つほどの驚き具合に、その場の全員の眼差しがナージャに集まった。
……確かに……ドS騎士の言う事はごもっとも。
あの魔導書かなり貴重って、何度も言ってたものね……。
そんなものが地下じゃなく、上の階の本棚に?
それは、違和感があるね。
「……それに地下への扉はユスフィアーデ家の者の魔力でなければ反応いたしませんわ。……わたくし、地下へはほとんど行きませんから……お姉様が資料をお探しの時に誤って上の階に持って来てしまったのかしら? ……でも、お姉様もあの魔導書についてはなにもご存知なかったし……」
「あ、あう、あう……」
「…………まあ、ユスフィアーデ家の方が所有を覚えていないのであれば盗難の件は不問になりますけど……。……一応上の階のものを含め調査だけはさせていただきます」
「はい」
……怪しい。
今更だけど怪しいわ、ナージャ!
こいつ何か隠してる! なんとか炙り出してやれないものかしら……日頃の恨みも溜まっている事だし!
ドS騎士は仕事以上及び仕事以外の事はしないみたいだし……ここは私がねっとりと追及してやるべきかしら〜? ふふふふふふふ……!
「……ミスズお嬢様、わたしはこちらでお待ちしていますね」
「え? なんで?」
「本来ならわたしはまだ地下の事を知らされるべきではなかった立場です。使用人として、ここから先へ進む事は……なんだかいけない気がしますので」
真面目ねぇ、マーファリー!
「な、ならナージャも上で待って……」
「マーファリー・プーラ。上に残るならその小娘を見張っていてくださいです」
「はい、分かりましたハーディバル先生」
「せんせ……!? え!? マーファリーさん、このドS騎士とお知り合いだったんですかぁ!?」
「ええ、わたしが亡命して来たときの先生なのよ」
「…………………………あ、あう……」
項垂れたナージャ。
まあ、そりゃ想像つかないわよね……この二人が師弟関係なんて……。
しかもマーファリーったら従順……!
それはそれで心ときめくけど……同じくらい、なんか怖い!
「では参りましょう」
エルフィに案内されて降る地下への階段。
薄暗い階段は、壁に埋め込まれた魔石がエルフィが歩く速度で次々に明るくなる。
魔石って触っていなくても起動するのね……まだまだ不思議がいっぱいだわ〜……。
そうしてしばらく降ると、扉が現れる。
重厚感のある重そうな扉にエルフィが手をかざすと、やはり自動ドアよろしく勝手に開いていく。
ここの扉もエルフィたち、ユスフィアーデ家の人間でなければ開かないらしい。
かなり厳重ね……いよいよすごいものがあるって感じ?
ワクワクしながらエルフィとレナメイド長の後ろに付いて、地下の書庫へと足を踏み入れる。
「わあ……広ーい」
上の書庫には敵わないけれど、こちらもなかなかの広さ。
壁は本棚や壺やらなにやらよく分からないものの飾られた棚でびっしり。
……若干、想像してたのと違う……もっとどんよりしてて、薄暗くって、宝箱とかが無造作に置かれたりしてるのかと思った……。
現実の地下書庫は広いし明るいし、宝箱は一個もなく、なんというか、博物館みたいな感じ。
書庫と言う割に本棚は三つだけ。
ハーディバルが真っ先にその本棚に近付いて見上げると……。
「…………」
銀の瞳がほんのり光る。
なにかしら?
「ハーディバル様?」
「……やはり……」
「? え?」
「……いえ、こちらの話です。本はこれだけです?」
「……ここより下にもう一つ、禁庫がありますが……」
「禁庫……。そちらを見せていただく事は……」
「無理ですわ……。危険な魔導書や、道具が封じてあると聞いた事があります。我が家が王家と名乗っていた時代の負の遺物……。二度と世に出ぬ様にと、硬く強い封印が施されているそうです」
「……そうですか……。まあ、そう言うものは昔王家と名乗っていた家には付き物ですからね……。分かりました。上階の本のリストだけ確認させてください」
「はい。レナ」
「こちらです」
と事事ハーディバルの横に来て例の本棚を見上げてみるけれど……うーん、難しい題名ばかり。
魔法も使えない私にはさっぱりだわ。
「ねえ、私が帰るのにヒントになりそうな本ってある?」
「ないです。……ここにあるものは例の魔導書より遥かに新しい。ここ三百から八百年以内のものです」
「……え…………あの魔導書そんなに古いの……!?」
「あの魔導書は文字が大凡四千年以上、紙の本の文化が浸透して来たのが三千八百年前……」
「…………………………そ、そうなんだー……」
と力なく声が出た。
ああ、もう全然年代が違うのねぇ……。
「それに、こちらの調べた結果あの本は『写し』である事も判明しているです」
「『写し』?」
なにそれ。
「言うなれば本当にやばい魔法の載ったオリジナルを守る為の偽物です。紙の本が誕生し、浸透して来た三千八百年前にあの偽物が作られた事を考えると……もしかしたらギリギリアルモンド文字を扱える民族が残っていたのかもしれないです。……というのはハクラの見解です」
「……ほ、ほんとにやばい魔法の載った本物……。……な、なによそのほんとにやばい魔法って」
「注目すべき点はそこではないです。お前の知りたい、元の世界に帰る方法が載っているのは恐らく『本物』の方です。残念ながら『本物』は我が国の誇る『図書館』の禁書庫にもなかったです。もしかしたらと思いましたがこの本棚にもない」
この本棚。
ユスフィアーデ家の、地下書庫の本棚にも……。
え? ちょ、ちょっと待ってよ……。








