第4話!
「……実は」
「ごくり」
「ユスフィーナ様、求婚されているんです」
「ええええ!?」
きゅうこん!?
球根……いや、求婚!
そんな、まさか! 突然の恋愛フラグ!?
「ですがユスフィーナ様には他に想いを寄せる方が!」
「えええええええーー!」
きゃああああ! なによそれー!
少女漫画級の萌展開ーー!
く、詳しく〜! それは、詳しく聞かねばじゃないいい!
「どう言う事どう言う事!?」
「ここより北東には山脈地帯があり、その地方を治める領主のご子息がユスフィーナ様にご執心なんですよ」
「ええっ! 領主の息子って事は、すごい御坊ちゃまって事!?」
「いえ、相手は地方領主のご子息です。ユスフィーナ様は地方領主様より土地を治める事を認められる地方都市領主……格で言うならあちらが上です」
「玉の輿って事!?」
「そうですね……」
ひゃ、ひゃあああ!
なんて修羅場な展開なの〜!
格上貴族に見初められたユスフィーナさん……。
けれど彼女には他に好きな人が……!
うひゃひゃひゃ! な、なんという、良い!
「しかも、そのお相手は竜人族の長の息子! 言うなれば竜人族の王子様です」
「竜人族の王子様!? ……王子さ、え? りゅ、竜人?」
「はい、竜人族は人里に降りたドラゴンと人が結婚し、交配して生まれた種族。人間よりも遥かに長寿で、力も魔力も桁違いに強い方々! その姿も様々で、人に近ければ鱗があるくらいですが、ドラゴンに近ければ二足歩行するドラゴンのようなんだそうですよ」
「ちょちょちょちょっと待って! 人間とドラゴンが……え? 結婚して子ども……出来るの!?」
「はあ、まあ、出来ちゃったみたいですね」
ふぁ!
ファンタジーーーー!
「あまりにも人と見た目が違うので、山脈地帯へと引きこもっておられるそうですけれど……アルバニス王国ではちゃんとアルバニス国民として扱われている、れっきとした人間なんだそうですよ。……ドラゴンの森に棲まうドラゴン族は、彼らを拒絶したと言われていますから……」
「え? なんで? だって半分はちゃんとドラゴンなんでしょう?」
「ドラゴン族のほとんどは人間を嫌悪しておられるんです。幻獣族にはもはや拒絶の域で嫌われていますけど……。大昔、人間がドラゴンや幻獣の棲家を侵し、己の長寿の為に肉や血を狙った事で、完全に敵と認定されたのだと伝わっています」
「んなっ! ……あ、じゃあまさか黒髪黒目が狙われるって……」
「はい、その名残といいますか……もう四千年も経つのにまだ信じている者がいるみたいですね」
「四千も経ってるのに!? 忘れなさいよそういうのー! んもーぅ!」
……まあ、髪の色を染めたのは……ちょっとウキウキしたし、意外と可愛くなれたから……まあ、いいんだけど……。
恨むわよ、過去の人!
なんて余計な事を!
「そのような過去がある為、アルバート陛下はドラゴン族、幻獣族の領域への不可侵の条約を交わされたのです。以後アルバニス王国ではドラゴンの森と幻獣の森に立ち入った者から市民権の剥奪、生命の保証はなし、また立ち入った者への治療行為も禁止、という厳罰を敷いて徹底的に彼らとの交流を絶っています。これは彼らの領域に立ち入らない代わりに、人間の事も食べないでくださいという約束に基づいたもの。ドラゴン族の森へと入れるのは王族のみ! ……そのような機会はないとは思いますが、ミスズ様もドラゴン族の森には絶対近付いてはいけません! あまつ、入ったりしたら食べられますから! ドラゴンの森に入ったら、二度と生きて出られないんですよ!」
「……は、はい……」
うっわ、そうだったんだ……。
どこにあるか知らないけど、食べられるのは絶対嫌!
そんな死に方、嫌よ!
そんな機会ないと思うけど気をつけよう……。
「と、このようにこの世界の事を知らないとうっかり死んでしまうかもしれません。魔石が使えるようになったら文字や世界の勉強をいたしましょうね」
「くっ……勉強は嫌いだけど……命に関わる事は確かに知っていた方が無難ね……。わ、分かったわよ〜……」
なんかすっかりマーファリーに丸め込まれた気がする……。
「って違うわよ! ユスフィーナさんの恋バナを聞いていたのよ! ねぇ、マーファリー、その竜人の王子様に求婚されてるユスフィーナさんの好きな人って誰なの!? どんな人!?」
「……わっ! ……あーっと、わたしも詳しく知っているわけではないんですが、マーレンス地方レール家の分家、カヴァーディル家の長男の方で、現在は旅をされていて連絡がつかないとか……」
「えーっ! なんでなんでー!」
「カヴァーディル家は当主が亡くなってから後妻が幅をきかせていて、前妻との子であるカノトさんを後妻が追い出したんです」
「なるほど! もしかして、自分の子どもを次の当主にしようと目論み、前妻との間に出来た子どもを追い出したとか、そういうパターン!?」
「ええ、よく分かったですね」
「そりゃあ、泥沼ゴシップ雑誌や少女漫画じゃあ王道な展開じゃない!? 昔の童話でも、大体そんな……」
……マーファリーはあまり詳しくないと言っていた。
そして、マーファリーの声ではない男の声が途中から解説していたような……。
恐る恐る振り返ると、まあ、一昨日ぶり……。
「ド、ドS騎士……」
「……たった一日で別人みたいになりましたね。中身はこれっぽっちも成長してないみたいようですが」
「一言余計よっ!」
ハーディバル・フェルベール!
私が召喚された時にたまたま近くに居合わせた、この国の王国騎士。
なんか魔法騎士隊の隊長らしく、偉そうというより腹が立つ毒舌ドS!
薄い紫色の髪と、冷たい銀の瞳の美少年だ。
性格と口は悪いの一言に尽きる。
朝にとんでもなくすごい家の次男と聞いたが、あまり敬おうとは思えない。
「こ、こんにちは、ハーディバル先生! お久しぶりです!」
「お久しぶりです、マーファリー・プーラ」
「知り合い!?」
そして先生!?
「は、はい。ハーディバル先生はわたしが亡命してきたばかりの頃に、この世界の事や魔力の使い方を教えてくださった先生なんです。わたしの苗字……『プーラ』も先生が考えてくださったんですよ」
「別に……国からの命令でしたからとてつもなく仕方なくです」
「……あんた、ホント一言多いわね……。あ、そうだ……」
ハクラにも言ったけど……私まだこいつに名乗ってなかった。
今度会った時お礼ついでに名乗ろうと思ってたのよね。
かなり癪だけど……お世話になったのはホントだし。
「私の名前まだ言ってなかったでしょ。私は水守みすず。名前はみすずだからみすずさんって呼ばせてあげるわ」
「ところでユスフィアーデ家の門の前で何をしているんです?」
「スルー!? もっと興味持ちなさいよ!?」
「追い出されたんです?」
「違うわ!」
「あ、あの、ええと、ミスズお嬢様のカラーコンタクトを買いに行こうと思って……」
「カラーコンタクト? ……ああ、確かに黒い瞳は珍しいです。その方が無難かもです。……なるほど、それで髪の色も変わっているのですね」
「はい。先ほど染めたばかりなんですよ。お可愛らしいですよね」
「低脳を自ら晒す愚かさ丸出しのお馬鹿さんが王族と同じ髪色だったのには素直に腹が立っていたので純粋によくやったとは思うです」
「言い方があるだろうが他にーーー!」
「ニアッテルンジャナインデス」
「心を込めろ!」
ナージャとは違う意味で腹の立つ!
「(うーん……弄ばれてるなぁ……。ミスズお嬢様、先生の好きなタイプだから……)……ハーディバル先生はエルファリーフお嬢様にご用事があるのですよね。今ご案内します」
「出かけるんじゃなかったんです? 別に一人で行けるです」
「そのつもりだったけど……。ちなみに何の用なの?」
用件は聞いてないってエルフィもメイドたちも大騒ぎしていたのは今朝の事だ。
私が用件を聞いて、ナージャを連れて行くとかなら……まあ、少しくらい説得してみよう。
別にあんな腹黒小娘どうなろうと知ったこっちゃないけど、エルフィが悲しむのは嫌だしね! そうよ、エルフィのためによ!
「書庫を見せていただくつもりです。例の魔導書について何か分かるかもしれないので」
「魔導書?」
「あ、マーファリーは知らないのね。私が召喚された時にナージャのやつが参考に使ったらしい魔導書の事よ。もしかして帰る方法が分かったの!?」
「古代文字の解読がそんなに簡単だと思ってるんです?」
「……うっ……いや、思ってないけど……」
私の世界でも難しい事はだって分かってるけど〜〜っ!
「……この世界はかつて無数に国が生まれ、滅ぼしあった歴史があるです。その時に、文字を生み出すレベルの文明がある国はほとんどなかったです。逆に文字のある国はそれなりの文明と、生き残りのためにやばい魔法をいくつも生み出したと伝わっているです」
「…………や、やばい魔法……?」
「その内の一つが召喚魔法。異界から人間を召喚して、勇者に祭り上げて戦わせるもの。この世界の人間では難しい、生命力を魔力に変換する魔法を異界の者は使えたと言います。その事を知らされず、あるいは知っても……生命力を魔力に替えて戦った異界の者は、強大な力と引き換えに自らの生命力を使い果たして死に至るです」
「………………………………」
……ガチでやばい魔法だった……!
え、なに、それじゃあまさか……! 私は……っ!?
「なので現在は異界の者を召喚する魔法は禁忌とされているです」
「私は!?」
「ソッコー魔法が使えたらやばいです」
「ううん、使えない! 今日も練習したけど魔石もまだ使えない!」
「じゃあ大丈夫なんじゃないんです? そもそも、僕の初見では人を呼び出す魔法でもないでしたし」
「……よ、良かった……」
あー、一安心!
魔力が使えなくてやきもきしてたけど、そんな話聞いたら使えない事に安心よ〜。
……でも、そうか〜……私の世界でいうところの異世界に召喚されて勇者としてチートなスペック発揮するのが必ずしもいい事とは限らないのね……。
命……生命力と引き換えに戦わされる……。
ううう、考えただけでゾッとしちゃう!
「……と、まあ、一応お前のそのあたりの事も調べるつもりだったです。魔法がすぐに使えたのでないなら別にいいです」
「……え、心配してくれたの?」
もしや、フラグ……?
「問題が増えるのは面倒です。魔力を使わず生活させる必要がないならそれでいいです」
「……そろそろそのブレなさに感心してきたわよ……」
……あと、期待もしなくなってきたわよ。
こいつに人らしい優しさを期待する事を。
「で? 僕の用向きを聞いてお前はどうするつもりです?」
「え? あ、うーん。書庫を見るって事はその、一応私の帰る方法について調べてくれてるって事……」
「いえ、魔導書盗難に関しての調査です」
「……でしょうね……」
諦めも付いてきたわ。
「……どうしますか、ミスズお嬢様……」
「うーん……」
まさか出掛ける直前に会うなんて思わなかった。
ナージャが魔導書をユスフィアーデ家の書庫から無断で持ち出した盗難の件……私に関係あるようでほぼない。
……でもなー……もしかしたら、私の帰る方法に関する魔導書があるかもしれないし……。
そう考えるとあの書庫、私も調べる必要があるんじゃない?
……それに、なによりまさかマーファリーとこのドS騎士が知り合いだったとは思わなかった!
歳下の先生と歳上の生徒……こ、これはなかなかないシチュエーション……!
でも、わ、悪くない!
「出来の悪いあなたがこんなに立派になるとは思いませんでしたよ」と、いつもは無表情なハーディバルが、マーファリーの頬に手を添えて微笑む。
マーファリーの中ではまだ幼さの残るイメージしかなかった歳下の教師は、すっかりと凛々しい騎士に成長していた。
勉強を教わっていたあの頃はただの子どもだったのに。
そう思いながら、近付いてくる唇に静かに目を閉じ……………………。
「……なにかろくな事を考えていない気配を感じるです」
「ろくな事を考えていない気配ってどんな気配ですか……。先生って相変わらず変なものを感じ取る能力にも長けていますよね。それも霊感なんですか?」
「……いや、これは騎士の第六感というやつです。それより真顔で天を仰ぎながら固まっているこいつは一体どうしたんです?」
「さ、さあ? 今朝もこうなられたんですが……。やはりお加減が悪いんでしょうか……? もしやお腹が空いて……? ミスズお嬢様、ミスズお嬢様、しっかりなさってください。ミスズお嬢様〜〜」








