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最強の魔導書は黒歴史ノート!?  作者: 藤村灯


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第4話 打ち砕け黒歴史! 必滅! チェルマー&ボルログ

 ハインツは部隊を編成し、このまま北方侯(ほっぽうこう)の居城まで攻め込むという。


 もともとこの砦は王都の護り。数日を待たずして増援が来るのだから、このまま守りに徹するのが正しいんじゃないの?

 そうわたしが疑問を口にすると、ハインツは歯をむき出しにして吠えた。


「それでオレの気が治まるものかよ!!」


 前任の守備隊長や、多くの仲間を殺されている。気持ちは分かるが、ラグノス側に悪魔がいる限り、つかの間の優勢などあっという間に(くつがえ)されてしまうだろう。


 だけど、どのみちわたしは部外者で、(いくさ)に関してはずぶの素人だ。ラグノスが召喚した悪魔が何柱なのかは分からない。案外ハインツの言うように、今の勢いで居城を攻め落とすことができれば、結果として双方被害が少なくて済むのかも。


「そう。好きにすれば」


 素直に引き下がり、自室で休もうと歩き出すと、後ろから手を伸ばしたハインツに引き留められた。


「おい、ちょっと待てよ!」

「……なに?」


 強い口調に身がすくんだところに、むき出しの肩をいきなりつかまれ、腰が砕けそうになる。男の人とふれ合うこと自体まれな非リア充相手に、なんて仕打ちを!


「その……なんだ、礼を言っておきたくてな」


 ハインツはなにやら言いづらそうに口ごもっていたが、男の人の力で乱暴に扱われ、びくびくしているわたしの内心に気付かぬまま呟いた。


「オマエの絶対虚陣断層アブソリュート・ゼロ・ウォールがなけりゃ、オレらいまごろ消し炭になってただろうからよ」


 わたしの顔が一瞬にして別の緊張にこわばる。他人の口から己の黒歴史ワードを聞かされるのは、いままで味わったことのない種類の痛さを覚える。


「力を疑って悪かったな。オマエの超竜破断光(Z・エグゼキューター)があれば――」


 追い討ちのダメージにしゃがみ込み、顔を覆いぷるぷる震えだしたわたしを目にし、ハインツは言葉を途切れさせた。


「……いや、いい。オレらしくもねぇ。それは甘えすぎってもんだな。あれだけの魔法だ。それなり以上の代償が必要なんだろ? 聞いたぜ、オマエが『あ”ぁあ痛々しい! いっそ清々しいほどの中二病だな! 不治の病か!?』って叫ぶ声をよ……」


 木立の奥で掘った穴に、顔を突っ込んで叫んでたのを聞かれたのか!? 聞かなかった振りをする優しさをみせろよぉぉお!!


「異邦の魔神とはいえ小娘だ。命を削ってまで戦わせてちゃあ、オレの男が立たねぇんだよ!」


 うわあぁあん!! 男なら女の子を恥ずか死なせないデリカシー持てよう!!


 頭を抱えしゃがみ込んだままのわたしを残し、ハインツの部隊は砦を後にした。


 脳筋のバトルジャンキーが危ない目に合うのは自業自得だけど、随伴(ずいはん)するマルルクきゅんまで死地に付き合わされるのは心配だ。出会ったばかりの貴重な(いや)し要員が……


「サワコさま、心配なんですよね? 追い掛けましょう!」


 ぱかぱかと馬を引いて来たサリサリが、わたしに笑顔で手を差し伸べた。


 ……こいつはこいつで、わたしを過大評価して使い潰す気満々だしなあ……


 だけどここでこのまま見過ごしても、後味の悪い思いをするのは確かだ。


「やれやれ、仕方ない。乗りかかった船だしね。最後まで付き合ってあげる!」


            §


 威勢のいい出立(しゅったつ)とうらはらに、わたしたちの道のりは遅々として進まない。乗馬の経験などないわたしは、サリサリの背中にしがみ付いているだけだけど。これは散歩を楽しむ程度のスピードなんじゃあないの?


 揺れに合わせ、時折サリサリの「おまたが……おまたが」と呟く声が聞こえる。これ、この子も乗馬スキル持ってないパターンなんじゃない?


「いや、ロバに乗るのは上手いんですよ?」

「じゃあロバにしときなさいよ! っていうかそれでも追い付けないわよ!」


 わたしたちは、ぱかぱかと絶望的に呑気(のんき)な騎行を、途中何度も休みを取りながら続けた。近道だという両側を切り立った崖に挟まれた隘路(あいろ)に入ってすぐ、前方から響く剣戟(けんげき)を耳にした。


「良かったですね。あんまり引き離されてなかったみたいで」


 ほっとしたように呟くサリサリ。良くもないだろう。ハインツの隊は待ち伏せされ、足止めされていたということだから。


 狭い谷間をふさぐように、2mほどの長さの白い石柱が浮かんでいるのが見える。埋め込まれた一つの青い宝石は、目の代わりだろうか。それの周囲にはいくつもの岩が浮遊し、岩が組み合わさって出来た巨大な2つの拳が、ハインツ達を目がけ振り下ろされている。


「序列70位、不破(ふは)のボルログですね。魔軍の中で最も硬い身体を持ち、扉や宝物の守護に呼び出されることが多いと聞きます。動きは遅いから、隙をつけばすり抜けて進めそうなのに?」


 不審がるサリサリに従い、わたしたちは岩陰に隠れて様子を伺うことにする。ひとりの兵士が岩の拳を掻いくぐり、騎乗のまま青い宝石を狙おうとするが、拳が弾いた石つぶてに打たれて落馬する。別の兵士は馬がよろめき、充分かわせるはずの拳の軌道に、自ら入るようにして吹っ飛ばされた。


「……? なんかおかしくない?」


 守備隊の攻撃はまるで見当外れだったり、不運が重なったりで当たらない。逆にボルログの攻撃は偶然が味方し、どんな形ででも必ず兵士にダメージを与えている。


 奇妙な戦いに首を捻っていると、今までどこに隠れていたのか、小さな人影が一つ。岩の拳を足場に、石柱の上に身軽に飛び乗るのが見えた。


「ここは通さないって言ってんダロ? いい加減あきらめろヨ」


 土色の短衣を着た子供の姿。でも、耳はとがり、赤い目は禍々しくギラついている。


 その姿に兵士の一人が素早く矢を射かける。その矢は、兵士に振るわれる岩の拳が弾いた小石にぶつかりあらぬ方へと弾かれ、狙いを付けるため足を止めた兵士自身も、石の拳で吹き飛ばさた。


「必中のチェルマー! 序列25位の悪魔です。あれの呪いがある限り、見切れるはずの拳をかわせないし、こちらの攻撃は悪運に阻まれ、決してボルログに届かない!」


 どちらか一柱ならまだしも、二柱そろうと無理ゲーだ。


「タチが悪いな。ここは諦めて、他の道を選ぶのは?」

「森を突っ切る方法もありますが、馬では進めないし、別の悪魔が待ち構えているかもしれません。時間稼ぎが目的なのかも」


 速攻を選択したハインツには、他のルートのことなど頭にはないだろう。


(うた)ってんじゃねぇぞこのガキ! 攻め込まれて逃げ場のないのはオマエらのほうだって忘れんなよ! 今すぐボッコボコにして押し通ってやんよ!!」


 抜き放った剣をチェルマーに向け、タンカを切るハインツ。……やっぱりこのパターンだ。


「こっちが遊んでやってるのニ、調子に乗るナヨ人間! いいゼ、必中と不破の合わせ技、必滅(ひつめつ)を喰らわせてヤル!」


 そんで悪魔も挑発に乗りやすいのな!? ボルログの青い宝石が輝き、岩の拳が打ち合わされる。ボロボロながらも、守備隊に死人が出ていないのを見ると、チェルマーが遊び半分だったのは事実だろう。だが、倒せない敵から、避けられない全力の拳が放たれるのなら、隘路はわずかの時間で、プレスされた死体で埋まることになる!


「サワコさま!!」


 サリサリがわたしに期待の眼差しを投げかけている。ここで声を掛けて兵士を下がらせ、何か強力な魔法を放つことができれば、ごり押しでどちらか一柱は倒せるかもしれない。


「でもなー。メンツがどうとか言って、ハインツが言うこときかないだろうしなー」


 気乗りしないまま黒歴史ノートをめくるうちに、剣を構えハインツが走り出した。狙いはボルログの青い宝石。これ見よがしに弱点っぽいから、先に当てれば勝ちとか雑に考えてそうだけど、すでに必ず当たる2つの岩の拳も放たれている。その背中を見守るのは、弓矢を抱え涙目のマルルクきゅん。


 あああダメだダメだ! あのバトルジャンキーが死んだら、わたしの天使が悲しむことになる!!


「これだ! 我が言葉は尾を()む蛇。魚の眠り。殻の中の雛の夢。聞け、汝の矛は矛盾なく盾を貫くもの。 混沌術式167節 矛盾解体パラドキシカル・ブレイド・アーツ!」


 ギリギリ間に合った魔力付与の効果で、2つの拳はかち合い道を開ける。その間をすり抜けたハインツの振るう刃は、ボルログの青い宝石をかち割り、もろともに砕け散った。


「馬鹿ナ?! なんデ!?」


 驚きの声を上げたチェルマーが、わたしに気付き反応する前に、歪められた必中の呪いは術者自身に跳ね返った。岩壁に当たり弾き返された、2つの岩の拳の直撃を受け、チェルマーの身体ははるか彼方に吹き飛ばされた。


「こういう魔法もちゃんと効果あるんだ」


 因果を捻じ曲げるイメージで、なんとなくカッコいい言葉を並べてみたけれど、使いどころが難しく、設定だけ作って放置していた呪文なのに。


『効かなかったらごめんネ!』状態の危ない橋を渡り切り、ほっと胸をなでおろす。みんな吶喊(とっかん)する隊長に気を取られ、わたしたちに気付いてない様子。

崩れたボルログの残骸に埋まったハインツは、兵士たちに掘り起こされている。どうやらたいした怪我はないようだ。


「尊い……」


 岩陰に隠れたまま、ハインツの首に抱き付いて大泣きするマルルクきゅんを愛でていると、ちょいちょいとサリサリがわたしの袖を引っ張った。


「わたし、思うんですけど……ローデシア卿より先に、サワコさまが北方侯(ほっぽうこう)のお城に乗り込んじゃったほうが、早いんじゃないですかね!?」


 この娘は……恐ろしいプランをさらっと口にしおって……


 まるで考えなかったわけじゃない。でも、わたしの魔法がどれだけ使えるものなのか、わたし自身わかってないし、なによりわたしがノリノリで、この状況を楽しんでるみたいじゃないか。


「お優しいサワコさまは、これ以上の犠牲が出ることに心を痛めておられるのでしょう? いま顔を出したところで、ローデシア卿はわたしたちの同行は絶対許可してくれませんよ。だったらいっそ先回りして――」


 頭を抱えしゃがみ込むわたしの耳元で、無邪気に目を輝かせたサリサリが囁く。なんだか、だんだん全て承知の上でやってるように思えてきたぞ?


「あーもう、分かりました! やるよやりますよ!!」

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