序章 天の間より射したるは、ほのかな光
天照大御神。
神に疎い者でも、その名を耳にしたことはあるだろう。
穢れを祓う象徴『太陽』の神であり、神道の最高神である。その神格は極めて高く、三貴神の一人に数えられる。天照大御神の力がどれほど強大かという逸話は、天岩戸伝説で知られるほどだ。一度姿を隠せば、日は昇ることなく穢れが地上を覆いつくす。亡霊や亡者が人間に取って代わることも、場合によっては笑い話ではなくなる。
その危機を救ったのが、かの有名な「オモイカネ」である。
オモイカネの策により、天岩戸から天照大御神を引っ張り出すことに成功し、再び地上に日の光が射したという。常世の全知を司る神でありながら三種の神器も作り出すことから、頭だけでなく手先も器用な神様だ。
そして、天照大御神を傍らで支えるのが「トヨウケビメ」である。
常世に降り立った天照大御神が腹をすかせて困らないようにと、豊穣の神として遣わされた。豊穣の神は田畑を耕す者に持てはやされ、次第に力を強めていった。それがいつの間にか、商業や商売などのご利益を獲得し、今では稲荷という地位を獲得した。
道端に落ちている犬の糞と同じくらい多いことから『犬のくそと稲荷」と揶揄され、末社がどれだけの数なのか窺える。
最も、近年では飼い主のマナー向上により、数では稲荷の圧勝となったのが皮肉だ。
この三人――三柱は代表的な常世、即ち天界に住む神の代表格である。時折、漫画やアニメに登場しては善悪のどちらかに当てがわれるが、元は日本の古き良き神である。
その三柱の娘たちが自分の目の前に並んでいたら――すんなりと信じられるだろうか?
信じられるはずもない。
だが、現実には人の姿を装い我々と同じ背格好をしているのだ。
それは何故か? ……簡単な事だ。
彼女たちは立派な神とは程遠い、落ちこぼれだからである。