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林の中を歩くコケシのような姉妹。行く手に制服姿の少女が倒れている。

妹「あれ? 姉さん。ほら。道に少女がおちているよ」

姉「あらあら。道に少女がおちているわ。どうしましょう」

妹「どうしましょうか。あたい、道におちてる少女を、どうしましょうか」

おろおろしながら盆踊りをおどりだす妹。

姉「サルちゃん落ちついて。稲を刈って、まとめて、ポイ、稲を刈って、まとめて、ポイ、をしているばあいではないわ」

妹「ごめんね姉さん。あたい、どうしていいかわからない現実に直面すると、村の盆踊りをおどらなくちゃいけない気がしてくるの」

姉「ふびんな子だわ。でも姉さん、そんなあなたがまあかわいいのよ」

妹「まあうれしい!」

姉妹うたう。

姉「はあ〜、妹かわいやかわいや妹〜姉さんそれみてなおうれし〜」

妹「はあ〜、姉さんうれしやうれしや姉さん〜妹それみてなおかわいい〜」

少女、むくりと起き、きょろきょろ。

妹「姉さん。あたい、あの子と目があったわ」

姉「あら奇遇ね。わたしも目があった気がしたの」

妹「はあ〜、むくりと起きたよおちてた娘〜」

姉「これが馬ならなおうれし〜」

くすくすと笑いあう姉妹。

少女「えーっと、ごめん。ちょっといいかな?」

姉「あらあら、わたしたちは向こうの村からこの先の町へ、お祭りにいく途中のかわいい姉妹」

妹「うたとおどりの得意なかわいい姉妹。塚をつくるのが生きがいの、おしゃまな姉妹」

姉「そんなわたしたちに」

妹「なにかご用で?」

少女「あ、はい。えーっと、ここ、どこ?」

姉「はあ〜、そんなことより塚でもつくろよ〜」

妹「かわいい姉妹の姉妹塚〜」

姉「おほほほほほほ」

妹「あはあはあはあは」

少女「ちょっとすいません。ちょっといいですかー」

姉「いえいえ、こちらこそ」

少女「は?」

姉「わたしたち、いまからここに塚をつくろうとおもうのですよ。ここいらはちょうど村から町まで半分ぐらい。きっっっっと便利な塚になるわ」

妹「便利な塚になるよねえ。あたい塚の名前はもうきめてんだ」

姉「あらなあに? 姉さんにおしえて」

妹「道におちていた少女がうごいたから、うご少女塚、ってするんだ」

少女「ちょっ」

姉「うご少女塚! とてもいい名前だわ!」

妹「でしょ? 未来の人たちが、うご少女塚のうごっていったいなんのことだろう? ってせいぜいおもい悩めばいいとおもって」

姉「まあこの子ったら、とんでもないことを思いつくのだから」

妹「てっへへ」

姉「それじゃさっそく塚をつくるとしましょう。まずは都合のいい石を運ばなければね。わたしはこっちをさがすから、サルちゃんはそっちをさがしてね」

妹「そうやって姉さんはいつもあたいに手柄をよこすんだから。こっちは砂浜で、石なんかおちてないじゃないか」

姉「ごめんねサルちゃん。でも姉さんはあなたをほめてあげたいだけなのよ」

妹「あたいだっていつまでも姉さんのあやつり人形じゃない!」

姉「まあ憎たらしい。おほほほほ」

妹「あはあはあは」

少女「ちょっといいかな? ちょっといいよね?」

見つめあう姉妹。くすくすと笑う。

姉「はあ〜、塚をつくるよかわいい姉妹〜」

妹「姉妹のつくるうご少女塚〜」

少女「ああもう、ストップ! うたうのやめて!」

姉「あらま、注文をつけられちまったわ」

妹「注文をつけられちまったわねえ」

姉「注文をつけられた時にはね。笑ってうけつけなきゃいけないのよ。酒場のゴンスケさんが言っていたもの。スマイルっていうの」

妹「姉さんはものしりだ。ものしりだ姉さんは」

姉「それではいっしょに笑いましょう。せーの」

姉妹「おほほあはあは」

少女「おい! やめろ! いいかげんにしなよ! おこるよ!」

姉「おこられそうだわ。どうしましょう」

妹、盆踊りをおどりだす。

姉「わたしもおどろうかしら。いままでいきてきて、こんなにどうしていいかわからないことったらなかったわ」

少女「そりゃこっちのセリフだよ! せめてあんたは踏みとどまるんだ!」

姉「へえ。わたしにおどらせないつもりなのね」

少女「いくつか質問にこたえてくれたあとなら、好きなだけおどっていいけど」

姉「あら、好きなだけおどっていいだなんて。あなたいい人だわ。サルちゃん。稲を刈って、まとめて、ポイ。稲を刈ってまとめてポイ。もうその必要はないわ。この人、いい人だから」

妹「いい人なのね」

姉「いい人よ。名前もしらぬ、娘さんだけども」

姉、ちらちらと少女をみる。

少女「あ、わたしは、滝川ビバリ」

姉妹「はあ〜、ビバリビバリと名前をいうよ〜こちとらヒツジとサルだというのに〜」

少女「…うん。でね、下校途中に目のまえがパッと光ったとおもったら、ここにいて、ここはどこってはなしなんだけど」

姉「ゲコウトチュウ? よくわからぬことをいう娘さんだこと。はてさてどうしたものやら。とにもかくにもここはうご少女塚」

妹「村と町とのまんなかだよ」

少女「いまはまだ、うご少女塚って名前じゃないよね?」

妹「あら? 姉さん、人がくるよ」

姉「ありゃま、あれはヒモ暮らしのゴンスケさんだわ」

田吾作姿にサングラスのゴンスケ登場。ひょうたんをかついでいる。

ゴンスケ「へいよ〜よ〜へいよ〜。へへいよ〜よ、へいよ〜っとくらあ」

姉「ゴンスケさんごきげんよう」

妹「ごきげんようゴンスケさん」

ゴンスケ「んだあ、鍛冶屋の娘さんたちじゃないか。こんなとこでなあにしとんだ?」

姉「それが、ビバリなのよ」

妹「うん。ビバリね」

ゴンスケ「そうかビバリか。ビバリになっちまったか」

少女「は?」

ゴンスケ「ビバリはね、塩のきいたおにぎりを食べて、すこし休むのが肝心だなは」

少女「はあ!?」

姉「でもゴンスケさん。わたしたちそんなものもってないわ」

妹「そうよ。うらわかき娘のふところに、そんな都合よく塩のきいたおにぎりなんてはいってないわ。年頃の娘のふところにはいってるものはみんなほほに穴があいちまうような甘いもので、塩のきいたものといや、よくしみた汗ワキパッドぐらいだもの」

ゴンスケ「ほだけんちょも、ビバリにかかっちまったら、えんっ! とうなるほど塩のきいたおにぎりでねば、ダメだは」

姉「それは、こまっちまうねえ」

妹「こまっちまうったらないねえ」

ゴンスケ「なあに、こまるこたね。サルちゃんはおどるこたね。大きくなったとおもっても、ぴよんこぴよんこと、まだまだかわいらしいもんだ。どうどう。どうどう。ほれ、このとおり、おれ、うんと塩のきいたもんをもってるだ」

ゴンスケ、股のあいだからたくあんを取りだす。

ゴンスケ「ほれ、くわっせ。どっちがビバリだ? くわっせ。ばりぼりくわっせ」

姉「ビバリはわたしたちじゃないのよ。こちらの娘さんなの」

ゴンスケ「あんれまおでれえた。めんこい娘さんだ。月8万でおれをやしなってくんちぇ」

少女「はあ? なんで8万円? あたしが?」

ゴンスケ「それ以上もらうと税金がかかる。税金がかかったらおれも娘さんもたいへんなのだ!」

少女「このおっさん…これがヒモか!」

姉「ビバリは名前よ。この娘さん、ビバリっていうの」

妹「ちくしょう! あたいの名前はサルだっていうのに、あんまりだよ姉さん」

姉「わたしだってヒツジなのだから、あまりわがままを言ってはいけませんよ」

妹「あたいもにごりたい!」

少女「にごりたい?」

妹「にごりたいんだ。姉さんは一文字にごってる。ビバリなんか二文字もにごってる! あんまりだ。それはあんまりだ。ゴンスケだってにごってるのに!」

少女「ああ、濁点のこと」

姉「ゴンスケがにごってるのは名前より性根じゃない。あんなごくつぶしのろくでなし、コンスケでじゅうぶんじゃない?」

妹「そうだ! ゴンスケなんてコンスケだ! コンコンチキのコンスケだ」

ゴンスケ「へへへ、ぬちょくりはまだなは」

妹「へばさ、いちさまぬもんなは」

姉「けんちょ、もが、たりばなあは、やさぬんろはだなは」

姉妹ゴンスケ「おほほあはあはへへへ」

少女「標準語でしゃべってくれない!? さっきまでそうだったじゃん! とくに姉妹!」

姉「あらお里のことばが出ちゃってやあね。これから町へゆくというのに」

ゴンスケ「ちなみに、へへへおまえにゃまだおれのよさはわかんね。うるせえ何様のつもりだ。だけどわたしたちは確かにまだ生娘だわ、こいつのよさがわかるぐらいならそのままでいいけどね。わはは。という会話をしてたあ」

少女「うん。さしておもしろくない会話だよねそれ」

ゴンスケ「ところで、娘さんは町の子か? まんずめずらっこいおべべ着て」

少女「うーん、いや、その、迷子? うん、迷子になっちゃって」

ゴンスケ「そかそか。たくあんくわっせ。しょっぺえたくあんくわっせ。迷子には、しょっぺえものくってすこし休むのが肝心だでな」

少女「さっきとおんなじゃん! いや、たくあんいいです。なんか、汚いし」

姉「あれま、ずいぶん思いきったことをいう娘さんだこと」

妹「ビバリはずいぶん思いきりがよいね。思いきりのよいビバリはずいぶんだね」

姉「またこの子はわたしのマネをして。姉さんたらし、なかわいい子だこと」

妹「はあ〜、姉さんうれしやうれしや姉さん〜」

少女「うるさい! ふたりはちょっと塚でもつくっててよ!」

姉「サルちゃん、塚をつくってもいいって、この娘さんが」

妹「やっぱりいい人だ。ビバリはいい人だ」

姉妹、塚をつくりはじめる。

少女「それでゴンスケ。ここ、どこ?」

ゴンスケ「ここはどこだといわれても、ここはちょうど村と町との」

少女「まんなかあたりだっていうんでしょ!?」

ゴンスケ「ほだほだ」

少女「そういうんじゃなくてさ! 住所でおしえて住所で!」

ゴンスケ「ジュウショ? なんだそれ」

少女「はあ? ここは何県のどこそこ村のなんだとかあるでしょ!」

ゴンスケ「はあ、ほだ、ここはゴルヌズイ村とチョルナンキ城とのあいだの」

妹「うご少女塚よ」

ゴンスケ「んだ」

少女「んだ。じゃないわよ! ゴルヌズイ村? なにここ外国なの!? うそ!? やだ! 漢字でおしえて!」

ゴンスケ「へ? おれ文字さわかんね」

少女「はあ? もうなんなのよ! あーもう、じゃあ東京はどっち!? どっちいけばいいの!?」

ゴンスケ「トーキョー? まんず耳にしたことね。それどこだべな」

少女「ええ? 首都よ首都! 日本の首都!」

ゴンスケ「日本!?」

少女「えっ、なに!?」

ゴンスケ「娘さんは日本からきたというだか!?」

少女「いやまあ、当たり前でしょ」

ゴンスケ狼狽する。

ゴンスケ「ウソじゃなかんべ?」

少女「ウソなわけないでしょ。日本語しゃべってるし」

ゴンスケ「ほじゃ、どんなパンテーはいてるだ?」

少女「あ?」

ゴンスケ「ジョーグだジョーグだ。しっかしこりゃ、こーりゃえれえこったしたあ。ヒツジ、サル、おがちょまちさけってかならね、こぬさかなはらべっちぬかんちょ、ぬかんちょー」

姉「はいーぎゃんだば。んだば、あこわっしぐさー」

妹「あこわっしぐさー」

姉妹が手をふり、ゴンスケはかけていく。

少女「いやいや、意味わかんない」

姉「ゴンスケがね、ちょっと町までしらせに走っていかなきゃならない、おまえたちはビバリを連れてあとからこい、必ずだぞって。私は、急になによ。でもまあ、足をつらないようにって」

妹「足をつるなよーって」

少女「なるほど。でも、どうしてゴンスケは急に?」

妹「あたいは聞いてたわ。ビバリは日本からきたのよ」

姉「まあ、それじゃビバリは力士だったのね」

少女「はい?」

妹「ビバリは力士なの!? あたい、力士をはじめてみるよ。力士かあ。いいなあ」

少女「ちょっと。そんなわけないでしょ。そりゃ最近ちょっとダイエットしないとなあっておもってたけど、あたしが力士にみえるって!? そんな太ってない! 失礼でしょ。そうよ。失礼じゃない。失礼よ失礼」

姉「でもビバリは日本からきたのでしょう?」

少女「そうよ! わるいの!?」

妹「ビバリはいい人だ! 自暴自棄になっちゃいけないよ! 自暴自棄になるとかなしいきもちになっちゃうよ!」

少女「え!? あー、うん」

姉「どうやらなにもしらないみたようね。でも、ビバリは日本からきたのよね?」

少女「…うん。日本。東京」

姉「見たこともない服をきているし、きっとほんとなんだわ。それならおしえてあげないと。この国は、いま、魔王と戦ってるの」

少女「ああ、まあよく戦うよね魔王とは。春先の吉例行事ね…ってはあ!?」

姉「魔王はとてもつよくって。兵隊さんはみんなやられちまったわ。ゴンスケなんかうまく逃げだしたみたいだけど」

妹「ゴンスケはいくじなしだからね!」

少女「はあ。そりゃたいへんね。がんばらなきゃね。わたしははやくかえって宿題しないと。うちの親そういうの結構うるさくってさあ」

姉「それじゃはやく魔王をたおしてもらわなきゃ」

少女「うん。そんな宿題もさせてもらえないような魔王なんて呼ばれてるやつがのさばる世の中はよくないね。とっととたおしてもらわなきゃね。だれか」

妹「すごい自信! やっぱり力士はちがうんだね! えらいね!」

少女「だから力士じゃないよ! やめてよ! セクハラそれ!」

姉「兵隊さんたちがやられちまったあと、王様のおふれがでたのよ。力士をさがせ! って」

少女「はあ、まあ、力士はだかで風邪ひかん、とかなんとかいうしね? ってなにいってるんだあたしは」

妹「へえ、力士は風邪ひかないんだ。すごいね! すごいすごい!」

少女「うん。それで、力士はあつまったの?」

姉「あつまる? なにをおっしゃる。いままでどこを探してもひとりもみつからないのに」

少女「あたしの地元じゃたまに電車のってるよ? チャリンコにものってるよ? 笑いながらペダルこいでるよ? きっとあれは、そうね、息があがると口角があがって笑って見えてるだけね。ほんとは笑ってないんだわ。笑ってるどころか、苦しんでるんだわ。ってわたしはいったいなにを!」

姉「力士がのら猫みたようにいるなんて、やっぱり日本はちがうのね。わたしたちは、そもそも力士とはなに者なのか、だれもわからなかったものだから、探せといわれてもむずかしかったわ」

三人からはなれたところに、フードを深くかぶったローブ姿の男登場。かくれる。

少女「けっこううようよしてるけどなあ。知りあいにはいないから紹介はできないけどさ」

姉「わたしたちが知っていることはただひとつ。力士は日本という国からくること」

少女「なにそれ。いま横綱日本人じゃないよ? モンゴルからきてもよくない?」

姉「だから、日本からきたビバリは、力士なの」

少女「だからちがうって。日本人だけど、力士じゃないよ。失礼よそれ」

姉「そして力士たるもの勇者であらねばならない」

少女「ちょっとこっちの話きいてよ」

姉「力士たるもの! 勇者であらねば! …ならないのよ。王様のおふれだもの」

少女「はあ? もうなんなのよ。ていうか勇者ってなによ。どうゆうことよ」

妹「勇者はそりゃ魔王をたおす唯一の最強生物兵器だよ。そしてそれすなわち力士じゃないか」

少女「そんなこと言われたら白鵬もびっくりしてモンゴルに帰るわ」

妹「握手してよ力士! あたい力士と握手したいよ!」

少女「あたしを力士とよぶな!」

妹「握手握手!」

少女「はあ、もう、はい」

妹「わーいやった。これであたいも無病息災だ!」

少女「なんで!?」

妹「ぎゃっ」

物陰でフードの男がすこしうごく。

少女「え?」

妹「いたたたたいたいいたいいたい」

少女「なになに、え?」

姉「あんれま、力士がサルちゃんの手をにぎりつぶしてら」

少女「あたしを力士とよぶなって!」

妹「ぎゃー!」

少女「あ、ごめん」

少女、手をはなす。

妹「ひー。地獄だ。右手が地獄だ」

少女「え? あ、ごめん? ごめんね」

妹「姉さん姉さん。あたいの右手が地獄だ。地獄だよお」

姉「はあ〜、地獄地獄とべそをかく〜姉さんそれみてなおかわいい〜」

少女「いや、なにうたってんのあんた! サルちゃん大丈夫? どうしたの?」

妹「右手が地獄だよお。あたいのお手手が地獄だよお。力士に握りつぶされたよお」

少女「だからあたしをって、あたしそんな強く握ってないじゃん! ほら、大丈夫だから、ほら、泣かないで、ね?」

姉「やっぱりビバリは力士なのねえ。出会ったばかりのかわいい妹の手を握りつぶすなんて。力士にしかできない所業よねえ」

少女「はあ? あんたもそんなこといってないで手伝ってよ」

妹「いたいよお。右手が石ころになったみたいだよお」

少女「ほら、泣きわめかないで、ね。そうだ、グミあげるからさ。グミ」

少女、カバンからグミをだす。

妹「…グミってなに?」

少女「そ、そうね、食べると右手が痛くなくなるものよ」

妹「食わせてけろ。おれにはや食わせてけろー」

少女「う、うん。はい、お口あけて。あーん」

妹「あーん。…すっぱ!」

少女「ごめん、クエン酸がレモンの10倍はいってるグミなのそれ。ほらあたし、甘いの苦手だから」

妹「ひっぱし! すかんぽらしひっぱし! どくしゃちだはちゃさくわ! ひっぱ! なこかかわんちゃ…ひっぱ!」

姉「すっぱい。すかんぽよりすっぱい。これあたい毒をたべさせられているのではないだろうか。すっぱい。なんだか噛めないし、すっぱい。と妹は申しております」

少女「あー、ごめんね。毒じゃないよ。たぶん体にいいとおもうし。うん。で、でも、ほら、手はもう大丈夫でしょ?」

妹「こてさみれんちぇっした! ひっぱぐる!」

姉「右手はアホほど痛いしすっぱすぎる、と申しております」

少女「グミなら吐きだしてもいいのに。あー。お医者さんに行こうか、ね?」

姉「それはちょうどあんばいがよいわ。町まで行きましょう。お医者さまがいますし、お祭りもしていますし。ゴンスケにそうするよういわれてますし、塚もだいたいできてますしねえ」

少女「そ、そう。そうね。人がたくさんいれば、なんとかなりそうだし」

妹「ひっぱし! ひっぱぐる! うえーん! ひっぱぐるす!」

歩きだす三人。

フードの男「そろそろやってくるとはおもっていたが、まさか力士が女子高生だとは、ふふふ、あいつは夢にも思うまい…」


ナレーション。姉妹のうた。


こうしてビバリは進みだし

お城の前の城下町

かわいい姉妹とともに行く

おしゃまな姉妹とともに行く

町ではいまごろお祭りだ

朝から晩までお祭りだ

お祭りの日にはつきものの

ハレの日ケの日つきものの

なんてたのしいもよおしだこと

なんて血のふるもよおしだこと

力士のビバリはなんとしよう

なにも知らぬはビバリだけ



城門前広場。姉妹とビバリ。ほか。

妹「姉さん姉さん。あたいの右手! 姉さん姉さん。あたいの右手!」

姉「ええええ、かっこいいわ。白くてぶあつくて、かっこいい右手だわ。まったく、さっきからそればかりなんだから」

妹「ビバリビバリ。あたいの右手! ビバリ。あたいの右手!」

少女「うん。かっこいいね。まさか骨が折れてるなんてね…。かっこいいよ」

妹「ビバリはすごいなあ。力士なうえに、あたいの右手をこんなにかっこよくするとは!」

少女「そ、そうだね。包帯をまいたのはお医者さんだけどね」

姉「この子ったら力士にあったりお医者さまにあったり町にきてパレードをみたり、すっかり舞い上がっちまって」

妹「姉さん姉さん。あたいの右手!」

姉「あらまあ、うらやましい右手だわ。こーんなに白くてぶあついんだもの」

妹「あはあはあはあは」

少女「ねえ、ところで、あたしたちこれからどうするの? もう陽もくれそうじゃん。あたしはやく帰りたいんだけど」

姉「どうするのとはおかしいわ。ビバリは力士だから、これから魔王をたおす旅にでるのよ?」

少女「だからそれはイヤだっていってるじゃん」

妹「ビバリビバリ。あたいの右手! の治療費! 慰謝料!」

少女「それはいわない約束じゃんかよお」

ゴンスケ登場。

ゴンスケ「おーい」

姉「あらゴンスケだ」

妹「ゴンスケ、あたいの右手!」

ゴンスケ「おお? サル、かっこいい右手だな。なんせ白くてぶあつい」

妹「あはあはあは」

姉「ゴンスケ、ずいぶんおそかったじゃない」

ゴンスケ「祭りだで、ずいぶんいそがしいもんだ。けんちょ、見たことひとつもらさず、しっかりつたえた」

姉「おやおや、そんな得意顔で。それではビバリちゃんはまにあったのかしら?」

ゴンスケ「おうおう。ちゃあんと、エントリーしてきただ。まずは腕だめしだは」

少女「おい。なんか不吉なこといったよね?」

姉「ビバリちゃん、あなたはこれから、ほら、そこらに集まっている、お強そうな、歴戦の猛者たちと戦うのよ」

少女「なにそれ」

姉「あそこにいる人たちを、ぶっころ…たおして、勇者であることをみんなに知ってもらう必要があるの」

少女「ぶっころっていった! ぶっころっていったよね!? あたし知ってるよ! 人をぶっころするには、自分がぶっころになる覚悟がなきゃいけなちって! マンガで読んだもん! そんな覚悟ないよ!」

妹「大丈夫! 力士は負けないから死なない!」

少女「あーあ、いっちゃった! 負けたら死ぬっていっちゃった! あーあ! もうやーだーよー。かーえーりーたーいー」

少女、泣きだす。

姉「あらあら、力士もうえんうえんぐずぐすとなくのね」

少女「力士って、いう、なあ」

ゴンスケ「ほれほれ、泣きたいときには泣けばいいだ。おれさの胸ならいつでもあいてるだ」

姉「だめよゴンスケ。よわってる女の子のスキにつけ込むのはいけないわ。だってあなたヒモだもの」

ゴンスケ「おお、ゆるしてくれえ。おれ根っからのヒモだもんだは、ついよお」

少女「うえーんえーん」

妹「あーたのしみだなあ。今回はどんな勇者決定祭になるかなあ」

ゴンスケ「そりゃあサル子、今回はすごいっぺ。なんてたって力士がでるんだしたもんなは」

姉「そうね。力士なら並みいる歴戦の猛者どもをちぎってはなげすることでしょう」

妹「ちぎってはなげかあ。すごいなあ! すごいなあ! あたいもいつか出たいなあ」

姉「まあサルちゃんたらそんなこといって」

ゴンスケ「いんや、サル子がでっかくなったらわかんなは。なんせ右手が白くてぶあついもんだはあ、うん」

姉「いやよ、ゴンスケったら」

姉妹ゴンスケ「おほほほあはあはへへへ」

少女「てめえらちっとはこっちの心配しろよ! なんなんだよ!」

姉「あら、ビバリちゃんったら泣いていたはずなのに」

少女「はずなのにってどういうことだよ! あー! もうムカつく! ムカつく! なんなんだよ!」

ゴンスケ「まあまあ、頭をポンポンしてやっこ」

少女「さわんじゃねえよウジ虫!」

少女、ゴンスケをつきとばす。ゴンスケ、はでにふっとび、ドンガラガッシャンとタルの山を崩し、埋まる。

妹「…すごい! なんて突き押しだ! やっぱり優勝まちがいなしだ!」

少女「ええ? あたし、あんなに強くは…」

姉「ふふふ、ゴンスケの死が、どうやら素敵で強烈なデモンストレーションになったみたいね。あんな人でも誰かのやくに立つことがあるだなんて。ふふふ」

少女「え、やだ、死んだの? ウソよね?」

姉「ウジ虫が生きていようと死んでいようとどうでもよくてよ。さあ、サルちゃん。ここはあれを、お願いね」

妹「やいやいやいやい! なにをじろじろみてんだい! 見ているついでだ耳かっぽじってよく聞けやい! まずははじめにいっておく、走りさるならいまのうち! しかといったぞ知らぬはなしぞ、いまから語るはこわい話ぞ、ここにあられるこの少女! 見目麗しい長髪の、絹より光る白い肌、聞いておどろけ生国は、ガキでも知ってるあの国だ! 北へ南へはしりゆき、東へ西へわたりゆき、それでも見つかることはなく、夢まぼろしと思われど、勇者を決めるお祭りだ! 勇者が誰だか皆もしろう、ここにあられるこの少女! 見目麗しい長髪の、絹より光る白い肌、聞いておどろけこの日にあわせ、はるばるきたぜ日本から! 力士ビバリのお通りだい! ニセモノ勇者はしっぽまいて逃げろい!」

少女「だから! 力士ってよぶなって!」

ざわめきたつ群衆。

姉「おーほほほほほほ! なんて気分のよい日でしょう! おーほほほほほ!」

少女「人生さいあくの日だよ…」

そこへ、しゃべる馬があらわれる。

馬「えー、ひひんひひん。あー、がふん! …ひひん。えー、もりあがってるところ申し訳ございません。わたくし本日の勇者決定祭その進行を王様より仰せつかりました、しゃべる馬です。えー、はじめましての方は以後おみしりおきを」

少女「馬が…」

姉「あれは王様のペットよ」

妹「なんどか村にもきたのよ。あたい乗せてもらったもの! いい馬よ! ムチでぶってもあまり走らないけど!」

姉「わたしはあまり好きじゃないの。なんだか見てるといい気がしないわ」

少女「馬…でいいのね」

馬「なにやらだいじになっていますが、じつはわたくしもさきほど事の次第をきいたばかりで、みなさま同様、おどろきがひいていないのです。はい、もうみなさまにおかれましては、さきほどわたくしが何におどろいたか、おわかりのことと存じます。さまざまなご意見もあるでしょうが、わたくしども主催側としては、本日の勇者決定祭を、このままつつがなく、例年通り粛々と進行していこうとの意見でまとまりました。文句のある方は王様に直訴してくださいね。どうなってもしりませんけど。…えー、みなさまもご存知ではあると思いますが、力士たるもの勇者であらねばなりません。これはすなわち、あの魔王のヤローをぶっころぶっころできるのはこの世界いちの勇士、つまりは勇者の称号をえた者のみとされていますから、力士に勇者になってもらったら、魔王をやっつけてくれるというわけですね先生! との解釈を生みました。わたくしもそう思ってます。しかしまたことば通りに、力士ならばこの勇者決定祭を勝ちすすみ、手ずから称号をつかみとってとうぜんである、という内容でもあります。えー、力士だから勇者なのか、勇者だから力士なのか、このことはわれわれ下々の民と毎日せっせとはたらき尽くしの馬には考えが及ばぬ領域です。ですから、本日のとつぜんの報せにも動ずることなく、われわれ運営サイドは粛々と大会を進行していく義務があるのです。そのことをご理解いただけたら幸いです。えー、では出場者のみなさま。城門を開きますので、どうぞお越しください。中にお入りになられたら、係りの者が控え室までご案内いたします。えー、また、今わたくしがしゃべらせてもらった内容は、ただいまをもちまして、町の各地に掲示させていただいてます。出場者のかたはご確認ください。飛びいり参加の方も歓迎しますよ。以上、ひひんとしゃべる馬でした」

しゃべる馬、去る。

妹「さあいこうよ! 一番乗りだ! 見せつけてやるのさ! あたいらの力士を見せつけてやるのさ!」

姉「この子ったら、はしゃいじゃってまあ。でもその通りね。さあ、行きましょうビバリちゃん」

少女「え? いかないよ? あたしうちに帰るし」

姉「そんなことも言ってられないわ」

少女「いやいやいやいや。そもそも戦えないし」

姉「ビバリちゃん。この国ではね。ほとんどの場合、罪と罰はおなじなのよ?」

少女「はあ? なにいってんの?」

姉「ほら、あなたはゴンスケをやってしまったじゃない。口減しにはちょうどよくても、あんなものをやってしまっても罪は罪なのよ。そう、死刑はまぬがれない」

少女「ええ…いやだよ」

姉「でも大丈夫。ビバリちゃんが力士で勇者なら、ちょっとぐらいの人殺しなんかなんとかなるわ」

少女「やめてよー。ゴンスケだって大丈夫よ。きっとたぶん」

妹、ゴンスケの腕をひっぱりだす。

妹「脈拍、確認できません!」

少女「やめて! いわないで!」

姉「おもえばゴンスケの人生というものは、脈絡のないことばかりをいっては、てんで脈のない女をくどいて、人脈も金脈もない、とにかく脈のない男だったわね」

少女「は! そんな脈のない男なら、生きてても脈をとれないんじゃない?」

姉「そんなことあるわけじゃないじゃない。おもしろいことをいってわたしを笑わせてごまかそうだなんてそんな手には…おほほほほほ」

妹「死刑を受ける人はね…おおきな、やっとこ、で顔を挟まれて、目尻を下げられほほを上げられて、とてもゆかいな顔を作られたまま、体中をさびたノコギリで死ぬまでギコギコされるんだ」

少女「そんなのいやー! ゆかいな顔にさせる意味がわからないし! どうせ若くして死ぬ日がわかってるなら、バッチリメイクして死にたい!」

妹「そうだよ! 死ぬときぐらい一流のメイキャップアーティストにほほ紅を塗りたくってもらいたい!」

少女「そうそう! 記念写真でも撮られはるんですかあ、なんて言われながらね! いいええ、このあとちょっと死刑なんですう、なんてね!」

姉「なにを現実逃避しているのかしら。勇者になればいいだけよ?」

少女「ちくしょう! ゴンスケなんかのために死にたくねえ! ゆかいな顔を笑われながら死にたくなんかもっとない! やってやる、やってやるわ!」

姉「じゃあ、行きましょう」

妹「大股でいこうよ姉さん。さあいこう」

姉「サルちゃんそれは大股でなく、がに股っていうのよ?」

姉妹「おほほあはあは」

少女「…もうどうにでもなれ!」


ナレーション。姉妹のうた。


月は照らすよ煌々と

うちすてられたボロ船を

未知の水泡をわたり行き

帆柱折れた難破船

うちすてられたらなんとする

星図はもはや枯れはてた

月は照らすよ煌々と

もはや動かぬボロ船を

つわものどもを腹に抱き

かつての御船はなんとおもう

かつての御船はなんとおもう



船の中。控え室代わりの広間。三人とその他。

妹「姉さん。ゆれてら。ギイギイゆれてら」

姉「このお船も、だいぶ弱っちまったねえ」

妹「なんだって城の人は勇者候補のあたいらをこんなとこに押し込めちまうんだ」

姉「サルちゃん。このお船はね、まえはこの国唯一の戦艦だったのよ。勇者を乗せたお船だったのよ。それが、ねえ。こんなにボロくされちまって。いっしゅんだったそうよ。争った形跡、がなかったのですって。全滅した勇者たちを波まかせ潮まかせで、ゆらゆらと、なんとかここに帰ってきた、りっぱなお船なのよ。だからサルちゃん、わたしたちがここで待機することは、これは、栄誉、なの」

妹「栄誉? そうか栄誉かあ。栄誉はえらいなあ。…魔王め! そんなりっぱなお船をこんなにもギシギシにしちまいやがって! コンチクショウ! あったらめったんめったんのギッコギコにしてやる!」

姉「あらまあこの子は。おほほほ」

少女「あのー」

姉「あらなあに。さっきまでの意気込みとはちがって、すっかり意気消沈しているようすのビバリちゃん」

少女「あのー、質問があるんですけど」

妹「魔王め、こうだ、そうきたらこうだ、こうだこうだ」

姉「なあに?」

少女「まあ、あのね、ちょっとだけよ? あたしもそんなにバカじゃないから。ちょっとだけ期待してたのよ。それを、まあ、ちゃんと確かめたくって」

妹「おぶ。かわいいレデーの口まわりをグーで殴るとは。ヒドーな魔王め! こうしてやる」

少女「…あのね、これから、なんていうの? 勝負、が行われるのよね? あたし戦うのよね?」

姉「ええそうよ。勇者決定戦ですからね」

少女「相撲、で戦うってわけじゃ、なさそうよね? こう、あたしがへたり込んだら、行司の軍配が相手をさして、むこうの勝ちー、みたいな。お相撲できめるんじゃないのよね?」

姉「あら? 何をいってるのかしら。勝負のルールはお相撲よ? でも、そりゃま、お相撲のことですからねえ。どうしても命の奪いあいになっちまうのよねえ。負ければだいたい死ぬか、二度と歩けぬ体になっちまうもんよねえ」

少女「なんか、あたしのしってる相撲とちがうよそれ…」

妹「大丈夫! 力士は負けないよ!」

少女「…ならサルちゃん代わりになってよ」

妹「そうしたいけどさ。…いまのあたいの身長、体重、筋力、スピード、テクニック、経験、それら勝負のゆくえを左右するものどれをとっても、ほら、あそこにいる剣をもった鎧の人より負けてるもの。殺されちゃう。あの人こんかいの勇者候補筆頭だともくされてた人でさ。つええんだ」

少女「そうね。強そう。だって剣をもってるし。剣だよ? それあり? お相撲じゃないの? 武器の使用はありなの?」

姉「そりゃお相撲ですからね。あれはロングソード。斬る、というより、頭蓋骨をたたき割る、武器ね」

少女「ダメじゃん。そんなのダメじゃん」

姉「実際の戦闘じゃあんまり有効な武器じゃないわ。斧を持ったほうがより効率的に頭蓋骨をたたき割れるってもんだわ。あの剣使い、そこをかんちがいしているようじゃ、勇者候補筆頭とはいえ、たかがしれているってものよ。まったく、ビバリちゃんがいなけりゃレベルの低い大会になるとこだったわ」

少女「あは、あははは、あー…死んだー」

妹「姉さん、向こうの美人さんは弓をもっているよ」

姉「あれは弓使いね。クロスボウ。短弓ね。あの指をみると顔に似合わずそうとうの鍛錬を積んでいそうね。連射をしてくるはずよ。とはいってもむやみに近づいてもいけないわ。単騎の弓兵に近づくと、弓の弦を首にひっかけてきたりするもんよ」

妹「姉さんはものしりだ! ものしりだ姉さんは!」

少女「飛び道具とか、卑怯じゃんよ…そんなのありかよ………」

少女、頭を抱える。

妹「じゃああっちのフードをかぶった男は?」

姉「あれはね。謎の男よ。男の人はいつまでたっても謎の部分をもっていたいものなのよ」

妹「なんだいそりゃ。つまらない人間だ男ってのは。じゃあ、さっきからずっと草笛を吹いてるあのいけ好かない男は?」

姉「あれはね、草笛を吹いてるわけじゃないのよ? さっきからずっとスカンポをチューチュー吸っているの」

妹「なんだって!? それじゃあこの笛の音はなんだっていうの?」

姉「あれはね、スカンポをチューチュー吸っていることを気取られないために、おれは草笛を吹いてるだけだ、とごまかそうと口笛を吹いてるの」

妹「なんだい、歌をうたいながらぷっぷくぷっぷく屁をこくみたよな、卑怯なやつだったのか!」

姉「ええそうよ。突然歌いだすものだからよけいにぷっぷくぷっぷく目立ってねえ。卑怯なやつだわ」

妹「やいやいやい! そこのスカンポ吸い! なにをさっきからチューチューチューチューと吸ってやがるんだい! スカンポチューチューチューチュー吸っていいのはかわいいカンカン娘だけだい! ええいムカつく! ばかじゃなかろか! あんたばかじゃなかろか!」

少女「ちょ! なにやってんのよあんた! やめて! あの人こっちすっごい目をして…たちあがって…ふるえて…泣いて、る?」

姉「おやま、スカンポのすっぱさが目にしみたわけでもあるまいに」

妹「でてけでてけ! いい歳こいてスカンポなんかチューチュー吸ってるおっさんなんかでていけ! あはあはあは! 悔しかったらかかってきやれ! この場で白黒つけてやらい!」

少女「むだに挑発しないでよ! それ白黒つけるのあたしなんでしょ! あ、でもここでケガすれば…死ぬよりましかも」

姉「あら? 勇者じゃなければ死刑になってしまうけれど」

少女「こういうの進退きわまるっていうのよね! 国語の先生がそんなこといってた! くそ!」

妹「おらおら! やってやっぞ! やってやっぞ! こっちゃいつでもやってやっぞ! 力士はいつでもやってやっぞ!」

少女「だから! ほら、あいつこっちきたじゃない! 大人のくせにガキの挑発にのるようなやつがきちゃったじゃない! 不審者だよ不審者!」

姉「おほほほほほ」

少女「笑ってる場合ですか!?」

スカンポ吸い、少女の前に立つ。

少女「こ、子どもの言ったことですから。あは、あはあは」

妹「さきにかかってこいよ! ハンデだ!」

少女「だからあんたは! 中指たてんじゃないの!」

少女、妹の左手をはらう。妹の左手が不自然に曲がる。

妹「へば!? あたいの左手が…」

少女「あ! なんかキモい!」

姉「ビバリはひどいことをいうのね」

少女「え!? あ、ごめん! ごめんサルちゃん」

妹「あたいの左手が抜けた! 姉さん、姉さん。あたいの左手が抜けた!」

姉「おやま、ずいぶんぷらぷらとしている左手だこと。ぷるんこぷるんことしているものだわ」

妹「ぷるんこぷるんこしてる。姉さん、あたいの左手ぷるんこぷるんこしてる」

少女「ごめんね。ごめん。あ、グミたべる?」

妹[「おれようかわんひっぱぐるしもんくわんちゃ! あさごくめきっこくしわんな!」

姉「わたしはあんなに噛みづらく、すっぱいものを食べようとはおもわない。あのようなものは二度と口にしたくない。と申しております」

少女「そ、そう。ごめんね?」

スカンポ吸い「…に…そ…く…」

少女「え? なに?」

スカンポ吸い「おれにそのすっぱいグミとやらをくれ!」

少女「はあ? …怒ってる?」

スカンポ吸い「いいからくれ!」

少女「まあ、いいけど。これでバカにしたぶんはチャラよね? …はい、あーん」

スカンポ吸い「あーん」

少女「…あたしはいったいなにをしているのだろうか」

スカンポ吸い「あーん」

少女「…こいつもこいつだ! まとめて放りこんでやる!」

スカンポ吸い「…! もがもごもがもご…すっぱ、ぶえ!」

少女「吐いてんじゃねえ! いま吐いたのちゃんとひろってくえよな!? ああ!? タダじゃねえんだぞ!?」

スカンポ吸い「は、はいい、もがもごもがもご…」

姉「おほほほほほほ! 犬のように這いつくばって食べるがよいわ! おほほほほほ!」

妹「あはあはあはあは! みろよ! あたいの両手! と、この犬を! これが力士のちからだ! あはあはあは!」

そこへ、しゃべる馬。

しゃべる馬「はいみなさん、お待たせしました、しゃべる馬で……なにやらお待たせしすぎたようで。ひひん。わたくしすこしばかり混乱しております。いったいなにがあったというのでしょう。大人の男が少女の前に這いつくばって、なにかもごもごと食べている」

妹「これが力士のちからだい!」

しゃべる馬「…なるほど。委細承知!」

姉「ほんとかしら」

しゃべる馬「ということで、今夜の勇者決定祭、そのルールについて、説明します」

姉「スルーしたわねえ」

しゃべる馬「えー、ご存知の方がほとんどでしょうけど、いちおう確認ということで。今回の大会も、例年通り、みなさまにはバトルロイヤル形式で戦ってもらいます」

少女「あのー」

しゃべる馬「あ、はい、なんでしょう」

少女「バトルロイヤルってなんですか?」

しゃべる馬「あー、はいはい。バトルロイヤルという試合形式は、全員が舞台にあがってもらいまして、おのおのいっせいに乱闘してもらう試合形式です」

少女「乱闘!? 一対一じゃないの!?」

しゃべる馬「ひひひひひひひん。なにをおっしゃる。ガキのけんかじゃあるまいし、乱戦で強さを発揮できずしてなにが勇者ですか」

少女「そんな………まてよ? 隠れていればやり過ごせるかも」

しゃべる馬「まあ、力士さんにおかれましては、そう思いたくなるきもちもわかりますが」

少女「え? なんで?」

しゃべる馬「なんでとは面妖な。まず真っ先に、他のみなさまから狙われるのはあなたよりほかにないではありませんか。力士ですからね」

少女「…ああ、なるほど。強いやつをみなでよってたかって叩くのね! そうだわなあ…」

妹「ちぎってはなげだ! うちの力士はちぎってはなげだ! そうしてあたいらかわいい姉妹は、城に力士の記念塚をつくるんだ!」

姉「きっっっと、歴史にのこるりっぱな塚になるわ」

妹「はあ〜、塚をつくるよつくるよ塚を〜」

姉「かわいい姉妹の力士塚〜」

少女「あはははひひ! …あーあ。死んだー」

しゃべる馬「えー、ステキなうたをありがとうございました。試合形式についてほかに質問のある方は…いませんね。あ、もちろん武器の使用は自由です。では、勝敗のつけかたですが、これはカンタン。最後まで立っていたひとですね。とはいえ、みなさんあまり死なないように! それから…」


ナレーション。姉妹のうた。


はじまるはじまる今宵のお祭り

見目麗しい長髪の

絹より光る白いはだ

はじまるはじまる今宵はお祭り

美少女力士のひのき舞台

美少女力士のひとり舞台

勇者を決めるお祭りだ

王のおふれをお忘れか

力士たるもの勇者であらねば

力士たるもの勇者であらねば




つづく

次で終わる予定。


方言らしきことばは創作です。

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