死者の改札
宿題も終わった。
明日は朝練があるから、早く寝てしまおう。
私はいつもより早くベッドにもぐりこむ。
春はもうすぐだというのに、まだ肌寒い。特に今日はいつもより冷えた。
体を布団へもぐらせると、自然と重くなる瞼。
「おやすみなさい。明日もいい一日でありますように・・・。」
私はすぐに眠りへと落ちていく。
けれどそれは、不思議で悲しくなる体験の入り口だったことに、私は気がつかなかった・・・。
* * *
ざわざわざわ・・・。
人の声がする。
近くで私の名前を呼ぶ声もする。
目を開けると、私は知らない駅の改札にいた。
人が流れるように改札を通っていく。
「………ちゃん。」
また、私の名前が呼ばれた。
(誰だろう?でもこの声、知ってる。)
ゆっくりと振り返れば、私の祖母がいた。
祖母は笑って私に手を振っていた。
「おばあちゃん!!」
思わずおばあちゃんに駆け寄る。
ふわりと香ったお線香の匂い。
おばあちゃんは笑顔で私を抱きしめたあと、すぐに表情を暗くする。
「本当はそのまま一人でいこうとおもったんだけどねぇ、最期だと思うとどうしてもあなたに会いたくて、
思わず呼んでしまったのよ・・・。」
髪を撫でる手が心地いい。
さいごって・・・・どういうこと?
おばあちゃんの家は近いから、すぐに会えるじゃない。
そう尋ねようとしたけど、声が出なかった。
最後におばあちゃんが笑って言う。
これで何も、未練はない・・・・と。
すぐそばの改札を、嘆き悲しみながら通る人がいた。
すがすがしい顔をしながら通る人もいた。
そこにはいろんな表情があった。
おばあちゃんは晴れやかな顔をして改札を通った。
私はなぜか、おばあちゃんを止められなかった。
ううん、止めちゃいけない。
この改札を通る人たちを・・・・。本能的に、そう感じた。
「おばあちゃんっ!!」
遠ざかっていく姿に叫ぶと、おばあちゃんは振り返って私を見た。
私の存在を自分の中に焼き付けるように・・・・。
駅に電車の発車時刻を知らせる放送が入り、人の動きがせわしなくなる。
『まもなく5番ホームから電車が発車します。
乗り遅れのないよう、ご注意願います。』
アナウンスの声が遠くなっていく。
おばあちゃんの姿もかすんでいく。
さようなら、おばあちゃん・・・・。
私は姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
* * *
明け方、けたたましい電話の音で目を覚ます。
ゴンという、受話器を落とす音で私はベッドから起き上がった。
リビングへ行くと、お母さんが涙を溜めて座り込んでいる。
私の姿に気付いたお母さんは、震える声で告げた。
真夜中、おばあちゃんが亡くなった。
ああ、やっぱり・・・・。
私は取り乱すこともなく、静かに一人で納得した。
きっとあそこは、死者が通る改札だったんだ。
そう思う私の目から、ふと、熱い涙がこぼれ落ちる。
おかしいな。おばあちゃんと別れるときは、全然悲しくなかったのに・・・。
おばあちゃんの笑った顔が、脳裏に浮かんで消えていった。
***** 死者の改札 *****
電車の改札を見ていて、なんとなく思いついた作品。
死者の電車は、銀河鉄道の夜みたいな感じなのかもしれないなー。




