表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/694

97 女騎士と貴公子達の憂鬱

今回は、番外編です。

「おらもう一人だ、早く出てこねえと村ごと焼き払うぞ」


 大きな叫び声と何かが崩れる物音に、幼い自分の体がびくりと震える。しっかりしろ、そんな事だから、そう心の中で叫んでも、泣き出しそうになるのを必死に堪えていたこの時の自分には届かない。


 外から響いていた剣戟の音や悲鳴は既に止んで、盗賊達の叫び声と家探しの物音がそれにとって代わっていく。


 窓から外を覗っていた、はは様が振り向いてきたが、きっと自分は姫様達を抱いたまま情けない顔をしていたのだろう。だから、はは様は。


 そんな顔をするな、視線を上げろ、槍を持て、そしてはは様に『ミムズが守りますから大丈夫です』と伝えるのだ。でないと、このままだとはは様はまた。


 自分たちを見つめる、はは様の青い瞳が一度閉じられてから言葉を紡ぎだす。


「村長さん、皆さんを地下室に戻してください」


「あ、ああ。分かりました。さ、みんな見つかる前にはやく」


(よかった、みんなでかくれてれば、きっとだいじょうぶ、はは様がいればこわくないから、きっとすぐラリンゲ様がたすけにきてくれるから)


 そうじゃない、戦え、逃げるな、騎士ならば剣と槍を持って戦うのだ、そんな事だから。


 村長が逃げ込んでいた娘達を地下室に誘導している横で、はは様は手巾をテーブルに広げられる。


 豊かに波打つ黄金色の髪から髪飾りを、しなやかで白い指先から指輪を、14の少女とは思えないほどに豊満な胸元から小刀などを取り出し、更にいくつもの小物を取り出して手巾に包んでいく。


 どれも、はは様が常に身に着けて大切にしていた品々だ。


「ミムズ、こちらへいらっしゃい」


 手招きされたはは様が、自分と姫様達を纏めて抱きしめ、潤んだ瞳で自分を見ながら胸元に手巾をいれてくる。


 いかぬ、受け取ってはならぬ、それを受け取ってしまえば。


「これらの品々はラースト家伝来の家宝です。肌身離さず身に着けておきなさい、それとお屋敷の部屋の戸棚にその他の品々もあります。あなたはラースト家の家長なのですから大切に扱うのですよ。さ、姫様方と地下室へ」


「はい」


 ダメだ、はは様に御返ししろ、せめて姫様のどちらかをはは様に抱かせてその手を取れば。


 素直に頷いて、姫様達を落とさないように注意しながら地下室の階段を下りようとした自分が、後ろに足音が無い事に気付いて振り返る。


 先ほどと同じ位置でこちらを見ている、はは様に首を傾げて問いかける。


 なにをしている、すぐにかけよるんだ、今なら、今ならまだ思い直していただけるやもしれないのだ。


「はは様は」


「わたしは、周りの様子を見てきます。あなたは先に地下で待っていなさい」


(はは様がいっしょじゃないと、こわいし、ひめさまたちも泣いちゃうかも)


「それならミムズもいきます、ミムズがはは様をまもります」


 言葉じゃない、行動で示すのだ、すぐにはは様へ駆け寄り絶対にはなれるな。


「いけません」


 なぜ足を止めるのだ、そのまま、はは様の元へ行けば。


「でも、はは様……」


 口ごもるな、『ミムズが必ず守ります』そう言うだけでいいのだ。


「ミムズ、あなたは騎士なのですよ。あなたの剣と忠誠は誰に捧げられているのですか、名誉あるラースト家の当主は誰を守らねばならないのですか」


 それは、はは様の御言葉通りだが、だが、だが、このままでは。


「ミ、ミムズはミムズはパルス姫様とアクラス姫様のためだけのきしです」


 だが同時に自分ははは様の娘です。


「そんな貴方が、わたしと一緒に居て姫様達を守れるのですか」


 首を振るな、その言葉だけは、認めてはならぬのに、なぜなぜ思った通りに体が動かぬ。なぜこの時の自分はこんなにも小さいのだ、なぜこんなにも無力なのだ。


 試合で一本を取れるようになった事などを喜びおって、この時の自分に盗賊を打ち払えるだけの力が有れば、姫様たちもはは様も守れたのだ。


「分かっているではないですか、良いですか、このまま盗賊がいなくなりバープ様達が戻られるまで、あなたが一人でお二人を守るのですよ。ラースト家は武勇だけでなく忠義でも名をはせました。あなたはその名を継ぐたった一人の騎士なのです。歴代の家長の名誉のためにもあなたは絶対にお二人を守りとおすのですよ」


 忠義だけでは駄目なのです、ミムズは貴方も守りたいのです。


 やめろ階段を下るな、はは様を守るのだ、それでもお前は騎士か、陛下から直々に叙勲された騎士が母親を見捨てるなど。


 階段の途中で振り返って、はは様を見つめると、宝石よりもきれいな碧眼から涙があふれている。


 まだだ、誰かに姫様を託して、はは様を。


「村長さん、この子達の事をよろしくお願いします。この子達がいる限り必ず救援が来ます。それまでの間どうか、どうか……」


 ゆっくりと、地下室のふたが閉められていき、完全に閉じられるまでの間、自分は隙間からはは様を見つめる事しかできなかった。


「ミムズ、パルス、アクラス、ごめんなさい、ごめんなさい。一緒にいてあげる事が出来なくて」


 蓋越しに聞こえるはは様の声に続いて足音が離れていく、これでは、これではまた。






「ねえさま……ねえさま……」


 く、なぜ自分は動けないのだ。


「姉さま、おきて」


 目を開けると、心配そうにのぞいて来るプテックの顔が。


「く、あ、夢だな。また、あの日の夢か」


 体を起こして見渡し、見慣れた宿の部屋の光景を確認する。


「大丈夫、水」


 隣のベッドで寝ていたはずのプテックが水の入ったコップを差し出してくる。窓の外はまだ暗い。


「寝言で起こしてしまったのか」


 コップを受け取りながら、プテックを確認すると寝間着から着替えている。水を貰いに行くために着替えたのだろうか。


「ちがう、昨日は、早く寝た」


 だと言っても、普通ならこんなに早くは起きないだろう。プテックが赤子の頃から共に寝ていた自分が騙されるはずなどないと言うのに。


「お代わり、持ってくる」


 飲み干したコップを受け取ったプテックが部屋から出ていく。


「まったく、プテックと言いディフィーと言いまだ子供だというのに気を使いすぎだ」


 王家の秘術で成長を速め十五歳相当の肉体と、それ以上の経験や技術を有しているとはいえ、あの子達はまだ十歳でしかないと言うのに。


「いや、それは殿下達や自分もそうか」


 右手を上げて、そこにはまる指輪へと口付ける、はは様から頂いた家宝。


「はは様、ミムズは十二歳になりました」


 今更こんな夢を見たのは、きっとリサたちの事を考えて寝たからなのだろう。


「また、自分は守れなかった、もう誰も見捨てないと誓ったのに」


 あの時はは様は、自分たちを守るために盗賊達に捕らわれて、何か月も慰み者にされた。それ以後にも、何度も何度も自分たちを守るために、ご自分を犠牲にされて。


「それなのにミムズは、はは様を一度も御守り出来なかったばかりか」


 だからこそ誓ったはずなのに、強くなると、誰よりも強くなって、姫様達やプテック達だけでは無く、この目に映る全ての弱者を守ると。


「自分は弱すぎる、いや、それだけでなく考えも足りなかった。リョー殿の言われた通りにしていれば、より多くを助けられたはずなのに。なのに自分は目の前の事しか見えずに」


 目を瞑ると数日前の戦闘がありありと浮かんでくる。魔法やスキルで正面からの力押ししか出来ない自分と比べて、リョー殿はどれほど広くものを見ている事か。


 被害と効率を換算して冷静に状況を判断し、その場にいる者たちのスキルや特性を把握して、より良い作戦を立てたり。戦闘中も、装備をうまく組み合わせることで無数のオーガをスキルも使わずに倒すなど。


「本来なら、騎士である自分がああでなければならないと言うのに」


「姉さま、どうしたの」


「ミムズ様、大丈夫でございますか」


 ベッドの上で落ち込んでいた自分を、プテックとディフィーが心配そうにのぞいている。いかんな二人が部屋に入ったことに気付かなかった上に、こんな表情を見せるなどと、上官失格だな。


「すまない、少し夢でうなされただけだ。お早う二人とも」


 二人を安心させるために、意識して笑みを浮かべながら返答する。


「姉さま、お水」


「おはようございます、ミムズ様、身だしなみを整えさせていただきます」


 プテックが水を差し出し、櫛を持ったディフィーが背後に回ろうとする。


「ディフィー、自分でできるのでそれは無用だ、それよりも両殿下のために用意があるだろう」


「ご安心を、お二人はまだお休みですし、御目を覚まされてからの準備もすでに済んでおり。何かあればすぐ対応できるようにサーレンが控えております。まあ、それはそれで不安ですが」


 笑いながらディフィーが背後に回ると、プテックが鏡を構える、何度もされているがどうしても落ち着かない。


「ミムズ様は、こうして他者に髪を触られるのはお嫌ですか」


「いや、そうではないが申し訳なくてな」


 髪に櫛がかけられ、優しくとかしてくれるディフィーが鏡越しに微笑んでくる。


「お気になさらず、私達侍女はこうして尽くすことが喜びですので」


「そういうものなのか」


 はは様もそうであられたのだろうか。


「ええ、もちろんですよ」


「そうか、それにしてもこうして髪を梳いてもらえると言うのは、心地よい物だな」


 そう言えば昔はよくはは様にこうしてもらっていたな。


「当然です、私の侍女としての技術はすべて先生の直伝ですから。もっとも『身支度』は先生の様にスキル化していないのでまだまだという事でしょうが」


「そうであったな」


 ディフィーだけでは無い、サーレンやエア、ブリーズもはは様の教えで何らかの生活スキルを持っているし、パルス様も『菓子作成』、アクラス様ですら『裁縫』のスキルをお持ちだ。何もないのは自分とプテックだけだ。はは様の娘だと言うのに情けない話だが。


「はは様からは、女の子なのだから少しは家事を身に着けるように、そう言われていたと言うのに。当時から剣と槍ばかりだったからな」


「姉さま?」


「いやなんでもない、それよりもプテック、朝食のあと少し鍛錬に付き合ってくれ」


 自分にはもう戦う事しかできないのだから、少しでも強く、誰よりも強く。


「そう言えば、ミムズ様にとある貴族の方より花と贈り物が届いておりますが」


 家宝の髪飾りを止めてくれながら、ディフィーが言ってくる言葉に少しげんなりとする。


「またか、あの御仁も飽きられないな」


 まったく自分に花や宝石を送る余裕が有るのなら、被災した民に支援でもすれば良い物を。とは言え相手は貴族、自分の行動が殿下達の評判にもかかわる以上むげにもできないか。


「礼状と返礼の品を用意しなければな」







~冒険者~


 あーあどうするかな。


「兄貴、武器の手配は済みました」

「『迷宮討伐』なんて久々だぜ、ユニコーンの時は空振りだったしな」

「はん、岩跳豹から逃げ回ってたやつが良く言うもんだ」


 俺の目の前で野郎どもが好き勝手に話してるが、面倒なことになっちまったな。


 本当なら、このあいだの契約満期でおさらばのはずだったってのに、サイコロ博打で全財産スッちまうなんてな。まあ、今回の『大規模討伐』で稼いで、次の契約切れでこんな面倒な連中とは縁を切ってやる。とは言えまずは。


「あれ、兄貴顔色が悪いけどどうしたんで」


 クソ、顔に出てたか、まあいつまでもこうしてても仕方ねえ、面倒な事は早く終わらせておかねえと。


 野郎どもの居る広間を後にして、赤毛の兄ちゃんに声をかける。


「ちょいといいですかい」


「どうしたんだい」


「いや、ちょっと問題が有りましてね」


 やっぱり報告するのはこっちだな、金髪なんかに言ったら、どうなるか解ったもんじゃねえし。


「街で噂を聞いたんだが、『鬼族の街』の討伐が決まったのは、まだ『休止期』が終わったばかりだってのに、鬼が『迷宮』の外に出てきたせいだそうで」

 

 いくらほとんど冒険者の行かない『迷宮』で魔物がわんさかいるからって、普通はこんな時期に魔物が『迷宮』の外に出るなんてことは無いってのに。


「そうらしいね、だけどそれがどうしたんだい」


「『迷宮』の外に出てきた鬼ども、特にゴブリンは積極的に人を襲ったって話で」


 実際、旅人や集落なんかはかなり被害が出たのに、野の獣や家畜なんかはたいしてゴブリンの被害が無かったらしいし。


「それで、何か言いたいのかな」


 この兄ちゃん、気付いてねえのか、それとも気付いててわざとはぐらかしてるのか。


「ゴブリンなんぞは、好き嫌いなくなんだって食うってのに、しかもずっと『迷宮』にいたんじゃ人間を見る機会も滅多にない、それが好んで人を狙ったって事は」


「君が言いたいのはこういう事かい、何かの理由でゴブリンが人の肉の味を覚え、それを求めて『迷宮』から出てきたと。だけどそれがどうしたんだい」


 やっぱり解ってるんじゃねえかよ。


「金髪の兄ちゃんが遊び終わった『玩具』の残骸、俺ら以外にも処理させてただろう」


 多分、消費量を俺等に掴ませないための工夫だろうが、使う相手を間違えたな。


「彼らが、『迷宮』の中に『あれ』を捨てたかもしれないって事かな」


「まあ、誰も来ないような不人気『迷宮』だし、ほっときゃ半日で魔物が片付けてくれるから、足が付きにくいのは確かだが」


 ところが、そのせいで味を占めたゴブリンが人肉を狙って『迷宮』の外に出て、オーガがそれを追って来たと。


「それはマズイね、これが誰かに知られれば」


「ただじゃ済まねえだろうな」


 魔物の被害を誘導したようなものだからな。実際に人死にも出てる上に、今回の『大規模討伐』じゃ主催の侯爵様は赤字を出してるだろうし。


「『迷宮』で誰かが気付く可能性はあるかな」


「さてな、裸の死体なら何も残ってないだろうが、私物でもみつかれば身元も解る、最悪それを辿れば。それに証人もいることだしな」


 こんな雑な仕事をするような連中だ、酒の勢いで何を言い出すかわからねえよな。


「そうだね、ところで今回の『大規模討伐』は私達も参加するが、回収した物品や採集物はどうしようか」


「そうだな、冒険者の仕事で役にたつ武器なんかなら自分達で使いたいが、そうでもないなら金を出してくれる相手に売るさ」


 証拠品なら高く買い取ってくれるだろう。


「冒険者の諸君には、お世話になってるから出来るだけの事はしよう」


 これで契約成立だな。さてもう一方はどうするのかな。


「うちで雇ってる冒険者を取り纏める一人の君に聞きたいけど、今回の『大規模討伐』で『被害』は出るかな」


「出来るだけのことはするが、『何人かは鬼に殺される』かもしれないな」


「そうか、できるだけ『必要最低限の犠牲』になる様にしてくれ、これはそのための前払いにとっておいてくれるかい」

 

 この重さは金貨十枚ってところかな。


「まあ、『迷宮内の不幸な事故』はいつでもある事だしな。『最善』を尽くそう」


 さてと、金貨分の働きをするためにも、だれが馬鹿野郎なのかしっかりと確認しなおさないとな。


「まったく、やっとリューン王国へ繋がりが出来そうだと言うのに、こんな事で躓いちゃたまらないからね」


 まあユニコーンの角がおじゃんになったから、今回の『大規模討伐』で顔を売らないとならないんだろうな。ん、金髪もきやがったか。


「レネル聞いたか、あのいまいましい冒険者も参加するらしい」


 まあ、あの兄ちゃんなら参加するだろうな。まあ何百人もいれば絡むこともないだろ。


「マイラス、一冒険者の事なんてどうでもいいだろう、重要なのはどうにかしてリューン王家と繋がりを持つ事。そうすればエルフ族の奴隷も仕入れられるからね」


 そういやこの兄ちゃん、奴隷売買もしてるんだっけ。


「そうだったな、エルフ族の白い滑らかな肌が赤く染まるのを見れるのか、楽しみだ。魔力が有るから人よりも生命力が高そうだし」


 あーあ、こっちの兄ちゃんもぶれねえな。


「まあ、それは後の楽しみにするとしても、マイラス首尾はどうだい、流石にわたし達の爵位では直接王女様に話を持って行けないから」


「ああ、しっかりと仕込をしている、すぐに落ちるだろう」


 この兄ちゃんは、見た目だけは良いからな、中身は最低だが。


誤字脱字ありましたら指摘おねがいします。


それとアンケートはまだやってます。仕事のからみで締め切りを少しだけ延ばしました。今現在は男の娘容認がやや優勢です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ