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88 器と酒と

 ミムズに飲ませようと酒を用意している間に、どっかにいっちゃったか、何処に行ったんだろ。


 アラはもう小屋で寝てるからそのままにしても大丈夫だよな、さてミムズの行きそうなところはどこだろうか。


「まあ、普通に考えれば一人になれる所、誰も来ないところだよな」


 とはいえ、ほんの数日の付き合いじゃミムズの行動パターンなんてわからないもんな、いや戦闘とかに関しちゃもう大体わかったけどね。


 里を抜けて丘の上に登ってから『鑑定』を使いながら周囲を見回す。


「これで見つからなきゃ、建物の中か物陰って事だな。まあ物陰を歩いてるなら数分以内に出てきて反応が有るはずだし、探す場所は絞られるか」


(お主は『鑑定』スキルというものをなんだと思っておるのじゃ、『索敵』などとは違うのじゃぞ)


(使えるものは有効に使わないとな)


 だってさ、便利なんだもん。視界にさえ入れば、どれだけ離れてても暗くても、居る場所のあたりに『鑑定結果』が出るって。


「いた」


 やっぱり里の外に居やがった、氷の壁のすぐ外側か。





「こんな所で何やってるんだ」


 氷の壁に背中を預けて座ってるけど寒くないのかね。取りあえずミムズの横に三ℓくらい酒が入った小樽を置いてから座る。


 そう言えば、ミムズに酒飲ませても大丈夫なのかな。見た目は十代半ばくらいだし、アクラスやパルス達の事を考えればもっと幼いのかも。そもそもこの世界の飲酒って幾つからOKなんだ。


 いや、今はそれどころじゃないよな。ミムズが俺に気付いたみたいだし。


「リョー殿か」


「いくらなんでも不用心じゃないか、鎧も武器も無しでこんな所に、魔物でも出たらどう対応するつもりだ」


 まあ魔法も使えるし何とかなるのかな、いやメインは槍だろうからやっぱり危ないか。


「魔物など大したことではない」


 まさかと思うけど、やけっぱちになってないか。


「リョー殿の言われる通りだったな」


「なにがだ」


 しばらく黙っていたミムズがやっと口を開いたと思ったら、訳の解らない事を言ってくる。


「自分は、自分自身の器の小ささも解らずに事を起こしたために、結局すべてを台無しにしてしまった。リョー殿の言われた通りにしていればこんな事にはなっていなかったはずだ」


 それに関しては、このあいだも言ったんだが、流石にあれだけじゃ納得はできないか。


「言っただろう、どうなっていたかなんてのは誰にも解らないんだ。お前は少なくとも里の半分以上を救ったと言えばいいんじゃないか」


「そんな事が出来るか、自分は数十人を助ける事が出来なかったのだぞ、自分には力がなかったのだ、別の誰かであったのならばきっとより多くを」


 あちゃー、これは俺の想像以上に落ち込んでるな、まあ正義感と騎士道精神の塊りみたいなやつだから今回の件は応えたんだろうな。


「そう言ってもな、ここにはミムズ達と俺達しかいなかっただろうが、なら俺達の出来たことがこの場での最善だ。そうでなければ全滅しかなかったんだからな」


「だが、もしリョー殿の言われた通りに引き返して援軍を呼んでいれば」


 それは俺も言えるんだよな、ヒーラーの『鑑定結果』を見た時にそれに気付いて一度後退していれば。いや、『鑑定』の事を言えない以上はミムズを説得出来なかったか、だけどもし。


 いや俺がifを考えてどうするんだ、後出しならいくらでも名案が浮かぶものだ、その場で出てこなかった名案なんて机上の空論だ。


 今はそんな事よりもミムズを落ち着かせることだよな。


「俺の故郷ではな『覆水盆に返らず』って言葉が有ってな。水の入った皿を一度ひっくり返せば零れた水を戻すことは出来ないって事でな、一度起こってしまった事は元に戻らないって事らしい」


「まさに今の状況にぴったりの言葉だな」


 まあ、そう言うと思ったけどね


「だがな、人の器がそんな平べったい物だと俺は思ってない」


 小樽の栓を抜いて倒すと、小さな注ぎ口から少しずつ酒が流れ出す。


「零れ方や器の形次第では、中にいくらか酒が残るかもしれないだろ。まあ確かにこれは今の状況を表してるかもな、だが」


 小樽を少し動かして注ぎ口が一番下に来るように調節する。


「今はどっちかというとこんな感じかもな、口が小さいから一気に流れ出ることは無いが、このままにしておけばそのうち空になるだけだ」


 俺がそんな事を言っている間にも樽からは徐々に酒が流れていく。


「どうするんだ、お前が自分で好きに注いで、お前の器の中に残っている酒だ、お前の好きにすればいいだろ。このまま放置して全部捨てるのもいいし、残っている分を何とか持ち帰るのもいいだろ、どうせたいして良い酒でも無いしな。だがいつまでも悩んでいれば結局は空になるだけだぞ」


 俺が言っている酒ってのが、里の連中の事を差してるのはミムズも解ってるだろう。さてと、ミムズはどうするかな。


「一度受け入れた物を放置することは出来ないだろう」


 ミムズが手を伸ばして樽を持ち上げ、本来の置き方に戻してから栓を閉め直す。


「それでいいのか後悔するかもしれないぞ」


 あの連中は文句を言うだけで感謝するとは思えなかったからな。うん、今までの感じだと典型的なクレーマーっぽいし、勝手に自分たちの思う希望を押し付けて、思った通りの結果が出ないと徹底的に叩いて来るなんてね。


「かもしれない、だが見捨てればそれ以上に後悔するだろう。このまま進んでも進まなくても後悔するのなら、自分は自分の思う道を進んで後悔したい」


 はあ、それはまた、どこかの主人公みたいなセリフを頂きました。しかたないか、あーあ何やってんだろ俺は。


 地面に置かれたままの樽を持ち上げる。


「樽を抱えたままじゃ槍は振り回せないだろ、片手じゃゴブリン相手でも苦戦するかもしれないからな。仕方がないから酒蔵まで持って行ってやる」


「リョー殿それは」


(この辺りでは酒蔵など、レイドの街しかあるまいにまったくお主も甘いのう)


(まあ、乗りかかった船だからな)


 頭の中に響くラクナの笑い声に耐えながら、立ち上がった俺にいきなりミムズが抱き着いて来た。


「お、おい、一体何のつもりだ」


「すまないリョー殿、少しだけ、ほんの少しの時間だけでよいのだ、こうしていさせてくれないか」


 これは多分、人肌が恋しいだけだろうな、ぬいぐるみや毛布の代りってだけだ。うん、変なフラグは立っていないはずだ。俺にとって恋愛フラグはアウトだから。


 だからここは判断を間違えちゃダメだよね。


「解った、俺は何も聞いていないし、眠いから何か聞えてもすぐに忘れるだろ」


 だから好きに愚痴を言ってもいいと伝えたかったんだが、キチンとミムズは理解してくれたみたいだ。


「すまないな」


「何か言ったか、眠くてよく聞こえん」


 だんだんと、ミムズの声に嗚咽が混じってきたかな、おっとと、気にしない気にしない。今の俺は何も聞こえていないんだからな。


「助けたかった、みんな助けたかったんだ。誰かを犠牲にするような事はもう嫌だったんだ、あんな思いはもうしたくなかったのに。なのに、なのに、自分は、ミムズは誰も助けられなかった」


 背中から聞こえてくる泣き声はどんどん大きくなってくる。あーあ物語の勇者とかならこういう時かっこよく慰めたりできるんだろうな。もしかしたらそのままベッドインとかしちゃったりとか。


 いやいや不純な事は考えないでおこう、今の俺は何も感じない何も聞こえない。それにこの状況は俺にも責任が有るんだしな。


 もうしばらくはこのまま黙ってるしかないか。





 さてと、ミムズは落ち着いて寝たし、里の周囲はディフィーさん達が交代で見張ってるから俺は安心して好きな事を出来る。


「となると、今のうちに面倒事を片付けておくか」


 下手にごたついて時間がかかっても面倒だし、危険も増えるかもしれないからな。どうせ嫌われてるんだから毒食らわば皿まで行っちゃうか。


 人の居ない里の中を抜けて目的の建物に向かう。ほとんどの建物がすでに明りを落としている中で、俺の目の前にある集会所だけが、しっかりとした明かりをともして中から複数の声が響いてくる。


 しかしまあ、あんな目にあったってのによく集会場に入ってられるもんだな。


「もう鬼は居ないんじゃ、このまま村を再建するべ」


 ああ、やっぱりそう言う意見がでるよね。


「そうだ、そうだ、若者が減ったって言っても連れてかれなかったモンもいる。立て直しも出来るはずだ」


 まあ、オーガは倒したからね。


「もしかしたら、助かった者もいるかもしれんし、出てった者も戻ってくるべ」


 いやーそれは難しいと思うけどな。


「そうだあの騎士にも金を出させるべ、散々な事をしてくれたんだ、その位当然だろ」


 ああ、やっぱりそう言う話が飛び出してきたか。だけどそれは死亡フラグだよ、ディフィーさんを怒らせたりしたら多分、それにね。


(まあ、民衆にとっての貴族などこんなものじゃろな。表では持て囃しても、本音では厄介者か金づるのどちらかじゃろ)


 そっか、日本の議員や役人みたいなものかな、あの頃は色々とぺこぺこ頭下げてたもんな。


 まあ、それは良いか今やる事は別だもんね、あーあなんか俺どこ行っても嫌われてるような気がしてきた。


「ずいぶんとまあ、都合のいい話をしてるな」


 俺の言葉に里の連中が驚いたように振り向く。


「な、何時の間にこんな所に……」


 まあ、『軽速』で足音を完全に消してたもんね。


「それであんたらは、ここに残って全滅するって事でいいんだな」


 あえて突き放すように言ってみると、里の連中の顔色が変わる。


「なに驚いてるんだよ、ここに居たオーガを退治したってだけで、『迷宮』から出てきた鬼はまだいるんだろ、たとえ相手が雑魚なゴブリンの群れでも、大人しく喰われる以外にできる事があるのか」


「冒険者風情が何言ってやがる、この里は守られてるんだぞ」


 これまたずいぶんと都合のいい、誰が守ってるのか忘れてるんじゃないかな。


「言葉に気を付けろよ、俺一人だってこの里を皆殺しにするくらい軽いんだぞ」


 前にハルに絡んできた村の連中と言い、こいつらと言い危機感って物がないのかね。法制度もそこまでしっかりしてないし、捜査機関だってまともなのは無いだろ。


 この世界での戦闘職と、そうでない人間との戦力差はとんでもなく開いてるから、その気になれば証人も残さずに皆殺しとかできそうなんだよね。なのに、こうも喧嘩腰にくるってのはね。


「ぐ、この村には騎士様がいるんだぞ、貴様や鬼なんぞにどうこうできるか」


 おいおい、さっきまであんたら何言ってたんだよ。


「忘れてるかもしれないが、ミムズがこの村を助けたのはただの善意、気まぐれなんだぞ。俺は金でそれに付き合ってるだけ、他の連中もミムズが頼んだから来てるだけだ。お前らを守る義務は誰にもないんだぞ、それにいつまでもここに居られるわけじゃない」


 里の連中の顔色が更に変わっていく、うん、俺の言いたいことが分かってきたみたいだな。


「俺らが引き上げる時に、ここに残って鬼のエサになるか、俺等と一緒にどこかの街まで避難するか。決めるのはあんたらだ。だがあまり俺等の機嫌を損ねない方が良いと思うぞ、今この村が襲われても助けるかどうかの決定権はこっちにしかないんだからな」


 これだけ言って置けば、もうバカな言動はしないだろう。あそこまで落ち込んでたミムズに、これ以上の追い込みはきついだろうからね。


(まったく、お主は1人で悪役になりおって、まったく甘いのう)


 仕方ないだろ、相手はまだ子供なんだからさ。


ふう、とりあえず重めの話はここまでにしたいな~

次回はロリロリが目標です。


先日間違えて感想の受付制限をかけてました、すみません、感想はエブリタイムウェルカムですので。返信は遅れ気味ですが……


H27年8月1日 誤字、句読点、一部セリフの解りにくい部分を修正しました。

H27年8月6日 誤字、追加修正。

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