87 救出
お久しぶりです、今回はちょっと重めです
「これだけか」
オーガに連れていかれた連中の居場所はすぐにわかった、オーガ共は河の近くに作った陣の内側に深い穴を掘ってそこに人間たちを閉じ込めていたからだ。
戦闘中も俺達が来たことに気付いたのか、弱々しいながらも助けを求める声が聞こえてたし。
連れ去られてから四日、俺の計算通りなら半分以上が生き残っているはず、だった。
「これだけ、たったこれだけしか生きていないのか」
穴から俺達が引き上げたのは男女七人だけ、連れ去られたのは三、四十人はいたはずだからどう考えても計算が合わない。
残りは探索するとすぐに見つかった、オーガたちの居た場所から少し離れたところに掘られた別の穴、そこに有った。
「こんな、なぜこんな事が」
殺されてオーガたちに食い尽くされた犠牲者の残骸、俺達の足元に掘られた穴にはそれが有った。
「たった四日で、なぜだなぜ四日でこんなに」
すぐ横でミムズが呻いているけれど俺も何が何だかわからない。オーガの食事量を予想していたからこそ、いくらかの被害が出ても何とかより多くを助けられるように考えて、ここまで来たってのになんでこんなに犠牲が出てるんだよ。
「俺の被害の予想がまちがってたのか、だがリサの時は、それならどうして、そうか、そう言う事か、くそっ」
いまになってやっと気付いた、リサを連れていたオーガの集団と俺達が追っていたオーガの集団は前提が違ったんだ。
自分の愚かさに足の力が抜けてその場に仰向けに寝転んでしまう。
「どういうことだリョー殿」
ミムズが聴いて来るが今だけはなにも見たくない、両手で顔を覆ってから端的に答える。
「オーガのスキルだ、そのせいだ」
「スキルだと、それは一体、あ」
俺の言葉でミムズもそれに気付いたようだ。
「『食肉回復』、ヒーラーの」
「そうだ、肉を食う事でMPを回復させるスキル、そしてヒーラーは大量にMPを必要としていたはずだ」
里での戦闘で大半のオーガは負傷していた、中にはかなりの深手もそれなりにいた。それをたった一体で回復させるなら、どれだけ肉を食っても足りなかったはずだ。
「そんな、そんな」
俺のすぐ横にミムズが崩れ落ちるのを音で感じたが、俺はそちらへ気を配る余裕もない。
俺だけは、俺だけはこの可能性に気付いていなくちゃダメだったんだ。里で『鑑定』した時にヒーラーにどんなスキルが有るのか解っていたんだから。何より俺は同じ状況を経験していたんだから。
『ミーシアに感謝する事ね、食事で若干のMP回復が出来ると言っても限界まで回復魔法を使い、魔物を食べてからまた回復魔法を使うなんてことを繰り返して体に負担がかからない訳がないでしょうに』
俺が『蝙蝠の館』で『魔力回路』を暴走させた傷をミーシアが治した時、ハルはそう言っていた。
回復役ひとりのMPで賄いきれないほどの怪我を前にした時に、『そう言う方法』が有るって事を俺だけは気付いていなければいけなかったんだ、そうすればもっと別な方法が……
「こんな、こんな事って、こんな……」
ミムズのかすれた声と、風に混ざる死臭が五感を刺激してくる中で、必死に深呼吸を始める。
落ち着け、これ以上は落ち込んでたらダメだ、反省や分析は事態が解決して落ち着いてからするべきだ。後悔ならいつでもできるし、もうこれはどうにもならないんだから今はするだけ無駄だ。
それよりも今をどうするかだ、七人の生存者を安全圏まで連れて行くんだからな。現状はどうだ薬を使って回復したとは言えディフィーさんはダメージを受けてたし、アラとサーレンさん、ディフィーさんは枯渇寸前までMPを使ってる。精神的な疲労はかなりあるだろうし、それはミムズとプテックもそうだ。
このままここに居れば他の鬼が来る危険もある、食料もパーティーだけならまだ持つが生存者の分もとなると里まではギリギリだ、まだ落ち込んでる余裕なんて無い。
荒くなりかけていた呼吸がだんだん落ち着きだした頃には、臭いにも慣れてきたのか込み上げかけていた吐き気も治まっていた。
「ミムズ、俺達には時間がない他の鬼が来る前にここを離れるぞ」
俺は慣れたとはいえあれだけ臭いがしてるんだ、今はオーガが怖くて近寄らないだろうが、居なくなったと解れば必ず何かが臭いに誘われて来るはずだ。
「それは解るが彼等をどうするのだ、このままでは獣に荒らされるだけだぞ」
「こいつ等には悪いが埋めてる時間は無いし、埋めても鼻のいい獣なら掘り起こすだろう、火魔法で火葬するのが精一杯だ」
多分、こんなことを言えばミムズは暴発するかもしれないけどこっちもあんまり余裕がないからな。
「早くしないとせっかく生き残った連中まで取りこぼすぞ」
こういえばミムズも解るはずだ。
「く、確かにそうか。分かったサーレンの魔法を使わせた後ですぐに里に向かおう」
オーガたちを倒してから四日で里に戻る事が出来た。連れ去られた連中は衰弱してたがプテックの血には体力の回復効果もあるらしく、そのおかげで何とかついてこれた。
まあ一晩中盛った連中を抑え込むのが大変だったけど、中には実際にヤッちゃった奴までいて、俺とアラとミムズがいったん別行動をしたりもしたがな。
そして今に至るんだが。
「助けてくれるって言ったじゃないですか」
「どうしてくれるんだ、これしか生きていないなんて」
「お母さんを返して」
「う、う、うう、これからどうしたらいいの」
「嘘だ、まだ生きているはずだもう一回探しに行け」
アクラス達の手配した騎士達に守られた里の連中に、結果を伝えた後は予想通りの酷い物だった。
その場に泣き崩れる者、現実を受け入れようとしない者、そして一番多かったのがミムズを責めるもの。
罵声を浴びせ中には物を投げる連中もいたが、ミムズは一歩も退かずに立ち続けてそれを受け止めている。
「おい、お前ら……」
さすがにこれ以上は見ていられなくて飛び出そうとした俺を、ディフィーさんの手が止める。
「おやめください、これはミムズ様ご自身が望まれた事です」
自分が希望したって、ミムズの性格ならそれも有りそうだけど、いくらなんでもこれは無いだろ。
「だがこのままにして置くのか、これ以上はやり過ぎだ。ミムズは出来る事をしたんだからな」
問題が有ったのは俺の方だ、もっと有効な作戦を進言できたかもしれないんだから。
「それでもです、今回の件はミムズ様がご自身の責任と判断のもとになされた事です。騎士ならば。自らの行いには責任を取られなければ民の上に立つ資格はありません」
「そう言っても、あいつらはミムズが助けたんだぞ」
「たとえどのような関係でも、騎士であるならば民衆の不満を受け止められなければならないのです。これはミムズ様にとっても重要な事。もしそれを邪魔されると言うのでしたら」
ディフィーさんの目つきが鋭くなって、思わず距離を取っちゃったけど。
「ど、どうするつもりだ」
「冒険者は根無し草ですから、急に居なくなったとしても誰も不思議に思わないでしょう」
「ディ、ディフィー、それは」
「お黙りサーレン」
「は、はいいいい」
見かねて口出ししようとしたサーレンさんが、一睨みでその場に直立不動になる。どれだけ躾けられてるんだろうこの人。
「わたくしなら、肉片ひとつ残さずに死体を片付ける事が出来ますから」
そ、それはまさか俺をぱくんちょと一口で食べちゃうつもりですか。
俺はこの美人メイドさんに文字通り食べられちゃうのか。お、おれは美味しくないですよ、それにお腹壊すかもしれませんよ。
「まあ、冗談はこの位にしまして」
冗談、ほんとに冗談なんだよね、食べたりしないよね。
「ミムズ様の事を思われるのでしたら、どうかこのまま見ていてくださいませ」
そうは言うけど、これ以上はな、あれ収まったっぽいな。
俺達が話をしている間に里の連中はそれぞれ引き上げて行ったみたいだな。両手を握りしめたままのミムズがそのまま立っているだけだ。
「いや、一人だけいたか」
ミムズに向かって駆け寄ってくる子供が一人、あれはミムズが火から庇った子供か。
「騎士様、おかあさんを助けてくれて、ありがとう」
どこかで摘んできたのか小さな花を差し出してきた子供の笑顔を見たミムズの膝が崩れていく。
そのまま、地面に座り込んだミムズを子供が不思議そうに見つめているな。
「じ、自分は、自分は」
さっきまでは少し歯を食いしばってる以外は表情を変えていなかったのに、今は泣きだしそうだな。
「す、すまない、ありがとう」
震える手でミムズが花を受け取ると、笑顔を浮かべた子供が離れていくけどどうしよう。
「それでは、わたくし達はこれからの事と今までの報告をしてきますので、ミムズ様の事はリョー殿にお任せいたします」
え、ええ、なんで俺なの。
「あまり距離の近すぎるわたくし達ですと、ミムズ様も素直に成れないでしょうから」
なにそれ、適当な相手だから大丈夫だってか、あれかペットの犬とかどうでもいいのに悩みを打ち明けるようなものか。
いや俺がそう言う扱いなのはいいのかな、まあ行きずりの冒険者なんてそんなものなのかな。
「これも、依頼の内なのか」
依頼内容に『慰める』なんてのは無かったよな。
「ふう、仕方ありませんねえ、わざわざ回収しましたけれど、リョー殿の荷物はわたくし達の方で処理いたしましょう」
おい、それはどういうことだ、なんだよその含み笑いは。
「移動の為にリョー殿が放置された荷車とそれに乗っていた装備の数々の事です。急ぎのため仕方なく放棄されたという事でしたので回収しましたが、そのようにつれない事をおっしゃるような冷たい方でしたら、余計な事でしたね」
それは俺の戦利品じゃないか、契約上でも戦利品は全部おれの総取りって決まってたんだぞ。ただでさえ今回は依頼金を除けば鬼の爪くらいしか儲けがないってのに。
「一度放棄された物品は、回収した人間に所有権が移りますので、わたくし達としては『善意』で行ったつもりでしたが、リョー殿には助け合いというお気持ちはなさそうなので。まああんな安物ではいくらあっても大したお金にはならないでしょうから、こちらで処理しても未練もないのでしょう。まあこちらとしては大した額にならないのに手間がかかるだけですが」
て言ってもさ、あれはお宅んとこのミムズさんが無理に急がせたから置いてくことになったんですけど、こっちとしてはその分を補償してほしいくらいなんですけど。
「そんなに大切な物でしたら放棄などせずに無理にでも持っていくべきでしたね。それでどうなさいますか、慰めに行ってくださいますよね。リョー殿の『善意』にはわたくし達も『善意』でお応えしたいので」
ああ、この微笑んでるワニさんには逆らうだけ無駄な気がしてきた。
うん、大人しく慰めに行こうか、いくつか小道具位用意しておいた方が良いかな。
26年2月10日 ディフィーさんのセリフを修正しました。
27年8月1日 誤字、句読点修正しました。




