86 戦士たちの供宴
「それじゃあ作戦を確認するぞ、まずはディフィーとプテックが水面から奇襲で変異種を排除、それに合わせて俺とミムズが突撃して撹乱。アラとサーレンはカルトの護衛下で魔法攻撃をしながら前進、優先は群れから離れようとする個体だ、泳げないオーガを川に追い込む」
ほんとなら、この戦力でオーガを全滅させるとか無謀もいい所だけど、ここでケリを付けておかないといつまでも追いかけることになりそうだからな。
「俺らが突っ込んだ後は必要に応じてプテックはミムズと合流、そこの判断は二人に任せる。それまではディフィーと二人一撃離脱で水辺近くのオーガを減らしてくれ、可能なら水深の深い方へおびき寄せてもらえるとありがたい」
俺等だけで倒すのはきつそうだから、できれば何割かは溺れてくれると助かるんだけどな。
「後続が前線近くまで到着したら、オーガを全部水中に追い込んでから一気に終わらせる」
俺の言葉に全員が頷いてから、ディフィーさんとプテックがそれぞれ『獣態』をとる、うんプテックは相変わらずでかいけど、それ以上にワニ状態のディフィーさんがすげえ。
いやこれデカいってのも有るけど長いよなコレ、十メートル超えてるんじゃねえか口だけでも結構あるし。俺位なら一口で丸ごとぱっくんちょされそうだよな。
「それでは先に行きます」
「ああ、戦闘開始を何時にするのかは二人の判断に任せる、確実に変異種を仕留めれるタイミングを狙ってくれ」
「お任せくださいそれではミムズ様御武運を。それとサーレン、ミムズ様の足を引っ張るような事が有りましたら解ってますね」
「は、はいいいい、もちろんです」
なんだろ、サーレンさんがいきなり直立不動で返答するけどまあ気持ちはわかるよ、流石にあの凶悪そうなワニ顔で睨まれたらそうなるよな。でもまあ他にも理由ありそうな気がするけど、ひょっとしてお約束の『オシオキ』なんかが有ったりするのかな。
お仕置きか、犬耳美少女メイドさんにお仕置き……
うん、いい、じゃない今は作戦の事に集中しないとね。
「じゃあ、行く」
「うむ、プテックも気を付けるのだぞ」
勢いよく水に飛び込んだプテックが、手足を体側に付けて尻尾だけで器用に泳いで行くディフィーさんの後を犬かきで追う、しかし猫科なのに犬かきとはこれいかに。
「ではリョー殿、我々も移動しようではないか」
馬の上から鎧姿のミムズが話しかけてくるけど、さすがにこれは威圧感あるよな、普段よりもごつい金属鎧に盾、これミーシアが見たら羨ましく思うだろうな。しかもぶっといランスまで持ってるし、うーんいつもの取り回しやすそうな短槍とは破壊力が違いそうだよな。
軽量の騎兵槍 LV15
付加効果 貫いた対象の軽量化
槍としての威力はそれなりに有りそうだけど、この効果に何か意味が有るのかな。俺の『軽速』に似てるけど自分じゃなくて相手を軽くするって、なんか敵に塩を送ってるような。
まあ、いいかそれよりも今気にする事は。
「ああ、それと何度も言うが、いざという時には退却するからな、引き際を間違えるなよ」
まあここまで言ったら反論してくるかな。
「解っているがよいのか」
「とりあえずヒーラーさえ倒せれば奴らはダメージを回復させられない、こっちはディフィー達の持ってきた魔法薬が有るからな、回復しながら反復攻撃をすればいいだろ」
「うむ、確かにそれはそうだな」
おお、納得してくれたか、うん引き際は大事だよな引き際は。
昔週刊誌の記事にだまされて、利子のほとんど無い銀行口座よりも株式投資だ、てボーナスの殆どをつぎ込んだ時は損切りをしなかった銘柄は悲惨なことになったもんな、うんやっぱりコツコツ堅実が大事だよね。
「とは言え、我らならば小細工などせずとも勝てるのではないのか」
まあ、言うと思ったけどね。
「こちらの予定通りに進めば必要はないがな、なにが有るのかわからないのが現実だろう」
前回俺ら三人だけであそこまで持って行けたんだし、ディフィーさんとサーレンさんもそこそこ強いし薬や食料も十分あるから、普通に考えればミムズの言うとおり行けるんだけど、結構ギリギリのラインだから色々と保険かけとかないとね、不安だからさ。
ああ、チート勇者で俺tueee出来ればこんなこと心配しなくてもいいんだろうけどな。
「そうか、リョー殿の指示に従おう」
お、珍しく言う事を聞いてくれてるよこのまま続いてほしい物だけど。
集団で周囲を警戒しているオーガが交代交代で水を飲みに行っている。まあそりゃそうだよな、たった二人の俺等でさえ干上がりかけたんだ、あれだけの集団を潤せる水場なんてここまでなかったし、あのガタイじゃ人よりも水の消費量が多いだろう、かといって追われてるのは解ってるから見張りも必要だ。
今のあいつらはいつまでたっても水分補給が間に合わなくて交代で飲んでる状態ってわけだ。
「だからそれが隙になる」
物陰に隠れて様子をうかがっている俺の視線の先では、ヒーラーが四つん這いになって水面に顔を近づけて行ってる。
「ガアアアア」
目だけを水面に出して様子を見ていた凶悪な人食いワニ、もといディフィーさんがヒーラーの胸元へとかぶり付く。
「グガガガー」
鋭い歯がオーガの胸板に食い込んで骨が噛み砕かれる鈍い音が響いてくる、そう言えばワニの噛む力って無茶苦茶強いんだっけ。
「グガララララ、ギャウン」
ヒーラーを助けようと一頭のオーガが向かっていくけど、尻尾の一撃で弾き飛ばされて気絶してるよ、そう言えば『尾戦道』なんてスキルが有ったっけ。他は『術』レベルだったのにあれだけ『道』って事は相当使い込んでるんだろうな。
「グガッ、グガッ、グガアアア」
悲鳴を上げるヒーラーが徐々に水中に引きずり込まれていくのを、他のオーガが止めようと必死になっているけどディフィーさんの尻尾が軽々と振り払っていく。
「ヒガッ、ヒガッ、フガァ、アガ、ガバ、バババ」
何だろう、水の中に沈められていったヒーラーが哀れな被害者に見えてきたんだけど。いやまだやられてないな水面近くでバシャバシャやってるし。
「グギャアアア」
ディフィーさんの体が回転して、断末魔の悲鳴と共に水面が真っ赤に染まる。あれはまさかデスロールなのか獲物を食い千切るワニ最強の技。
これでヒーラーは仕留めたな、あとは。
「ガアアア」
水面の草陰に隠れていたプテックが一気に浅瀬を駆け抜けメイジを目指して走り込む。
「グギャ」
「ガラア」
なんとか止めようとするオーガの拳を躱しながらプテックがメイジの喉元にかぶり付く。
よしこれで何とかなりそうだ。一撃必殺は出来なかったみたいだけど、あの出血量で回復手段がなければ長くはもたないだろうし、喉がやられちゃ魔法も使えないだろう。囲まれる前に最低限の目的を果たして引き上げたプテックもナイス判断だ。
「いくぞ」
「おう」
機会を逃さずに一気に前進した俺を確認してさらに背後で待機していたミムズも馬を走らせる。
てはええ、もう追いついて来たよ、昔本で読んだ知識じゃ完全武装の騎馬って鎧が重すぎて歩兵が全力疾走で逃げたら追いつけないとか聞いた事あったのに、やっぱり地球とはそこらへんが違うのかな。
「はあああ『突進』」
俺を追い抜いて行ったミムズが一体のオーガに正面から突進しながら、ランスを抱え直す。
「ガアアアアア」
一撃でオーガの胸を貫通したよ、おいおいあの分厚い筋肉を一撃かよ。て、えええあの巨体を貫いたまま持ち上げたぞどうなってるんだ。
(慌てるでない、あの槍の『付加効果』は確認したであろうに)
あれか、貫いた相手の軽量化って、そうかこれなら貫いた後で踏ん張られることは無いし、勢いが死んだところを囲まれる心配も減るか。
「ふん」
ミムズが槍を振るとその勢いのままに貫かれたオーガが飛ばされてミムズに向かおうとした一体に衝突する。
と、俺もいつまでも見てないで参加しないとな。
「ガララッラ」
向かってくるオーガの拳を躱して、股の下を潜って背面に回る。
(それで如何するつもりじゃ、お主の攻撃では『金的』『目潰し』くらいしか効果がないじゃろう)
(一つ試したい事が有る)
俺に背中を見せたままのオーガに飛びかかり、片手を肩に当てて『軽速』を一時解除する。
「食らえ」
奴の首の下のあたりを真横に横切る様に『切り裂きの短剣』を振るってから『軽速』を発動して背中を蹴る。
「ガ、ガウ」
俺が離れるとほぼ同時に、オーガの全身から力が抜けてその場に崩れ落ちる、よし上手く行ったな。
(なんじゃこれは、一体お主は何をしたのじゃ)
(大したことじゃない背骨を切断しただけだ)
確か背骨には脳からの命令を全身に伝えるぶっとい神経が走ってて、交通事故とかで半身不随になる原因はここがやられるからだって聞いた事が有ったから試したんだけど、上手く行ったな。
「ガ、ガ、ガガア」
手足がマヒして身動きが取れないのが理解できずに呻いているオーガに背を向けて次の獲物を、あれ。
(まあ、簡単な戦法じゃしな対策も取りやすいという事じゃな)
俺が仕掛けようとするとオーガ共は背中を寄せ合って背後を取らせないようにしてやがる、くそバカのくせに小賢しい真似しやがって。
くそう『金的』の時と言い今回と言い、なんで俺ばっかりこうやって対策されるんだよ。
(ミムズの突撃やプテックの牙などはそれ自体が強力なために防ぐのが難しいが、お主の場合は特定部位さえ守ればそれまでじゃからのう)
く、こんな所でも基礎ステータスとスキルの違いが出てくるってのか。
だが。
武器をゴブリンズソードに持ち替えて下から切り上げる。この角度なら『金的』もらった。
股間を押さえて悶絶するオーガの肩に飛び乗りながらアイテムボックスを開いて武器を持ち替え、首の後ろに切り裂きの短剣を突き立てる。
倒れていくオーガの後頭部を足場にして飛び、すぐ横にいた雌の両目に切り裂きの短剣を向ける。
「ギャアアア」
よし順調だ、同じ戦法で新たに二体を倒すと俺の近くにいる他のオーガが以前と同じように急所を守るように構える。
オスは両手で股間と顔を、メスは片手で顔をそれぞれ隠しながら背を向けあっている、よしこれならこいつらの動きは大分鈍くなるし攻撃もしづらい、このあいだに他の連中が頑張ってくれればだいぶ有利になるはずだ。
『風槍』
『火槍』
後方からアラとサーレンさんが放った魔法が離れたところにいるオーガに突き刺さる、仕留めれはしていないけど結構ダメージはありそうだし逃走防止も出来てるなよしよし。
「はああああ」
再度突撃してきたミムズが一体のオーガをまた仕留める、これならもしかしたら実力だけで勝てるかな、いや。
(馬の体力も限界が有る騎馬突撃はあと数回が限度じゃろうのう)
やっぱりそうだよな、プテックもかなり健闘して結構な数のオーガに手傷を負わせてるけど最初の一撃みたいに致命傷を負わせてるのは少ないし、やるしかないか。
アラ達はもうだいぶ近くまで来てるしこれならいけるかな。
「ギャアアア」
水から上がったディフィーさんが群がるオーガを尻尾で吹き飛ばしてるけど、牙や尻尾の届かないところは無防備だしガタイが大きい分小回りが利いてない、まあワニに陸で戦えってのが無理な話だもんな。
「く、この」
不用意に目の前に出たオーガの足を食い千切り、後ろに回ろうとした二体を尻尾で弾き飛ばすけど、その間にも数体が後頭部や胴体に攻撃をしているからな、これ以上はつらいか。
「ディフィーもう十分だ、撤退を」
俺の声を聴いてディフィーさんが結構なスピードで水面に向かって走っていく、そう言えばワニって短距離なら意外と速いんだっけ。
逃げ出したディフィーさんを追ってオーガたちが浅瀬へと走っていく、それ以外のオーガもミムズとプテックの突撃やアラ達の魔法に追われて水際や浅瀬に追い込まれていく。
うん順調だ俺も追い込みには協力したし、当然の結果だよね。
「さてと、これで仕上げだな」
岸辺に陣取って遠距離攻撃で鬼を浅瀬に押し留めているミムズ達から離れて上流側に向かいディフィーさんと合流する。
まあ水中でワニを追いかけるなんてマネをオーガに出来る訳ないよな。
「よし、行くぞ」
「承知しました」
俺の声に従ってディフィーさんが予定通りの呪文を唱え出す。
「後の事を考える余裕はない、込められる魔力を全力で込めて最大威力で放て」
俺の言葉にうなずくディフィーさんにタイミングを合わせる為に指輪を構えながら『念力』をつかう。
「行きます『水流波』」
ディフィーさんが魔法で大量の水を下流に向かって流すのと同時に俺も『氷水の指輪』を使って出せるだけの水を一気に川に流しこむ。
同時に『念力』で抑え込んでいた川の水も解放し更に『念力』を追加して水流の向きと勢いを調整する。
大量の水流が一気に押し寄せてオーガたちの腰近くまでを飲み込む。
河での水攻めなんて古典的な手だけどそれだけ有効だから大昔から使われてるんだろうしさ、実際膝上くらいまで水位が有ると耐えるのはかなり難しいらしいし。
「ましてな」
『氷塊』
ミムズの魔法で作った氷の塊りや俺の『風砂の指輪』で作った土砂がさらに威力を上げてるし。
『闇痺雷』
アラの電撃魔法で手足がマヒすりゃ泳ぐことも耐えることも無理だろう。
「上手く行ったな」
オーガはカナヅチって話だから大半は溺れるだろうし、土砂と一緒にもまれながら流されれば助かってもダメージは大きいからほとんどは野垂れ死にだろう、これでオーガの脅威は排除できたな。
H27年8月1日 誤字、句読点、段落修正しました。




