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81 火の里

 どうなってるんだこれは、リサの集落が燃えているのか。


「ああ、そんな、そんな」


 いつの間にか俺の隣に来ていたリサがその場に崩れ落ちる。


「どうなってやがる」


(解らぬ、ただの失火かもしれぬがオーガは食事の為に火は使わぬし、夜目が利く以上は明かりを使わぬじゃろう)


(それなら、放火って事かだが何のために)


(解らぬ、だが今はそれよりも優先すべき事が有ろう)


 そうだな、昨日偵察した時に感じたけどあそこに有る家は木造の藁ぶき屋根だ、てことは昔の日本家屋みたいにあっという間に燃え上ってどんどん周りに広がっていくはずだ、もし閉じ込められていた生存者がそのままならすぐに焼死しかねない。


「これはリョー殿」


「解っているが距離があるな、プテック俺達を運べるか」


「問題ない」


 返事と同時に『獣態』を取ったプテックの背に全員が飛び乗ると一気に駆け出す。





(かなり火の回りが早いの、早く何とかせぬとすべて燃え落ちるぞ)


 そうだな、だけどこの火はデカすぎるだろう、いやいや落ち着け落ち着け、職場の防火・防災教室に来てた消防士が言ってた事を思い出せ、消火の基本は『窒息』『除去』『冷却』だよな。


 酸素を失くするのが『窒息消火』、天ぷら油が燃えたら蓋するとか地下室に閉じ込められたら蝋燭の火が勝手に消えたとかだよな。


 でもって、可燃物を火の近くから退けて広がらせないのが『除去消火』、確か江戸時代はこれがメインだって言ってたよな、火が移る前に家を壊して置くって。


 冷やして火を消すのが『冷却消火』、これが一番わかりやすいかも、要は反対属性をぶつけるって事だもんな、そういや焼肉食べ放題に行った時に鉄板の脂が燃えたら氷をのっけるとすぐ消えたっけ。


 さてとこの状況下で俺が出来る事は『氷水』で水をぶっかける事かな、確か水は『冷却』と『窒息』両方の効果が有るらしいし。


「き、騎士様助けてください、集落には家族や許婚がいるんです」


「解っておる、リサはここで待っておれ、直ぐに自分が」


 あー、リサに縋りつかれたミムズが突っ込んでっちゃったよ。


「姉さま」


 そりゃプテックも付いていくよな。


(ミムズには熱や火に耐性が有る様じゃがプテックはどうか解らぬ、たとえあったとしても長時間火に巻かれては危険じゃぞ)


 そうだよな、それに煙や二酸化炭素なんかも影響するかもしれないし、確か焼死よりもそっちの方が怖いんだっけ。


 俺も行くしかないか、中から冷水をかけた方が効果的かもしれないし。


「リャー、アラも行くよ」


「ダメだ、リサとここに残っていろ」


「やだー、リャーだけが危ないのはめーなの」


 これは多分強く言ったりしても聴かないかもな、置いて行こうとしたら付いて来ちゃうかも。


「アラ、アラはここで『吹雪』の魔法なんかを使って支援してくれ、俺が火傷するかどうかはアラの魔法が頼りなんだからな」


「アラの魔法がリャーを守るの? そしたらリャー怪我しない」


 少し涙目で見上げてくるアラの頭を撫でて笑いかける。


「ああ、そうだ俺が今一番信用してるのはアラだからな、アラの魔法で俺を守ってくれ」


「わーた、アラがんばるから、怪我しちゃめーなんだからね」


 涙を拭いてから呪文を唱え出すアラに背を向けて集落の中へと駆け出す。


(やれやれ、大人は汚いのう)


 うるせえ、さて生存者が残ってるとすれば集会所のあたりか。


 クソ狭い道の両側が燃えてるからかなり熱いな、こりゃ火に直接触らなくても熱だけで火傷するかも、『超再生』に期待するしかないだろうけど、痛そうだなー


「リャー行くよー『吹雪』」


 アラの声と同時に背後から吹き寄せた雪混じりの風が道沿いの火を吹き飛ばし、それ以外の場所の火も弱まる、体も冷えたし溶けた雪が所々湿らせてくれたから火の回りも少し遅らせられるかも。


「ありがとうアラ助かった」


「えへへ、リャーがんばってねー」


 よし一気に行くぞ。


(気を付けよ、集落の外に居るアラの魔法が届く範囲は限られておる。奥へ行けば自力で何とかするしかないぞ)


「解ってる、くそ」


 焼け崩れた建物が道を塞いでやがる、残骸がそのまま燃え続けててこれじゃあ火の壁だな、ミムズ達はこれを越えてったのか、それとも通った後で崩れたのか。


(どちらにしてもこれでは通れぬな、お主だけならば『超再生』が有るが、帰り道が無ければ生存者を連れだせぬぞ)


 そうだよなゲームじゃないんだからたどり着くだけでクリアじゃなくて、きちんと無事に救出しないとダメだよね。


 クソ、せめて火さえなければこの位の瓦礫なら乗り越えられそうなんだけどな。


「ん、火さえなければ、か、別に消す必要はないよな別な所に移せば」


 それなら俺には『念力』が有るじゃないか、火や水をある程度は自由に動かせる能力、これなら邪魔な火を他へ移せる。これで火が邪魔で通れないってことは無いか。


 目の前の火の壁に意識を向けて魔力を込める。それだけで俺の身長よりも高かった火が左右に割れて道を作る。


 おお、上手く行ったよこれ、てか無茶苦茶気持ちいいんだけど、規模でかくして海とかでやったら某聖典みたいなことできるんじゃねえかこれ。


 いや今はそれよりも助けに行かないと、瓦礫の間を駆け抜けて集会所へと向かう、良かった広場の方はそこまで燃えていない。


「リョー殿こちらだ『冷波』」


 集会所の前に仁王立ちになったミムズが冷却魔法で火を食い止めてたのか、だけどこの勢いじゃ消しきれないか。


「ミムズ、プテック怪我は無いか」


「問題ない」


「自分たちは大丈夫だがリョー殿から聞いていたよりも人が少ないのだ、それに道が火で塞がれて退路が無い」


 よく見るとミムズもプテックも所々煤だらけじゃねえか、これは無理やり火の中を潜ってきたっぽいな。


「それなら大丈夫だ、俺の来た道は火が弱まっていたから集落の外まで避難できるだろう」


 俺が『念力』で道を作っておけばいいだけの話だもんな。


「なにからなにまで、済まぬなリョー殿。プテック、老人や幼児を任せる」


「はい」


『獣態』を取ったプテックの背中に赤ん坊を抱いた爺さん婆さんが乗るけど、これは。


「若者が殆どいないな」


 集会所から出てきたのは、小さな子供や老人ばかりで働き盛りと言えそうな年代がほとんどいない、まるでユニコーンの隠れ里に来た時みたいだけどどうなってるんだ、昨日忍び込んだ時は確かにいたはずなのに。


「どうやらオーガたちが連れ去ったようだ、一体がそれぞれ一人か二人を抱えた後で、穀物庫と幾つかの家に魔法で火を放ったそうだが」


 まじかよ、まんま焦土戦術じゃねえか。足手纏いになる老人や子供を残して、俺らが使えそうな食料や休憩できる建物を潰していくって、脳みそが殆どねえくせにどうなってるんだ。


(ヒーラーの『知力上昇』が上手く働いたのじゃろうな、こうして火を放てば儂らは足止めされて追撃も遅れる)


 若者を連れてったのも俺達が戦力アップをしたり労働力として利用するのを防ぐためか。


(リサの様に食料としての目的もあるのじゃろうな、多人数を連れて行けばその間は狩などをする必要がないじゃろう)


 そう言う事か、リサの時は片道だけで一日半近くかかるところへ十体のオーガが移動するのにリサ一人しか連れてこなかった、という事は一人分の肉でオーガ十体が一日以上は食いつなげるって事だ、一体当たり一人連れて行ったって事なら十体一組で十日近くは持つって事か。


「クソ、嫌な計算だな」


「どうされたのだリョー殿」


「いやなんでもない、これで全員だな行くぞ」


 生存者が一人残らず集会所から出てきたのを確認して、来た道を戻りながら『念力』を発動させる。


「ああ、儂らの家が」

「命あっての物ですよ」

「息子たちは無事かのう」

「爺ちゃん、父ちゃんは」


 俺の後に続きながら逃げる連中が周りを見回しながら色々な事を言ってるな、まあ住んでた集落が丸々火に包まれてる上に半分近くが連れてかれたんじゃ泣き言も言いたくなるだろうけど。


「あまり口を開くな煙が入って来るぞ、周りを見ている暇が有るなら早く足を動かして火の無いところまで逃げろ」


 こうやって火を押さえているだけでもこっちはMPをどんどん消費してるんだからな。


「根無し草の冒険者なんかに儂らの気持ちがわかってたまるか、この集落は儂らが子供のころから必死に開拓してやっとここまでにしたんだ、それが、それが何でこんな事に」


「泣き言は助かってからにしてくれ、逃げ遅れたら焼け死ぬだけだぞ」


 本当なら老人や子供は大事にしたいけど、俺が手を貸せるだけで何とかなる人数じゃないから、ともかくせかさないと。


「ご老人、連れ去られた者達は我々が必ず助ける、そうすれば集落の復興もなろう。ともかく今は御自分の御命を大事になされよ」


 ミムズの言葉に文句を言っていた爺さんは感激したような表情を浮かべてから他の連中と一緒に歩き出す。


 何この差は俺には噛み付いてきて、ミムズが言うとあっさり従うって。


(まあ、口調や見た目の問題もあるじゃろうが一番大きいのは冒険者と騎士では民衆からの信用や言葉の重みが違うという事かのう)


 そうですか、そうですか、まあ冒険者なんて一歩間違えばならず者みたいなものだもんな。


 それよりももう少しで外に出れる。


「『吹雪』リャー大丈夫なの」


 アラの魔法が俺の抑えていた火を弱めてくれたか、これで少しは楽になったな。


「俺は大丈夫だからそこで待ってるんだぞ、もうすぐだもうすぐ火の無い所に出れるぞ」


 アラに返事をしてから後ろを振り向く、もうここまでくれば先頭に立って誘導する必要もないからな。


 遅れてたり取り残しは無いな、よしもうすこしだ、あれ、あそこの家崩れそうじゃないか、もし崩れたら何人か巻き込まれるぞ。


「いやあああ」


 くそ崩れやがった、燃えたままの柱が倒れてきてるこのままじゃ子供に直撃する。


「く、これでは、のけよ、ここは自分が」


 周りにいた人間の隙間を縫うように駆け出したミムズが、恐怖で座り込んでしまった子供に覆いかぶさる。


「姉さま」


 プテックが叫び声を上げて見つめる先ではミムズの背中に火の塊としか言えない柱が倒れ込んでいく。


「ぐうう、自分は大丈夫だそれよりもこの子を引き出せ」


 そう言ってもすぐ後ろに火が有るんじゃ誰も近寄れないか。


「俺が行く他の連中はそのまま外に逃げろ」


 ミムズの方に走りながら『念力』で柱についていた火をすべて引き剥がして他へ移す、これで多少はマシになったかまだ熱そうだけど何とか。


 両手を柱に当てて『軽速』を発動させる、『軽速』の効果対象は使用者と身に着けた物すべてで、それこそポケットに入っていた小石ですら俺が効果対象から除外しない限り、触れてる間は重量が軽くなる。なら俺が両手で持っている柱はどうだ、もし俺の予想通りにこれも装備の扱いになったなら。


「上がれー」


 よし殆ど力を使わないで持ち上がった、予想通りだな。


「ミムズ、動けるか」


 柱を横に投げ捨てて振り返ると、ミムズの鎧が覆ってない部分の服や肌が焼けただれている。


「自分は大丈夫だ、君は大丈夫か怪我は無いか」


 俺に答えてすぐ自分が庇っていた子供に向き直るけど、背中痛くないのかな。


「は、はい、それよりも騎士様が」


「この程度のやけどなど大したことは無い、それよりも女の子が簡単に泣いてはいけないぞ涙は女の武器らしいからな、ここぞという時にとっておくんだ」


 なんだろミムズには似合わないセリフだな、まあいいか女の子はミムズが抱き上げたしこれで残っていた連中は全員無事だな。


(ところで今思ったのじゃが、先ほどの方法なら火を弱められるのではないかのう)


 さっきの方法、あれか『念力』で燃えてるものから火を動かす、そうか確かにそうだな『念力』じゃあ直接火を消したりは出来ないけど、可燃物の少ない所に火を移動させて集めればすぐに燃え尽きて後は消えるしかない、『除去消火』の応用みたいなものだな。


 精神を集中させて集落を覆うように魔力を広げていく。


 限界近くまで『念力』を使って少しずつ火を俺の周囲の瓦礫へを集めていく。


「リャー避けて『吹雪』」


 俺の近くに火が集まったのを見たアラが魔法でそれを消してくれる。


「ミムズまだ魔法が使えるなら火を消すぞ、一軒でもいいから屋根と壁のある建物を残すぞ」


 今いるのは老人と子供だけだからね、焼け出されたまま雨にでも濡れたら肺炎なんか起こして命に係わりかねないもんね。


 ミムズ達に気付かれない様に注意しながら集めた火へ俺は『氷水の指輪』を使いながら指示をだす。


 アラとミムズに魔法を使わせて何とか集落の火を消した頃には深夜になっていた。



アクセス総数がいつの間にかどんどん増えてましたPVが40万超えユニークも5万を超えました、総合評価やお気に入りもここ最近どんどん増えてきてますし一日あたりのアクセスも去年と比べるとビックリするような数字で昨日なんて二万五千も。


皆さんホントにありがとうございます。


H27年7月20日 誤字、句読点、一部セリフ語尾

H27年7月22日 誤字修正。

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