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71 手紙

こんにちは、今回はハル視点です。

「こ、これは、そんな」


「サ、サミューさん」


 あら、サミューが手紙を落としてしまいましたわね、どうしたのかしら。いつも御主人様、御主人様とうるさいあのサミューがリョーからの手紙を取り落とすだなんて、ミーシアも意外そうに驚いていますし。


「どうなさったのかしらサミュー」


「そんな、こんな事って」


 何かつぶやいていますわね、それほどすごい事が書いてあったという事なのかしら。


「いったい何が書いてあったというのかしら」


 サミューの足元にある手紙を拾って、わたくしも見てみますけれどいったいどんな内容なのかしら。


「あら、これは一体」


「ハ、ハル様何が書いてあるのですか」


 横からミーシアが聴いてきますけれど、そう言えばこの子は文盲でしたわね、簡単な単語程度なら解るのかもしれませんが。


 いえ余計な事よりも、今は内容ですわね、あら。


「リョーはしばらく向こうに留まるらしいですわ、向こうで依頼を受けてしまったみたいですわね」


「そ、そんな、それじゃあ私達は、ど、どうするんですか」


「とりあえずここで待っているように、となっていますわね」


 全くふざけた話ですわ、新しい魔法を早く覚えたいといいますのに、しばらくお預けという事ですの。せっかく希望する魔法の順番と練習期間の予定表まで作りましたのに、これでは練り直しですわ。


「そ、そんな」


「お待ちなさい、まだ続きが有りますから」


 まあおそらくは理由の説明なのでしょうけれど、下らない理由でしたらただじゃ置きませんわよ。


「あら、これは」


 アラが毒を受けたみたいですわね、ユニコーンの薬ですぐに治ったみたいですけれど、熱で寝込んだみたいですわね。


 これでサミューが動揺した原因が分かりましたわ、過保護な彼女の事ですものアラがこんな目にあって、さらにリョーがしばらく帰ってこないとなればそれは動揺しますわね。


 それにいたしましてもユニコーン達が襲われていたのには、こんな理由が有りましたのね。


 わたくし達にも教えて下さっていれば他の手を取れたかもしれませんのに、まったくあの男は全部自分で抱え込んでしまいますのね。


 リューン王国の王女二人と謁見したみたいですけれど、貴人との謁見の作法をあの男が知っているとは思えませんわ、知らずに何か無礼を働いて手打ちにあっていてもおかしくないのですわよ、そうと知っていれば事前に礼儀作法を教えることも出来ましたのに。


 第一たった二人で『地虫窟』に入るなんて無謀すぎますわ、あの『迷宮』はお父様たちが数百人の家人と冒険者を連れて行ったというのに誰も戻れなかったのですわよ、いくら二階層と言え危険すぎますわ。


 まして『青毒百足』ですって、あれは本来『地虫窟』の深層部にいる『迷宮ボス』に次ぐ化け物ですわよ、そんなのを相手にするだなんて、リョーは馬鹿ですの死にたがりですの。心配するほうの身にもなってほしい物ですわ。


 い、いえ別に、リョー自身が心配なわけではありませんわよ、あの男に何かあればわたくし達自身が困るのですから。そ、そうですわこれは全て自分の為ですわよ。


「ハ、ハル様、それでリョー様は」


「ええ、ユニコーンの薬で稼いだみたいですわね、これは帰ってきたときが楽しみですわ」


「ハ、ハル様、顔が怖いです、それにお金はリョー様の……」


 気にするのはそこですの、そもそもわたくしの顔のどこが怖いというのかしら、まあいいですわ先を読みすすめませんと。


「なんですのまた別な『迷宮』に入るみたいですわね、これが遅れる理由みたいですけれど」


 それにしても、所々で出てくるミムズですとかプテックというのは何者ですの、名前からして女性のようですけれどヤッカの前例が有りますし、また面倒事に巻き込まれていなければいいのですけれど。


 一国の王族がユニコーンの角を求めて、無数の冒険者が動いているのをどうにかしようだなんて、一冒険者の手に余る事だというのに。


 まあいいですわ、ここでどうこう言ってもどうにかなるものでもありませんし今はそれより。


「サミューいつまで呆けていますの、その厄介な癖はリョーだけにしてほしい物ですわ」


「え、あ、ハルさん」


 全くどれだけ過保護ですの、大したことは無いと書いてあるじゃありませんの。


「アラの事が心配なのは解りますけれど、子供というのは熱を起こしやすく冷めるのも早い物なのでしょう。この手紙が届くまでの日数を考えれば、もうとっくに元気になっている事でしょうし、今更心配してもしようが有りませんわ」


「え、ええそうですね、今わたしがどんなに思ってもどうこうなる事では」


 やっと気がつきましたわね、さてと取りあえずは交渉かしら、リョーはいないのですし、サミューやミーシアはこう言った事は苦手でしょうから。


 落ち着いて思い出すんですわ、リョーが商人を相手にしている時にどうやっていたのか。


「サミュー、貴方は倒した魔物の処理をして頂戴、ミーシア悪いけれど馬車を取って来て下さらないかしら、この中ではあなたの脚が一番速いのですし」


「は、はい行ってきます」


 さてと、馬車の御者と商人たちに向き直りますけれど、ここはあえて腕を組んだりした方が良いのかしら。


「それで貴方達は、これからどうなさるおつもりですの、そちらの馬は傷ついて車を引けそうには見えませんけれど」


 足の傷は浅そうですけれど、四頭とも胴に深手を負っていますから街までもたせるのも難しそうですわね。


「わたくし達には『治療士』がいますわ、完治させるのは難しいですけれど、多少の荷物を積んで街まで行くくらいならできるでしょうね」


 馬は高級品ですもの、ここで捨てるよりは多少金を払ってでも街へ連れて行っていく選択をするはずですわ。


「解った、銀貨四十枚でどうだ」


 まあ、街中で応急的な治療の相場でしたら悪くありませんわね、ですけれど。


「野営に備えて馬を肉にする事をお勧めいたしますわ」


 このまま徒歩では街につくのは深夜でしょうから食料の確保が必要でしょうし。


「なんだと、それなら倍の八十でどうだ」


「金貨二枚ですわ」


「おいおい、金貨一枚あれば一頭を完治させられる、ただの応急手当でそんな値段は」


 まあわたくしも言われる側でしたら怒りますわね。


「街で他に競合相手がいるのでしたらそうでしょうけれど、ここにはわたくし達しかいませんわ。時価というものは御存知でしょう」


「ぐ、言ってくれる、だがその額は」


 暴利だというのは解ってますわ、ですけれど。


「このまま馬が死んでしまって、新しく買いなおすとすれば御幾らかしら、安くても一頭で金貨十枚くらいはするのでしょう。ここで二枚、街で更に四枚使ったとしてもお安いと思いますけれど」


 さあ、どうなさいます。


「ぐ、解った金貨二枚だ、だが街につく前に馬が死んだり、街の『治療士』に持って行っても手遅れだった時は金を返してもらうぞ」


「当然ですわね、そんなあこぎな真似は致しませんわ。ところでもう一度聞きますけれど貴方達はどうなさるのかしら、いくら治療したといっても、馬は車を引けませんわよ」


 駅馬車に乗っていた客を見回しますけれど、どれも行商人のようですわね。


「な、街まで護衛してくれるんじゃないのか」


「先ほどのお金は救援の礼なのでしょう、その先の事は何も聞いてませんわね」


 ええ、礼金としての相場でしたし、あの額で護衛まで引き受けてしまいましたら儲けになりませんわ。


「たとえ護衛についたと致しましても、馬車がない以上荷物は置いて行くことになりますわね。とは言え、こんな所に置いておけば、取りに来たころには盗賊に荒らされているかもしれませんわね」


 ここは不安を煽っておきましょうか。運が良ければ別な馬車や冒険者が通りがかるかもしれませんが、先ほど『火炎弾』を上げてから大分経ちますけれど応援がない以上、近くには誰もいないと考えるべきでしょうね。


「そ、そちらの馬車に乗せてもらう事は出来ないのか」


 ちょうどミーシアがわたくし達の馬車を持って参りますけれど、あれでは全員の荷物は乗せられませんわよ、誰かを置いて行くつもりかしら。


「残念ですけれどあれにはわたくし達の荷物が乗っていますし、それに魔物の死骸も積まねばなりませんので」


「か、金なら出そう、わたしだけでも乗せてくれないか」


「あの魔物の死骸をこの場で買い取ろう、それで死骸は諦めて代りに儂と荷物を」


 人間、危機に陥ると性根が出るものですわね、このまま値を吊り上げるのも良いですけれど、誰かを残して置くのは心苦しく思えますわね。


「あ、あのハル様、わたしが馬車を引けば解決するのでは」


 ああ、ミーシアが言ってしまいましたわ、向こうから提案させて頼ませる形を取った方が値段を吊り上げられそうでしたのに。


「おお、それは良い、そうして貰えないか」


 仕方ありませんわね。


「構いませんけれど、お金は頂きますわよ」





 あれから数日、わたくし達は街で噂になっていましたわ、『暴れ大熊』二頭と『ホワイトウルフ』二十頭を短時間で撃破するなど、下級冒険者の多いこの街では珍しいのでしょうし、荷物と乗客を満載した四頭立ての馬車を一人引いてきたミーシアが目立ったという事も有るのでしょうけれど。


 普通に考えるとあり得ませんけれど、いくら白熊族と言っても馬車馬四頭分の力が有ると言うのは非常識ですもの。


 しかもそのおかげで。


「おう姉ちゃんたち考えてくれたかい、うちのパーティーに入るのをよ」

「何を言っているんだ、彼女たちは私のパーティーに組んだから」

「おいおい、俺を忘れるなよ」


 まったく、主であるリョーがいませんのに、奴隷を勧誘して上手く行くと思っているのでしょうか。


「あ、あのわたしたちは……」


「申し訳ありません御主人様がいますから」


 二人も真面目に相手をするだけ無駄でしょうに、まったくこれでは小遣い稼ぎが出来ないではありませんの。


 四六時中まとわり付かれているなかで『溶岩密封』なんて使おうものなら、争奪戦がさらに加速してしまいそうですし。


 全くこんな事になるなんて、この街の冒険者たちは非常識ですわ。


「ハル、ほんとうにハルなのか」


 あらこの声は。


「エ、エル様ですか」


「おおミーシアも久しいな、この街に寄った際に噂を聞いたのだがまさか本当に会えるとは」


 なぜこの街にエルお兄様がいらっしゃるのですか。


次の投稿は年明け以降になると思います。


H27年6月20日 誤字、句読点、改行を修正しました。

H27年6月28日 誤字修正しました。

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