693 重装甲弓
重装甲長弓使いって、いまいちピンとこないな。
『この世界の常識というか普通に考えれば、重装備の職は最前線に立って敵と真正面からぶつかる壁の役割でな、なもんでデカい盾と近接攻撃に強い装備、要は片手剣や短槍、槌や斧なんかのスキルを育てるもんなんだが、俺が最初に出した武具の『剣士の重圧剣』が両手持ちの大剣だったから、俺自身『守護騎士』を取った後も盾を使わずに、両手持ちの大型武器を振り回す戦い方で、防御に関しては特注の全身鎧とステータス頼りで、敵の攻撃を正面から体で受け止めてたんだが、ヨーチの奴もそれを真似してなのか盾を使わないで、鎧で防ぐようになっている』
そういえば、前にカミヤさんとスパーリングした時には、ゴツイ鎧とでっかい剣を使ってたけど確かに盾は持ってなかったよな。あんな重そうな装備でも軽々と動き回って攻撃してきて、俺は避けるだけで精いっぱいだったけど。
あれ、そういえばあの時は片手で剣を振ってたような、もしかしてアレでも手加減されてたのか。
『後衛の弓職に関しての考えかただと、弓職に重装備は不要、それどころか機動力が重要だから軽装こそが正解というのが、この辺りでの一般見解でな。どうも、軍や騎士団で働くなら、弓の役割は戦闘開始前には集団の前に出て、距離を詰めてくる敵集団に牽制の遠距離攻撃を行って陣形を乱し、距離を詰められて近接戦になる前に後退して前衛盾役と入れ替わって味方の後方に付く、あるいは左右に展開して前衛部隊の前面を開けて両翼に付くなどして、前衛同士がぶつかるときに支援射撃を継続する。あるいは遊撃隊として敵の歩兵集団の側面なんかに反撃できない遠距離から一撃離脱を繰り返すなどになる。でなきゃ最初から柵や堀なんかで守られた陣地の中からひたすら遠距離攻撃を続けるかだな。どの使い方にしろ敵の近接戦力と接敵しない前提で行動し、そうならないために軽装で機動力を維持して、いざとなれば後退できるってのが求められるし、敵と直接斬りあわないなら重装備は不要というか、できるだけ軽くしてより早く動けと求められる』
ああ、昔読んだ戦記小説でもそんな感じだったような気がするな。でも機動力がって話だけど、前に『鬼軍荘園』の鎮圧戦で会ったドワーフの弓隊はどう考えても足が、いやあれも頑丈な城壁の中から集団で撃つか、機動力のある馬車を利用するかするんだったっけ。
『冒険者にしても似たようなものだ、軍隊と違い補給能力のほとんどない冒険者パーティーの場合だと『アイテムボックス』以外でも持ち歩く矢の数を増やすのに、護身武器は小さな軽いものにして、防具も最低限にしてる事が多い。弓役は魔法職と同じように前衛や中衛に守られ後衛として戦うが、少人数で戦う冒険者の場合は、守りを抜けてくることもあるから、その場合は乱戦での回避が求められ、安全で狙撃しやすい木の上などの高所に上る事も多く、より動きやすい格好が好まれる』
そういえば『四弦万矢』も結構軽装だったよな、近接武器は短めの剣一本だけだったし。
『そうでないなら、お前さんとこのアラみたいに近距離でも戦える能力が求められるがヨーチは、これまで弓だけしかやってこなかった、それも近距離戦闘では取り回す際に邪魔になり小回りの利かない長弓を好み、つい先日やっとナギナタに興味を持つまでは、近接武器を一切使おうとしなかったからな』
ああ、そういえばサバゲーやってた先輩が言ってたな、近距離とかだと遠距離に比べて相手の横移動に合わせて狙うと銃を大きく動かすから重い銃は使いにくいし、室内とか障害物が多いと大きな銃は引っかかって邪魔になるから、サブマシンガンとかPDW、拳銃の方が良いとかって、正直何を言ってるか分かんなかったんだけどさ。
まあ、要は遠距離専門の武器で、昔の戦略SRPGに出てくる弓役みたいに隣接されたら反撃できないから、近接職が接近してきたら逃げなきゃならないのに、重装ユニット並みの移動速度しかないと。
だから周りからは、職業選択を間違えた地雷扱いされてるって事か。
「読んだんでしょ、どうせアンタも何か文句があるんだろうけど、これはパパの命令なんだから、パパの御用冒険者らしくありがたくアタシの案内役になりなさい」
手紙を読み終えて、手元から視線をずらしたら、いつの間にか兜を外していたヨーチが俺の方を睨むように見上げてくるが、黒髪ツインテールか、いやまあ人種的に考えれば四分の三は日本人のクウォーターなんだから、黒髪の日本人ぽい顔になっててもおかしくはないか。
ハルみたいな漆黒ではないけど、青みが掛かった濃紺の髪と瞳を見てると〇学生と話してるみたいに感じちゃうけど、着てるのは大人だって動けなくなりそうな全身鎧なんだよな。
「ヨーチ様、リョーは、いえサカキ卿は、伯爵家で囲い込んでいる冒険者じゃなく、ライフェル神殿とも懇意にしている名の知られた冒険者で、伯爵閣下からもくれぐれも失礼のないようにと言われていますから」
「え、そ、そうなの、だからって、平民なのは変わらないでしょ、ならこれでいいのよ」
うーん、ヤッカは俺が『勇者』だって知ってるはずだけど、この物言いって事はヨーチには伝わってないのかな。
まあいい、カミヤさんからの頼み事だからヨーチを一時的にパーティーに入れるのは決定事項として、問題は……
「ヨーチさん、幾つか聞きたいことがあるんだけどいいかい」
一応は取引先のお嬢さんなんだから、口調は気を付けた方が良いのかな。
「ふん、粗野な冒険者にまっとうな礼儀作法なんて期待していないから、アタシへの敬意を忘れないのなら、言葉を崩しても良いわよ。それで、アタシに何が聞きたいの」
それならお言葉に甘えて……
「ああ、まずは重装甲だって事だが、それは敵に接近されても十分に身が守れる。ある程度の時間は自分一人で持たせれると考えても大丈夫か、できるならどの程度できるか知りたいが」
「大丈夫よアタシはパパの『守護騎士』の職をついこの間とったんだから、それまでに『重騎士』とかを鍛えるのにパパ達と『獣頭草原』に入ったりしたけど、ワークロコの群れに囲まれて手足に噛みつかれても、そのまま振り解いて殴って追い払ってたし、戦車を曳いたティーガーの突撃も弾き返したんだから。ここに来る前だって、パパから貰ったばっかりのナギナタで蟻狼の群れを20匹くらい切り倒してるのよ」
ワークロコって、結構ゴツイ人型ワニの魔物だったよな、魔法で殲滅したから苦戦はしなかったけど、ステータスはそこそこ高かったな。あれに嚙まれても大丈夫で、鱗で覆われた巨体を殴って後退させるくらいにダメージは与えられると。
ティーガーの突進スキルも結構強力だったはずだけど、戦車を曳いてたって事なら総重量は相当な物になるはずだけど、その衝撃に耐えられるなら、そこそこの大型魔獣にも対応できるんじゃないか。
蟻狼っていうのはどのくらいの強さか知らないけど、それでも群れた魔物を撃破出来てるってのは結構な戦力じゃないか。
「それなら、孤立して魔物に襲われても、誰かが支援に行くまで持つな。仲間を庇うようなスキルはあるのか」
「当然よ、アタシの職を何だと思ってるの、パパの手に入れた『守護騎士』よ、挑発系だって庇護系だって当然持ってるわよ」
「悪くないな、弓系スキルはどんな感じなんだ、この手紙だと高威力・長射程に力を入れていると書いてあるが、連射や乱射、範囲攻撃のようなスキルはどうだ」
「その位できるわよ、アタシの弓には『射撃複製』の効果があるから一射撃てばその周りにいくつか追加の矢が飛んでいくんだから。それに、おばあ様は二つの弓職を極められて、弓系のスキルなら有名な物は全部持ってたんだから、持ってなかったのは『四弦万矢』師匠の技みたいな、一つの家系や流派だけで秘匿してきたようなスキルだけなんだから。うちのナース家はそのスゴイおばあ様が直接登録された『職業石』があるんだから。なのにお兄ちゃん達もお姉ちゃん達も、おじいちゃんの家から伝わってる職ばっかり取って、なんなのよ家の恥っておばあ様のことを話すのもダメって、なのにヨーチには早い、子供には聞かせられないって、なんなのよ」
後半はよく聞き取れないけど、まあ俺が思い浮かべるような弓の攻撃手段はだいたい持ってるのかな。
となると、近接戦に持ち込まれても相手の攻撃に耐えられる硬さと最低限の反撃能力があって、遠くから向かってくる敵に遠距離攻撃を浴びせて撃破して、接近してきたら制圧射撃で薙ぎ払う。
「これは、固定砲台というよりもトーチカか、威力がどのくらいか試してみないと分からないが、もしかしたら使い方次第で、色々と……」
「固定砲台、トーチカ、何を言ってるのアンタ、アタシの方を見ながら訳の分からないこと言わないでよ、なんなのよそれ、分かる言葉で話しなさいよ」
「ああ、すまない、固定砲台というのは、そうだな、一度設置すると重くて動かすことのできない大型投石器みたいなものだ。身動きが取れないし、敵に取り付かれると簡単に破壊されるから、安全な後方に設置するし、護衛戦力を配置したりするらしい」
まあ、戦略ゲームやSFアニメの設定だけどさ。
「それで、遠距離攻撃役の中でも体力のない連中、例えば魔法一辺倒の連中なんかを、動けなくて脆い遠距離戦力って事でそう呼ぶことがあるんだ」
うちだとハルがそれにあたりそうだけど、最近は結構動き回れるようになってきてるから、移動砲台に近い感じになってるよな。
「アンタはアタシがそうだって言いたいの」
「いや、十分に硬いし、接近させない火力もあるから、トーチカのほうが近いと思い直したんだ。これは頑丈な石壁でガチガチに固めて、矢狭間からの遠距離攻撃の連射で敵を近づかせない、防衛線の要になるような建物だ」
まあ実際は砲弾にも耐えれるようにコンクリートで固めて、機関銃や小型の大砲で向かってくる敵を撃ちまくるんだよな。
「防衛線の要、アタシが……」
「接近戦に耐えられるくらいに十分硬くて、向かってくる敵を撃ち払えるなら、前衛に置いたままで敵と接触するギリギリまで牽制射撃ができるだろうし、反撃手段が拳だけでも、ミーシアと二人で壁役が出来るなら前衛にかかる負担を分散できるし、二正面になっても対応しやすくなる」
「「え」」
「後衛で支援射撃に徹するにしても、魔法職のハルと一緒にやってもらってもいいかもしれないな。何かの事故で後衛に敵が押し掛けたとしても、誰かが戻るまでハルを守って持たせられるなら、混戦になりそうな時や後方から奇襲されそうな時でも、後衛が襲われないように、サミューやトーウを中衛に残す必要がなくなるから、前衛を厚くできる」
「ふ、ふーん、アンタも案外見る目があるじゃないの」
ん、待てよ、確かにヨーチの見た目はアレだけど、考えてみればこの世界なら……
「そうだ、もう一つ確認したいんだが、その装備でどの程度動けるんだ。今言った通りそこまで素早く動けなくても問題はないが、以前カミヤさんと模擬戦をした時は今のヨーチと似たような装備でかなり素早く動き回っていたんだが、もしかしてヨーチもかなり動き回れたりするのか」
「当然よ、そりゃママやお兄ちゃん達みたいな軽装剣士の動きはできないけど、逃げてくゴブリンやコボルトに追いついて殴り殺すくらいはできるわ。この間なんてパパから借りた大型軍馬に乗って馬上からナギナタで逃げるのを追い越しざまに切り殺したりもしたんだから」
ゴブリンやコボルトって、アレって強くはないけど結構すばしっこいよな。少なくとも平服の成人と追いかけっこできるくらいには。
硬くて、遠距離攻撃が強くて、そこそこの速度で走れて、体当たりもできるって。
それってほぼほぼ戦車じゃないか、チャリオットじゃなくてタンクの方の……




