70 夜目
どうなってるんだろこれ、見渡す限り文字だらけなんですけど。
というか『鑑定』をカットしてもそこらじゅうで光ってる目がまるで夜景みたいなんだけど。
うーん、百万ドルの夜景とか言うけどこれはどの位だろう、ゴブリンの爪が一本銅貨5枚で一匹当たり50枚、十匹で銀貨5枚か、600匹くらい居そうだから全部で銀貨300枚で金貨3枚分、日本円で三十万円、ドルだと百円だとして三千ドルの夜景かありがたみないなー
(お主今何を考えておるのじゃ)
(いやちょっとした計算をな)
(当然それはこの状況を改善するために必要な物なのじゃろうな)
ごめんなさい、ただの現実逃避です。だってあんなにいるんだよ。
俺だって3、40匹くらいならさ一人で何とでもできる自信はあるけどさ、これは数が多すぎでしょ、まあハルやミーシア達がいるフルメンバーの時だったら何とかなりそうな気がするけど。
たとえば俺とミーシアが突っ込んでゴブリン達をかき回してる間に、アラとハルの魔法で削るとかすればさ。
でもな、アラ一人だと全滅させる前に『魔力枯渇』を起こしそうなんだよね、まあこっちには他にも二人いるけどさ。
振り返ると、ミムズとプテックがしっかり武装してるね。
プテックは、以前と同じ大きめの片手斧を二つ腰に吊ってるけど、それ以外にも金属鎧の所々に小型の投げ斧が十数本、それだけでも十分凶悪なんだけどさ、更に手には彼女の顔の倍くらいはありそうなでかい斧を軽々と持ってるし、いや確かに小柄な女の子キャラとどでかい斧の対比ってよくあるけどさ、実際のところこれってどうなの。
重砕の大斧 LV18
付加効果 重量任意倍化 重量威力化
何だよこの脳筋な効果は、要は好きな倍率で重さを増やせて重くなればなるほど強力ってか、なんかミーシアに持たせてみたい気もするけどさ女の子としてこれはどうなんだろう。そりゃバトルアックスとかなら重い方が強力なんだろうけどさ、あの体格で振り回せるのかな。
「ん、戦闘準備できた」
俺の視線に気づいたのか軽々と素振りするけど、どう考えても片手で振れるような武器じゃないよね、おかしいからそれ。
ミムズの方もさ、白銀色のいかにも女騎士と言った感じの全身鎧に腰に長剣と短剣をしてるけどメインは槍か。
出血の魔石槍 LV21
付加効果 回復阻害 魔法発動速度向上
決闘の長剣 LV16
付加効果 直撃スキル威力上昇
槍はアラの『出血の細剣』と同じか、でも魔法の補助が有るのはうらやましいな、剣の方はいかにも騎士って感じだけど俺には関係ないなスキルなんて無いしさ。
とりあえずは戦力確認か。
「ためしに聞くが遠隔攻撃や範囲攻撃のスキルはあるか、敵に近付かないで殲滅できそうなのは」
何か有ってくれよ、それならまだ何とかなりそうな気がするんだけど。まあ高レベルの騎士ならなんか有るはずだよね。僧兵のマッチョさん達も持ってたんだし、アラですら持ってるんだからさ『横斬波』とか『飛斬』とかさ一つくらいあるよね、あるよね。
「残念だが現状で有効そうなスキルは無いな、プテックは投擲系と近接範囲系が有るが投斧は十数本しかあらぬし、近接範囲は最長でも斧の長さの三倍程度の範囲内でまで近付かねばならぬ。自分のスキルは近接系と突進系ばかりで『槍投擲』くらいしかない、魔法も使えるが単体攻撃魔法が殆どで複数攻撃魔法は威力が高いぶん範囲はあまり」
つまりこの二人は、ボスみたいな少数の強敵を倒すのに特化してて、大量の雑魚相手に無双するのは苦手ということだね。
それじゃどうするかな、接近戦になる前にアラの魔法とスキルをメインにして、ミムズの魔法とプテックの投擲も追加して、とりあえず削っておくか。
でもな、多分削れても百くらいが良いとこだろうし、それでも一人当たり百体以上か、きついな、『軽速』と『切り裂き』が使えれば俺でも百匹くらいは何とかなりそうだけどさ、誰かを守ったり支援しながらだと厳しいよね。
アラはあんまりスタミナがないから下手すると削ってる間に『疲労困憊』とか起こしかねないし、ミムズとプテックの実力が分からないから百匹以上を任せてもいいのか不安だし、どうしようこれ。
どうにかして思いっきりゴブリンの数を減らしたり、過半数の戦力をダウンさせるような方法がないかな。
ゴブリンの群れに視線を向けると大量の光がゆっくり近づいてきてるけど、くそったれピカピカ光りやがって、どうせあれだろ暗くてもよく見えますとかそんな感じなんだろ、こっちは『鑑定』のおかげでなんとなく位置が分かるだけだってのにさ。
これじゃあまるで暗視ゴーグルの特殊部隊に囲まれてるようなもんじゃねえかよ。
ゴブリンの癖に、普通なら何の苦労もなく全滅させられるような雑魚モンスターだろお前らは。
そもそもなんで俺はこんなにゴブリンと縁が有るんだろう、初めてこっちに来た時だって散々ゴブリンの相手してさ、もうオスメスも解るし、この暗い中でも大体の身長や体型のイメージが付くし、なんとなく表情で感情まで解るようになっちゃったよもう、ゴブリンマイスターとか名乗れるよ俺はたぶん。
あれ、なんだろう、なんか気になる事が有ったような気がするな、今まで俺は何について考えてた、えっと。
そっか、うん一か八かだけど試してみるか、アラのあれと出来るならもう少し確率を上げたいな。
「ミムズ、俺がこれからいう魔法の中で使えるものが有ったら教えてくれ」
頭の中に詰まっている魔法の情報を整理しながら口に出していくとミムズが使えるのが有った、よしやるしかないか。
「グギャ、ギャガガ」
物陰に隠れている俺の視線の先をゴブリンが通り過ぎていく、頼むからこっちに気付くなよ、こんなとこで囲まれちゃ嫌だからな。
「ギャギャ、ギャガ」
「ギャアアア」
先頭の方のゴブリンが何かを叫ぶと同時に、ほとんどのゴブリンが姿勢を低くするけど、後方の一匹の胸にアラの『氷矢』が当たる。
野営場所を確認しても俺の視力じゃ何も見えない、まあ焚き火は消したから当たり前か、月も出てないしね。こんな状態で氷の魔法を避けるのは難しいだろうな、火の魔法なんかと違って光を出さないから、よっぽど目を凝らして耳を澄ましてないとね。
集団から外れている一匹を見つけた俺は『軽速』で足音を消して背後に近寄る。これだけ離れてるんだから、特徴的な動きさえしなきゃ視力のよさそうなプテックに見られても、『軽速』の事はばれないだろうし。
背後から一気に抑え込んで『切り裂きの短剣』で声を出される前に喉を掻っ切る、うーんゲームとかの特殊部隊みたいだなー。
わざと音をさせながら死体を倒し、素早くその場を離れると音に気付いたゴブリンが死体を見つけて少し騒ぎになる。
自称ゴブリンマイスターの俺に言わせるとゴブリンは馬鹿だけど無能では無い。
よく猿とかを3歳児並みの知能とか言うけど、それより知能はましな気がする。武器をきちんと使えたり防具を着たりしてるんだから、たぶん間違いないと思う。
それに奴らは問題解決能力も学習能力もあるから、氷魔法で数を削ってたら攻撃に気付けるように先頭の連中が目と耳を凝らして後ろに警告するようになったし、集団からはぐれた個体を俺が倒してたら、密集しだして周りを警戒しだすし。
まあ、無能じゃないけど馬鹿だからこうして予想通り動いてくれるんだけどね。罠の存在やこっちの思惑なんかを疑うほどには賢くないからさ。
さてと、仕掛けは上々、後はタイミングか近すぎず遠すぎずの距離を考えないとな。
「リャーお帰り」
「ただ今アラ、ミムズ、魔力は残ってるか」
アラの頭を撫でながら確認すると、ミムズは強く頷く。
「ああ、言われた魔法を使う分は残ってる」
「アラも大丈夫だよ」
元気にアラも返答してくれてるな、無理してる様子もないし疲れてもいなさそうだね。
「だがリョー殿、本当にこんな手で上手く行くのだろうか」
「他に手は無いんだ、やるしかないだろう。それとも他に考えが有るのか」
「いや無いが」
まあ、ここで思いつくようなら最初から俺らを雇ってないよね。
「なら俺を信じろ、必ず成功する」
自信ないけどこういう時は虚勢でもハッタリをかまさないと、周りが不安になるだろうからなー
「手筈は解ってるな、必殺の一撃よりも手数を重視しろ」
俺の言葉にミムズ達が頷くのを待ってから、アラの頭を抱きしめる、ほんとは返り血が付いちゃってアラが汚れるからやりたくなかったけど、アラの魔法を俺がコントロールするならしっかり触ってないとダメだから。
「リャー、でもいいの」
「ああ、制御は俺がするから、アラは『魔力回路』の全部を変換に使ってくれ」
心配そうに見上げてくるアラに、ミムズ達に聞こえないくらいの声で答える。まあ大丈夫だと思うけどね、プテックはうつ伏せになってるし、ミムズも同じ姿勢で魔法を使えるように手だけを伸ばしてる状態だから。
「でもアラの魔力じゃ、全部倒せないよ」
「気にするな、アラは俺を信じてるだろ」
実際に倒すのが目的じゃないもんね。
「うん信じてる」
よしよしサイコーの笑顔だ。
視線を見たくない方へ向けると、かなり近くまで来た大量の光点が。うんいい感じの距離だね、無茶苦茶威圧感があって怖いけどさ、失敗したら一気に迫られるよねこの距離だと。
密集度合いは理想通りだし、それじゃあ始めるか。上手く行きますように、上手く行きますように、上手く行きますように。
「はじめろ、ほぼ同時に発動するのを忘れるな」
「うん、黒雲よ集まれその内に秘めし力を……」
「もちろんわかっている、消飛べ我敵よ、弾け飛べ我が障害よ……」
二人の返答と呪文を聞きながら、魔力制御の準備をするけど、しっかりと調節しないとな、ゴブリンの身長を考えると大体このくらいか、万が一の事を考えるともう少し、でもやり過ぎると効果がな。
まあ、もともと上手く行くかどうかわからない作戦なんだから、ちょっと大雑把ぎみくらいのほうが緊張しなくていいのかもね。いや無理だわ、まじで無理だって、こんな命がかかった状況で緊張せずにとかできないから。
よし落ち着け、落ち着けよ俺、作戦を整理しよう作戦の狙いはあれだし、その後の対応はこれだし、そのためにはしっかり狙って。
「できた、行くよリャー」
「こちらもだ、発動させるぞ」
えっもう、もうなのまだ心の準備が出来てないのに、待ってもうちょっと待ってくれ。いや無理だよねそんなのは、もうやるしかないか。
ええい、男は度胸だ。
「よしいけアラ」
「うん、『雷陣』」
アラの言葉と同時に降ってきた無数の雷撃を完全に支配下に置いてコントロールする。
ゴブリンの集団の頭上数十センチの所で一本一本を無数に分散させて地面と水平に広げる、もしも上から見れたらゴブリンの集団を隠すように光の膜で蓋がされたように見えるんだろうな。
「だが実際に食らった方は」
闇に慣れた目と凝らしていた耳にあの光と音を間近で食らったんじゃな。
アクションの映画やアニメなんかでよくあるよね、暗視ゴーグルの敵にフラッシュかまして失明とかさ。雷鳴は確か空中を電気が抜けた時に空気が膨張して発生する、殆ど衝撃波みたいなもんだってネットで見た事が有るからこんな近けりゃ鼓膜破れたかもね。
魔法で作った広域用スタングレネードってとこかな。いきなりの閃光と轟音で視力と聴力を奪われたうえに。
『豪爆裂』
ミムズの魔法で後押しすればね。この魔法の効果範囲は狭いけど威力だけは抜群だからさ、大量の爆風に降り注ぐ土砂。これだけ後押しすれば。
「グギャア」
「ギャアア」
「グルッルアア」
パニック起こすよね、武器を取り落としてうずくまったり、バラバラに逃げまわったりするならまだいい方だけど。放り投げちゃったり振り回しちゃったりしたら、下手に密集してるから。
あーあー同士討ちしちゃって。
「行くぞ」
「もちろんだ、プテック続け」
「はい、姉さま」
「リャー、アラも」
この機会を逃がす訳ないよね。
「さっきも言ったが、致命傷を与える必要はない、止めなんてのは後で幾らでもさせる、奴らが回復する前に一体でも多く戦力を奪え」
前にゴブリンの群れを相手にしてた時や『寒暑の岩山』で学んだことだけど、無理に仕留めようとか、致命傷を与えようとすると手間取って時間がかかったりするからその隙を突かれそうになるんだよね。
ただ倒すだけなら多少深手を負わせば十分だ、足を一本潰せば機動力は格段に落ちるから後回しにしても逃げられないし、距離を取れば攻撃もされにくい。片腕を潰せば大剣や槍なんかの両手武器は使えない、指が二、三本ダメになっただけで片手剣なんて振れなくなる。腹を抉ればすぐに死ななくても痛みで身動きなんて取りにくくなる。
そうなればそいつは戦力じゃなくなるし仕留めるのは後回しに出来る。
さて、これからはこっちのターンだ。
H27年6月20日 誤字、句読点、一部モノローグ修正しました。




