7 一人の戦い
バトル中です、ゴブリンなんかでどんだけ引っ張るんだろ。
「ふう」
(一息つけたかの)
「まあな」
ゴブリン達をまいて簡単な食事を済ませ、やっと落ち着くことができた。すでにあたりは完全な夜になっている。
(それでどうするつもりかの)
「逃げる方向が失敗だったな」
必死だったとはいえ、来た道を戻って神殿とは反対方向に来ちゃったもんな。
(神殿に向かうには、村の近くを通らぬわけにはいかぬのう)
ですよねー
「引き返して、別なルートで行けるか」
(出来ぬ事はないが、六日は余計にかかり野宿も必要じゃな)
そうなると食料も金も足りなくなるよね。神殿まで行けりゃ今月の給金がもらえるんだけど。
「他の誰かが来るのを待って、そいつが襲われてる間に抜けることはできるか」
(勇者の言葉とは思えぬ内容じゃが、可能性はあるじゃろうな。確か前の村にいた行商一家が、こちらに向かうと言っておったのではなかったかのう)
「ああ、あの一家か」
昨日泊まった大部屋で隣にいた家族を思い浮かべる。確かにもう一日商売してから神殿のほうに向かうと言っていたか、となるとあの村に着くのは明日の夕方。
(本気でやるつもりではあるまいの)
小太りで人のよさそうな中年商人、優しげな田舎の美人といったふうなおかみさん、元気で人懐っこい三人の姉妹、あの家族がゴブリンに殺されると考えると確かにちょっと、だけど。
「残りの食料で神殿までたどり着く方法が他にあるか」
残り二、三日分の食料が切れれば、後は飢えたまま旅をするしかないんだよなあ。
(お主が、あのゴブリンを撃破すればいい話じゃろう)
無理、無理、無理、無理、ムリですって。
(あれを放置すれば、犠牲は増える一方じゃぞ)
そ、それはそうだけどさ。
「勝てると思うのか、あれに」
(わからぬ、じゃがそれをどうにかするのが勇者じゃろう)
ちょちょ、むちゃくちゃ言わないでくれよ。
(あの異常な速度は脅威じゃが、それ以外のステータスは大したことはない、レベルが高いとはいえ所詮はゴブリンじゃぞ)
「その相手に手も足も出なかったんだろうが」
(お主がやらねば、無辜の民が死ぬぞ、あの一家を始めとしてな)
く、あ、あー、もう、仕方ない。
バ、バレてないよな。
(そうビクつくでない、ゴブリンとて生き物、常に起きておるわけではない、奴らは見張りを立てたりはせん。すべて寝入っておるじゃろう)
「夜行性じゃないのか」
(そういう群れもあるが、村に魔物が巣くう場合、獲物となる旅人が訪れる昼間に活動する場合が多いのじゃ。もっと近づけばともかく、この距離ならば目は覚まさんじゃろ)
その言葉信じるぞ、ほんとたのむよ。
村はずれの家に近づき、納屋の戸をゆっくりと開ける。
「暗いな」
(暗くとも、お主の視界に入っておれば鑑定はできる。ここに有ればすぐに見つかるじゃろ)
それならいいけど、あった。
目的の物を掴むと一気に駆け出し村から離れる。これで何とかなってくれればいいけど。
翌朝、朝食を取り終えた俺は村の入り口に立っていた。
(休んでおらぬが大丈夫かの)
「ああ、言われた通り『闘気術』で誤魔化してる」
普通なら疲れと眠気でフラフラだろうな、結局一睡もしてないし。
「おらーきたぞー」
入り口で叫ぶとほぼ同時に村の中が騒がしくなり、所々からゴブリンが姿を現す。
奴は、まだいないか。向かってくるゴブリンの攻撃をかわしながら、一体ずつ確実に倒していく。
(来たようじゃぞ)
視界を向けると、居たよLV18、さて逃げるか。
(昨日の戦闘を見るに奴の素早さは持続しないようじゃ)
知るか、捕まったらアウトなんだから、急いで逃げるしかないだろ。
ゴブリン達に背を向けて逃げながら背後を確認すると、おーおー、追いかけてくる追いかけてくる。
奴も、先頭にいるがたいして早くない、ラクナの言ったように一時的な加速みたいだな。
よしよし、そのままついて来いよ~
確かのこのあたりだったよな、あった目印。
こんな事するのは高校以来だけど、たぶんいける……といいな~
(ええい、己に自信を持たぬか、このたわけが)
一気に加速して、目印の手前で踏み切り、走り幅跳びの要領で一気に飛ぶ。
よし、予定の距離が飛べたな、ってわ、着地の際にバランスを崩し、その場にこける。
あぶねー後ろに倒れないでよかった、さて。
背後で盛大な物音と水音が響いたのでふり返ると、思わず口元に笑いが。
上手くいったなー、落とし穴、こんな古典的な手が通じるか微妙だったけど、やっぱ所詮はゴブリンか。
「暴れても無駄だ、たっぷり水を張ってるからな、床を蹴って飛び上がるのはむりだろ」
深さは十分だ、何せ、昨夜盗み出したスコップで俺が掘ったんだから、一晩でこれだけできる『闘気術』って便利だよな。
「さてと、この状態で水の中に雷撃魔法を落としたらどうなるのかな」
落とし穴の向こう側には、遅れてきたゴブリンがかなりいるがそれは後回しだ、問題は穴の底にいるLV18だけだし。
「お前さえ倒せば、これで、なっ」
穴底にいたはずの、ゴブリンが一気に近づいてくる。
そんな小さなでっぱりに指かけて飛び上がるとか、どこの世界の超人だよお前さんは。
壁蹴って三角飛びとかありえないだろ、まずいこの状態で下から切り上げられたら避けられない。
覚悟した斬撃はなく、目の前を縦に通り過ぎた奴は、そのまま俺の頭上を飛び越える。だがそれよりも。
これが速さの理由か。
軽速の足環 LV5
付加効果 重量大幅軽減 運動能力外部補助
「なんだよあの反則な効果は」
(装備を含む全重量を軽減させる効果と、体の表面を魔力の膜で覆い、無理やりに体を動かす効果だのう。同時にしか発動させられぬようだが)
「あの剣と言い、足環と言い、なんでそんな装備がごろごろあるんだよ」
(おそらく冒険者の遺品じゃろ、『魔道具』はそんなに有るものではない、切り裂きと軽速、こういう組み合わせをゴブリンが選べるとは考えにくいしの)
「それで、対策は何かあるか」
(ふむ、考えるがよい、来るぞ)
つ、つかえねえ。もう目の前じゃねえか。
ゆっくり振り下ろされてくる上段からの一撃を受け止めるために銅剣を構える。
剣が止まった、どうなってるんだ。
何か知らないけど、ここで反撃をって、素早く避けやがった、後ろに回る気か、くそ追いつけない。
振り向くと同時に銅剣を振る、この速度の突きなら弾ける……か?
またバックステップか、クソ追撃が追いつかない。
(ふむ、あ奴は剣を合わせることを嫌うようじゃ、大振りはせずに、こまめに守るようにせよ)
そう言う事か、振りかぶられる剣の前に銅剣を向けるだけで、奴は攻撃を中止し素早く距離を取る。
ラクナの言うとおりみたいだ、これなら何とか、って防戦一方じゃじり貧だよ。
「他に何か有効な、アドバイスはないのか」
(と言われてものう)
「気付いたことでも何でもいい」
頼むよーどんなんでもいいから、ヒント頂戴、こうやって攻撃をさばいているだけでもうギリギリなんだからな。
解決の糸口プリーズ。
(なにかか、そういえば、戦っているときは奴の速度が落ちているのう)
ん、そういえば、そうだな、距離を詰めたり回り込んだりするときはとんでもなく速いのに、剣を振るうときは遅い。
考えてみればそうだよな、あの速さで来られたら防ぐ間もなく倒されてるよな、集中してるから遅く見えてるのかなー、なんて思ったけど。
俺にそんな集中力あるわけないですよね。
でもなんでだ、なんでそんな不利なことをするんだ。
こいつに遅くなるメリットはないはずだ、なら早いまま戦うことに何かのデメリットがないとおかしいだろ。
素早く戦えない理由はなんだ、なんなんだ。
たっく、考えながら連続攻撃を全部キャンセルしてるけど、武器も体も軽くできるそっちと違って、こっちは重い銅剣を振ってるんだ、って、ん、ああー
「軽く、そうか、攻撃の反作用に耐えられないのか、中高レベルの力学だ」
スピードの為に軽くし過ぎれば、攻撃時に十分踏ん張れない、相手に当たっても反作用で自分が吹き飛ぶんじゃ意味がないもんな。
「まあ、それがわかっても何の意味も……いや、そこまで軽くなるんなら」
一か八かだ、頼むよ魔法の指輪さん。
仕掛けてきた一撃に合わせるように銅剣を振る、今までと同じように高速でバックステップするゴブリン、よっしゃここだ。
「吹き飛べ」
『風砂の指輪』を発動させて、下から吹き上げる風を発生させる。
「おー飛ぶ飛ぶ、まあ、そんなに軽くなってりゃ当然か」
見上げる俺の遥か頭上には、吹き上げられた奴の姿。
「お前の足環の能力なら、好きな姿勢は取れるだろうが、空中での移動はむりだろ」
なら後は、自由落下するだけだ、よかった、ほんとよかった予想通りに行って。
「これでお前はただの的だ」
『雷炎の指輪』を向けた、俺は狙いを定めた。
次回やっと『禁欲』の内容が出てきます。
H26年4月8日、誤字、語尾、句読点、三点リーダー修正しました。
H26年10月11日、誤字再度修正。




