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68 奴隷娘達の小遣い稼ぎ

「はあどう考えてもこれは使いすぎですよね」


 わたしの目の前には金貨が80枚ほど積んであります。つい先日まで150枚あったんですが、ここ数日の買い物でここまで減ってしまいました。


「サミュー買い物に行きますわよ、この街の今は非常識ですわ。至る所で良品が安く売ってますもの」


「いけません、これ以上は予算が有りませんから」


 こんな短期間で、これ以上の出費をしてしまうと御主人様がどう思われるか不安になってきますから、金遣いが荒いという理由でわたし達を手放されるような方では無いですけど、もしかしてと思ってしまうと。


「そうは言いましても、まだまだ掘り出し物が有りますわよ」


「それでも駄目ですよ、これは御主人様が来られるまでのわたし達の生活費なんですから」


 ここは最年長のわたしがしっかりと予算を管理しないとダメですね。


「それでしたらリョーに手紙で確認を取ってはどうかしら、早馬便でしたら十数日もすれば返事が届くでしょうし」


「ダメです」


 少しキツイ口調になってしまいましたが仕方ないですね。考えたくはないですが、御主人様に万が一の事が有って他の方の手に渡った時に、今の様な待遇を普通だと思っていては彼女の為にもならないですし。


 ダメですね色々な経験をしているせいか悪い方にばかり考えてしまいます。


「仕方ありませんわね、小銭を稼いできますわ」


 稼ぐ、どう言う事でしょうか、確かにここ数日ハルさんが使ったお金は渡しておいた金貨より少し多い気がしましたけれど。


 わたしが一人でお金を稼ぐと言えば、街角で春をひさぐくらいしか思いつきませんけど、ハルさんがそんな事を思いつくとは考えられませんし、奴隷が勝手に出来る事ではないですから。


「まさかハルさん、一人で『迷宮』に」


 魔物を狩ればお金になるでしょうし、この近くの『薬師の森』は御主人様が狩場にされていたのでよく知ってますから。


「いくらわたくしでも、そんな事は致しませんわ、『下級迷宮』とは言え魔法士のわたくしが前衛も無しで入るのは危険でしょう」


 そうですよね、それなら一体どうやって。


「ちょうどいいですわ、貴方達も付いていらっしゃい、その方が効率がいいですもの」


「は、はい解りました、ちょ、ちょっとだけ待ってください」


 奥で鍵開けの練習をしていたミーシアちゃんが慌てて片付け出してますね、最近は彼女の予算で中古の錠前や狩猟用の罠なんかを買って設置や解除の練習をしてますから、集中してて今までの話を聞いて無かったかもしれないですね。


「え、ええとどこに行くんですか」


「町の外に行きますわよ」


 という事はやはり魔物狩りなどなんでしょうか、わたし達三人が揃っていた方が良いみたいですし。




 町の門を出てから大分歩きましたね、御主人様が神殿から発行して頂いた手形が有りますから出入り自体は問題ありませんが、あまり離れると危なくないでしょうか。


「さてと着きましたわ」


 ハルさんの誘導で馬車を曳いてきたのは岩場ですけど、珍しいですねこの街の周りは草原や林ばかりで岩なんてほとんどないんですが、この辺りだけが植物が生えてなくて、岩と石しかありません。


「ここで何をするんですかハルさん」


「元々はここで魔法の試し撃ちをして熟練度を上げていたのですけれど、多少はお金になる事が分かったのですわ」


 魔法がお金になるんですか、ハルさんは錬金術でも使えるんでしょうか、いえ魔法士では無理なはずですよね、それならどうやって。


「とりあえずはそこで見ていらっしゃい」


 そう言って呪文を唱え出しますけど、何をするつもりなんでしょうか。


「危ないので離れてらっしゃい、行きますわよ『溶岩密封』」


 ハルさんの指差す先では、地面から赤い液体が湧いてきますがあれは何でしょうか、これだけ離れているのにとても熱く感じます。


「あ、熱いです、ハル様大丈夫ですか」


「わたくしは問題ありませんので、そのまま動かないでちょうだい、下手に動くと危ないですわよ」


 確かにこの熱は下手に近付くと火傷をしてしまいそうです。ですがこれでどうやってお金にするというんでしょうか。


「もう少しで終わりますわ」


 地面から湧きだした赤い液体は一か所に集まり、何かを包み込むかのように盛りあがって一塊になっていきます。


 しばらくすると赤い液体は湯気を上げる大きな岩になっていました。


「ハルさんこれは一体どうなっているんですか」


「す、すごかったです」


「あれは溶岩と言いまして高熱でドロドロに溶けた岩石ですわ、ですので熱が冷めるとこうやって岩になってしまいますの。わたくしの使った魔法は溶岩を作り出して敵を焼きながら岩の中に閉じ込めるものですの」


 それは恐ろしい魔法ですね、あんな熱い液体の中に閉じ込められるなんて考えたくないです。ですけれど岩が溶けるなんてどうも信じられません。


「氷と水の関係みたいなものですわ」


 ああ、そう言われるとなんとなくわかりますね、ただこれからどうやってお金を稼ぐんでしょうか。


「以前にリョーが言っていたのですけれど、溶岩の固まった岩の中にはいろいろな鉱物が含まれるらしいですわ、と言っても大した物ではありませんけれど安物の装身具の材料としてそれなりに売れますので、数を集めれば一日で銀貨数十枚くらいにはなりますわ。特に黒曜石の大きな塊が良く売れるみたいですけれど」


 なるほど、それは解りましたがこの岩からどうやってそれを取り出すんでしょうか。


「今まではわたくしが魔法で砕いていましたけれど、その分MPを消費してしまいますので作れる岩の数が限られましたの、ですけれど岩を砕いて中の鉱物を探す作業を貴方達がしてくだされば、その分のMPと時間で沢山の岩を作れますわ」


 砕くんですか、この岩はかなり固そうですけれど。


「わ、分かりました。えい」


 アイテムボックスから盾を取り出したミーシアちゃんが、わたしの頭くらいありそうな岩を一撃で砕きましたけど、ずいぶん脆いんですね。


 いえいえ、多分ミーシアちゃんだからできたんでしょうね、御主人様に買って頂いてから感覚がおかしくなってきている気がします。


「サミューもやるのよ」


「わたしでは無理ですよ」


 いくらなんでも、わたしの力ではあんな事は出来ませんから。


「別にミーシアの様に非常識な事をしろというつもりは有りませんわ。この岩を相手にスキルの練習をすればいいのですわ。ライワの練兵所で『鞭剣士』の基本的なスキルの仕方は教わったのでしょう、レベルが高くないと覚えられないスキルも有りますけれど、基礎的な物なら反復練習や何かのきっかけで覚えられるはずですわ」


 そう言うものですかそれなら。


「わ、私は非常識、そんな」


 わたし達の話を聞いていたのかミーシアちゃんが俯いていますが、盾を振る手は止まることなく岩を砕き続けてますね。さすがにこれはわたしから見ても非常識に見えますね。


「ミーシア別に貴方を貶したわけではありませんのよ。ただ普通ならできない、そうですわミーシアがとても強いという事を言いたかったのですわ」


「で、でもハル様はいつもリョー様に」


「あ、あれはまた別ですわ、わ、わたくしリョーの事なんてこれっぽっちも凄いと思ってませんもの、ミーシアとリョーは違いますわ」


 そんな事を話し合っているお二人を見ながら、わたしも鞭を構えて岩に向かいました。





「行きます『巻き投げ』」


 鞭の先端を岩に巻きつけてそのまま上空へとはね上げます。


「わ、私もえい『放り投げ』」


 ミーシアちゃんが彼女と同じくらいの大きさの岩を両手で抱えて投げると二つの岩が空中でぶつかってから落ちて砕けます。


「これだけ砕けば大丈夫ですわね、さてと鉱物を探しますわよ」


 ハルさんの言葉で、岩を砕くのを止めて破片を選り分けていきます。


「は、ハル様これはどうですか」


「いいですわね、あとそれもですわ」


「はいわかりました、あ、これもきれいです」


 確かにこうしてみると、色々ときれいな石が混じっていますね。ですけれど。


「ハルさん、確か街では高級品の値が下がっているのですよね、それだとこの石も値段が付かないのではないですか」


「それでしたら大丈夫ですわ、リョーがソウラム草を売っていたのと同じ理屈ですわ、今街で売りに出ているのは冒険者向けの『簡易魔道具』や装備品、換金用の宝石、そこそこの商家向けの物など多少値の張るものですわ。町娘などがちょっとしたオシャレに使うこういった石などはこの辺ではあまり取れないらしいですわ」


 それならなんとなくわかります、御主人様も言われてましたね、他の人がほとんど手を出さない分野で、欲しがる人より売られている商品が少ない物が有れば稼ぎ時らしいですから。


「わたくしとて無駄にリョーの取引を見てた訳ではありませんわ、きちんと学ぶべきところは学んでますもの。まあもちろんこれだけ持ち込めば値段も下がって来るでしょうけれど、所詮はリョーと合流するまでの繋ぎですもの、リョー達が戻って他の街へ移動してから売ればいいですし、そもそも『迷宮』に入ればもっといい稼ぎになりますもの。あら、どうしたのかしらミーシア」


「わ、私、何も考えないで、リョー様は凄いなとしか思ってなくて、わ、私バカだから、ごめんなさい」


「誰もそんな事は言ってませんわ、わたくしにはわたくしの貴方には貴方のそれぞれ役割が有るんですもの、ミーシアの硬さと力は誰も真似できませんし、それに回復は貴方しかできないじゃありませんの」


 落ち込んだミーシアちゃんをハルさんが必死に慰めてますけれど、わたしは急いで石を集めないといけませんね。このままだと夕飯の用意が遅くなってしまいそうですから。





 大量の石を積み込んだ馬車を街に向けますけれど、あまり旅人の姿が有りませんね。


 以前なら『薬師の森』から帰ってきた冒険者さんや、薬の買い出しに来た行商さんが結構いましたけれど。


「サ、サミューさん前です」


「どうしましたミーシアちゃん」


 ずいぶん慌てた声ですけど何かあったんでしょうか。


「駅馬車が魔物に襲われてますわね。あれはホワイトウルフと、暴れ大熊が二頭もいますわ。どうなってますの非常識ですわ、『薬師の森』の奥にいるはずの魔物が『迷宮』の外に出てくるだなんて」


 視力の良いお二人が慌てているのなら間違いないでしょう。


「サミューさん、どうしますか」


「放っては置けないでしょうね、馬たちは危ないので他に魔物がいないなら馬車は置いて行きましょう」


「分かりましたわ」


 わたし達が馬車から降りるとミーシアちゃんが『獣態』をとります。


「サミューさん、ハル様乗ってください」



 わたし達が乗るとミーシアちゃんは一気に駆け出していきます。



「馬車の近くの魔物を散らしますわよ『火矢幕』」



 大きな箱馬車を囲むように放たれた無数の火の矢を避ける為にホワイトウルフがいったん距離を取ります。



「ミーシアちゃんこのまま馬車の近くへ」



「は、はい」



 魔物たちの抜けた隙間に飛び込み御者席へ叫びます。



「援護します、戦える人は乗っていますか」



「助かる、乗ってるのは行商人だけだ、馬も足を痛めて逃げ切れない」



 となるとわたし達だけで魔物を蹴散らすしかないですね。



「ハルさん馬車の上に登ってください、そこなら安全です。ミーシアちゃんは前を倒してください、わたしが後ろを守ります」



 ミーシアちゃんの上から飛び降りながら右手で剣を抜き左手の鞭を振るいます。



「分かりました。あああ」



 馬の首筋に飛びかかろうとした狼の首にミーシアちゃんが噛み付き、一気に喰いちぎります。



 わたしの鞭も一頭の狼を絡め取り上空へとはね上げます。



「このまま、『巻き落とし』」



 鞭の先端を絡めたままの狼が最高点に達したところで左手を一気に振り落とします。



「ギャフ」



 勢いを付けて地面に叩き付けて潰れた狼の死体から鞭を外しながら、跳びかかってきた二頭を右手の片手剣で迎え撃ちます。



「ハルさん、上空に魔法を、遠くからも見えるものをお願いします」



「分かりましたわ『火炎弾』」



 わたし達でも撃退は可能ですけど、馬が傷ついている以上は別な移動手段が必要になるでしょうし、長引けば血の匂いで別な狼が寄ってくるかもしれませんから。



「これで、街の方が気付いて冒険者か守備兵が来てくれるといいんですが」



 右からの一頭の首を一撃で斬り落とし、返す刃でもう一頭の腹を切り裂きます。



 戦えなくなった二頭を無視して、少し離れた一頭に鞭を絡め『巻き投げ』で狼の固まっている所へ飛ばします。



「ギャン」



「おかしいですね」



 ホワイトウルフはこんなに弱かったでしょうか、以前戦った時はわたし一人では食い止める事しかできなかったんですが。



 いいえ、考えるのは後ですね、わたし達には有利なんですから。



「分断しますわよ『炎壁結界』」



 馬車の右側に長い大きな火の壁が現れて向こう側の狼たちを阻んでくれます。



 これなら、狼がこちらに来るには、壁を大きく迂回しなければならないですから、左側と後方だけを警戒すれば良さそうですね。



「ハルさんは、このまま左側の牽制をお願いします」



「いいですわ『小火陣』」



「グガアアアア」



 前方ではミーシアちゃんが二頭の暴れ大熊と戦ってますが、ずいぶん小さいですね。



 確か以前はミーシアちゃんと同じくらいの大きさがあったはずですけど、今いる二頭はミーシアちゃんより頭二つ分小さいです。



『圧潰爪』



「グギャ」



 右爪の一撃で一頭の頭を叩き潰して、左手をもう一頭の脇に当ててどうするのでしょう。



「ほ、『放り投げ』え、ええい」



 すごい勢いで投げ飛ばされた熊の体で狼が何頭も潰されてますね。



「させませんわ『雷撃弾』」



 起き上がろうとしていた暴れ大熊にハルさんの魔法が当たり、熊だけではなく触れていた狼たちまでも倒しています。



 ミーシアちゃんも手早く狼を倒してますし、わたしの方ももう少しで終わらせそうです。これならもう大丈夫でしょうね。






「おかげで助かった、礼を言わせてもらう。これは少ないが取っておいてくれ」


 乗っていた御者さんが乗客から集めたのか銀貨数十枚を下さいます。これだけで一日分の石を売ったのと同じ稼ぎですか。ですがそれ以上に。


「ありがとうございます、あまりお気になさらないでください。それと魔物の死骸なのですが」


 すでにミーシアちゃんが狼や熊の皮を剥ぎにかかってますね、新鮮なら肉なども売れるらしいですし夕飯に出せば喜ぶでしょうから、馬車に乗せられる分は持って帰りましょうか。


「それはもちろん倒したあんたたちの物だ、ん、金髪の侍女奴隷に白熊族の戦士と鴉族の魔法士、ひょっとしてあんたサミューさんかい、リョーとかいう冒険者の奴隷の」


「はい、そうですが」


 御主人様のお知り合いなのでしょうか。


「あんた達宛の馬車便を預かってるんだ。返事を出すなら二、三日中にしてくれ、礼もかねてただで届けるよ」


 これは、御主人様からの手紙ですね、一体どうしたんでしょうか。


「こ、これは、そんな」


 手紙を読んだわたしは思わずそれを取り落としてしまいました。


次回はリョー君です。

ユニーク総合が35,000になりましたありがとうございます。


H27年6月13日 誤字、句読点修正しました。

H27年6月19日 追加で誤字修正しました。

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