63 指切り
「リャー、どこ行ってたの、もう、アラを置いてっちゃめーなの」
キッシュ達を広場に残して宿屋に戻ると目を覚ましていたアラに抱き着かれた。
「おっと、と、アラ起きてたのか」
「リャー、リャー、痛くない、おててもあんよも痛くない」
俺の首に抱き着いたまま、アラが心配そうに俺の全身を見回してくる。
「ああ、全然痛くない、アラも知ってるだろ俺は怪我してもすぐ治るんだから大丈夫だ。それよりアラは痛い所ないか、毒を食らったんだから、薬を飲んでも疲れてるだろ、寝てなさい」
片手で小さな体を抱きしめ、もう片方の手でふわふわの頭を撫でる。
「アラは大丈夫だもん、お薬飲んだし、いっぱい寝たもん」
「だめだ、疲れてるかもしれないだろ、まだ寝なさい」
まだ小さいんだし、体力も少ないんだから、無理はさせられないよね。
「じゃあ、リャーも一緒に寝るんじゃなきゃやー、リャーが一緒のベッドでぎゅーってしてくれないと、アラ寝ないもん」
うーん、もっと大きくなったら、色々とやばそうなセリフだよなー
いやそんな先の事は良いか、確かに俺も疲れてるし、もうやる事もないから少し寝るか。
「わかった、一緒に寝るか」
(分かっているとは思うが、間違いは起こすで無いぞ)
はあ、一体何を言ってるのこのバカ首飾りは、そんな事するわけないじゃん。ロリコンか、俺はこんな小さな子に手を出すロリコン野郎だと思われてるの。こいつは俺をなんだと思ってるんですか。
(そんな事をするわけがないだろう、何を考えているんだ)
(いやのう、過去の勇者にはそういった嗜好をもった者もおったのでな)
まじかよ、そんなのが居たのか、いやでもランダムで選ばれるんだもんな、俺だって勇者に向いてるとは思えないし。
この世界なら、児童の人権なんて意識は無いだろうし、奴隷なんかが相手だとやりたい放題なのかな。あんまり考えたくはないけど。
やめよう、これ以上考えるのは色々と危ない気がする。とりあえず今はアラと寝ることだけ考えてよ。
「りゃーあ」
何だろう、気のせいかな、アラの声に泣き声が混じっていつもより舌っ足らずになってるような。
「ん、なんだアラ」
「ごめんね」
あれ、アラから謝られるような事って何かあったっけ、どっちかって言うと俺がアラを危険な目にあわせたんだから、俺が謝るべきだろうし。
「何がだ」
「アラがもっと強かったら、えっぐ、リャーはあんな事しなかったのに。芋虫さんたちを、ひっく、みんなやっつけられるくらい、アラが魔法や、えっく、弓矢をいっぱい使えたら。ムカデさんを、うっく、やっつけられるくらい剣や魔法が強かったら。リャーはあんな痛い事しなかったでしょ」
泣きながら、俺にしがみ付いてくる、アラを強く抱きしめる。
「そんなことは無い、あれは俺達の強さの問題じゃない、あんな事になるのは予想外だった、アラのせいじゃない。それに俺だってアラを守れなかった、俺がもっとしっかりしてればあんな罠にはかからなかったし、こんなに弱くなかったらアラが毒を受ける事もなかった」
俺に普通の勇者のような力、剣士や戦士なんかのチート能力が有れば、たとえあの罠にかけられても魔物を殲滅して、アラも無傷のまま脱出できたはずなんだから。
「そうじゃないもん、アラはリャーを守らなきゃめーなの、リャーはみんなを守ってるんだもん、だからアラがリャーを守るの。リャーだけが痛いのはめーなの」
何この子、こんな健気なこと言ってくれるなんて、無茶苦茶うれしいんだけど、だけどね。
「アラ、俺はアラやみんなを守れてうれしいんだ。俺が怪我するのをアラが嫌みたいに、俺だってアラやサミュー達が怪我をしたら嫌なんだ。俺は怪我をしてもすぐ治るけど、アラたちは怪我をしたらすぐ治らないだろう。俺はそんなのが嫌なんだ」
女の子なんだから、顔に傷なんて出来たら大変だしね。
「でも、リャーも痛いよね。アラはそれやーなの」
「出来るだけ怪我をしないようにはする、だけどどうしても、そうしないとアラたちを守れないときはまた同じことをすると思う」
子供相手なんだから、適当に誤魔化すってのも有りかもしれないけど。アラに嘘はつきたくないもんね。
「だけど、リャー」
「俺はアラたちが元気なら少しくらい痛いのは平気だし、みんなを守るために俺だけが怪我をするならうれしいくらいだ」
「うーん」
あれ、なんかアラが考え込んだけどどうしたんだろう、そんなに難しい事は言って無いよね。
「リャーは、痛いのが好きなの、前にサミュが聴いたみたいに叩いた方が良いの」
な、なんてこと聞いて来るのこの子は、俺にSMの趣味は無いぞ。あんのエロメイド、アラにまで悪影響与えやがって、しかもよりによってこんなマニアックな。
金髪美幼女なダークエルフに叩かれて喜ぶとかどんだけだよ。
「別にただ痛いだけを喜ぶつもりはない、みんなを守る為なら痛いのもうれしいって事だ」
「じゃあアラもー」
「だめだ、アラが怪我をすると、アラが心配で俺が上手く戦えなくてもっと怪我をするかもしれないだろ」
この論法はちょっとずるいかもな。
「やー、怪我しちゃめーなの」
「じゃあ俺と約束してくれ、俺は怪我をするかもしれないけど、すぐに治して痛くなくなるから。アラは俺が必要以上に怪我をしない様に俺を守ってくれ、でも、アラが怪我をすると俺の怪我が増えるから、アラはまず自分を守る事」
「えーーー」
「約束だ、そのかわりに俺は何が有ってもアラと一緒にいるから、何かの理由で離れても必ずアラの所に帰ってくるから。アラが嫌って言わない限りはずっと一緒だ」
「ほんりょ、やくしょくだよ」
あ、口調が昔に戻ってきた、懐かしいなーこの舌っ足らずな感じがかわいくて。
「ああ、やくそくだ」
アラの前に右手を差し出して小指を立てる。
「リャーこれは」
あれ、不思議そうにしてる、こっちには指切りないんだ、どこかの勇者が持ち込んでそうだけど。
「指切りって言ってな、俺の故郷のやり方だと、こうやって約束をするんだ」
そう言えば、小説やゲームなんかだとたまにあるよね、こういうイベント。
「指切り。小指を切り落としちゃうの」
なにその猟奇的な約束の仕方。ヤ〇ザ屋さんとかじゃないんだからさ、あ、でも血判状とかだと、いやいやあれも指の表面を切るだけだよな切り落としちゃ指紋が分からないし。
昔読んだ武侠小説なんかでは切り落としてたシーンがあったような気もするけど。うんとりあえずアラが構えてる剣をしまわせなきゃな。
「実際に指を切るわけじゃなくてな、二人の小指を絡めて約束をしてから、勢いよく指を放すんだ。約束を破るとこわーい罰が有るんだぞー」
あれ、このシーンてなんかよく見るような……
ん、まずい。
「わかったこうだね、約束だよ」
ああ、アラが指絡めて約束しちゃった。
この手の『約束イベント』は絶対後でこれに絡んだトラブルが起こるフラグみたいなもんだし……
アラと離ればなれになるとかいやだよほんと、まあでもフラグなんて実際にあるわけないよね。おれはしっかり約束を守ればいいだけだしね。
「そうだな約束だ、それじゃあ俺と同じように歌うんだぞ。指切りげんまん~~」
うわ指切りなんて何十年ぶりだろ、歌詞あってるよね。うーんアラが必死に俺の後に歌って手を振ってるのがものすごくかわいいな。
「~~指切った。約束だよリャー」
「ああ、約束だ。それじゃあそろそろ寝ようか」
「うん、リャー抱っこ」
満面の笑みで両手を出してきたアラを抱き上げて、ベッドへと向かった。
「リョー殿、リョー殿。おられるか」
んん、なんだよ人が気持よく寝てるってのに、部屋をどんどん叩いて。
「ん、リャーお客さんかな」
あーあ、アラが起きちゃった、このまま無視してちゃダメかな、アラが温かくて気持ちいいんだよな。この手の間にスポッと収まる感じがさ、抱き枕みたいで、もふもふのミーシアに抱き着くのも気持ち良いけど、こっちも捨てがたいなー
「リョー殿、おられるのであろう、宿の者に確認したぞ」
なんだよもう、何時だと思ってって夕日が差してる、そう言えば昼寝してたんだっけ、寝過ぎたな。
「ああ、ちょっと待ってくれ、疲れて昼寝してたんだ。すぐ行くから下で待っていてくれないか」
「いや時間がないのだ、着替えるのならばちょうどいい。礼服を用意しているそれに着替えてくれ」
ん、礼服、一体何の話だ、しかしずいぶんテンションが上がってるな、昼間のおかたそうな騎士様とは大違いだ。もしかすると、これが素なのかな。
「ちょっと待てって、話が見えないんだが」
「ええい、こうしては居れぬ。プテックここを開けるのだ」
「わかった」
いや解ったって、プテックは盗賊じゃなかったよね、それとも『鍵開け』のスキルが有るのかな。
「えい」
力の抜けた声と同時に、今凄い音がしたけど、て、おい、ドアにヒビ入って斧の先端が覗いてるんだけど。まさか……
「もういっかい」
いやおかしいだろ、斧でドア開けるってどこのホラー映画だよ。割れた隙間から覗きこむんじゃありません、それじゃあどっかの殺人鬼だって。
「姉さま、あいた」
「よし、入るぞリョー殿」
よしじゃねーよこっちの都合も考えろ。
「んー、うるさいよー」
あ、アラ、これは不味いかも、承諾なしに入ってくる女性キャラ、そして一つのベッドで寝ている男女……
このパターンは普通に考えれば、勘違いをされる、今までいろいろな作品で何度も見てきたシーンだ。
いや待て、俺とアラはかなり年が離れてる、親子と言うのは無理が有るけど、別に一緒に寝ててもおかしくない歳の差のはずだ。むしろ問題はアラがダークエルフってとこだけど幸い『幻影』はかかったままだし。
「リョー、ど、の、これは……」
「何の用だ」
うん、やましい事は何もしてないし、第一俺もアラも服を着てる、これで勘違いなんてことは。
「そ、そんな年端もいかない子供と同衾するなど、ふ、不潔だ」
あっさりと勘違いしやがった、この騎士さん。
「見損なったぞリョー殿、キッシュ殿達への対応を見るに、騎士にも劣らぬ高潔な精神の持ち主と思っていたが、このような禽獣にも劣る行いをするとは」
おーい、勘違いだからねー、と言っても俺の話を聞いてくれなさそうだな、とりあえず腰の剣から手を放してほしいなー
「姉さま、落ち着いて」
「なんだプテック止めるでない、この鬼畜に天誅を」
誰が鬼畜だ誰が、とりあえずプテックは落ち着いてるみたいだな。
「よく見て、二人とも服、きちんと着てる」
「なんだと、む、たしかに」
「淫らな事に、見える」
「いや、そうだな、済まないリョー殿。危うくリョー殿の名誉を汚す所であった」
よかった、プテックのおかげであっさり解決してくれた、普通なら一撃くらい貰っててもおかしくなかったよね。
「ごめんなさい、姉さまは、こう言う事、嫌いだから」
「いやいい、それでどうしたんだ」
このタイミングで、この二人が来たって事は。
「そうだ、リョー殿、貴殿の持ってきた薬なのだが、見事に効いたのだ、今までどのような薬でもワイバーンの毒は消えなかったというのに。毒はおろか体力すらも回復されたのだ」
おおー、しっかり効いたみたいだな、これでクエスト達成、ミッションコンプリートだな。よしよし、ユニコーン達の事はカミヤさんが何とかしてくれるだろうし、ミムズがドアをぶち破るくらいに興奮する効果が有ったって事は、宣伝効果も見込めるかも。
これだけの大騒ぎを鎮めた薬、ミムズ達が行く先々で話してくれれば、薬を欲しがる人間は増えるだろうし、値段も売り上げも跳ね上がる。
カミヤさんは、薬が予想以上に売れて、伯爵領の取り分が増えたらその分を俺にも還元してくれるって約束してくれたから、これは良い兆候かも。
「それでだ、リョー殿にはこれから、アクラス殿下に謁見して頂く。今すぐだ、礼服も用意したのですぐに着替えてくれ」
はい、なんでそんな事しなきゃならないの。
次回は、ついに、四人目の新ヒロインが登場予定!!
あまり期待しないでください。
H27年6月1日 誤字修正しました。




