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606 評価


「かたじけない、この御恩は必ず」


「貸しだと言っただろ、恩に着なくても、そのうち別なモノで返してくれればそれでいい。行くぞ、俺達はもう少し先まで探索して、このあたりの調査をする」


『馬のふん』を飲んだ二人の怪我が完全に消えたのに合わせて、爺さん、クレンドが深々と頭を下げるのに軽く頷いてから、背を向け近くにいたミーシア達や、後方のサミューに声を掛け、念のために後ろの連中を『周辺察知』で警戒しながら、ハルたちの方へ向かう。


 スルと呼ばれてた、シルマ家の魔法職はまだ目を覚まさないけど、怪我は全部消えて顔色や呼吸も良くなってるし、『鑑定』でも異常状態というか『睡眠』が付いてるだけだから問題ないだろ。部位欠損が治る様な回復手段だと、出血も回復するらしいから。


 というかこのままここに居ると、また他の護衛連中が暴走しかねないかもしれないし、俺も何かポカをするかもしれないから。


 下手にもめて実力行使なんて事になれば、うちの子達とのステータス差を考えて、あっさり皆殺しにしちゃいそうなんだよね。せっかく助けたのにそんな事になったら後味が悪いし、後々面倒だろうし。


 うん、ハッタリを利かしたり、ギリギリの交渉する時は相手を考えなきゃダメと、日本の会社員とかを相手に営業してるわけじゃないもんな。


 こっちの人間は、暴力に対するハードルが低いから、それも交渉の一環のつもりだったりするのを忘れちゃダメか、そうだよなカミヤさんや神官長さんもそう言った脅しを多用してたもんな。


 要はヤ〇ザとか総会屋が相手位のつもりだと忘れないようにしなきゃダメって事か。いやまあ、こっちだと弁護士や警察、法律なんかは向こう感覚の基準じゃ守ってくれないだろうから、こっちも力でやり返すつもりでいないとダメなんだろうけど。


 とりあえず後ろにいる連中は、こっちに頭を下げるだけで襲撃してくる様子はないな。


「こっちも倒し終わってるようだな、死骸を回収しつつこの先の通路の状況を確認するぞ」


 さっきからハルがフードをかぶってるのは、シルマ家の連中と絡みたくないのかもしれないから、あえて名前を呼ばずに指示したら、そのまま付いてくる。


「ハル良かったのか、知り合いなんだろ」


『周辺察知』で連中が即席で担架を作り、スルを運んで出口方向に向かおうとしてるのを確認してハルに問いかける。しかし、この通路死骸だらけだな、この短時間でこれだけ倒したってことか、やばい魔法を教えちゃったのかもしれないな。


『熱光線』で燃えてるのはともかく、『高速重石弾』やアラの弓で倒された方は吹き飛ばされた肉片がそこら中に飛び散ってて、回収できない分を燃やしたり水で洗い流したりしておかないと、このあたりが危険地帯になるんじゃないだろうか。


「スル御姉様、いえスル様は、ハル・シルマの一つ上の異母姉ですけれど、それなりに優しくて付き合いもありましたわね」


 自分の、奴隷という身分を気にしてるのか、ハルの言い方が他人行儀だけど、やっぱり親族、というか腹違いの姉かよ。


「付き合いがあったのなら、俺の対応に何か言って来るかと思ったんだが」


「ふん、非常識なくらい甘い貴方の事ですもの、わたくしが何も言わなくても、実際にああしていたと思っていましたもの。それにあの場で下手に、わたくしが口を出して貴方が判断を変えたなどと思われてしまうと、シルマ家は私を利用して貴方へ影響力を及ぼせると勘違いしかねませんわよ」


 そんなこともあるのか、まあ、これが国とかの話の小説とかなら、繋がりのある相手をスパイに仕立てようとする、みたいなネタはたまにあるけど。


「奴隷は主に逆らう事も危害を加える事も通常は出来ませんけれど、主がそれを認めているのであれば、ワガママもお願いも出来ますもの。異性の奴隷を甘やかして、身を崩した主などという話は、悪女に溺れて国を傾けた君主や、娼婦に貢いで身代を潰した商会主などと同じくらいに聞く話ですもの。貴方はタダでさえ奴隷を大事に扱う方ですから、周りからは奴隷を懐柔すれば何とか出来ると思われてもおかしくありませんわよ」


 そういう事もあるのか。まあ、確かにうちの子達みたいな美女美少女にかわいい感じでお願いされたりしたら……


 いやいや、話を戻そう。


「家族なら挨拶くらいしても良かったんだぞ、ハルが心配なら、あのまま脱出の手伝いをすることだって……」


「必要ありませんわ、他人となった人たちの事ですもの。ガルおに、いえ、ガル・シルマのような考えの者が他にもシルマ家の中にいるかもしれませんもの。目を覚まして現状を把握した直後に、攻撃してくるかもしれませんのよ」


 それは、そうかもしれないけど、それでもさ。


「それに、考え方がガル寄りでなくとも、スル様はわたくしに会いたくないんじゃないかしら。奴隷として売られる分家の者達を納得させるために、本家の娘からも最低一人は奴隷に落として売るという話になった時。真っ先に逃げたのはあの方ですもの、自分は許嫁との結婚が決まっているからという理由でしたわね。そんな人にとって代わりに売られた元妹を見るのはバツが悪いんじゃないかしら。もっとも、とっくに結婚している時期のはずですのに、まだシルマ家にいるという事は、例の一件で婚約が破談にでもなったのかしら」


 許嫁に結婚か、ハルより一つしか変わらないのに、いやこの世界位の時代でなら、結婚年齢が現代社会より速くてもおかしくないのか。特にシルマ家みたいに政治的な立場のある家だと、政略結婚とかもあるだろうし。


 もしかして……


「ハルも、婚約者がいたのか」


 俺の奴隷になったせいで、もしかしたら……


「なあに、貴方、わたくしの過去が気になるのかしら。わたくしの過去に男の影があるんじゃないかと、独占欲でも湧いてきたのかしら」


 パタパタと羽を動かしながら、楽しげな顔をしたハルが、下から見上げるように俺の方を見てくる。


「い、いや、そういう訳じゃ」


「ふっ、安心なさい、わたくしに許嫁は居ませんでしたわ。当時のわたくしはとある魔法先進国、いえ隠す必要はありませんわね、あの冷血ワニ女やその主達の国のリューン王国に留学に行くはずでしたもの」


 ワニ女って、ディフィーさんの事か、そう言えばハルとはなぜかウマが合わないんだよなあの人。でもなんでリューン王国への留学が、許嫁と関係するんだろ。


「いくつも国境を越えた先の遠国への留学なんて、十分な知見を成果として得て帰ってくるまで何年、何十年かかるか分かりませんもの。待てる相手なんていませんでしたわ。当時は御父様から、向こうで有望なエルフの魔法職を婿として連れ帰るように言われてましたわね。それが上手く行けば、わたくしが新しく家を興せると、場合によっては侯爵家家臣ではなく王家直轄の騎士も狙えるだなんて」


 男を捕まえて来いって、まあハルみたいな美少女なら確かに狙えるのかもしれないけど、あからさまな話だな。


「まあ、御父様としては政治力を使って、リューン王国の使者に色々な便宜を図って、雑用の様な依頼まで受けて確保した留学の枠だそうですもの、最大限に活用したかったのでしょうけれど、それもシルマ家の没落で他家に枠を取られましたけれど」


 なんとまあ、こんなところでシルマ家とリューン王国に関係があったなんて思わなかったな。


 いや、もしかしたら……


 ふと思いついて、視線を後方に向けるとサミューとトーウが念のために後方を警戒しながら床や壁に飛び散っている体液や肉片の処理をしている


 いやまさかな、サミューとミムズ達に深い関係、たぶんかなり近い血縁関係があるのは予想がつくけど、いくらなんでも騎士一人の家族のために国を挙げてなんて事はありえないか。


「それよりも、回収のついでに今回使った魔法の検証をしますわよ。まだ慣らしの段階ですし、威力や精度なども、知識としてしか知りませんもの、あら、あれは……」


 そう言いながら、魔物の死骸に空いた穴や燃え具合を確認しようとていたハルが、先の方に何かを見つけて、そちらの方へと小走りで進む。


「ハ、ハル様、一人でいっちゃ、あ、危ないです」


 慌てたようにミーシアが追いかけるけど、その先にあるのはムカデの死骸がいくつか、青毒、いやあそこまで大きくは無いな、それに形が違うのもあるな。


「これは『鋼甲百足こうこうむかで』と『堅牢馬陸けんろうやすで』ですわね。どちらも、『青毒百足せいどくむかで』の取り巻きや前座扱いされる魔物ですわ」


 うえ、ムカデにヤスデって不快害虫のトップクラスじゃないか、賃貸住宅でこんなのが出てきたりしたらクレームの電話が……


 やっぱりこの『迷宮』の魔物って。


「この魔物も『青毒百足』ほどではありませんけれど、かなり高い対物・対魔法防御力がありますわ。それらを倒せてはおりますから、威力としては十分と考えてもいいのかしら」


 うん、見事に全部倒せてるもんね。俺の確認できる範囲ではこれと同じ魔物は周囲にいないから、倒せずに逃げられたって事はなさそうだし。


「外殻の表面は焦げて多少溶けていましても、穴は開いていませんわね。ですけれど傷口などの開口部に当たった物はしっかりと中を焼き尽くしていますわ。『熱光線』単独では外殻の薄い口などに当てませんと無理かしら。『高速重石弾』の方は外殻を貫いただけではなく、反対側へもしっかりと貫通していますわね。とはいえ、貫通力優先の魔法ですから、周辺の肉を回転に巻き込んでいくらか破壊できる程度ですもの、当たりどころ次第では致命傷になりませんわね。芋虫のようにもろい体でしたら、当たっただけで弾けてしまいますけれど、殻のある相手ですと」


 傷口をのぞき込んでハルが確認しているけど、弾がデカい分だけ威力は大きいけど、貫通特化の徹甲弾だと、前に『四弦万矢しげんばんし』が言っていた、無駄で余計な力になっちゃうのか、実際百足を貫通したと思う弾丸は、そのまま背後の壁にドリルを使ったみたいな深い穴を開けてめり込んでるし。


 いや、今回倒したムカデよりも更に硬い『青毒百足』が仮想敵なんだから、この位の貫通力が無いと安心できないか。それにさ……


「まったく、力の込めよう次第で甲殻の貫通から内部破壊まで、自由に力の配分を割り振り調節できるだなんて、アラの教わった『四弦万矢』の技がどれだけ非常識なのか身に染みて分かりますわ」


 確かにアラの放った方の矢はムカデやヤスデの殻に小さな穴が開いてるだけだけなのに、死んでるって事は、中身をしっかり破壊してるって事だろうから。ほんととんでもない技だよな。


 まあ、これだけの威力を出せるのは、スキルだけじゃなく、アラ自身のステータスと、なにより弓に付けた『加剛』の効果と『力の動籠手』の組み合わせがよかったんだろうな。


 いくらでも威力が上がるけど、上がればその分だけ引くのに力が必要になる『加剛』と、両手の力を補助する強化外骨格みたいな『力の動籠手』だからな。


「とはいえこれである程度の敵でも通用すると判りましたし、『鋼甲百足』の外殻を外と内から二回貫けるのでしたら、『青毒百足』の外殻にもそれなりの損傷を付けられるかしら。実際に倒した実績のあるリョーと、弓の威力が期待できるアラ、それとわたくしの三人が『青毒百足』に有効打を放てるのでしたら、この先の戦闘も期待出来そうですわね」


 なんかハルが今ので自信を付けたみたいだな。死骸から離れた時に羽がバサッと広がって、同時に肩にかかった髪を払ってるのが絵になって、なんか漫画の主人公みたいに見えるよ。


「ああ、これほどの数の虫、一体どのような味がするのでありましょうか、芋虫はねっとりとした濃厚な味わいが多いですが、大型の魔物であればどれほど、それに大ムカデの類はエビやカニなどに似て美味と聞きますので。例え毒があろうともわたくしには関係ありませんし」


「お、美味しいんですか、あ、で、でもサミューさんに、は、はしたないって言われるかも。そ、そうだ生じゃなくて、き、きちんと料理すれば……」


「貴方達は何を言っていますの、芋虫などはともかく、『鋼甲百足』や『堅牢馬陸』は本来もっと深い層でないと捕れない、それも硬いため狩りにくく、それでいて装備品に仕える素材価値の高い獲物ですわよ、これを売らずにどうすると言いますの。肉にしてもそれなりの額が付くはずですわ、それでもっと美味しい料理を買った方が良いじゃありませんの、これだけの大きさが数匹いるんですもの、売却益を考えれば、新しい服や宝飾品も買えそうですわね」


 ああ、そう言えばハルって、結構贅沢が好きだったっけ。まあ、でも、ハルは結構いいものを見つけて来るからな。衝動買いの無駄遣いにはならないで、後で売ればトントンか場合によっては多少色が付くような、資産価値が出そうなのを見つけてきたりするんだよな。


「ライワ家の邸宅に入れて頂いた時や、ムルズでラッテル子爵家やロウ子爵家に泊まった際もそうですけれど、わたくし達には、そういった正規の場所で着れる服がほとんど在りませんもの、いつまでも冒険者だからで許されるとは限りませんし、それにせっかく都市にいると言いますのに、いいお店で食事をするのに向いた服も限られますもの」


 そっか、そういうのものあるか、まあTPOは当然だよね、作業着やジャージでも入れる店と、スーツじゃないとダメな店なんてのは日本でだって普通にあったし。


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― 新着の感想 ―
[良い点] リョー君が嫉妬してると思って嬉しそうなハル可愛い
[良い点] まぁお金がかかるお嬢様だけど、色々貴族階級のことに詳しいからこういう時は頼りになるなぁ まぁお金がかかるお嬢様だけど
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