602 とある高貴な方の事情
今回は新キャラ視点の、仕込み回です。
今回出てきた伏線は、たぶん数年の内にはテストにじゃなかった、作中の展開に絡んでくると思いますので、気長に待っていただければと……
「それでは侯爵、我が国の感謝を受けて貰えるだろうか」
私の隣でナロキが目録を差し出したら、クレ侯爵が対面のソファから立ち上がって、床に跪いてからそれを受け取ったけど、いいのかな。一応は私たちは一国の王宮からの使者扱いになるんだろうから、他国の貴族だって言っても気は使うよね。
最初は謁見の間の玉座を私とナロキに進めてたくらいだからさ。
さすがに謁見の間を主から借り上げるのは、いくら私たちが王族だって言っても、他の国の貴族で侯爵みたいな高位の人にさせちゃ変だと思ったから断って、応接室での会談にして貰ったんだし。
パルス姉さまは、あんまり相手に譲り過ぎちゃリューン王国が下に見られちゃうけど、あんまり威張り過ぎたら国が嫌われるから、丁度良くが重要って言うけど、どのくらいが良いんだろ。
「私共といたしましては、アクラス、パルス両殿下に引き続き、ナロキ殿下とオピオ殿下の御来訪を賜り、恐悦至極。それに加えまして、このような褒美まで頂戴できるとは」
侯爵はそう言うけど、御姉様たちはこの領地でご迷惑をかけたみたいだし、お世話にもなったんだから、この位はしないとナロキも納得しないから。
それにエルフの国のリューン王国が人族の国に弱みを握られたなんてなると、めんどくさい文句を言ってくるエルフ国もあるみたいだから、貸し借りはしっかり清算しておかないと。ただでさえ、王位継承権の高い私達正嫡の王族がみんなハーフエルフって事に、遠回しで嫌味を言ってくる国が結構あるんだし。
「いや、侯爵領には姉上の療養のために逗留させて頂き、薬を集めるための触れも出してくれたと聞く、そのおかげもあって冒険者から薬の献上があったと」
まあ、その褒美で冒険者には金貨を与えてるんだから、献上されたというより買ったみたいなものだって思うんだけど。御姉様はこういうのは形式や体面が大事なんだって言いそうだなあ。
「また、我が国の騎士ミムズ・ラーストがこちらでご迷惑をかけたとの話もある、その詫びも含まれていると思って頂きたい。あの者は王家に仕える直轄騎士、しかも姉上の近侍の役に付いていた者。国としても謝るべき事かと思う」
ああもう、こっちに来る許可を取った時に宰相のネーザルから王族が軽々しく、こちらの非を認めちゃダメって言われたのに、馬鹿正直なんだから、滅多にナロキには話しかけないネーザルがわざわざ言いに来たくらいなんだから。
考え事してて止めそこなっちゃったけど、やっぱり私が、補助しなきゃナロキはダメだよね。
今のだって、もしかしたら、ミムズを連れていたアクラス姉様とパルス姉様の顔を潰す事になっちゃうんじゃないかな。
エルフの王族が人族の貴族に頭を下げたなんてなったら、これだからハーフはなんて、私達だけじゃなく御姉様達も言われちゃうんだよ。
「いえ、確かにラースト卿からは、大鬼に襲われた村に被害が出るのを防げなかったと届け出がありましたが。そもそも、ラースト卿とその一同が事態を発見され対処しなければ、あの村の生存者は居なかったでしょう。場合によっては『鬼族の町』の状況把握も遅れ、最悪アンデッドの対策も出来ぬまま、手遅れの状況になっていたやもしれません。ラースト卿には感謝こそすれ、殿下から謝罪を頂くようなことはなにもございませぬ。更には『大規模討伐』においては、アクラス、パルス両殿下が直々に兵を率いられて参加され、大変助けられました」
アクラス姉様の事だから、自分から進んで顔を突っ込んだ気がするんだけどな。ここで療養する事になったのも、確かワイバーン狩りなんてしちゃって、毒針で刺されちゃったせいだよね。
ミムズもだけど、正義感とかを意識しちゃうと周りが見えなくなっちゃうんだから。
パルス姉様がしっかり押さえてくれないと、こうやってナロキが心配して変な気を回しちゃって、結局私が後片付けする事になっちゃうんだから。でも、アクラス姉様の怪我の件もその後の事もなんか変な感じなんだよね。
でも当事者の侯爵がこの感じだったら、国の不満分子や他のエルフ国に文句を言われても突っぱねられるかな。
「候にそう言って貰え助かる。貴殿の言葉は受け入れるのでどうか楽にしてほしい」
ナロキに進められてソファに戻った侯爵が書状を差し出して来るけど、これは目録、こっちから贈り物を出したのに、向こうからも贈り物をしてくるなんて。まあ、向こうもこっちと仲よくしたいって事なんだからいいんだろうけどさ。
「私共としましても、こうして一国の次期国王となられる方と面識を持つ事が出来て大変ありがたい事ですので、リューン王国は魔法技術に長けた大国、我が領だけでなく我が国からも人材交流として、魔法師たちの修行を受け入れて頂いています。これからも良い関係を殿下にはお願いしたく」
そう言えば、人材交流なんて事もしてたよね。なんでか、ネーザルはこの国を気にしてて、何年も前から外交団を送ったり、ネーザル自身もこの国に来たりしてたのよね。
御姉様達もただの療養が目的とは思えないほどこの国に留まってたし、御姉様達に忠実なミムズやディフィー達までこの国に来てから、別行動を取り出してるし。
リューン王国からこんなに離れた人族の国に何があるのか、やっぱり私が調べないと。
ネーザルは、御姉様達の事はすっごく気にするのに、ナロキにはそっけないから、あの冷血漢の弱みを握って、もっとしっかり王族扱いするように言ってやらないと。だってナロキは……
じゃなかった、今はまずこの会談をうまくやる事を考えなきゃ、ナロキが変なこと言ったら補足しなきゃ。でも、魔法大国か、やっぱり数年前の戦争で、国王陛下、じゃなかった御父様が一人で敵軍を焼き払ったって話が広まってるんだな。
アレは、私たち王族のスキルが特別なだけで、一般的な魔法職の強さは他より多少上程度なんだけどな。
「侯爵、申し訳ない、当国の次期国王は長子であるアクラス姉上です。多分姉上は王太子と名乗られていると思いますが」
もう、そんな余計なこと言わなくてもいいのに。あれ、もしかして間違えた相手の非を指摘して、会談を有利にするつもりかな、いや、ナロキがそんなこと考えるはずないか。馬鹿正直に言っちゃっただけだよねたぶん。
「そう言えば確かにアクラス殿下はそのように、これは失礼いたしました。ナロキ殿下が現国王の御子で唯一の男子と聞いておりましたのでつい勘違いを、我が国では男子継承が通常であったので」
やっぱそう思うよね、うちの国だって以前はそうだったらしいし。
「国王陛下は、男女の別にかかわらず、正妃、側妃の子の順と長幼の順を持って継承順を決められましたので、王妃の生まれた末子である私の継承順位は妾腹の姉3人より上とはいえ、このオピオに次ぐ第六位にすぎぬ。王族とはいえそこまでの立場ではない」
ほんと、そんな事まで、王家の内情を推察されそうな事まで説明しなくてもいいのに。
「とはいえ、我が国でも継承順を勘違いする者が多いので、混乱のないよう私がある程度成長したのちは、継承権を返上して臣籍に下る事となっている。さすれば、他は姉たちのみ、他国の方々にも分かりやすくなるゆえ」
何で、そんなに自分の評価を下げるようなこと言うのかな。
「侯爵、ナロキは成人後に新しく侯爵に封じられ、以前の戦争で侵略者より奪った新領土の多くを、封土として与えらえる事となっている。どうか、侯爵の領地を見学して後学に生かす事を許してもらえぬか」
こう言って置けば、王族じゃなくなってもナロキと関係を持っておくのはお得だって考えるよね。
「おお、新領土と言いますと、あの国王陛下がご活躍なされたという戦ですな。大魔導師である陛下がほぼお一人で敵軍を打ち払う、まさに『破軍』と呼ぶべきご活躍をされたとか、パルス殿下も『鬼族の町』での『大規模討伐』は強力な魔法を使われたそうですし。力を受け継がれる御子が多いとは、リューン王国は安泰ですな」
あー、この馬鹿貴族、ナロキが気にしてることを言っちゃった。ナロキは兄弟の中で一人だけ魔法の才能が少ないのに。
「そうですな、正嫡の姉上たちはもちろん、他の姉上たちも優秀ですので」
「もう、なんでナロキは謝っちゃうかな」
丸ごと借り上げた宿の貴賓室に入ったとたん、ナロキは日課の素振りを始めちゃうけど休めばいいのに。そんな事より、きちんとさっきの事を確認しないと、ネーザルに注意されてたのに何であんな事しちゃったのか。
「だって、御母様が、御姉様達がご迷惑をかけたならしっかり謝った方が良いって」
ナロキが素振りを続けながら言って来るけど、あー王妃様か。
王妃様は男の子のナロキだけがお気に入りで、いっつも自分の部屋に呼んで可愛がってるもんな。私や御姉様達も実の娘なのに、声もかけないし見向きもしないっていうのにさ。
まあ、私達の事を気にしないのは陛下もそうだけどさ、陛下は体が弱いから、私もナロキも式典の時に遠くから見た事しかないし。
元気だったころは御姉様達とお茶会をしたりしてたらしいけどホントなのかな。
でもいいモン、私は御姉様達や側妃の人達にかわいがってもらえてるし、でも、御姉様達も、三人の側妃様達も、みんなナロキを一緒に連れてくとよそよそしいんだよね。
ミムズやディフィーなんかのお姉さま方付きの連中まで、ナロキのいる時といない時で出すお茶やお菓子まで違うし、もう臣下のくせに、まだナロキは王族のままなのに。
「アクラス姉様は国王になられるのだから、臣籍に下る僕は、父上の唯一の息子として姉上たちを助けて補佐できるようにならないと。だから少しでもお役に立てると思って」
「もう、次からは政治とかに関する事は、付いて来てる秘書官とかに確認してからにしてよね。王妃様は政治にはほとんど絡んでないから、勘違いしてることだってあるかもしれないんだから」
ネーザルに言われなくても、あそこで謝るのは拙いよね、お世話になったぐらいの感じでよかったのに。
「そうだな、気を付ける」
うん、ナロキは素直なのが良いよね。
「しかし、侯爵も、我が国の魔法を気にするのだな」
そりゃ、陛下がお一人で敵軍を撃滅したって話は有名だから、この国だけじゃなく他の国からも魔法関係の留学とか研修の希望が来てるし。
そう言えばこの領地からの留学生は、最初の予定者と変わったんだっけ、確か元々は家臣筆頭で魔法でも有名な家の末娘だったけど、その家に問題が出て、あまり名前の知られてない家の息子に変わったんだっけ。
「そんなに気にしなくてもいいじゃない、ナロキはその分、槍や剣の才能があるじゃない。まだ六歳、私たちは秘術で体は人間の十歳くらいになってるけど、六歳なんてエルフで言ったら赤ちゃんみたいなものだよ、なのにもう兵士とかと撃ち合えるようになってるんだから。ナロキなら剣聖にだってなれるよ、だからハイ」
人差し指を剣で少し傷を付けてから、血が出てきた指をナロキの方に差し出す。
「オピオそれは……」
「いいから、強くなれるおまじない」
御姉様達がいつもそう言って、姉様達同士でやってる事だもん。ナロキだって兄弟なんだからやってもいいよね。
「でも、それは、御姉様達、王家の女の子だけの」
「ミムズとか、プテックとかディフィー達もそれにエア達男の子もやってる事だもん」
なのに姉様達は、ナロキがいる時はやらないし、ナロキにだけはやってあげないんだよね。だからその分、私がやってあげないと。
ほんとにこれで強くなれるかは分からないけどさ。でも、続けるようになって、ナロキの剣がどんどん良くなってる気がするし、やっぱりこれからも続けなきゃ。
それだけじゃなくて、ナロキの事をもっとみんなが認めるようにしなきゃ。
そのためにも、この国の事を調べなきゃ、ネーザルや御姉様達がこの国やこの領地の事を気にしてるなら、私がその理由を見つけて、それを使って交渉すればナロキの立場をよくできるかも、でもどうやって調べれば。
そう言えば、さっき考えてたこの領地から留学生を派遣するはずだった家、元々は侯爵家の外事担当もしてたんだっけ。それなら色々と情報や伝手があるかも、一度決まった留学を断るくらいだからその家にはよっぽどの事があったんだろうから、王族の立場で資金提供とかをすれば、調べて貰えるかも。
確か、その家の名前は……
一応、リューン王国王家の構成を紹介させてもらいます
第八代国王 イツェリス・ラメディ・リューン(エルフ)
王妃 カヌラ (隣国の王女、人族)
側室一位 セリック(リューン王国の侯爵令嬢、エルフ)
側室二位 シスカ (リューン王国の元近衛騎士、エルフ)
側室三位 テッテ (リューン王国の元近衛騎士、エルフ)
以下、子供は生まれた順
第一王女 アクラス 継承権一位 母は王妃 ハーフエルフ
第二王女 パルス 継承権二位 母は王妃 ハーフエルフ
第三王女 セレン 継承権七位 母はセリック エルフ
第四王女、エリア 継承権八位 母はシスカ エルフ
第五王女 フリマレ 継承権九位 母はテッテ エルフ
第六王女 エピン 継承権三位 母は王妃 ハーフエルフ
第七王女 アミン 継承権四位 母は王妃 ハーフエルフ
第八王女 オピオ 継承権五位 母は王妃 ハーフエルフ
第一王子 ナロキ 継承権六位 母は王妃 ハーフエルフ
というのが、リューン王国の公式発表での内容になります、このほかに王には姉夫婦や従兄弟夫婦とその子などが居ます。
詳しくは、サミューの過去の話で出てきますが、そちらを知らなくても楽しめるよう(知っていると別な視点で楽しめるよう)に今後書いていく予定です。
R5年6月6日 後書きを追加しました。




