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601 ペテン師の忠告

「御主人様、お客様です。テトビ様がお見えになられていますが、どうしますか」


 話し合いの後、ハルとアラに新しい魔法の呪文を教え終わったのに合わせるかのように、サミューがペテン師の来訪を伝えてくる。


「テトビか、入れてくれ。それとサミュー、出来れば何か飲むものと摘まむ物を頼む。あいつは酒が入ってた方が、よく舌が回るからな」


「分かりました、部屋に備え付けのお酒とおつまみを用意します、御主人様はお茶、いえ寝る前ですから白湯にしますね」


 俺の返事に合わせて、サミューがドアの方へと戻り、ペテン師を招き入れてから、給湯室の方へと向かう。


「どうも旦那、この部屋はどうですかい」


「ああ、くつろがせてもらってる。それでテトビ、なんでお前はこの町に居るんだ」


 どう考えてもタイミングが良すぎると思うんだけどな。


「へい実はですねえ、前回の一件で旦那に付き合わさせて頂いたおかげでして」


「俺のだと」


 それって、どいう事だろ。


「ええ、ムルズであっしは旦那にくっ付いて色々、あちらこちらを回らせて頂やして、たんまり仕事をさせていただきやした。それもありやして、あの国の方々や神殿の方なんぞに、役に立つ使いぱしりだと覚えて頂けたようでして。今回も、あの国出身の聖職者様が御用でこちらに来るのに、護衛として『百狼割』の旦那に話を持って行ったついでに、あっしも付いて来たって訳でして」


 あの国出身の聖職者でって。


 そうか『巡検使』の二人、王女様とデカメロンさんか、俺の行動のサポート役って事だから、そりゃ俺より先にここに来ててもおかしくはないか。とはいえどうやって俺たちの行き先を、あ、もしかしたらマコトさん経由かな。


 まあ、それなら話は判るか、王女様なら俺が案内に使ってたテトビの事はいくらか知ってるだろうし、死んだ事になってるあの人じゃ他に使える伝手が無くてもおかしくはないか。


「待て、『百狼割』達も居るのか」


「へえ、今は神殿の依頼で『鬼族の町』とこの町を行ったり来たりしてやすぜ。あの町にまだアンデッドが残ってねえかって、念のため調べる事になってるらしいでさ。こういうのは何度も神経質なくらいに調べるもんでしょうから」


 そうか、アンデッド対策は『鬼族の町』の『迷宮核』にアンデッドが登録されないってのが目的なんだから、一匹でも打ち漏らしがいれば拙いけど、それって悪魔の証明になっちゃうもんな。


 アンデッドがいるって証明するなら、一匹でも見つければいいけど、居ないって証明するのはさ、探し方が悪くて見つけられなかっただけかもしれないから、何度も何度も繰り返し探して、これだけ探しても見つからないのだから、もう居ないはずだと推測するしかないもんな。


 そのためには、見つからない前提の地味な作業でもサボらないでやる真面目さとか、隠れてそうな場所を見つける探索の技術とか、迷宮の知識とかいろいろ必要そうだもんな。


 その点『百狼割』の所はチンピラみたいな連中ばかりだけど、仕事に関しては真面目だもんな。『鬼軍荘園』の鎮圧戦や『蠕虫洞穴』の攻略なんかでは、地味な作業を色々やってもらったし。それに『百狼割』や『黒鋼剣』なんかはあの時の『大規模討伐』に参加してたから『鬼族の町』の事も知ってるだろうから。


「俺達が街に入った際に、ずいぶん冒険者が多いと思ったがその関係か」


 結構な数の連中がこっちを見て噂話をしてたからな。それこそ『鬼族の町』の『大規模討伐』があった時より人がいるんじゃないのかと感じたくらいだしさ。


「ああ、それですかい、そいつは別件ですね『鬼族の町』の方は、侯爵家はもちろんこのお国や神殿なんかも、念入りに調査をしてもう大丈夫だろうと判断してやして。今回の調査はまあ、念のためと言いやすか、新しい聖職者様の練習みたいなものも兼ねてやして、規模も小さめで、怪しい所や以前に見落としがありそうな探しにくい場所を確認するって感じですんで。『百狼割』の御一同と、こっちで声を掛けた信用できる少数の冒険者だけでやってやすから」


 そうなんだ、なんか別に必要だからやってるって訳じゃなさそうな。


 もしかして『巡検使』の彼女達が、名目上は無関係の俺と同じ場所に居るのに適当な理由を作ったのかな。あからさまに俺に便宜を図る様な事をやってたら、俺が『勇者』だって感づかれそうだし。


 しかし、あの冒険者の数が別件ってどういうことだ。


「それならテトビ、この町に集まってる冒険者連中の目的はなんだって言うんだ」


「それに就きやしては、あー、旦那の所のお嬢さん方はお下げになった方が良いかと、ちょいとアレな話になりやすんで」


 テトビがチラリとハルやミーシアの方に視線を向けて、言いよどんだけどこれは……


「失礼いたします。もしも、その不都合が、わたくしとシルマ家の関係に関する事でしたら、どうか奴隷などにお気遣いなさらず。私共が現状を把握し主のためにより良い働をするためにも、遠慮なくお話しくださいませ」


 一応このペテン師が俺の客って事に気を使ってか、ハルが丁寧な態度でテトビにお願いすると、テトビはサミューの運んできた酒をちびちびと数口飲んでから、小さく頷く。


「分かりやした、それじゃお話ししやすが。どうも、怪しい噂が流れていやしてね、『地虫窟』の『鎮静化』をすれば、その功績でシルマ家の権益や知行、お役目なんぞを丸ごと貰えるってな内容でして」


「あり得ませんわ、そんな事、シルマ家の知行はこれまで何代にもわたって侯爵家に忠節を尽くし、戦においては武勲を、政務においては十分な功績を上げてきたその褒美として頂いたもの、たった一度の失態では削られる事はあっても全てを召上げになるなどという非常識な事があり得るはずが。まして権益につきましては、侯爵家家臣筆頭の地位を使ったものとはいえ、あくまでもシルマ家が他家と結んだもの、それを主家が取り上げられると言うのでしたらまだしも、他者に与えるなどと。それほどの、取り潰しも同然の処分など、謀反を起こした家のような扱いではありませんの」


 テトビの話の内容に、ハルがまた興奮したように顔を赤く染め、羽を震わせながら、思わずといった感じに普段通りの口調でまくしたてる。


「まあ、そうでしょうやね。普通に考えていくらヤバイ『迷宮』を『鎮静化』したって言いやしても、それだけでシルマ家ほどの地方貴族の名門が持つ全部を丸っと渡すなんてのは、普通に考えてありえやせんや。戦闘だけに長けた何処の馬の骨とも分からねえ奴に、広い知行地やら大きな町の代官職、侯爵領府の対外交渉官筆頭、武官筆頭の地位なんぞを与えちまいやしたら、どんなやらかしをするか分からねえじゃねえですか」


 こうやって説明されてみると、ほんとシルマ家って貴族の家臣としては大きな家なんだな。


「普通ならたとえ大きな功績でも、小さな領地を与えて、まずは様子を見やしたり経験を積ませるもんでしょうや、そうでなきゃよっぽどの補佐役を付けるかでしょうが、そんな人材いりゃあ、領府で引く手数多でしょうからねえ」


 ああ、まあそうか、要は体育会系というか、スポーツ選手をいきなり会社役員とか子会社の社長にするような物だもんな。才能のある人も中にはいるだろうけど、まったくの畑違いの役割になるんだから、看板にしてってのもあるだろうけど。まあテトビの言いたいことは判るな。


「それに、所領や知行の安堵ってのは、御主君のお役目ですからねえ。明らかな罪がありゃあともかく、欲を見てやらかして力を失ったくれえで、地行や権益を全部取り上げるなんて言う、御取り潰しみてえなマネをやらかしゃあ。御家臣勢も安心してられねえでしょうから、命もかけれねえですし、いざって時に備えて公金のちょろまかしや賄賂を集めてでも隠し資産を作りたくなるでしょうや」


 そういや日本史で御恩と奉公ってやったな、封建制は領地を与えて保証する代わりに、忠誠を誓って戦力を提供するんだったか。


 ああ、営業先で年配の役員さんが、終身雇用と年功序列があったから昭和のサラリーマンは24時間戦い会社のために死ねる企業戦士になったんだとか言ってたっけ、聞いた時は寝ずに働くなんてどんな地獄だよって思ったけど。


 封建制の場合だと、支配地の保証って言う報酬があるから頑張るのに、それを簡単に取り上げられるんじゃ、そりゃやる気がなくなるから、真っ当な経営者としてはやらないはずか。俺の会社のリストラやらかした経営陣に聞かせたい話だな。


 いやでも、それなら。


「その噂は、デマって事か、なんでそんな話が広まってるんだ」


「ガセネタってのは間違いねえでしょうね。実際に侯爵家は否定してやすし、とはいえそこまで行かなくても、こんなうわさが流れるくらいなら、それなりの褒賞は頂けるんじゃねえかってのが大半の考えでしょうや。まあ本気で信じてる連中もそこそこ居るようですがね。何せ噂の出所が当のシルマ家だってんですから」


「な、なんですって、ありえませんわ、なぜシルマ家のものがそのような……」


「どうも、跡目争いの関係みてえですねえ、シルマ家は生き残った中で最年長のエル・シルマってのが継ぐだろうってのが、大筋の見方で、侯爵家はもちろん他の家臣の家々もその腹積もりだったようでさあ。今はまだ、やらかしの罰としてシルマ家の登城禁止、家督と知行の相続は保留、役職は代理を立てて役宅は封鎖って事になってやすが、『鬼族の町』の『大規模討伐』での功績もあって、近いうちに相続を認められるだろうって感じだったんですがねえ」


 確かに、『鎮静化』に向かった際にそんな風な話を聞いたかもしれないな。


「ところが、エルと年子のガル・シルマってのが、外から金と戦力を連れて帰って来きゃして、一部の分家や郎党がそっちに着いたんでさあ。更には他のお子様方も何人かが欲を出して跡目争いに名乗りを上げてるらしく。んで、跡目を継ぐのにふさわしいってのを示そうと、どなた様もこぞって、『地虫窟』を攻略しようと、それぞれの自称候補者が戦力を集め出しやした。なんでも、先代の死体のそばにゃ、それさえ示せば誰でもシルマ家当主になれる秘宝があるって話ですぜ」


 その秘宝って、『黒羽の手帳』の事か、誰でも当主になれる、確かにハルに聞いた話を考えれば……


「で、それを手に入れりゃ、自分もシルマ家当主になれるんじゃねえかって、大昔にシルマ家の親戚筋から嫁を貰った事のある他領の騎士や地方貴族の分家なんかが、自前戦力を連れて集まってきてるらしいんでさ。しかも、その噂を流し始めて、さらに勘違いを煽ってるのが、どうもガル・シルマを支援してる分家や郎党らしいんでさあ」


 ん、なんでガル・シルマが、そんな噂を流してるんだ。競争率を上げてる様なもんだろ。


「まあ『小鬼煽って、竜玉奪う』なんて言いやすからねえ。多分そういった連中が命懸けで『迷宮』の奥から秘宝を持ち帰った所を、襲って奪うなんて考えてるんでしょうや。ついでに秘宝を争って、お互いに『迷宮』内で潰しあってくれりゃ、エル・シルマや他の候補者も何人かは死んじまうかもしれやせんし」


「そんな非常識な事を、おにい、いえガル・シルマがしているだなんて」


 たぶん『火中の栗を拾う』の、やらせる方みたいな例え話なのかな。聞いててもセコイ話に聞こえるけど、確かに危険を冒さずに利益を得て、敵対勢力を弱めれるってのは悪くない狙いなのかも。


「まあ、この手の秘宝みたいなのは、血筋ですとか、独特のスキルや職がねえと使えねえってのが大半の話ですから。シルマ家本家の直系以外の連中は骨折り損のくたびれ儲けってなりそうですし、そこでガルに襲われたりしちゃシャレにならねえでしょうねえ」


 うーん、こうなると、競争率が高そうだな。そういった連中の誰よりも先に『黒羽の手帳』を確保して、なおかつガルやもしかしたら他にもいるかもしれない、強奪狙いの連中をやり過ごして持ち帰らないとならないって訳か。


 それが出来れば、ハルはシルマ家の……


「それでなんですがね、こういった攻略争いみたいな事になりやすと、どうしても『迷宮』でおっちぬ連中が増えやすんで、今の雇い主様が気にしてるんでさあ、死人が増えりゃ『迷宮核』にたんまり霊気が流れ込んで『活性化』しちまうんじゃねえかってね」


 ああ、言われてみればそのリスクも確かにあるのか。


「今のこのお国は、例の奢侈禁止令の煽りで、景気が悪いですからねえ。あぶれた冒険者が色んな連中に雇われて、『地虫窟』に集まって来てるらしいですぜ。中には実力不足のくせに、金に釣られたバカも結構いそうでして、まあそのうち肉壁か生餌になるのがオチでしょうが」


 奢侈禁止令、なんだそりゃ、聞いた事がないけど。


「そのお顔は御存じなさそうですねえ、まあ今回はタダでお教えしやすが、この国は1,2年前に代わった新宰相様が、贅沢は敵だってな感じで奢侈禁止令ってのを出しやして、高級な娼館や飲食店、奴隷商を始めとしやして、貴族向けの宝飾品店や仕立て屋なんかまで摘発されやして、幾つかが潰れて、そのあおりで取引のあった商会や個人の商店、工房なんぞも、困窮して、冒険者への素材関連の依頼が減ってるんでさあ。」


 なんだろ、江戸時代にそんな事があったような気がするな。


「宰相様はそういった、店が接待やら賄賂やらの腐敗の元になるって言い分でして、実際摘発された店で敵対派閥の貴族がしていた密会なんぞをしていた来店記録や、服や宝石なんぞの贈り物に手紙なり賄賂なりを仕込んでたって証言が、出てきたらしいですぜ。その証拠のおかげで、結構な数の貴族や直轄騎士の御家がとり潰されたらしいですが、それを逃れようと、宰相派閥の貴族に賄賂が集まってるらしいでさあ。ああ、そういやシルマ家が失敗した『大規模討伐』を始めた理由も、賄賂を払いすぎて、予算が足りなくなったのを、採集品を売って穴埋めしようとしたかららしいですぜ」


「そ、そんな理由で、わたくしたちの人生は狂ったと言いますの…… 賄賂、お金……」


 あ、ハルが呆けた顔をしてる、やっぱり聞かせない方がよかったんじゃないかな。


「おっと、話が逸れやしたね。先ほども言った通りあっしを雇っているお方は、というかその上役の方はこういった諸条件が重なると、『迷宮』での死人が増えやして『活性化』になるんじゃと心配して居やして。『百狼割』の旦那も『鬼族の町』が終わりやしたら、後から来る神殿の御方々なんかと『地虫窟』の攻略に向かう事になりやすが、旦那にはその前に事前調査って形で『地虫窟』に入ってほしいんでさあ。もちろん出来る限りの支援は雇い主が約束してやす。あっしが調べてくる情報や、消耗品の提供、装備品の手入れをする職人の手配なんぞですかね。ついでに、こちらの領主様から旦那の行動の自由に関しても言質を取ってるらしいですぜ」


 なるほど、そういう理由で俺を支援する口実にする訳か。


「雇い主としやしては、できるだけ深い階層の情報を持ち帰ってほしいそうですが、もちろんそのまま『鎮静化』してしまっても、シルマ家の秘宝とやらを手に入れて持ち帰っても構わないそうですぜ。そうなりゃ報酬も弾むってなお話でやした」


 なんかそれって、死亡フラグっぽく聞こえるんだが。


「ああ、それと、もう一つご報告しなきゃなんねえ注意点がありやした。とある、やんごとない御身分の方が、この地域に来てるらしいんで、巻き込まれねえようにして下せえ。何せ旦那は身分のある方と絡むとロクな事にならねえですから」


 身分のある人、ミムズ達とか、マインとか、王女様とか、確かに言われてみると碌な事になってない気がするな。


「とはいえ、旦那はアソコの人とはご縁があるようですし、どうなる事やら」


 酒を飲みながらテトビが何か呟いてたようだけど、小さな声過ぎて聴きとれなかったな。


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