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598 宿探し


「それじゃあねリョー君、元気でね。何か珍しい食材を見つけたりしたらカミヤ君に知らせてくれれば、僕の方にも連絡が来るはずだからよろしくね。あ、そうだ、言い忘れてた、リョー君も解ってると思うけどこの世界の人たちの感覚は、現代日本人の僕達とは違うから、思わぬことで侮辱されたとか決闘みたいなトラブルになったりするからさ気を付けてね。過去には得意満面でハンバーグを王様に出したら、国外追放されかかった勇者なんてのもいたらしいし」


 え、ハンバーグでそんな事に。


「こっちの世界じゃ、正式な会食や宴席、賓客を持て成す時なんかで、お肉を出すならメインは丸焼きとか、大きな塊肉のローストを切り分ける。でなければ分厚いステーキとか、それがダメなら大きめに切った肉を丁寧に長時間煮込んだシチューとかなんだよ」


 へえ、そんな決まりがあるんだ。


「街中の労働者向けの大衆食堂とか酒場、屋台で出すならともかく、貴族や金持ち相手に、小さく切り分けた肉とか薄切り肉、ひき肉なんかを出すのは相手を軽視してるって取られるんだよ。例外は味を楽しむ食品というよりはレベルを上げるための薬扱いされる、高レベルの魔物肉なんかだけど、それも普通は煮込んだシチューで食べたりするかな」


 軽視してるって、そんな話になるの。


 重役の接待でファーストフードとかファミレス、チェーンの居酒屋に連れて行ったみたいな感じになるのかな。


「ソーセージみたいな腸詰なんかもひき肉で作るから使わないし、保存食なら生ハムみたいな大きな塊からそぎ落とすようなのを使うし、それも前菜だったり、軽食なんかで、メインにはならないかな。貴族でも普段の家族だけの食事とかなら使う事はあるようだけど、賓客をもてなすのには使わないね」


「なんでそんな風に取られちゃうんですか」


 美味しいのにハンバーグもソーセージも。


「丸焼きをするとなると、家畜や家禽なら絞めたのを丸々使うからさ、取り除く内臓なんかを除けば、肉の一部を売ったり別な料理に使いまわしたりは出来ないし、魔物肉を使うなら大きな目立つ傷があると見た目が悪いから、倒し方にも気を使う必要が有るんだ。こう料理の際に切る予定の部分だけを攻撃して、小さな傷で済むよう切るよりも刺す、それも一撃で致命傷なんてのが理想だね」


 ああ、確かにせっかくのインパクトのある丸焼きをやるなら、見た目も気にするのか。


「塊肉を使ったりステーキにする場合にしたって、牛肉とかだと肉質の柔らかい品種を、餌とか環境なんかも肉牛用の育て方をしておかないと、農耕用とか乳牛を潰した廃牛とかのお肉だと硬くて焼いただけの塊じゃ食べられないし、脂や肉汁が少なくて美味しくないんだ。それに良い肉牛でも柔らかい部位は限られるから、一頭から取れるステーキ肉の量も大体決まってるしね。豚や鳥なんかだって焼いて塩コショウやソースをかけるだけでおいしく食べれるとなると、それ用に美味しくなるよう肥育してなきゃだめだし、餌が豊富な秋以外でも美味しく脂が乗っているようにするってなると、放牧だけじゃ無理だから飼料もたくさん使うしね」


 そう言えば、前にハルもそんなこと言ってたっけ、確か地球でもアンガス種だったかな。肉質の柔らかい牛の品種が出来るまではビーフステーキはあまり食べられなかったんだっけ。今じゃ和牛みたいにもっと肉の柔らかい品種が色々あるらしいけど。


「魔物だって、ローストやステーキでそのまま食べれるくらいに柔らかくて肉質が良い、臭みのない魔物なんて限られるから、わざわざ探して狩る必要が有るし」


 俺はこっちの魔物を食べたことがないから分からないけど、野生動物なんだから臭みが強かったり、肉質が固いなんてのは普通にあるのか。


「要はね、焼くだけのシンプルな料理で舌の肥えた貴族が美味しいと感じる、素の肉の味だけで十分に楽しめる、そんな高品質のお肉を貴方のために用意しましたって言うアピールなんだよ」


 そうか感覚的には新鮮な刺身とか活け造りみたいな感じなのかもしれないな。


「シチューなんかの煮込み料理は、柔らかい肉は用意できなかったけれど、時間と手間をたっぷりかけて柔らかくしたってなるから、ちょっと落ちるかな。普通は歓迎するときは丸焼きやステーキ、相手が歯の弱い病人や老人なら、あえて煮込んでさらに柔らかくして出すかなって感じだね。身内だけの普段の食事とか、正式じゃない場で、気を使う必要のない相手をもてなす時なんかは、いろいろ手の込んだ料理を出したりもするらしいけど」


 あれか手間暇かけて調理して美味しい料理をって言うよりも、貴重なもの高価な食材を用意することで、金をかけたって見せるのか。


 そう言えばファンタジー小説なんかでもあったりするよな。


 お菓子は貴重な砂糖をこれでもかと使った、甘ったるければ甘ったるいほど高級品扱いになるとか、高価な香辛料を、肉の味が分からなくなるくらいに大量に使うのがおもてなし、なんてネタが有ったりしたっけ。


 大抵は、転生とか転移した主人公が日本の味付けや料理でそれを変えていくって感じだよな。


「後は安全対策ってのもあるみたいだね。大きな塊肉を客の前で切り分けて皿に乗せて、容器からすくったソースをかけるって言うのは、主催者も客も同じものを食べるから、特定の誰かを狙って毒を入れるって言うのが難しいだろ、客たちが見ている前で細工するのは難しいしさ」


 ん、なんか急に話がおかしくなってきたぞ。


「自爆みたいに自分も含めて全員死なせるつもりならソースに細工なんてのは出来るかもだけどさ。ステーキにしても、塩コショウを軽く振るだけで肉の味を楽しむってなると、調味料でごまかせないから、毒がかけられてれば、肉とは違う臭いや味が肉の表面に付いてて気が付きやすいだろ。だから毒殺を疑ってそうな客の相手をする時なんかは、メインの肉以外も味の分かりやすい、小麦だけのパンと塩を振ったサラダだけを出して、疑われないようにするなんて事もあるらしいよ。逆にそういった時じゃない毒なんて盛られるはずがないって信用関係のある人間だけの席なら、メインの肉の付け合わせって形で、向こうでも見る洋食って感じの肉料理とかも付いたりするそうだけど」


 毒か、まあラッテル家みたいな毒見役が必要な世界だもんな。そういう事もあるのか。


「でもって、小さく切り分けたり薄切りにしたお肉とか、ひき肉なんかはね。ステーキに出来る柔らかい肉を用意できなかったのはもちろん、短時間の調理で硬さを気にせず食べれるように小さく薄くした、要は手を抜いたって風に見られかねないんだよ。更に悪くなった肉から食べれる部分だけ切り取ったとか、大きな塊肉やステーキを切り出して形を整える時に出た切れ端を集めたなんて事もあるし、ひき肉までなると、ほんとに硬い悪い肉をマシな肉に混ぜ込むなんて事もあるらしいしさ」


 そう言えば、洋食店でもハンバーグよりステーキの方が高い事が多いし、焼肉の食べ放題でも、厚切りの肉とかは高めのコースじゃないと出てこなかったりするか。


「日本人の作るハンバーグだとつなぎにパン粉とかタマネギのみじん切りを入れたりするから、かさ増しって見られるし、下味もしっかり付けたりするし混ぜ込むからから、毒が入っても解りづらかったりする」


 うん、確かにそれじゃ王様にハンバーグを出したら怒られるだろうな。親友って呼べるくらいに仲が良くて信用されてたら違うのかもしれないけど。


「そういう事もあるからね、何か向こうの物をこっちに持ち込むときは、それがこちらの文化的にアウトじゃないのかを、神殿や案内役の魔法石に確認してからの方が良いよ」


 そっか、確かにラクナに聞けばわかるのかもしれないな。


「そういうので失敗して、グレちゃう『勇者』もいるらしいからね。ナマヤス君も『知識チートだー』なんて言って、そんな感じのやらかしをした事があるみたいだし。リョー君がグレて『勇者』の評判を落とすような事をしだしたら、僕は君を殺しに行かなきゃならないから、そんな面倒なことにならないようにしてほしいかな。それじゃまたね」


 笑顔で物騒な事を最後に言ったマコトさんが手を振って去っていくのを見送り、振り返るとレイドの街が少し先に見える。うん、今聞いた事はあまり気にしないでおこう、やらかさなきゃ殺されないんだろうから。


 しかし久々に来たな、レイドの町(あそこ)では色々あったよな。


 元は、ユニコーンの薬をリューンの王女様に届けるために来たのに、ラッテル家の騎士達と揉めて『地虫窟』に『青毒百足』を狩りに行って、ミムズとゴブリン退治に行って、なぜかオーガ退治までして、それが終わったと思ったらトーウをいきなりラッテル家に押し付けられて、そのまま『鬼族の町』の大規模討伐に参加して、アンデッド騒ぎでマイラスを追い込んだら、ラッドやミムズ達と『鎮静化』までやることになってって。


 それだけじゃなく、あの町の近くにはハルの実家のシルマ家が代官を務める町もあって、ハルとミーシア、サミューはそこの町で売られてたんだよな。


 そんなのもあって、レイドの町に居るころは、ハルの実家のエル・シルマにハルたちの買戻しの話をされたりしたし。


 なぜか、リューン王国の王女様に絡まれたりスカウトされかかったりしたよな。そう言えばリューンの王女やミムズ達と言えば……


「どうかされましたか御主人様」


 思わずサミューに視線を向けていると、それに気づいた彼女が不思議そうに首をかしげて聞いてくる。


「いや、大したことじゃない、マコトさんからは色々と料理の事を教えてもらったのかなと思ってな」


「ええ、それはもう、ただ狩りをした『迷宮』の特性上、どうしても魚や魚介類などの料理ばかり教わることになりましたので、御主人様に振る舞えないのは残念ですが」


「アラたち、皆が楽しめるのなら悪くないだろ、それに俺だっていつかは食えるようになるんだし、それまで腕とレパートリーを磨いていてくれ」


「リョー行きますわよ、ここに来るまでの道中で聞いた話では、大分冒険者などが集まっているそうですから、早く行きませんと宿が取れなくなるかもしれませんわよ。それに『地虫窟』に向かう準備も必要でしょうし」


 そうだな、情報収集も必要だよな。


 実際にハルが警戒している通りガル・シルマが『地虫窟』に入っているのか、何処まで行けてるのかなんてのも解れば、この先の行動方針を決める指針になるか。


「そうだな、ここにいつまでも居ても仕方ないだろうし、街に入ろう」







「おい、あれ、もしかして……」


「まさか『虫下し』か、いや侯爵領から追い出されたって話じゃなかったか」


「そうじゃない、確か『蜻蛉落とし』は荒稼ぎしたから出て行ったはずだ、ほらアイツはボスを倒して『鎮静化』した上に、ボスの素材やら、新種オーガやらを売ってぼろ儲けしたらしいし、侯爵家や神殿からの報酬もあったそうだからな」


「『不浄切り』で間違いねえよ、ほら一緒に居るのは、例のダークエルフの子供とラッテル家の奴隷だろ、てか女が増えてやがる、もげやがれハーレム野郎が」


「『百足殺し』のやつまさか、『地虫窟』に狩りに行くつもりか、てなりゃアイツの後について行けば『青毒百足』だって……」


「おい、急いで番頭に連絡しろ、近いうちに『迷宮』大物の素材が上がるかもしれないぞ、『虫下し』は特大の魔物も入る『アイテムボックス』を持ってたはずだ。また『青毒百足』みたいなのが売りに出た時に、資金が足りなくて買えなかったじゃ笑えないぞ」


「親方に連絡しないと、強い魔物の素材の欠片だけでも手に入ったら、いい作品が作れるぞ」


 馬車に乗って街中を進んでるだけで、冒険者だけじゃなく、商人や職人らしい連中まで、こっちを見ながら何か話しだしてる。

 指まで差されちゃってるけど、考えてみれば色々やらかしたというか、『青毒百足』や『巨鬼蜻蜓』なんかを売ったりしたから、今回も儲け話になるんじゃないかって思われても仕方ないか。


「お兄さん、うちに泊まらないかい、サービスするわよ。何せうちの宿は娼館も兼ねてるから、たまには自分の奴隷以外の娘も味わってみないかい」


「いやいや、うちの宿は料理が自慢だ、『迷宮』の安い虫料理じゃねえぜ、牧場から仕入れてる肉料理だ」


「うちは、造りのしっかりした離れがありますよ、どれだけ乱痴気騒ぎをしても音は漏れないですし、のぞく対策もしてますから、夜は楽しみ放題ですよ」


「私共の宿は、先日良い酒を大量に仕入れまして、今でしたら格安でご用意できますよ」


 な、なんだ急に宿屋関係らしい連中が寄ってきて営業を始めてるけど、どうしたって言うんだ。しかも売りがどれも俺的にNGなのばかりって。


(まあ、冒険者など金さえあれば、肉、酒、女などにつぎ込むような者が多いからのう。お主の事を詳しく知らぬのなら、そういった売込みになるのも仕方なかろうて)


 いや、でもなんで俺にだけこんなに積極的なんだ、冒険者なんてそこら中にいくらでもいるだろうに。


 いや、俺が前回の時に稼いでたのは知ってるだろうから、チップとか追加サービスとかで儲けれる良客だと思われてるのかな。


 それとも名前が売れてるから、宣伝になるとかか。


(こういった冒険者向けの宿は酒場の掲示板を貸し出して冒険者向けの依頼を出して居ったり、積極的に依頼の話を持っていく『斡旋屋』をして居ったりするからのう。仕入れの商人などとも取引があるじゃろうから、冒険者との仲介なども取引の交渉をするうえでの手札になろうて。高級食材になる魔物などなら、お主から直接買えるかもしれぬしの)


 ああ、なるほど、俺を押さえて置けるって言うのは、とっても実用性があるんだ。


(それにのう、実力があり敵には容赦しないという評判の付いた冒険者が泊まっておるとなると、他の冒険者が大人しくなるし、盗人なども入りにくくなるのじゃ。例えば『臓華師』などと呼ばれておるミカミの目の前で、犯罪を働けばどうなると思うかの)


 そりゃあ、悪党退治って名目で生きたままバラバラにされそうな気がするな。うん、きっとすごく楽しそうにやるだろうな。


(という事じゃ、おぬしも最近は大分名が売れておるし、恐れられてもおるからのう。宿とすればお主の機嫌を取っておくだけで、防犯対策になるという訳じゃ)


 ああ、俺って、そんな風に思われ、いや確かに噂話とかだと結構酷かったりするもんな。


 とは言え、これどうしよう、何処の宿が良いのか分からないし、下手な所に行くと用心棒代わりにされたり、余計なサービスを押し付けられて、ぼったくられそうな気もするし……


「へへ、旦那、お困りのようですねえ、どうですかいおすすめの宿があるんですがねえ」


 人に囲まれて停車している馬車の、御者席の横にいつの間にか来ていたペテン師が、いつも通りの胡散臭い笑みを浮かべて話しかけてきやがった。


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― 新着の感想 ―
[一言] う詐欺さんが来ると情報収集する手間が省けて楽っすね、 ハル推しなので攻略後のデレが楽しみです
[一言] 安定安心のペテン師テトビ この作品で一番好きなキャラかもしれない。
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