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61 青毒百足

御無沙汰してます。お待たせしました。

「確かにこれは、『青毒百足』の牙、すこし意外であったがキッシュ卿、あなたの勝利だ」


 キッシュから大きな牙を受け取ったミムズが大きく頷いて勝利を宣言すると、キッシュ達が安心したのか大きく息を吐く。さらに人数が減ってるな、鎧は所々が砕けてたりヒビが入ってたりしてるし、槍なんかは全部折れてる。


 苦労したんだろうけど、ザマアミロとしか思えないな。こいつらのせいで俺はアラを。


「ところで、リョー殿はどうなされたか」


「さて、どうなったかは、だが二人ではあの『迷宮』で生き延びるのは難しかろう」


 ずいぶんと言ってくれるよな、お前らがハメたんだろうが、まあ取りあえず行くか。


「勝手に人を殺さないでくれないか。まあ実際に殺したつもりなんだから、出てくるセリフかも知れないが」


 人のごった返す広場に一人で入っていくと周囲がざわつきだす。


(歴代の『勇者』にも多かったが、お主も意外と演出好きじゃのう。もっと早く来ても良かったじゃろうに)


 いや別に、登場が決まるタイミング狙ってたわけじゃないよ、『迷宮』を出てから急いで帰ってきて宿屋にも寄ってたらこの時間になったってだけで。


「リョー殿、ご無事だったか」


「馬鹿な、あの状況からどうやって。ありえない、生きてるはずが」


 おうおう、やっぱり悪役は自分で自分の悪事を漏らすもんなんだな、このまま時代劇みたいに全部解説してくれないかな。


「こうやってここに居るのが生きている証拠だろうが、ミムズ、悪いがその牙は俺のだ、俺が『青毒百足』を倒した」


 ほんとならもっとカッコいいポーズが付けられれば様になるんだけどなー、俺じゃあたいして見栄えのする装備が無いからな。


「い、言いがかりだ、証拠がないだろう」


 テンプレなセリフを頂きました、『証拠~~』まさか生で聴けるとは思わなかったな。


「確かにそうだ、この牙はキッシュ卿が持ってこられた。自分たちが確認できるのはそれだけで、『迷宮』の中で何が有ったのかは、確認のしようがない。だからこそ誰が『討伐証明部位』を持ってきたのかが重要となる。リョー殿もそれは解るであろう」


 そりゃまあ、ミムズの立場じゃそうだよな。でも。


「証拠ならある、そこを空けてくれ」


 見物の為に集まっていた冒険者をよけてスペースを作ってから、『アイテムボックス』の蓋をあける。


「こ、これは」


「ばかな、こんなことが、ありえん」


 アイテムボックスから取り出したのは、『青毒百足』の死体を丸ごと一体分、これ以上の討伐証明は無いだろう。


「大顎を見てみろ、牙が片方無いだろう、切り口にその牙を当ててみればいい」


 ミムズ達を、ムカデの頭の方へ誘導していく。


「確かにピッタリとはまる。キッシュ卿これはどういう事か」


 俺に言われた通りに牙を当てて確認したミムズが、後ろからついてきた騎士達を睨みつける、これで勝ったか。


「こ、これは我らが倒した魔物だ、我らが倒して牙を切り立ち去った後で、死骸を回収したに違いない」


 うわー、そこまで言いがかり付けてくるか、これは確かに証明のしようがないよな。


「姉さま、プテックが、訊いて、いい」


 今まで黙っていたプテックがミムズに話しかけたけど、どうしたんだ。なにか解決策でも思いついたのか。


「プテックか、いいだろう」


「ありがとう姉さま、どうやって倒したの」


 ミムズから許可を貰ったプテックがキッシュの方を向いてそう聞いてるけど、なんて答えるんだろ。


「もちろん、我ら一同の協力と勇気が有っての物だ。『迷宮』に入ってからというもの、多くの魔物に囲まれ、幾人もの仲間を失いながら我らは戦い抜いたのだ」


 何だろう、聞いててイライラしてくるな、そりゃあ確かにこいつらもがんばったんだろうけどさ、犠牲も出てるだろうし武器もボロボロだから、でもやって良い事と悪い事が有るだろうが。


「武器は、何を」


「もちろん騎士の武器、槍と長剣、後は従者達の弓矢と戦斧だ」


 腰の剣を抜くけど、刃毀れだらけで今にも折れそうだな、太くて丈夫そうな剣なのによっぽど使い込んだんだな。


「魔法士はいる。『魔道具』は」


 なにを聞きたいんだろう。


「いや、我らに魔法を使えるものはいないし、『魔道具』も持ってはいない」


 まあそうだろうな、こいつらは金がすぐ必要だって言ってたんだから、『魔道具』を持ってたら真っ先に換金してるだろうし。


「貴方は、どうやったの」


「俺が前衛で戦い、アラが後方から魔法で支援してくれた」


「もっと上手い嘘を吐けよ、たった二人でこの大物を倒したって言うのかよ」

 

 離れたところから冒険者が怒鳴って来るけど、外野は黙っててほしいな。


「武器は、何」


「アラは、細剣だ。俺はこの短剣を使った」


 俺の言葉に、外野から笑い声が上がるけど、これは多分信じてくれてないんだろうな。


「持っても、いい」


「ああ、構わない」


 俺が差し出した『切り裂きの短剣』を取ったプテックが躊躇せずにムカデに切り付ける。


「な、どうなってるんだ」

「すげえ切れ味だ」

「ありゃ、よっぽどの業物か『魔道具』だ」


 やっと笑い声が止まったか、まあ逆にどよめいてるけど、これは不味いかも、『切り裂きの短剣』を狙って襲ってきたりしないよな。


 今度は、自分の斧を抜いて振り下ろしてるけど一回目は表面が少し傷ついた程度、二回目はもっと食い込んだけど、肉まで届いてない『生物切断能力上昇』が無かったら絶対勝てなかったな。あれ、でもそれだとアラの攻撃って……


「止めは、なに」


「頭に傷をつけて、そこに火炎魔法を叩きこんだ」


 別に『魔道具』ってことは言わなくてもいいだろう。


「そう、姉さま、倒したのは彼」


「馬鹿な、これだけで何が分かると」


「プテック説明できるか」


 いきなり俺の味方をしてくれた獣人少女に苦情を付けるキッシュを止めてミムズが問い質すけど、意外な展開だな。


「魔物の傷口、浅めの鋭利な切傷と細くて深い刺傷だけ、長剣や槍の傷じゃない」


「確かに、長剣や斧で叩き切ったのならもっと傷口が潰れているはず、それにこの細さは騎士槍では入らぬ」


「この傷と一緒、頭に魔法の跡もある」


 プテックの付けた傷と、魔物についていた傷を見比べたミムズが頷いてからキッシュに向き直る。


「キッシュ卿、これはどういう事か御説明願えるか」


「確かにこの魔物を倒したのはそこの冒険者、彼の言うとおり我らは牙を掠めっ取ったにすぎませぬ。ですが、無理を承知でお願い申し上げる、どうか、どうか、この場で我らの薬を買いあげてはいただけぬか」


 キッシュを始めとする全員がその場に跪くけど、ミムズは止めずに見下ろしてる、うわ無茶苦茶怒ってそう。


「ずいぶんと無体な事を言われてるとは思わぬか。薬の買い取りとその受付に有っては、畏れ多くもアクラス殿下とパルス殿下より、このミムズが一任されて差配しておる。まして殿下の口に入るものをだ。この件においてミムズを謀るという事は、リューン王家を謀ると同じ事と覚悟の上の所業か」


 こえええ、むちゃくちゃこえええよ、冷たい表情で睨みつけてるし……


「全て承知の上の事。如何なる罰であってもお受けいたす。ですが、我らは何としても主君の下へ金を届けねばならぬ」


 ずいぶんと自分勝手なこと言ってるなこいつは。


「おい、生きて帰れると思ってるのか、俺達にあれだけの事をしたんだ。街中はエルフ達の目が有るが。俺達がいる間に外に出てみろ、必ず追いついて皆殺しにしてやる」


 こいつ等はこっちを殺そうとしたんだ、やりかえされても文句は言えないだろう。


 カミヤさんに言わせれば、敵に無条件の情けをかけるのは、優しいんじゃなくて甘いだけだそうだし。たとえ負けても許されると舐められたら最後、後から後から敵が湧いて来るって言ってたから。


 だからここは、絶対に許す訳には行かない。しっかりとケジメを取らせるぞ、うん、よし。


「冒険者殿の御気持ちはもっとも、だが半月、いいや十日待って貰いたい、役目を果たした後は必ずや冒険者殿の下へと参上しこの首を差し出すゆえ」


 なに、このメロスみたいな展開、これじゃあまるで俺が悪役みたいじゃ。


「リョー殿、いったい何があったのだ」


「『迷宮』の中で牙を奪った時、俺達に兎の血を浴びせて来たんだ」


「な、それは、キッシュ卿それはまことか」


 うーん切れてるなミムズさん、この世界にMPKって言葉が有るかどうかは解らないけど、普通に考えれば犯罪行為だよな。


「いかにも」


「なんという、いや、そもそもリョー殿はよく『迷宮』から脱出できたものだ、一体どうやって」


「大した事じゃない、血の付いた体の部分を切り落として、すぐ回復させただけだ」


「な、それは」


 あーミムズが呆れてる。まあそうだよな俺だってきつかったもん。


 虫共は一番近い血の匂いに集まるってラクナが言ってたから、とりあえず血まみれの片腕を肩ごと切り落として手近な魔物の群れに投げる。『超再生』ですぐに回復するのに任せて、囮の腕に群がる魔物を横目に『青毒百足』を回収して、脱出したんだけど。


 兎の血に大量に集まった魔物に囲まれるたびに、太もも、大胸筋、わき腹と同じようにやっていったんだけど、まあアラが泣く泣く。


 俺の事を、何より大事に思ってくれてるアラの目の前で、俺が次々に手足を切り落として行ってるんだから、まあ仕方ないよな。結局泣き疲れて宿で寝てるし。


「回復だと、それはまさか」


「悪いが、提出用の『聖馬の不苦無痛丸』はあと一つしか残っていない、文句はあっちに言ってくれ。俺としても自分たちの命が最優先だからな」


 部位欠損は普通の傷よりも回復に使うMPがデカいし、結局は囮に吊られなかった魔物も結構いて、行きよりもかなり戦闘したから、何度も強烈な攻撃を受けてかなりのダメージを食らったおかげで、HPもMPもギリギリまで追い込まれたし、更にアラまで毒を食らったから。


 正直な所、略称『馬のふん』の正体を知っているだけに使うのにはかなり抵抗が有ったけど、命には代えられなかったから、苦かった、むちゃくちゃ不味かった……


 俺に特殊な趣味や嗜好があれば、また違ったのかもしれないけど、俺はノーマルだからさ……


 いや、やめよう、あれは無かったことにしてすぐに忘れよう、アラには絶対にあの薬の正体は話さないぞ。


「な、たった一つ、いや、一つだけでも手に入るだけ幸いと考えるべきであろうな。だが残った一つは今ここで貰えるだろうか」


「ああ、もともとそのために、この街に来たんだからな」


『アイテムボックス』から最後の薬を取り出して渡すと、ミムズはそれを丁寧に包んでプテックのカバンに入れる。本当はもう一つ残ってるけど、これはいざという時のためのストックだし。


(とりあえずはこれで、目的は達成じゃな)


 まあ、そうだよね、とはいえ問題は……


(それで、こ奴らをどうするのかの)


 そうだよな、俺達の前にいるこの連中、さっきからずっと跪いているこのむさ苦しい集団をどうするか。



H27年5月26日 誤字、句読点修正しました。

H26年6月1日 句読点修正。

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