596 とある元勇者の事情 3
「それじゃあ、女戦士の方はどうなんですか」
確か、自分より強い男に惚れるって言う、よくあるネタだったんでしょ。
「強いってだけで、結婚相手になるなら、じゃあナマヤス君より強い相手が後で出てきたらどうなると思う」
え、それは……
ライオンとかだと、オスの戦いで勝ったらハーレムを奪えて、メスも普通に受け入れるんだっけ。
「人間性によるんじゃないですか」
「そもそも強いってだけで惚れるようなら、そもそも好みストライクゾーンにはいる相手が周りに居なかっただけで、実際には惚れっぽいんじゃないかな。強い人間が人間性が良いなんてわかる物じゃないだろ。まあ、強い相手のタネならより強い子供が出来るって言うのは、この修道院を見ればわかるだろうから、自分より強い相手に惚れるって言うのは、優生思想を持ってる女の子だったら合理的なのかもしれないけど。後はまあ、才能や血統の底上げなんかもあるけど、ステータスやスキルの強い人間はそれ相応の修練をしてるものだろうから、お互いに鍛え合うにはちょうどいいってのはあるかもしれないけど、その相手が努力なしで力を貰ってる『勇者』じゃね。ステータスが良いだけで技や技術を人に教えられる物じゃないからね」
となると、練習相手としては不適だし、タネに関してはさっきの子爵みたいに目的の人数の子供が出来れば、男にはもう用がないって事もあり得るのか。
「まあ、他にも何人か女の子がいたみたいだけど、結局、『勇者』の稼ぐお金とかが目的だってあからさますぎて、さすがのナマヤス君も気づいちゃったみたいなんだよね。そんなこんなで、こっちの人間限定で女性不信になっちゃって、彼はここに閉じこもって、神殿の種馬になっちゃったてわけさ」
「随分と、異性運の悪い話ですね。なんでそんな子ばかり集まっちゃったんですか」
女難の相でもあったのかな。
「面食いで、選り好みが激しかったみたいだからねえ。本当ならさ、『勇者』になったばかりの頃に神殿が紹介してくれる従者の候補は、派遣してくる各国で『勇者』というか、一般的な日本人についてとか過去の『勇者』の言動なんかの教育も受けて、最大限『勇者』に配慮するように言われてくるから、そういった事故は起こりにくいらしいんだよ。まあ、それぞれ自国の紐付きだから、政治が絡んだりすると面倒になるらしいけど、身分とか信条なんかも事前チェックされてるから、引退後、誰かの勢力に『勇者』が取り込まれても、国を挙げてきちんと裏工作なんかもしたうえで、歓迎して囲い込んでくれるから、ナマヤス君みたいに捨てられるなんて事はよっぽどじゃなきゃないからね」
そう言えば、たいていの『勇者の従者』はそういう形で派遣されてきたエリートから始まるんだっけ、俺の場合は弱い『勇者』だと、何があるか判らないからって紹介してもらえなかったんだよな。
まあ、下手をすればそのまま拉致されて、アイテムの材料とか、ガチの種馬にされかねないって話だったから仕方ないんだろうけど。
「だって言うのに、ナマヤス君は顔が好みじゃないって言って、大半を断っちゃったらしいんだ。選んだ相手も何人かいたらしいけど、自分で買った奴隷や、神殿とは別口で近づいてきた貴族の娘なんかを仲間にしたら、首にしちゃったらしいんだよね。大抵こうやって派遣される子達は、人品や実力だけじゃなくて、見た目も選考基準になってる、美男美女ばっかりだし、召喚された『勇者』の年齢性別、神殿がそれとなく聞き取った嗜好なんかも考慮して選んでるのにね。何が気に食わなかったのか、ボクなんて誰を連れていくか絞るのが大変で、できるならほとんど連れていきたいくらいだったのに」
そっか、最終的に『勇者』に選ばれて従者になる必要が有るんだし、その後を考えれば引退後に囲い込んだりタネを貰ったりするのも狙いの内なら見た目も気にするよね。
「魔族全体の期待を背負って、色んな国の妨害をはねのけてまで候補になった、ダークエルフの子なんて、『年増はいらね』なんて言われて、すごい顔色して帰っていったってすごい噂になってたよ。他にもやり捨てみたいなこともあったらしいし、まあ、やりたい盛りで人生経験の殆どない、高1でこっちに来ちゃったらそうなっても仕方ないのかもしれないけど」
うわあ、それはナマヤスさんに同情できなくなってくるな。
もしも、神殿の用意してたレールに乗ってれば、ナマヤスさんはこうはならなかったのかもしれないな。
しかしなんで、人のプライベートの話を延々聞かされてるんだろ。
「どうして、この話を私にしたんですか、そもそも、なんで私をここに連れてきて彼に会わせようとしたんですか」
どう考えても、ナマヤスさんのあの状況を見せてこの説明がしたかったようにしか見えないんだけれど、何が目的なんだろ。
「別にリョー君だけじゃなく、新しい『勇者』が来たときは、僕はここに案内する事にしてるんだよ。愛だの恋だのに目がくらんで相手に丸め込まれると、こういう事になるかもしれないって言うのをさ。そう言った事を、この世界の住人にとっての『勇者』の利用価値や、感覚の違いなんかを認識して覚悟したうえで、引退の時に残るかどうかを決めてもらいたくてね。カミヤ君やアキエちゃん、僕みたいにそこら辺を割り切ってくれてるなら、心配ないんだけどね」
割り切るって、ああマコトさんはそう言えば、愛人たちとの関係を、金銭とか頼まれた内容に応じた年数で決めてるんだっけ、愛人契約って確かにドライな関係だよな。
「カミヤ君は自分を種馬だって割り切ってるから、囲ってる側室とか妾なんかは友好関係にある貴族との政略結婚とか人質、後は現役『勇者』時代の仲間らしいけど、そっちも役得がらみだったらしいし、それ以外の相手に関しては利権や金銭さえもらえれば誰にでも種を蒔くし、家臣や領内の有力者の娘なんかも求められればタネをわたして、領軍の戦力アップなんかもしてるらしいし」
ああ、そう言えばあの人そんなこと言ってたな、どんなにストライクゾーンと離れた相手でも、仕事と割り切ってイケるって……
「逆にアキエちゃんは、欲望に忠実過ぎて愛情なんてどうでもいいって感じというか、愛情なんて信じてないって子だから、自分の相手は全員奴隷で、自由にしたりするのは飽きてもう要らなくなったって時だし、それぞれの子にアキエちゃんが好みの役を与えて、ずっとその演技をするように命令して自分の喜ぶ言動しかさせてないからね。まあそんなのだから、こっちに残った方が、彼女個人としては正解なんだろうけど。他にも知り合いの『元勇者』には奴隷なら、〇桁〇リも凌〇もリョ〇だって合法だー、なんて叫んでた子も居たけどさ」
いや、それは大概過ぎるような、まあ今までも色々話を聞いてはいるけどさ。
「私がナマヤスさんみたいにならないようにですか、でもなんでそんな事を……」
なんか、感じ的にそこまで他人の事を心配しているように見えないんだよな。
「なんでって言われても、迷惑だからかな。ナマヤス君みたいに引き籠って大人しくしてくれるのならまだましな方だし、さっき言った奴隷好きの子とかアキエちゃんみたいに、日本じゃアウトでもこの世界のルール上では合法になる範囲内でだけ好き勝手をしてたり。カミヤ君みたいに、きちんと大義名分なりを用意したうえで他が文句を付けられない形でやらかすのなら、僕は何も言わないんだけどさ」
いいのかよそれ、いやこの世界の感覚ではって事か。
「残って失敗した『勇者』の中には、自暴自棄になって大暴走しちゃって、自分を捨てた彼女の居る街を焼き払ったとか、自分を利用した国一つに個人で戦争を仕掛けてたとかなんてのもいるしさ。そうでなくてもヤスエイ君みたいに『勇者』の特性やネームバリューを使って、犯罪者を手下にして問題行動を繰り返したなんて事されると、困っちゃうんだよね。あんまり『勇者』と絡みのない土地とかでそんな事が一度でもあるとさ、他の『勇者』も一緒くたに見られちゃって、その土地で活動しにくくなっちゃうんだよね」
ああ、偏見を持たれちゃうのか、まあ確かに大きな被害が出ちゃったりしたらそうなっちゃうか。
「おかげで食材の情報があるのに、ボクが探そうとその土地に行っても協力して貰えなかったりさ、ボク好みの男の子が困ってて、そのまま貸しを作ってうちの子に出来そうなチャンスだって言うのに、『勇者』には関わりたくないって他の冒険者に助けを求めちゃったりしてさ、あれは惜しいことしたなあ、結局冒険者が失敗してその子も死んじゃったし、もったいなかったな」
結局この人も判断基準がそこなのか。
「というわけでね。高ステータスもあるし、ここだったら自分でもうまくいくはずなんて根拠のない変な自信で残られて、失敗したくらいで自暴自棄になられると、こっちが迷惑なんだよ。だから残ろうとする『勇者』には現実を見せて覚悟を決めてもらいたいし、ナマヤス君みたいな失敗しちゃった子はやらかさない様に、監視も兼ねて、慰める為に差し入れをしてるんだ。本音を言えば、本人の希望通り生魚が当たってそのまま、死んじゃっても良いくらいなんだけどね。本人は死んでもいいって言ってるくせに、毒なんかを飲む度胸はないからさ」
うええ、無茶苦茶いってるよ、いやでも言いたいことは判ったかな。そっか、ナマヤスさんが危険な刺身を食べてるのはそれでなのか。
俺が『勇者』を引退するとき、俺はどうするべきなんだろう。いや、みんなを……




