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595 とある元勇者の事情 2

「ごめんねリョー君、ナマヤス君は情緒不安定だけど、普段はあそこまでじゃないから油断しちゃってたよ。どうやら、いつも以上に溜まってたみたいだねえ」


 ナマヤスさんの為に料理をしながらマコトさんが誤ってくるけど、あの人はどうしたんだろう。


「溜まってたって、ストレスか何かですか。普通に考えればストレスフリーでヤリたい放題な三大欲求を溜め込まずに済む環境でしょうに。『禁欲』に縛られてる私から見れば、夢のような異世界スローライフハーレムって感じなんですけれど」


 閑静な場所で飢える心配もなくて、魔物に襲われるんじゃないかと交代で起きて見張りをしながら夜を過ごすこともなくて、その気になったらいつでもウェルカムで手を出して問題にならない美女に囲まれて、のんびり園芸をしてるとかさ。


 爆発しろとか言いたくなるところなのに、何が不安なんだよ。


「三大欲求ぐらいしか満足できてないからねえ。ほら、自己啓発セミナーとかで習ったりしなかったかい、欲求には段階があって、いわゆる三大欲求っていう生理的欲求、次に安全の欲求ってきて、周りに受け入れて欲しいって言う社会的欲求から、認められたい誉められたいって言う承認欲求へ、でもって自己実現欲求とかいうのに続くってやつ。あ、間違えた、生理欲求だけじゃなく安全欲求も大丈夫ってさっき言ったっけ」


 ああ、あの手のセミナーへ自主的に行った事はないけど、誰かに連れていかれた時にそんな話を聞いたような。


「安全までですか、この場所なら彼女たちに受け居られてますし、尊敬も受けてるのではないですか」


 ライフェル神殿にとっては元『勇者』なんてさ。


「そうでもないよ、さっき言っただろ、彼女達にとってはタネをくれる『勇者』なら誰でもいいんだよ。ナマヤス君も種馬の一人でしかないから。ナマヤス君自身それは判っているというか、そうとしか見られてないと強迫観念に駆られてるから。信用しなければ受け入れられるはずも、尊敬されるはずもないだろうし。どこまで行っても彼女達にとって彼はタネの素でしか無くて、彼にとってはムラムラした時に使うオ○○、いや手足があるからラ〇ド〇ルかな、ともかくお互いにそんな認識なんだろうさ」


 いやその言い方は……


「まずないだろうけど、もし本当に彼女達から尊敬されてたとしても、ナマヤス君が自分でそう感じられなければ、満足感は得られないだろうしね」


「なんでそんな風になってるんですか、そもそもこちらに残ると決めたのは彼本人なんでしょう」


「まあ、そうだねえ、あの子は結構早いうちにこっちに残るって決めちゃったから。確か何処だかの子爵令嬢に丸め込まれたんだったかな。その子爵家はその令嬢を含めた四人の娘に、あの子の子供を十人くらい産ませてから縁を切ったらしいよ」


 縁を切ったって、なんでそんな事をしたんだ。『勇者』を押さえておけば、色々と役に立つはずじゃ。


「子爵の血を引く『勇者の子供』として、一から教育してきたなら、子爵家の手ゴマとして自由に使えるだろうけどさ、受けてきた教育も常識も思想もこちらの世界の住人とは全く違う『勇者』は、いつ何をしでかすか分からないだろ、抱え込み続けるのも政治的なリスクがあるのさ。まあ、捨てられても報復はされないだろう程度には、行動パターンを理解されてはいたんだろうけどね」


 何をするか分からないってそんな猛獣か何かじゃあるまいし。


 いや『勇者』ほどの力があれば、感情に任せて、それこそヒステリーみたいな状態になったりすれば、シャレにならない被害が出かねないのか。


「後はまあ、子爵家程度が単独で『勇者』を独占し続けて、あまりに多くの『勇者の子』を産んでしまうと、他の貴族家からの嫉妬と警戒で潰されかねないからね。いくら武力があっても、それだけで上手く行かないって言うのはリョー君にも判るだろ。経済面や利権、政治的に圧力をかけられるのを子爵家は恐れたんだろうね。それに生まれた子が戦えるようになる前に潰されるかもしれないしさ」


 なんかなあ、この世界ってホント世知辛いというかなんというか。


「ついでに、その前後で他の仲間、まあ全員女の子で、ナマヤス君と肉体関係を持ってたそうだから、ハーレムて言った方が良いんだけど、その子達にも次々と逃げられというか捨てられちゃって、それですっかりこの世界の住人に対して不信感を持っちゃったらしいんだよね」


「一体何やればそんな事になるんですか」


 ハーレム全員から捨てられたって、そんな追放系とかNTR系のネット小説じゃあるまいし。


「まあ、『勇者』になって、すごい力を手に入れたからって性格や人間性が変わるわけじゃないって事かな。ヤスエイ君を知ってる君ならよく解るだろうけど。力のせいで性格が歪んじゃって、尊大な態度や自分勝手な行動を無意識にしちゃうことが多いしね。よっぽど意識して言動を変えていかないと、もともとのコミュ障やKY、モラハラ体質なんかは、簡単に変えられないからさ。異世界に来たとか、力を貰ったってだけで、そうそう自分を変えられるモノじゃないよ。それで変われるなら、向こうにいた頃に別なきっかけで変われてるはずさ。まあ、世の中にはそのきっかけが本当になかった人もいるんだろうけどさ」


 つまりは、ナマヤスさんは、その変われなかったって口なのか。いやでもだからって、『勇者』ならそれだけで優遇されそうだけど。


「ナマヤス君を保護するときに、何があったのか神殿が情報収集してたのを、ステミちゃんに聞いたんだけど、最初はお気に入りの奴隷の子に逃げられちゃったらしいよ」


 奴隷に逃げられたって、この世界の奴隷制を考えると、不可能な気がするんだけど。


「こっちに残る事にして少し経ってから、『君はもう奴隷なんかじゃない、僕の大切な人だ』みたいなことを言って奴隷から開放したら、次の日には、いくらかの装備品や金銭と一緒に居なくなっちゃったらしいよ」


 うわあ、そりゃ解放されれば『隷属の首輪』の制約もなくなるんだから逃げれるんだろうけど、でもだからってそんな。仲の良くなった奴隷を開放するなんて、ファンタジー小説とかだとよく聞く話だと思うけど。


「まあ、普通に考えてさ、そこそこ裕福な商家の娘として生まれたのに、事業に失敗で売られることになった、順当に生きていればそれだけで幸せになってたはずのお嬢さんが、奴隷として買われて、しかも、その日に初めて会った男に初めてを奪われて、その後もちょくちょく相手をさせられてたら、主人をどう思うかって言うとね」


 ああ、それはまあ、たしかに、そう言う境遇で自由になれば、寝てるところを刺されなかっただけましと言うべきか……


「ナマヤス君自身は、裏切られた、俺の事を好きでずっと一緒だって言ってたのにって、そう思ってるみたいだけど、そもそも奴隷なんてのは『隷属の首輪』の『懲罰』があるから、主の命令にはよほどの理由がなければ逆らえないし、無礼だという理由で殺される事や、ただ機嫌が悪いって理由で殴られる事だってあるんだから、相当の覚悟があったり、主が舐められてない限りは、普通の奴隷は主の望むような言動をするし、主を好きかと聞かれれば、どれほど嫌いでも大好きと答えるに決まってるのにさ。それを真正直に信じて、裏切られたって言ってもね」


 それは、そうだよな。この世界の奴隷制で考えれば奴隷と主には、絶対的と言える支配関係が、どう考えても越えられない壁があるんだよな。


 もしかしたら俺だって、みんなからは……


「後は、盗賊に襲われた時に助けられて、好きになったってハーレムに入った子とか、自分より強い男に惚れると公言してて、あの子に負けて仲間になったって女戦士とかも居たみたいだけど、結局は最後には愛想をつかされて離れて行っちゃったそうだし」


 なんか、どっちもテンプレっぽい感じの話だけど、それでも逃げられちゃったのか。


「まあ、この世界で個人の強さなんてのは、向こうで言うところの経済力とか財力みたいなものでしかないからね。向こうの世界の女の子が、性格に難があるけどお金持ちな男の子で玉の輿狙ってる時に、別口で性格がよくて妥協できる程度にお金持ちな彼氏を捕まえられそうなチャンスがあったらどうすると思う」


 状況次第だろうけど、後の方がマシっぽく感じるかもな。


「向こうで高収入の男がモテるのと一緒で、こっちじゃ強い人間がモテるだけ。平民の娘が高ステータスの冒険者を捕まえれば、また何かあっても安全だし、周りとの交渉でもマウントを取れるし、もしもその冒険者が盗賊まがいの相手だとしても、気に入られておけば自分達だけは襲われないかもしれないでしょ」


 なんかあからさまな例えだな。しかし、力が金に勝るってどこの世紀末世界だよ。


「気持ちはどうなんですか、少なくとも一人は命を助けられて、彼の事を好きになったんじゃないんですか」


「死にかけた時に好きになったって、要は吊り橋効果でしょ、あれって長持ちしないって言うじゃん。そもそも助けられてその場で好きになったって事は、あの子の性格も言動も知らないままって事でしょ。例えばヤスエイ君みたいなのが気まぐれで、女の子の顔が好みだったから、盗賊から助けたなんて事もあり得るんだよ、そんなので好きになって、ずっと一緒になんて事になっちゃったら人生終わりだよ」


 吊り橋効果ってあれか、恐怖とか不安を感じて心拍数が上がってるのと、恋愛感情でドキドキしてるのを勘違いしちゃうとか。命の危険を感じると本能的に子孫を残したいと思って、恋愛意欲が高まるとかって、マンガなんかで見たような。


「ついでに言うとね、『勇者』の勇気ってすごく軽いんだよね、だからあんまり有難みが無いって言うかさ」


 勇気が軽い、それってどういう事だ。


「例えばさ、東京でゴキブリが出たって女の子が騒いでる時に丸めた雑誌と殺虫剤で退治するのと、ガタイのいいチンピラ数人に囲まれてる女の子をかばうの、もしくは北海道の田舎でヒグマとばったりした時に、自分が囮になって女子を逃がす、どれが一番キュンと来ると思う」


「それは多分、ヒグマ、チンピラの順でしょうけど、それがどうしたんですか」


「じゃあなんでキュンとなるのかな」


「それは、女の子に迫っていた危険が大きいからでしょう、命を助けられたというのは重要でしょうから」


「それもあるけどね、助けに行く方の覚悟の大きさって言うのも関係すると思うんだよ。後の方に行くほど助けに行った男の子が巻き込まれて、より深刻な被害を受けるリスクが、要は助けに行く時の覚悟や勇気の大きさが変わってくるんだよ。それは助けられた方からすれば、自分の為にそれだけのリスクを取ってくれた、自分にはそれだけの価値があるのでは、もしくは、助けてくれた男は他人の為にそれだけの事が出来る立派な人物だと、そう思っちゃうでしょ。重要なのは救助者と危険の差がどうなのかって事だよ、女の子に飛掛る柴犬の前に幼稚園児の男の子が立ちふさがるのと、大人のマッチョが立ちふさがるのじゃ、意味合いが違いすぎるだろ」


 なるほど、言われてみるとそんな風に感じるかも。大富豪が寄付したって言うより、みんなが街角に立って募金を集めましたって方が、なんか物語的にネタになる様な感じかな。


「でね、強い力を持った『勇者』にとっては、ゴブリンやオーガの群れを討伐するのも、盗賊団を殲滅するのも、ほぼノーリスクで片手間に出来ちゃうんだよ。だから覚悟も勇気もいらずに気軽に助けられる」


 別にそれはいい事なんじゃないのか、力が、というより余力があるからこそ人助けができるんだろう。


「もちろん強いことが悪いわけじゃないよ。でもね、そういった余裕があるからできる事って言うのは、いざって時に出来るかどうかわからないんだよ。さっきの例えならゴキブリは退治できても、チンピラの前には立てないみたいにね」


 そりゃ誰もが誰もケンカできるわけじゃないから、だからこそああいうタイプの連中が幅を利かそうとするんだし。だからと言っても、いざって時なんて『勇者』にそんな事があるのか。


「例えば、僕やカミヤ君みたいに別な『元勇者』とトラブッちゃった時とか、こっちの世界の人でも『剣狂老人』や『剣魔』みたいな『勇者』を殺せるような実力者に狙われたり、『彷徨種』のような強力な魔物と遭遇した時、『勇者』の力があってもどうにもならさそうな危機に直面した時にね、本当に勇気があるのか、それとも強さで調子に乗っていただけのビビりなのか、性根が解っちゃうんだよ」


 あー、そっか『勇者』だからって無双できるとは限らないんだよねこの世界、俺自身が弱いからそこら辺の感覚がなかったわ。


「そういう時に『俺に任せて先に行け』とか『倒してしまってもいいんだろう』なんて言って囮や殿をやれれば、胸キュン間違いなしだろうし、彼女の手を引いて一緒に逃げるとか、情けなくても頭を下げて彼女をかばえるくらいでも上出来、でも勝てないってなったとたんに、彼女を考慮しないで自分の全力で逃げ出しちゃったりしたら、幻滅だろう。実際にそういう事をしていなくても、カンのいい子なら付き合っているうちに、普段の言動なんかから、イザとなるとそういう事をやりそうな相手だってのが、なんとなく判ったりするから、そうなっちゃうとね」


 ああ、何気ない言動から本音が透けるなんてのは、営業の時なんかでもあったから、言いたいことは判るかな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] まぁどこの世界でも男女や人間のアレコレなんて変わらないでしょうしねー 強くなっても手札が増えただけでそこからどうなるかは自分次第 もし日本に帰れてもそこは変わらないんだから、今の世界で生き…
[一言] マコトさんは前に言った通り同意を得ずに男を襲う気はないんだろうけど嘘はつかずに女性不信に持ってってワンチャン期待してそうな気がする ナマヤスくんに関わってるのもそれっぽい 意図して狙ってるわ…
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