591 浜辺の報酬
「いやあ、このボス、弱いんだけどスキルが面倒なんだよね、まあ倒し方を覚えて、男の子で囲んじゃえば見ての通りなんだけどね」
マコトさんがのんびりと話しながら見つめる先では、十数人の男たちに囲まれ遠距離から袋叩きにされてるイソギンチャクの姿が……
「あのボスは、近接には強いけどイソギンチャクなだけあって動けないから、遠距離で叩けばこんなもんなんだよね。まあ、女の子だと、二つの特殊スキルのせいで気が付けば、触手の射程内なんてこともよくあるらしいけどね」
「『女性特攻』で効果が上乗せされているとはいえ、『魅了引寄せ』自体は、性別に関係なく男性にも効果があるはずですよね」
普通なら、女性ほどじゃないとはいえあの男達も魅了されて、触手につかまってるはずじゃないのか。
「忘れたのかい、あの子達は、みんな僕と契約を交わした契約期間だけの愛人なんだよ、僕との経験があれば、あの程度の魅了や催淫、快楽なんて全然大したことないからね。所詮は弱小迷宮のボス程度って事だよ」
それって、一体どんな……
いや、考えないでおこう、この人は契約を交わした愛人や恋人以外にはそういった関係にならない人だし、契約も不当な物じゃなく相手の希望をかなえる代わりにそれに見合う分の日数はってやつで、期間もしっかり守ってるらしいから。
「残念だけど、あのボスは食べれないし、素材としても大して役に立たないんだよね。せいぜい毒や溶解液くらいかな、ああリョー君の所なら少しの毒でも、武器に登録させて使い道があるんだっけ、ちょっと取って置いておこうか。まあ、ここはうちの子達に任せて、さっさと『迷宮核』を『鎮静化』させちゃおうか、必要量の食材は捕れてるんだから、腐らせる前に持っていかないと」
そう言えば、この人は元勇者とかにここの食材と届けたりしてるんだっけ、まあ日本人なら新鮮な魚介はうれしいんだろうな、たまに魚が嫌いって人もいるけど。
「さ、行くよ、ここから先は、水深が膝下くらいまでしかないから歩いていけるよ」
俺を案内するように『迷宮』の奥へと歩いていくマコトさんに付いて行くと、しばらくして『迷宮核』が見えてくる。
「ほらほら、早いところ『鎮静化』しちゃってくれよ。ボクがやってもいい事は何もないけど、キミは現役『勇者』だから『鎮静化』で若返れるし、それに君の『魔力回路』を作り直すのにも必要なんだろう」
あ、そこまで知ってるんだ、まあいいや、おかげでこうして『鎮静化』のチャンスを譲ってくれるんだから。
「ついでに今回はここで沸いたアイテムもリョー君に譲るよ。ここの『迷宮』は何回『鎮静化』したか分からないくらいだから、ここの『迷宮核』から出てくるものはほぼ全種類持ってる気がするしさ。それにお金や貴重な『魔道具』が欲しいなら、もっと強い魔物の居る『迷宮』を三、四個『鎮静化』して回れば移動を含めて二か月くらいで稼げるしね」
うわあ、チート勇者は言う事が、いや価値観が違うな。
俺とか普通の冒険者なら命がけで苦労して手に入れるようなものも、片手間で軽く稼げちゃうと。まあいい……
「それじゃあ、ありがたく」
目の前にある、エメラルドグリーンの『迷宮核』に手を触れる。軽くしびれるような痛みが一瞬走る、この感じだとやっぱりあんまり『霊気』は溜め込んでなさそうだな。
(やはり、数も質もそこそこ程度じゃのう)
ラクナの言う通り、数はそんなにないし小さいアイテムばかりだな、いやいや『魔道具』の場合、サイズじゃない効果だ。
とはいえ……
「これなんて、鞘だけだぞ、肝心の剣がないとか、ん」
潮吹きの鞘 LV1
海水生成 粘液生成 潤滑液生成 繊維溶解液生成(弱) 金属腐食溶解液生成(弱) 噴射 分離抽出 形状適合 刀身洗浄 刀身研磨 刀身修復(弱)
「これはサミュー用かな」
いや、思わず名前で口が滑っちゃったけど、アレだな、ローパーのイメージがどうしても頭に残ってるせいかな。いくら何でもこの武器の名前や効果を、女性に当てはめたりしちゃダメだよね。
(ふむ、こうして見ると悪い装備ではないのう。それぞれの生成効果は名前の通りじゃが、『噴出』は大量に圧をかけて液体を噴射するもので、殺傷力は低く攻撃としてはそこそこであっても、相手の動きを止めたり姿勢を崩すには有効じゃし、おぬしの指輪と同じように、魔法やスキルと併用して手数を増やすことも出来るからのう)
日本で機動隊とかの使う暴徒鎮圧の放水みたいなものかな。
(何より、後半の四つがよいのう。『形状適合』は納める武器に合わせて形を変えるモノじゃから、どんな武器にも使え、『刀身洗浄』と『刀身研磨』『刀身修復』はそのままの効果で、武器に着いた血や毒、腐食液などの汚れを落とし、刃を研ぎなおし、さらに破損した部分を魔力で再生し修復する。これならば錆びた武器でも時間を掛ければ復活するじゃろうし、研ぎ過ぎで削られた刀身が痩せる事もない。今は刃こぼれ程度の修復しかできぬじゃろうが、使い込みレベルを上げれば、折れた剣でも再生できるやもしれぬのう)
おお、これがあれば捨てられた装備を回収して再活用、いや修復して売るなんてのも出来たりするのかも。
「いやあ、ホントいいのが出たね、アタリだよこれ」
ん、マコトさんがそんな興奮するほどの物かこれ。
「『海水生成』と『分離抽出』でしょ、この組み合わせは海水を自由に作るだけじゃなくて、海水から抽出できる成分のうち好きな物だけを選んで生成できるんだよ。これがあれば天然塩と真水には困らないんじゃないかな、それに海水から取れる『にがり』うまくいけば『鹹水』なんかも作れるだろうし、肥料になる塩化カリウムなんかも行けるかもね。さすがに微量に含まれてる金属とかは、ほんのちょっとしか作れないだろうけどさ」
確かに、すごいな水と塩に困らないっていうのは、サバイバルでかなり有利なんじゃないだろうか。海で漂流したとか山で遭難したとかってなれば、安心して飲める水があるかどうかがかなり重要だろうし、塩と水があれば食料が手に入らなくても、それなりの日数生き残れるっていうし。
何よりうまい料理のためには、いい水といい塩は重要だよね。
「となるとやっぱりサミュー用かな」
普段は彼女に持たせて使って貰って、誰かの武器が痛んだ時は貸してもらうって形が良いかな。彼女の使ってる『焼灼の利剣』と合わせれば、コンロと水道が確保できたようなものだし。
(言い忘れておったがの、基本的には鞘に納める刀身部分しか修復は出来ぬゆえ、柄などが破損した場合や、鈍器や鞭などには使えぬゆえ、注意しておくのじゃぞ)
あ、そうなんだ、てことはサミューの鞭とか、トーウの爪、ミーシアの鉄球なんかには使えないと。
待てよ、塩を作れるなら、それを売っても良いんじゃないか、塩や香辛料で儲けるって異世界転移の小説であったりするよね。
いや、やめておこう、日本史や世界史とかだと塩って戦略物資だったりするし、国が専売してて国家予算の収入源にしてたりするから、宗主国への独立運動とか、王朝への反乱とかの一環として塩を作って売ったりなんてのもあったし、禁酒法時代のマフィアみたいに、塩の密売が犯罪集団の資金源になってたなんて時代もあったらしいから。
うん、下手にお手軽な資金源だと思って手を出すと、やばいトラブルに巻き込まれそうだからやめておこう。
「こればっかり気にしてても仕方ないな、他には何があるかな」
とりあえず足元の海水の中には、金貨と宝石、効果の付いてない宝飾品なんが数個、まあここら辺は今までも『迷宮核』から出てきて、活動資金になってきてたよな。たまにハルが欲しがったりするけど……
「ん、これは効果が付いているのか」
空泳の飾鱗LV1×3
飛行・浮遊・跳躍補助 泳力上昇
これは鱗、親指の爪くらいのサイズで宝石や貴金属みたいにキレイな感じだから、装飾品とか装備の飾りにする材料って感じかな。
普通に考えれば、一つはハルだろうけど、残り2つはどうしようかな。まあ、みんなと考えよう。
「さ、やる事もやったし、そろそろ帰ろうよ。早いところ届けないとせっかくの食材が痛んじゃうしさ。冷凍しててもどうしても少しずつ痛むのは防げないから、採れたての新鮮な魚介類なんだから、美味しいうちに料理して食べさせたいしね」
元勇者への差し入れって料理まで作るのか。
「ついでだからさ、届けるところまで付いて来て貰えないかな。リョー君所のメイドさんは料理が上手だから手伝ってくれると助かるし、それに僕のレパトリーを広める為にも、料理上手な人には覚えて貰いたいからね」
サミューに日本の料理をか、そう言えばカミヤさんの所でもいくつか覚えてたんだっけ、この間も味噌汁を作ってもらったし、うん、悪くないかも。俺は肉や魚は食べれないけど、他にも色々野菜料理もあるだろうし。
「それに、今のうちに見ておくのはリョー君の為になるだろうしね」
ん、見ておく、ああこっちの世界にいる『勇者』の生活とかそういう事か。まあ、とりあえずみんなと合流しないと。
「行ってきたけど、なんだこれ」
『鎮静化』し終わって、マコトさんたちと『フロアボス』を倒した小島まで戻ったんだけど、なんかスゴイ事になってるな。
「これは凄いね、僕たちがいない間にこれだけ仕留めて解体して処理したって、いやあ、やるやると思ったけどここまでなんてね」
マコトさんが感心したような呆れたような声で呟きながら見ている先じゃ、何本も立てられた丸太の間に張られた縄や網に大量の開かれた魚やイカ、剥き身の貝やナマコなんかが吊るされて干され、更にその横には樽が並べられて塩漬けにされてる。
それらにサミューやハル、アラなんかが魔法を使って、干してある生ものを乾燥させてたり、奥の方じゃ火を焚いて煙で燻して燻製まで作ってやがる。
ちょっとした水産加工場みたいだな。
「ここまでやってると、今日は身動き取れないかな。とりあえずこれ以上は食材を増やさない方向で、ここにある物を一晩掛けてある程度処理しちゃわないとダメだろうね。うちの子達も魔法を使えば行けるかな、多少品質は落ちちゃうけど、それをしないとせっかくの生鮮食品が痛んじゃうからね。てことで残りはこっちでやっとくからリョー君達は休んでていいよ」
腕まくりをしながら、楽しそうに、まだ処理が終わってない魚や貝の山に向かっていくマコトさんを見送ってから、皆の方に向かう。
「ただいま、とりあえず『鎮静化』は終わったから、明日にはここを引き上げて、そのまま数日中にこの『迷宮』を出て、漁獲品を届けるらしい」
あ、そう言えば。
「その届け物がすめば、マコトさんの用事は終わりらしいが、確かその後で行きたい『迷宮』があったんだよなハル」
ここに来る前に、戦利品の分配を話した後でハルが俺にお願いがあるって、言ってたんだよな。
「ええ、どうしても行かなければならない『迷宮』が、そこで確保しなければならない品がありますの」
なんだこの言い方、まるでゲームか何かのイベントみたいな、嫌々そんなこと考えてちゃダメかまじめな話なんだろうから。
「そうか、何処で何を探すんだ」
ハルの事だから、魔法関連の装備品とか、出なきゃ高価な宝飾品とかかな。
「目的地は『地虫窟』、目的の品は『黒羽の手帳』、シルマ家家督の証ですわ」
すいません、今月はもう一話更新できるかできないかといった感じです。
更新できなかった場合、次回の更新は来月1日の午前中、たぶん土曜なので遅めに起きた後の9時とか10時くらいでしょうか。
内容は、番外編で活動報告を見られている方は予想しているであろう回になると思います。




