6 魔の村
ちょっとグロ注意です、前回は書くの忘れてました。
お気に入り登録してた人が増えてて今日はルンルンです!
「はあ、はあ」
転げ込むように茂みの中へ隠れると、荒くなる息を無理やり押さえ込んで、静かに周囲の様子を探る。
「グガ、グララ」
「ギャガ、ギャグア」
すぐ近くから聞こえるゴブリンの声に背中を冷たい汗が流れるが、奴らはこちらに気づかずそのまま立ち去る。
(行ったようじゃな)
「ああ」
(惜しかったのう。あそこで首に一撃もらっていなければ十分にMPが持ったのじゃがのう)
ラクナの言葉に思わず首に手をやってしまった、傷はもう塞がってるけど、さっきまで千切れかけてたんだよな。
そう思った瞬間に全身がゾクリと震える、何度経験しても死に掛けるってのは慣れないなあ。
(それにしても、逃げる際に素早さのみを向上させて、少ないMPを有効に使うとは、お主も『闘気術』の使い方になれたようじゃのう、熟練度もだいぶ上がったしの)
周りを見回しながら耳を澄ませる、ゴブリンはいないな、食事にするか。
リュックから取り出したパンとリンゴに齧り付きながら残りを確認する。パンが三食分、リンゴが二個、カブと芋が三個づつ、所持金は殆ど残っていない。
『武具の社』を出て22日目、まだ神殿にはたどり着けていない。
あの後、最初の町についた俺は、武器屋がないために鍛冶屋に行って大金を払い、銅剣の研ぎ直しと強化を依頼し、予算内で上げられる限界のLV6にした。
まあ、そのせいでほとんど金がなくなり、宿は大部屋で雑魚寝、食事も安い物にした。せめて何か肉をと思っても、ゴブリンが家畜を襲っているせいで値段が跳ね上がり手が出なかったし。
そんな生活を続けながら野宿をしないよう、村や集落を縫うように旅を続けていたんだけど。
「村ごと避難って、どういうことだよ」
(仕方あるまい、あんなゴブリンがいるのでは農村の戦力など役に立つまい)
その言葉に、再び体が震える。
今まではゴブリンが少数なら必ず倒すことでレベルを上げ、『闘気術』の熟練度も上昇したことで、ゴブリンなら20体くらいまで、同時に相手にできるようになっていた。
まあ、ラクナに言わせれば、ゴブリンの20や30蹴散らせなくては冒険者ではないらしいが。
それでも、なんとかやっていけるんじゃないかと、自信も持ち出していたんだけど。
そんな俺が今日の目的地であった村に着いたのは、夕方の少し前くらいだった。
「誰も居ないな」
村の入り口から見回す分では人の姿はないね。
「他の村なら、自警団の連中がたむろしてるんだが、こんなんじゃゴブリンが来ても気付けないんじゃないか」
(そうだのう、近くの迷宮が活性化しかけておる時は、何処も守りを固めるものじゃが)
「まあ、とりあえず中に入ってみるか、ここに泊まるか野宿かしか選択肢はないんだし」
村に入っても人影はなく、微かに感じた異臭だけを手がかりにさらに奥へと進む。
なんだろこの臭い、出張の時に流しに出しっぱにしちゃった生ゴミみたいな。
あの時はキツかったな~、真夏だったから凄い見た目になってたし、そうそうこんな風に虫も大量に涌いちゃって、ん。
気が付けば周囲には大量の蝿、そしてかなり先には真っ黒にうごめく何かの物体。
ラクナの鑑定結果は、文字では表示しきれない大量の蝿ってなってるけど。
あ、あれはきっとこの村のごみ捨て場か、肥溜めだろう。
や、止めとこう、わざわさごみ捨て場を確認するためにあんな蝿の中に入っていく必要は……
頭とは反対に、足だけはゆっくりとそれに近付いていく。
あれは、あれは……
「グララララ」
横から響いた異音に驚いて飛び退くと、俺の頭のあった場所を斧が通り抜ける。
「ゴブリンか」
(他にも居るぞ)
ラクナの言葉に引かれるかのように周囲の家や物陰から、何体ものゴブリンが這い出してくる。
(倒すのは後じゃ、完全に囲まれる前に何処か1ヶ所を突破し、背後を取らせるな)
その言葉にしたがって、正面に駆け出す。
剣を抜くと同時に拳をつきだす。
指輪から小さめの炎が飛びだす。
熱を逃れるために一斉に飛び立った蝿を目眩ましにして、剣を振るう。
左右に手応えを感じながら駆け抜け、更に正面の一体を蹴倒す。
前方に居た最後の一体を突き刺し、引き抜くと同時にふり返る。
これで、後ろに回られることはなくなったな。
威嚇してくるゴブリンをラクナが鑑定し、結果を表示する。
「おい、なんだあれは」
(ゴブリンであろう、お主にはほかの何かに見えるというのかの)
「いやそりゃゴブリンに見えるが、おかしいだろあれ」
俺の見つめる先にいるあれは、どうなってるんだ。
ゴブリン LV18
技能スキル 片手剣
おい、おかしいだろ、どうなってるんだ18って、初心者が相手にするにはオーバースペックすぎだろ。
他のゴブリンが動かずにいる中、その一体だけがこちらへ向かってくる。
は、速ええ。
(何をしておる、魔道具で迎撃すればよかろう)
「ぐ、吹き飛べ」
指輪から小さめの火炎弾を連続で放つ。
よ、避けやがった、念の為にと連射した火炎を、左右に素早く連続移動して全弾避けやがった。
「おかしいだろ、あんな無茶苦茶な動き、クソ、速い」
気付いた時には、一歩手前まで来ていた。
右手が振りかぶられ、片手剣の鋭い刀身が光を弾く。
切り裂きの細剣 LV 8
付加効果 生物切断能力上昇
武器までハイレベルなのかよ。
先ほどの動きよりも、ゴブリンが少しゆっくりに見える、集中できてるのか。
一撃を防ぐために、銅剣を振るう。
二本の剣がぶつかる直前、素早いバックステップで後退され、少し離れてから再度前進してくる。
懐に入られた、速すぎるだろこれ。
下からの一撃で、剣を持った腕が切り飛ばされる。
(呆けるでない、『超再生』で腕は繋がるであろうが、避けよ)
その言葉に体は動かず、ゆっくりと首筋に迫る刃を見つめてしまう。
首の半ばまで食い込んだ剣が引き抜かれると、鮮血が噴き出す。
「カ、カヒュ、ヒュ」
気管がやられたのか声が……
(すぐに塞がる、はやく逃げよ、もう一度致命傷を受ければ、MPが無くなるぞ、そうなれば終わりじゃ)
言う事の聞かない体を無理やり動かして、体の向きを変えて走り出す。
とにかく、逃げ切らないと……
徐々に痛みは治まり、魔力が込められた両足はどんどん速度を上げていく。
さっきあそこに有ったのは、食い荒らされた人の死体だった、どうなってるんだこの村は。
この世界に来て生き物やゴブリンの死体は嫌というほど見てきたけど、人のそれを見るのは初めてだった、また、胸がムカムカする。
(吐くのは後じゃ、ともかく逃げるのじゃ)
走り続けていると視界が広がる、広場に出たのか。
(村から出るまで止まるでない、駆け抜けよ)
そのまま、走り続けると、広場の中央に何か立っている、なんだ、立て看板、まあ読めないが。
などと考えているとラクナが丁寧にも訳文を視界に表示してくれた。
『周辺に大量のゴブリンが出没するため、全村避難します。旅人の方にあってはゴブリンに注意して行動してください、皆様の旅の安全を祈っています。追伸 村の家屋、物品等は荒らさないでください』
追伸じゃねーよ、そういう重要なことはもっといろんな目立つとこに張り出しとけよ。
次回(たぶん明日)に続きます。
H26年4月8日誤字、句読点、三点リーダー修正しました。