表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
598/692

589 小島

「はい、ミーシアちゃん、海の中にぺってしましょうね。お魚を生で食べちゃったら、お腹を壊しますよ」


 俺とハルの魔法で、というかその副産物の爆発で大半の魚を倒した後で、何かに気づいたサミューがミーシアに近づいて行って何かと思ったら、そういうことか。『獣態』での噛み付きで倒してた魚肉をどさくさに紛れて食べようとしてたのか。


 よく見たら血まみれの口をモグモグさせてるし、ゴリゴリと太い骨をかみ砕く音がはっきり聞こえてるし。


「ほら、ミーシアちゃん、飲み込んじゃダメよ、後できちんと、温めたご飯を作ってあげるから、ね」


「は、はい」


 サミューに言われたミーシアが、素直に従い、舷側から顔を出して口の中に溜め込んでたものを海中に吐き出す、てか大量に出てきてるけど、そんなに口に入れてたのか、いや野生動物とかって吐き戻しで子供に餌を運んだりするよな。てことはミーシアはすでに飲み込んでたと。


 あの場合って、吐き出したとしても、幾らかは胃腸の中に残っちゃうんじゃないかな。


「全部吐かなきゃダメですからね、ミーシアちゃん、それと、もうこんな事しちゃだめですよ、いい子なんだから」


「ミーシャ、勝手に食べすぎちゃめーなんだよ」


「は、はい、ごめんなさい」


 サミューとアラが、白熊姿のミーシアの背中を撫でてるけど、美女と美少女がおっきな白熊さんの面倒を見ている姿はなんかおとぎ話みたいだな。


「なんと、そのような方策がありましたとは、戦闘の中で手に入れた食材を、その場でそのまま味わう、それは何と野性味溢れる乙な食べ方なのでしょうか、はっ」


 ミーシアたちの様子をなぜか羨ましそうに見て何かを呟いていたトーウが、ふと何かに気づいたように自分の両手にはめられた十本の爪を眺める。


「今回は毒を使っていませんし、先ほど散々倒していましたので血はもちろん脂や肉片も付いていますから……」


 何かに惹きつけられたような表情を浮かべたトーウが、両手の爪を眺めている、なんだろう美味しい料理を前にした時みたいな恍惚感のある表情だけど、武器のレベルでも上がったのかな。


「これは、武器についた汚れを効率よく落とすためです。そう、これは両手に武器を装着しているために、今この場では手早く拭い取る事が出来ないため、やむを得ず、やむを得ず行う行為、決して魚の生き血や生肉を味わいたいが故では決して……」


 トーウが、爪を口元に持っていて舌を伸ばそうとしているけど、あの武器でそれをやるとヤバイ犯罪者とか、某ホラー映画の主人公みたいだな。


 じゃなかった、止めないと。


「トーウ~~、貴女は何をなさろうとしているのかしら、まさかとは思いますけれど、その生の血肉を直接口にする等という、非常識なマネをしようとしてた訳ではありませんよね」


 あ、ハルが止めに入った。


「な、何のことでございましょうか、ハル様」


 おお、トーウがミーシアみたいにどもっちゃってる。まあ、ハルの剣幕がすごいもんな。


「では、なぜ刃を舐めよう等と無作法なはしたないマネをしかけたのかしら。貴女の装備は錆止めの処理もされているはずですわよね。ずっと汚したままでは問題でしょうけれど、早急に拭き取らねばならぬものでもないでしょうに」


「いえ、あの、その……」


「奴隷落ちして、家との縁が切れているとはいえ、貴女は仮にもラッテル子爵家の、近々伯爵家となられる御家の元令嬢ではありませんの、家名を失おうとも、知る人は貴方がどこ家の出か知っているものですわ。貴女の行いが巡り巡って御実家の評価に繋がり、ひいてはリョーの後見であるライワ家の評価にも影響しかねませんのよ。あの家は令嬢の教育もまともにできないと」


「それは……」


「ラッテル領のかつての食糧事情は、わたくし達もあの地に滞在していた時に聞き及んでいますけれど、だとしても外の目のある所では保つべき対面というものがありましょうに。だというのに貴女は、いいえ貴方だけでなくミーシア、貴女もですわ、他の勇者様とその従者の方々の目のある所で、醜態をさらせば主であるリョーも軽く見られかねませんのよ」


「いや、僕にはそんな気はないし、危ないとはいえ、お寿司お刺身はもちろん海鮮料理に興味を持ってくれるのはうれしいんだけどな。まあ、うちの子達でもしっかり火が通ったもの以外はダメって子が大半だから、そういう偏見の目で見られるリスクはあるんだろうけど」


 ハルの声が聞こえたのか、マコトさんが隣の舟の上で何か呟いてるけど、まあどう見られるかとかよりも、みんなの健康管理を考えると、リスクのある食べ物に関しては、無理に日本風を求めないようにした方が良いだろうな。


(そうは言いおっても、お主はどちらにしろ自分自身は食べれぬからこそ他人事と考えられておるんじゃろうな。いや逆に自分が食べれぬものを周りに食べられたくは無いというのもあるのかのう。たいていの『勇者』などは、こういった『迷宮』に来れば、食うべきか否かをかなり迷うか、さもなくば実際に食べて腹を壊す者も多いゆえ、おぬし等にとっては相当の誘惑なのじゃろう、魚介の生食というものは)


 ラクナがいらない突っ込みをしてくるけど、まあ、そういうのもないとは言い切れないけど……







「うーん、今回はタラが一杯捕れたから、今夜は御馳走だね」


 夕方近くになって見つけた小島というか、海面に顔を出してる岩に舟を止めてキャンプしてるんだけど、マコトさんが嬉々として魚を並べてるけどタラばっかりだな、御馳走っていうとタラちり鍋とかかな。


「せっかくだから、早いうちに取り出しておかないと、こればっかりは急がないと、悪くなっちゃ勿体ないからね」


 そう言って、魚の腹を切って取り出してるのは、白子と卵巣、そうかタラコ、いや明太子にもできるか。


「軽く茹でてポン酢もいいし、天ぷらにしたり焼くだけでもいいし、このまま身と一緒に鍋にするのもいいかな」


 マコトさんが目の色を変えてより分けた白子の下処理をしている横で、他の男性陣が切り身を冷凍して保管したり、卵巣を塩や赤みのある調味液に漬けて行ってる。


「鮭もトビウオもあるから、イクラに筋子、とびっこも行けるね。これだけあればしばらくはご飯のお供に困らないかな、少し塩を多めにすれば、カミヤ君やアキエちゃん達にもお裾分けできるし」


 手早く下処理していくけど、マグロとか他の魚はここで出さないんだな。いや、あのサイズはさすがに手間がかかるだろうし、そもそも急いで取り出すような部位があんまりないのかな、イワシやサンマなんかはそのまま解凍したら焼くだけで食べれるだろうし。


「急がないと、暗くなる前に処理して明かりを減らさないと危ないからね。ダツとかは光に向かって突っ込んでくるから」


 ダツってあれか、向こうの世界でも危険な魚って聞いた事があるな。


 嘴がとがってて、光に向かって突撃してくる、船の上に居ても大怪我する事のあるやばい魚。それが空中を泳いでるとか、シャレにならないだろう。


「まあ、警戒するのは今夜一晩だけで済むけどね。普段ならこの島まで来るのに二、三日かかるんだけど、リョー君所の魔法使いちゃんのおかげで、いつもは苦戦はしなくても片付けるのに何時間もかかって面倒な群れを、何個も潰してくれたからね。あれを見ちゃうと、うちの子達にももう少し高威力の魔法を練習してもらおうかなって気になるね。今までパーティー(うち)の方針的に食材として使えるようにきれいに倒すってのがあったから、広範囲・高威力の魔法よりも収束させて貫通力を上げたので正確に一点を打ち抜くって魔法ばかり覚えてもらってたからな」


 そういうふうにパーティー全体の成長方針を決めてるのか、考えてみれば、マコトさんの所は大人数だから、広範囲を吹き飛ばすような攻撃より、正確に狙う魔法やスキルの方が混戦状態でも仲間を巻き込まないで済むのかな。


 何よりマコトさんが居ればよっぽどの事がなければ負けることはないだろうしな、さっきの群れだって全部倒して進むのは相性が悪くて時間がかかるけど、負けたりはしないって言ってたもんな。そういう余裕があるからこそできる選択肢なんだろうか。


 うちの場合、まず『勇者』の俺が非力なうえに、少人数だから一人で何役もこなしてもらわなくちゃならないから、きれいに倒すなんて余裕はないし、もしかするとみんなの強さの方向性なんかも変な事になってたりしないだろうか。


「ここまでくれば、あと二日弱ってところかな、途中でフロアボスを一、二匹倒せば、その先半日くらい舟を漕げばボス部屋、というか、ボスの居る海域だね」


 そっか、こんな海だけの『迷宮』じゃ、部屋みたいな区分けはしずらいのか。


「マコト様、その件ですがよろしいのでしょうか」


 料理をしながら俺たちに説明してくれてたマコトさんに、隣で下拵えをしていたイケメンが手を挙げるけど、どうしたんだろ。


「ん、どうしたんだいテリー」


「いえ、ボス部屋ですが、そちらの『勇者』様のパーティーですが……」


「あ、そっか、あちゃー、忘れてたよ。アキエちゃんは、男の子ばかり飼ってるし、射程の化け物だから、ここら辺からでもボスの海域を吹き飛ばしてたもんで気にしてなかったし、それ以外に連れてきた『勇者』の子たちは男の子ばかりだから、一人でボスの居るあたりに突っ込んでも平気で勝てちゃってたからな」


 ん、なんだ、何かトラブルっぽいけど、どうしたんだ。


「ごめんリョー君、ここのボスの居る海域なんだけど、昔から女人禁制だったのを、すっかり忘れちゃってて。あ、大丈夫だよ、今回は僕らが居るから戦力的にはまったく問題ないし、何回も『鎮静化』したことがあるから、ボスも倒し慣れてるから」


 女人禁制、そんな事があるのか、もしかして宗教とか土着の信仰があったりするのか、前にカミヤさんから聞かされた話で恵みと災いをもたらしてくれる『迷宮』を神格化した信仰があって、生贄を捧げたりしてたなんてのがあったよな。


 この迷宮は漁が出来て、食料源としては優秀ないかにもな所だし、地球だって船には男だけなんて時代があったって聞くし。


「フロアボスを倒した先に、ここよりも大きくて魔物の少ない小島があるから、今までも女の子にはそこで待っててもらってるから、安心してくれて大丈夫だよ」


 まあ、そういう事なら、しかたないかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ