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56 エルフの少女

「相席してもいいですか」


 そう言って、近くに来たのは、金髪のエルフだった。


 辺りを見回してみても、確かに俺達の向かい側の他に空いてる席はないよな、昼飯時から少しずらしたのにこの賑わいなら、テトビの言う通り町で一番旨い店なのかもしれない。


 これなら他の情報も信用できそうかな。


 しかし今重要なのは、そんな事ではない、目の前のエルフだ。


 今この街に居るエルフ族って事はリューンの関係者だろう。


 騎士や剣士には見えないから、魔法職や回復役、もしかしたら非戦闘員の侍女さんとかかもしれない。


 しかしそれもどうでも良い。


 癖のない金色のストレートロングヘアーに、青い瞳、彫りの深い整っていて少し優しげな顔立ち、アラと同じ細長い耳は、俺のイメージするエルフ族そのものと言って良い。


 なのになのに……


 馬鹿な、きょ、巨乳エルフだと。


 十代半ば位にしか見えない目の前の少女は、非常に恵まれたスタイルをしておられました。


 服の布地がパンパンになるまでしっかりと押し上げる、大きな二つの膨らみ。逆に、絞っていながらまだ布地が余っている腰回り。丸みのはっきり解るお尻。


 どこのグラビアモデルだと聞きたくなるような体つきだなぁ。


 こんなナイスバディを間近で見るなんて、サミュー以外で初めてじゃないかな。


 まあ、サミューと比べると少し見劣りするけど、この若さならまだ成長の余地が有るか、それならいったいどこまでいくと言うのだろうか。


 しかし、巨乳エルフとはけしからん。


 やっぱりエルフなら神秘的で儚げな雰囲気の、スレンダー貧乳が似合うよね、異世界トリップの主人公が巨乳エルフに突っ込んでる気持ちがよく解るわー


 などと考えてるなんて知られたら、薬の受付してくれないだろーな。


 まあ、普通に対応して、できたら情報収集ってところか。


「別に構わないが」


「ありがとうございます。まさかこの時間でまだ混んでるとは思いませんでした。明日からはもう少し遅くしないといけませんね」


 丁寧な言葉使いだな、やっぱり侍女さんかな、話し方がサミューに似てるし。


 スタイル抜群のエルフメイド、良い実に良い、じゃなかった、情報収集、情報収集。


「あんたはエルフだろ、なら貸し切りの宿で幾らでも良いものが食えるだろう」


 もしこれで、使用人の分は無いとかだったら、商売相手の性格はあまり良くないってことになるけど。


「あそこは、好きなものが好きなだけ食べられるんですけど。お肉や甘いものが殆どでして、兵士や冒険者の皆さんには良いのでしょうけど、私にはちょっと……」


 食が細いのかな、エルフってそんなイメージ有るし。それともベジタリアンとか。


「美味しくてついつい食べ過ぎてしまうんです。鍛練や警備で動く方はいいですけど私は。ぶくぶくに太ったエルフなんて見苦しくて仕方ないでしょう。ただでさえお肉が付きやすい方ですし」


 そう言って、お腹の辺りをさするけどそこに肉は付いてないと思うなー、付いてるのはもっと上の方……


「すいません、私ばかり話してしまって、ええと冒険者さんで良いですか」


 そう言って、俺とアラを交互に見るエルフさん。まあ俺は相変わらず防具無しでアイテムボックスとゴブリンズソードしか持ってないし。大きくなったと言ってもアラはまだ子供だしな。


「そうだ、俺はリョー、こっちは愛娘のアラだ」


「えへへーアラだよ」


 おっアラが嬉しそうに笑ってるな、愛娘って言ったのが良かったのかな。


「リョー様にアラちゃんですか、よろしくお願いします。私はパルスと言います」


 あれどっかで聞いたことがあるような。まあ良いか。


(うむパルスじゃと)


 なんだ、ラクナも聞き覚え有るのか、なんの名前だっけ、あとで確認しとこ、とりあえず情報収集継続っと。


「この時期に冒険者さんがここに居ると言うことは、リョー様も何かお薬をお持ちになられたんですか」


 まあそうだよね、普通に考えればそう思うよね。


「まあな、知り合いに分けて貰った薬があるから試してみようと思って」


 他の冒険者が何人も居るところでユニコーンとか万能薬とか言えばそれだけで狙われかねないからな、適当に濁しておかないと。


「そうですかでは明日から並ばれるんですね、大変でしょうに」


「『迷宮』で魔物を相手にしているよりは、楽だからな」


「ガキ連れの小僧が一人前の口を利くじゃねえか」


 俺の言葉に答えたのは目の前のエルフさんではなく、少し離れた席で飲んでいた冒険者だった。


 これはまさか、酒場なんかで美人と居ると、脳筋に絡まれると言うあの黄金パターンか。


 お約束的にはここであっさりのして、俺TUEEEE、美人さん目がハートって感じなんだけど。


 俺には無理だよそんなの、目の前には筋肉と脂肪にまんべんなく覆われた大男、ボサボサの髪に髭で薄ら笑いと、いかにもなザ・ヤラレ役といった感じだけど、喧嘩で勝てる気がしません。


 これが殺し合いなら、『軽速』と『切り裂きの短剣』のコンボで瞬殺できるけど、さすがにそれは無理だよね。絡まれただけで刃傷沙汰とかしてたら一日で何人斬ることになるか解ったもんじゃないし。


 それにテトビの話だと、街中で武器を抜けばすぐにエルフの騎士が集まってきて押さえ込まれるらしいし。


 松之廊下かよここは、『殿中でござる』とかやってみたいけど、それだと相手は倒せないのか。


 とりあえず、俺の攻撃力じゃ素手でこんなのを倒すのは無理。ここは無視してスルーだな。


「そう言えば、食べ過ぎるから、ここに来たと言ってたが、ここだと大丈夫なのか」


 あえて向こうには視線を向けずに、目の前のエルフさんに話しかける。


「えっとその、良いんですか」


 俺に無視された冒険者にちらりと視線を向けてから聞いてくるけど、君にも無視して欲しかったな~


「子供連れなのも、まだヒヨッコと言われそうな見目なのも事実だからな、本当の事を言われて腹を立てるのも変だろう」


「ご立派ですね。こういう場で見栄や虚勢を張らないと言うのは、そうそう出来ることではないですから」


 いえ、ただ単にびびりなだけです。


「この糞ガキが、なめやがって。肉も頼めねえような貧乏人のくせに」


 腕捲りをしてこっちに怒鳴り付けてくる男を見て、アラが腰の剣に手を伸ばす。何でこの世界の連中は人の注文をいちいち覚えてるのかな。


「アラ、止めなさい」


 椅子から飛び降りようとするのを慌てて止める。『鑑定』した男のレベルやステータスを見ればアラが怪我をするようなことはまずないけどね。


 逆に相手を一撃で殺してしまいかねない方が心配だよ。


 相手を心配する気は更々ないけど、こんな街中でそんなことをすればいくらアラが子供でも只じゃすまないだろうし。


 こんな小さな子に人殺しなんて真似させたくない、あんな思いをするのは俺だけで十分だし。


「でもリャー、あの人リャーの事叩く気だよ、アラがリャーを守るの、リャーは怪我しちゃめーなの。痛いのはめーなの」


 この子はなんて良い子なんだ。思わず頭をグリグリ撫でちゃった。


「大丈夫だ、そんな簡単に怪我はしないから」


「なんだとこら」


 ヤベ、聞かれてたか。さてとどうしよう、アラにああ言ったからには、ノーダメージで勝たないとダメだろうな。


 でも、無理だってそんなの。


(やるしかなかろうに)


(簡単に言うがな、俺のパンチじゃ効かないぞ)


(御主にはあれがあるじゃろう、『迷宮ボス』をも一撃で悶絶させた奥の手が)


 それってあれか金的か、こんなとこでやったら大ひんしゅくだろうなー。


「うん、あの大剣、お、おい止めとけ相手が悪い」


 なんだ、別な席の奴が急に慌てて止めだしたけどどうしたんだろう。


「あん、このガキがなんだってんだ、なっ『迷宮踏破者』、こいつが」


「ああ、たぶん間違いない『寒暑の岩山』で、必要なら『鎮静化』するって言ってたらしいし、実際俺らが引き上げる前後に『鎮静化』が起こったからな」


 その声だけでいきなり周りがざわつくけど、どうなってるんだ。


(仕方ないじゃろうな、『迷宮踏破』とは並みの冒険者ではそうそう出来る事ではないからのう)


 そうかなー、あんまりそんな気がしないんだけど。


(俺はどうなるんだ。俺のステータスでも『子鬼の穴』と『寒暑の岩山』をクリアできたが)


(『子鬼の穴』は元々最下級の『迷宮』じゃ多少腕に覚えが有れば誰でも踏破できるうえ、あの時はダークエルフ達が露払いになったからの。さらには『長命の魔法輪』の効果もあったしのう、『超再生』の効果は歴代の武具の中でもかなり良い物だからの)


 まあ確かに、最下層にいたゴブリンの殆どは倒してもらったし、ゴブリンキングも手負いだったからなー、でもやっぱり一番は『超再生』か、攻撃魔法の直撃を食らっても平気だったしな。


(『寒暑の岩山』では、『成長補正』で強くなった奴隷達がおったし、『軽速』と『切り裂き』が効果的に働いたからの)


 確かに岩跳豹なんて俺の『魔道具』が無きゃもっと苦戦してただろうな。実際に一回腕持ってかれたし。


(後はお主のセコイ奇策、ではなく発想のおかげじゃろうな、ゴブリンキングの時もそうじゃが。ゴーレムの倒し方もなかなかの物じゃった)


 あれか、転倒の繰り返しで自滅を待つってあれか。


(おそらくユニコーン達がゴーレムを倒す時は『破城槍』のような破壊力と貫通力のあるスキルを持つ者がいたのじゃろう。でなくば倒せん)


 確かに、ミーシアの斬撃も、ハルやアラの魔法もほとんど効いて無かったもんな。


(『溶岩密封』の様な魔法は本来なら魔道師でないと使えない術じゃからな)


 つまり、今俺はかなり過大評価されてるって事か。あ、絡もうとしてた冒険者が、青い顔で店を出て行ったよ。そこまで凄いもんなんだ『迷宮踏破』って、俺としてはファーストステージクリアくらいの感覚なんだけどなー


「すごいですね『迷宮踏破者』さんだったんですか」


 おお、巨乳エルフさんも感心してくれてる、これは好感度アップか。


「あいよ、野菜グラタン大盛りセットお待ち、そっちのお嬢ちゃんはスパゲッティと果物だったね。あとはエルフの嬢ちゃんにサラダとスープだね」


 奥から飛び出してきたおばちゃんが俺達の前に料理を次々と並べていくが。


「変な事を聞くがそれで足りるのか」


 俺も、前は似たような食生活をした事が有るけど、サラダだけだと力が出ないんだよなー


「少し、お腹が空きますけど、でもここで食べすぎると、お肉が落ちませんし。注文したものだけ食べると決めておけば食べすぎは予防できますし」


 気にし過ぎだと思うんだけどなー


 ダイエット通販の半年後とかに出てきそうな体型で、そんなこと言ってると、いろんな所から怒られそうな気がするんだけどな。


「ただでさえハーフエルフは、他のエルフ族に比べて肉が付きやすいんですから」


 ん、今このねーちゃんなんっていったんだ。


 ハーフエルフっていったのか、今この町にいるハーフエルフって事は、そうだパルスって名前は、え、でもそれじゃあ、計算が合わない。


 ああ、とりあえず『鑑定』すればわかるだろ。


「姫様、ここに居りましたか。貴様、そこで何をしている、離れんか無礼者が」


 いきなり背後からかけられた、女の声に振り向く直前、視界に映っていたのは。


『パルス・ラメディ・リューン』という名称欄と、『広域魔術師』『王女』という職業欄だった。



ふう、やっと新ヒロイン一人目を出せました、次も新ヒロイン登場です。


H27年2月17日 誤字訂正、冒険者の台詞追加しました。

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